松・シリーズ
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こわい。
みっともないことにその時の私は完全にびびっていた。自分で捕まえて自分で家に連れ込んだくせにまさか付き合って三日で自室で押し倒されることになるなんて予想もしていなかった、ので、その瞬間に完全にパニックになってめちゃくちゃ暴れた。暴れたけど、身長190センチ300キロちょいに敵うわけもない。暴れた拍子に体のどこかが軋む音がして息を吸った瞬間に肺の辺りのどこかががんがんと痛んだので、正直ちょっと死んだと思った。
こわい。助けて。
別に走馬灯とかは流れないけどよりにもよって、『次があったらもう300キロオーバーの男の人はやめよう』とか変に建設的な事を考えてる自分がいた。でも勿論それは頭のなかのことだけで、実際は身長190センチ体重300キロオーバーのアカクロダくんが耳元で荒い息を吐くのを聞きながら悲鳴をあげようとしていた。
こわい。こわい。こわい。
助けてお兄ちゃん。と、こういうときに決まって三番の兄の顔が浮かんでしまうのは、小さい頃からの刷り込みで意味なんかないのかもしれない、と、今となっては思う。思うけど、全く冷静じゃなかったその時の私は何の疑問もなく頭のなかで三番目の小うるさい兄に助けを求めていた。それで。
「てめえ家の妹に何さらしとんじゃボケ!」
私が悲鳴をあげる前に駆けつけてアカクロダくんを蹴り飛ばしてくれたチョロ松兄さんが、まるで自分にとっての特別な何かみたいに見えた。その上、兄にとっても私が特別な何かなんじゃないかとかうぬぼれた事を考えてしまって、そういうわけではないことはわかりきってるので悲しくなって泣きたくなった。もう色々と最悪だ。どうしよう。こんなはずじゃない、
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こんなはずじゃない。
「お前さあ、何で毎回毎回化け物みたいなのしかつれてこないわけ」
お決まりの台詞で始まったお説教をそこそこに聞き流しながら私は、ちょっと泣きそうになっていた。どうしよう。こんなはずじゃない。頭のなかでいろんな台詞が飛び交うけどそんなことはおくびにも出さず、表面上はいつも通り何とかふて腐れた表情を取り繕って、何か素直じゃない台詞を吐いていた。ような、気がする。さっきまでチョロ松兄さんが掴んでた右手がじんじんと熱くて焦る。勿論それはアカクロダくんが思いっきり私の手首を掴んだからで別に深い意味はない。落ち着け、大丈夫、落ち着け、
焦りながらも目の前のチョロ松兄さんから目が離せない。最悪だ。「ああもう」、チョロ松兄さんが思いっきり困った顔でお手本みたいな大袈裟なため息をついた。
そんなのは勿論大したことじゃないのに耳ざとく私はその声を聞いて、こういうときにチョロ松兄さんがいつもするみたいに腕を組んでるのを確認して、そんな下らない細々したことで何か嬉しい感じになってる自分が嫌になった。最悪だ。最悪だけど、何がそんなに最悪なのかは考えたくない。
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後々になって病院にいったら、アカクロダくんに押し倒された拍子に肋骨が折れてたことが判明した。息を吸うたびに肺の辺りが痛いうえに、酷いことにその度に何故かチョロ松兄さんの顔が浮かぶ。最低。次は300キロオーバーの人だけはやめよう。そんなことを誓ったあとで、次の合コンの予定を埋めようと携帯を取り出す。出かける間際に玄関先で出くわしたおそ松兄さんに、「お前らよくやるよな」とか言われたけど、何の事を言ってるんだかさっぱりわからない。
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