お一人様一つまで

「ねえ、キノ」
「なんだい、エルメス」
「もし無人島に行かないといけなくなったとしてさ──」
「なんでいきなり無人島?」
「まあまあ。──それで、その時何か一つしか持ち込めないとしたら、キノは何を持って行く?」
「一つだけ?」
「そ、一つだけ」
「それなら、答えは考えるまでもないよ」
「お? ではキノ、答えをどーぞ」
「“エルメス”」
「はい?」
「だから、エルメス。ボクはエルメスを持って行きたいな」
「あれっ? 一緒にいない前提なの?」
「おや、選ばなくても一緒にいてくれるんだ」
「当たり前じゃん。言うまでもないかと思ってたよ?」
「それは嬉しい。……でも、エルメス以外で何か一つとなると……、悩んでしまうな」
「ほほう。キノなら、ナイフって言うかなと予想してたんだけど」
「確かに必要だろうけれど、ナイフは服に隠してこっそり持ち込めるかなって。今しているみたいに」
「こらー! キノ! ズル禁止! お一人様一つまで!」
「厳しい。じゃあやっぱり、エルメス一台しか思いつかないなあ。できれば積んでいる鞄とかも含めて。“これもエルメスの体の一部です”って言い張れば、認めてもらえるかもしれないし」
「キノ、ひょっとして酔ってる? 飲酒運転はダメだよ。事故るよ」
「大丈夫、素面だよ」
「それならいいんだけど。キノはこういうの、もっと真剣に答えると思ってたからビックリしちゃった」
「ん? 真剣に考えて“エルメス”って答えているよ、ボクは」
「そうなの? 無人島でモトラドって、すぐに置物になっちゃうと思うけどねえ」
「そんなことはないよ。例え走れなくても、エルメスは物知りだし、いつだって頼りになるし──、こうして話す時間だって、ボクはとても楽しいんだ。だから、エルメスには側にいてほしい」
「わーお! そこまで言われると、さすがに照れちゃうなー」
「あと、どうしてもお腹がすいた時、頑張れば非常食として食べられなくはないかもしれないし」
「──ってキノ、やっぱり真剣じゃないでしょ!」