蜜月
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「……あの、」
「……まだ起きてたんですか」
「寝付きが悪いものですから」
「その割には、よく変なところで寝てらっしゃいますよねえ」
「いやそれは……それはまあ、置いておいてください、今は」
「…はあ。…それは置いておいて、何です?」
「…その。…私、怖かったんです。あなたのことが。すみません」
「はあ?…まあそうでしょうけど…で?」
「…それで、その…でも、なんというか、」
「それで、何です?言うなら言うでさっさとしてくださいよお、ああもう苛々するなあ」
「うう、すみません、うまく言えないんです。ただ、…今はそんなに、怖くないというか」
「………」
「なんというか、…いつも私、ご厄介ばかりかけてるみたいで、苛つかせてばかりの筈なのに」
「………」
「すみません、はっきり言えなくて。…とにかく私、もう怖くなくて。基次さまのこと」
「……」
「そ、それで、その…、えーと、ありがとうございます…」
基次さまの、猫背な背中に向かって話しかけた。本当はもっと色々と言える筈だったのにうまく言葉にならなくて。つまり、いつのまにか私は、姉川に帰りたくはなくなったんです、とでも言えば良かったんだろうか。…いや、多分、それも違うな。この人と出会って、一緒に過ごしてまだたったの二週間。怖くて目も合わせないような状態だったのを考えると、会話できてるのが奇跡みたいな気もする。
姉川に帰りたいとかやってけないとか怖いとか(まあ、確かに今でも少し怖いんだけど)、思わなくなってきたのはきっと、基次さまが私をひどく拒絶しないでいてくれたお陰で。今だって皮肉混じりでも、支離滅裂な私に付き合ってくれているわけで。…可愛い所もあるんだ、なんて官兵衛さまの言葉を思い出す。…可愛い、かは分からないけど、結局のところこの人は、根が優しいのかも知れない。
微かに息を飲むおとが聞こえた気がする。基次さまが筆を運ぶ手を一瞬だけ止めたのが見えた。振り向かれたら私の、茹で蛸みたいな顔が見られてしまう。もう一度布団に潜ろうか迷っていた頃に返事が戻ってくる。
「会ったときから思ってました」
「はい?」
「ずれてますよねえ君。基本的に」
「…え、そうでしょうか」
思いっきり辛辣な言葉か皮肉でも吐かれるとおもったのに。振り返った彼が穏やかに笑ってくれたりしたから、もう何も言えなくなってしまった。思っていたことをそのまま全て話してしまうのは恥ずかしいから(馬鹿にされたりしたら目も当てられない)、ここからは頭の中で考えるだけにしておくけど。今までで一番、優しい目で笑ってくれた基次さまを見て、考えてしまったことがある。
…この人のこと、もっと知れたらいいのになあ、なんて。