現パロ
名前変換
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通行人の群れを苛々と
睨みながら待つ。
待ち合わせの時間を十分過ぎても現れないところを見ると、どっかで迷ってるんだろうなあ。俺様人混み嫌いなんだけどいつまで待たせる気なんだろうなあ。ため息をついた瞬間電話がなって、出てみれば案の定名前さんの泣きべそが聞こえた。
「も、もしもし?後藤さん?後藤さんですか?聞こえますよね、私道に迷って」
「…君の最寄り駅ですよねえここ。流石に最寄り駅で迷う馬鹿なんて始めて聞きましたよ俺様も」
「す、すみません何か降り口を間違えたみたいで、でも大丈夫あと十分以内には確実に」
「…いいから、そこから動かずにじっとしてろ馬鹿が」
「う、うう、…ありがとうございま、」
「いまそういうの良いんでえ、さっさと何が見えるか教えてくれます?仕方ねえから迎えにいってやりますよ、面倒だけど」
「すみませ、」
「うるせえな良いからさっさと言え」
「…な、なんか地下道みたいな場所でアイス屋とコンビニがあって、目の前に立ち食い蕎麦屋が」
…それ、隣の駅じゃないですか。呆れたけど今それを言うのも面倒臭い。相変わらず苛々しながら電車に乗り込んだら、雪までちらつき出した。ああもう面倒臭えなくそが。何故か隣駅の地下鉄にたどり着いていたらしい間抜けな彼女は、人混みのなかで泣きそうな顔で右往左往していた。
声をかけてやったらあからさまに嬉しそうに笑って手を振ってきて、可愛いと言えないこともないので許してやることにする。道すがら散々苛めてやろうと思ってたんですけどね。
「ごめんなさいすみませんありがとうござ、…もがっ」
とは言え腹が立つことにはかわりないので、巻いてたマフラーで少しだけ首を絞めてやる。俺様のマフラーに埋もれた名前さんの顔はかなり間抜けでなかなか悪くない。
「雪なんか降ってるんですよねえ全く嫌になりますよ」
「今日、寒いですもんね」
「寒かねえけど鬱陶しくて敵いませんよ、ねえ、風邪引かれてもうざったいんでそれはずさないでくださいね名前さん」
「あ、ありがとうございます…」
「ああもうとろいなぁ、ほら、手。どおおせ、繋いどかないとはぐれますよねぇ君は。ああ面倒臭い鬱陶しい。手間かけさせてくれますよ」
「……」
無理矢理掴んだ手は、相変わらず小さくて頼りない。どうやら名前さんは一瞬で厄介事に巻き込まれるのがお得意のようなので、いつのまにやら彼女の手を引いて歩くのが当たり前みたいになってしまった。イライラするような弱い力で握り返されて、その指先が冷たい事に気づいて舌打ちを漏らしたくなる。そんな俺様の苛立ちなんて知るよしもない愚鈍な名前さんが、驚いたように目を丸くして呟く。
「…後藤さん」
「は?なんです?」
「あの、前にもこんなこと、ありませんでしたか」
「あるもにもいつものことじゃないですかぁ。毎回毎回さあ、あの手この手で道に迷いやがってさあ。自分が致命的に向音痴だって自覚、してますか?してないですよねえ。だからいつもいつもいつもいつも俺様が、」
「いや、そうじゃなくて、」
「…はあ?」
「もっと、こう…昔に、」
なにいってるんだこの女。前からキテると思ってたけど、とうとう妄想と現実の区別すらつかなくなったか。そう笑い飛ばしてやるはずだったのに何故だか泣きたくなって混乱した。
それもこれも名前さんが余りにも幸せそうに笑うからだ。嫌になるよねえ、君といると調子狂うことばかりです。
スウィート・メモリー
まるで作り物みたいにきれいな形をした後藤さんの手が、壊れ物でも扱うみたいなやり方で私の手を掴む。握り返してみたら何故だか舌打ちをされて、本当に面倒そうな目が私を見る。
前を歩く猫背のシルエットも、暖かいその指先も、なんだか私、ずっと前から知ってるような気が、するんです。こんなこと、言ったら笑われるかもしれないけれど。
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