長編設定の小話
名前変換
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「ああもうとっれえなあさっさとしてくださいよ」
「す、すみませ、…うわっ、」
「喧しいなあ、もうちょっとおしとやかに振る舞えないもんですか、ねぇ」
「ほら、手。転ばれても面倒なんでえ、引っ張ってやりますよ」
「う、うう…ありがとう、ございます…」
「ちゃんとついてきてくださいよお?どおおせはぐれたら迷うんだからさあ」
「……ううっ」
「唸ってないで何とか言えないんですか、ねえ?名前さん」
これは、壮大な照れ隠しなんだと、官兵衛さまが言っていた。でも、照れ隠しにしては余りにも辛辣過ぎるような気がする。雪に足をとられて転びそうになったところを支えられて、そのまま手を引かれて歩く。
「す、すみません…」
「なぁんで謝るんですかぁ、ねえ」
「…ご、ご迷惑をおかけして」
「全くですよお、あんまり面倒かけないでくれます?俺様も暇じゃないんで」
「…うぅ……すみません」
本当に、照れ隠しにしては言葉が辛辣だ。この会話を聞いても官兵衛さまは「お前さんにだけはとびきり優しくて甘いんだよ」なんて言えるんだろうか。少しだけ泣きたくなって、鼻をすすったら前を歩く又兵衛さまの足がぴたりと止まる。ちらりと私を振り返る目は、やっぱり面倒そうな表情だった。
「……」
「あの、な、…何か…?」
私はまた何かこの人の勘に触るようなことをしてしまったんだろうか。もう一度謝ろうとしたらそれよりも前に、首巻きを巻き付けられる。
「全くさあ寒いならそう言えばいいじゃないですか体冷やして風邪なんてひいたらどうするんですか、そもそも寒いならわざわざ俺様についてこないで家に引っ込んでりゃいいのに」
「い、いや、でも、私だけ年始のご挨拶に伺わないなんて」
「いいんですよお阿呆官なんてわざわざ挨拶にいかなくても勝手に家に押し掛けてくるんだから」
「あ、阿呆官って、」
ぶつぶつと呟きながら首もとをぐるぐる巻きにされる。又兵衛さまが着ていた羽織を無理矢理被せられて、問答無用で言いつけられる。「それ、家につくまで着といてくださいよ」
それからまた、又兵衛さまは私の手を引いて歩き出す。「名前さあん、さっさと歩けないんですかぁ、ねえ?」なんて辛辣な言葉を吐く割に彼が、歩幅を合わせて歩いてくれていることに気がついた。何だか嬉しいので、繋いでいる手に、少しだけ力を込めてみる。そしたら遠慮がちに指をからめられて、私は官兵衛さまの言う「壮大な照れ隠し」の意味が少しだけわかったような気がしてこっそり笑った。
面倒事がすきなひと
「ああほらぁ、官兵衛さん羽織ほつれてるじゃないですか、だっらしない」
「あ?ああ、す、すまんな…」
「ったくこれだから阿呆官なんだよ木偶が、身嗜みもまともに整えらんねぇんですかぁ?」
「阿呆か…っ、小生はなぁ、仮にもお前さんの」
「いいからさっさとそれ貸してくださいよ仕方ねえから俺様が繕ってやりますよ、ああ面倒臭ぇなあくそが」
せっせと又兵衛さまに世話を焼かれる官兵衛さまのことが羨ましいなんて思っていない。断じて。そういえば、阿呆官とか木偶とか罵りながらも又兵衛さまは何だかんだ嬉しそうに官兵衛さまと会話している。…私と話すときはいつも、面倒そうな態度をとるくせに。
最近では好敵手の事を「らいばる」とか言うらしいけど、もしかしたら私の「らいばる」は官兵衛さまなのかもしれない。…嫌だなあそれも。