現パロ
名前変換
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「嫌です離れません、私、後藤さんが『ただいまのちゅう』をしてくださるまでここから動きません」
「いや、あの、さあ。ただいまって、さあ。まだ帰ってないでしょうが、ここ、どこだかわかってるんですかねえ君は」
「確かにここは家じゃないですけど、予定を前倒しにするだけじゃないですか」
「…なあにを訳のわからないことを言ってんだよ…」
「いっ、…嫌ですどんなに引っ張ったって無駄ですから、」
「ああはいはいはい、分かりましたからあ、とりあえず帰りますよ名前さん」
誰だこの女に酒飲ませたの。かなり苛つきながら立ち上がらせようと腕を引けば、名前さんは泣きそうな声を出した。「そうやってちからに物を言わせて、これだから……ッ、これ、だから、」ああやべえ泣きそうじゃん、この人。酔うと泣いて絡む癖はまだ治っていなかった。こうなる名前さんを見るのは2回目だけど、今は愚図な名前さんへの苛立ちよりもここまで飲ませた奴への殺意の方が強い。
…ああまったくさあ誰だか知らねえけど今すぐ殺してやりてえよ。処刑だ処刑。この人さあ、俺様のなんだよねえ。泣き顔とかさあ、お前が見る権利ねえの。全部俺様のだから。わかる?わかんねえよなあだからこんなになるまで酔わせたんだよなあ。
頭の半分はそいつへの怨みつらみ、もう半分は目の前の名前さんをどうなだめるか。みるみる泣き顔になっていく名前さんの頭を撫でる。泣き出したら承知しねえ。ここにいる男連中全員絶対許さねえからな。考えた瞬間に島がひょっこり顔を出して、最悪に楽しそうな顔でからから笑う。「やっべえ名前ちゃん超強え。ゴトーさん困らすとかやべえゃん、いやー俺、頑張ったかいあったわ」、…てめえか飲ませたの。
目線に気づいたのか、島はこっちを見て更にからからと笑う。
「あ、ゴトーさんがこっち見てるうこわあい」
「…島ァ、てめえかあ」
「へっ?何がっすか?なになに、俺閻魔帳に名前書かれちゃう系?やだあこわあい」
「……いやいいわ閻魔帳は。先のことなんて書いたってしょうがねえもんなあ。お前をどうこうするのは今だよなあ」
「いつやるのいまでしょって?もおお先輩なんのこといってるのかわかんないっすよ、」
黙れ木偶野郎。にやけきった忌々しい顔に蹴りをくれてやろうとしたら、不意に腕を捕まれてバランスを崩す。振り返ってみたら、さっきよりもひどいかおをした名前さんに睨み付けられた。
「……名前さあん、君さあ少しは空気読めないんですか、」
「そうやっていっつもダテマサムネダテマサムネって、」
「…はあ?」
「た、…たまには、私の事だって考えてくれてもいいじゃないですか、」
「いやあのお、ねえ、名前さん?」
「せんぱあい、良かったっすねえ名前ちゃんとらぶらぶで」
「うるせえ島、てめえそれ以上言ったらバラすぞ木偶が」
「たっ、…たまには私の話とか聞いてくれたって、…うう、」
「あーあー泣いちゃった、ゴトーさんが悪いんだあ」
「………」
ああもう煩わしい。右側からは名前さんの泣き声、左側からは島のはしゃぐ声。追い討ちをかけるように女(名前は忘れた)が、「何ら貴様あ、乙女を泣かしたなあ、そこへ直れえ!」と絡みだす。いい加減にしろ酔っぱらいの木偶共が。ぐでぐでに酔いつぶれた集団は店員なんかの手には負えないだろうが、俺様には関係ないのでこいつらのことは放って、名前さんだけ連れて帰ることにする。ぐずぐずと本格的に泣き出した彼女の方に向き直れば、ろれつの回らない舌で喋りだす。
「うっ、…うう、ご、後藤さんは、」
「はいはい、俺様がどうかしましたかあ」
「後藤、さんはっ、私のこと、お嫌いですか」
「…はあ?」
「だってさっきからずっと面倒臭そうな顔して、顔して、…っ、」
…本当に面倒臭えなこいつ。どんだけ俺様の手を煩わせれば気がすむんだ。
うんざりしてるはずなのに、どこかで悪い気はしていない自分もかなり腹立たしい。仕方ないのでご希望通りにキスしてやったら、背後から酔っぱらい共の冷やかす声が聞こえた。くそが、てめえら来週覚えてろよ。
「…いい加減泣き止んでくださいよお、めんっどくせえなあ」
「まっ、また、面倒臭いって言ったッ、」
「これを面倒だと思わねえ奴がいたらお目にかかりたいもんですけど、ねえ」
「…どうせっ、面倒だから嫌いって仰るんですよね、わ、私の事っ、」
「……」
ああもう、いいよ分かったよ分かりましたよ敗けです敗け敗け、俺様の敗けです。まだ泣き止まない名前さんを自棄っぱちで抱き締めて、もう少し長めにキスをする。ついでに目元にも口づけてみる。うわ、塩辛い。別にいいけどさあ。
「俺様がさあ、こおんな人前でさあ。好きでもねえ女にここまでする道理なんかないって、解りますよねえ。流石に。」
「…じゃあ、…じゃあ私のこと、好きですか?」
「…帰ったら教えてやりますからさっさと行きますよ」
まだなにか言いたげな名前さんを無理矢理引っ張って起き上がらせる。足取りが危なっかしいことこの上ないので仕方なく抱き抱えたら首筋に抱きついてきて、歩きにくいったらありゃしない。「後藤さん後藤さん、」耳元で甘ったるい声。嫌いじゃないけどもう今は勘弁してくれませんかねえ、良いかけたらいきなり耳元にキスをされた。ああもう、本当にどうしてくれようこの女。
「好きです」
「はいはい知ってます」
「大好きです、ご存じかもしれないけど念のため」
「…いつもこんだけ率直なら良いんですけどねえ、」
好きですなんて、素面の時にいってくれませんよねえ君。自分の事を棚上げにして言ってみたけど帰ってきたのは寝息だけだった。散々人様の手を煩わせたあげくに寝るとかどういう神経をしてるんだろう。ため息をつきつつも、こういう厄介な所を気に入ってるんだから自業自得かもしれない。
腕のなかで眠る彼女は何をしても起きないくらいの熟睡具合で、今さら愛してるとかなんとか言ったところでどうせ聞こえちゃいないんだろうからやめておく。代わりに明日目を覚ましたら徹底的に教えてやることにした。俺がどんなに名前さんを好きかなんて、どうせ彼女は考えた事もことないんだろうから。
ラブソングじみた沈黙
…あれ、ここどこ。目が覚めて起き上がろうとしたら、強い力で布団のなかに引きずり込まれてしまった。悲鳴をあげようとした口が誰かの手で塞がれて、耳元から嫌にご機嫌な声が聞こえた。「昨日は手間かけさせてくれたよねえ、名前さん」、振り返るよりも速く布団に押し付けられて、私を組み敷いた後藤さんは嬉しそうにわらう。
「勝手に騒いで勝手に泣いて勝手に寝てさあ、付き合わされる俺様の事も考えてくださいよお」
「あの、私途中から記憶が、すみません、」
「ああやっぱり覚えてねえんだそんなこったろうと思ったけどさあ」
「すみませ、あの、それで私なんで、」
大抵、後藤さんは私の話なんかお構いなしだ。言い切る前に問答無用でキスをされて、唇が離れたと思ったらすれすれのところでささやかれる。
「俺様言ったじゃないですかあ、昨日、帰り道でさあ」
「な、なにを、ですか」
「教えてやるって、さあ。俺様がどんなに君が好きか、たあっぷり」
「いや私そんなこときいてなッ…」
やっぱりお構いなしに唇を塞がれる。昨日はすみませんでしたとか朝から破廉恥なとか、言いたいことが沢山ある気がしたんだけど。好きだなんて滅多に聞けない言葉を言われた衝撃が大きすぎてなんだか何も言えなくなってしまった。とりあえず「好きです」とか言ってみようと思ったけど、どうせ「知ってます」とか言われるからやめて、代わりに後藤さんに思いきって抱きついてみる。よくわからないけど、ああもう、しあわせだなあ。