つくってたべよう
「ずいぶん前衛的な形のクッキーだねえ、キノ。何それ? ドロドロに溶けた牛?」
「いいや。これはエルメスのつもりで作ったんだよ」
「はい?」
「ほら、ここがヘッドライトで、この辺がハンドル。下の丸いところがタイヤ」
「…………。いやいやいや、全然見えない! 全然似てない!」
「そうかな? 結構上手くできたと思ったんだけれど」
「キノの“上手くできた”の基準が分かんない! キノには目の前のモトラドがそう見えてるわけ?」
「まあ、見える世界は誰しも同じとは限らないからね」
「なんかそれっぽいこと言ってごまかそうとしてない? というか、なんで急にクッキーなんて作ってきたのさ?」
「ホテルのレストランで料理教室をやっていたんだよ。近くを通ったら、一緒にどうかって誘われてね。材料は全部用意してくれるっていうから、それならと思って」
「……ねえキノ、それ、もちろん人には食べさせなかったんだよね……?」
「うん。せっかくだからエルメスに見せようと思って、作ったのはボクが持って帰ってきたんだ」
「よかった、犠牲になった人がいなくて」
「では、いただきます」
「うわー、キノに食べられるー! こわーい!」
「食べづらいよ、エルメス」
「容赦なく噛み砕いてるくせに。──あれ? キノ、そのクッキー、生地に何か入れてる?」
「ああ。“生地に何か混ぜてもいい”ってことだったから、ほうれん草とかレバーをすり潰したペーストを入れたんだ」
「えっ、なんで? 何そのチョイス? クッキー作ったんだよね?」
「鉄分のある食材を使った方がエルメスらしさを表現できるかなと思って、入れてみた」
「“入れてみた”じゃないよ! なんで妙なところ凝っちゃうのさ、ただでさえ料理下手なのに!」
「いや、確かにボクは料理が上手くないけれど、今回はすごくいい出来だよ。自信作と言ってもいい」
「何よりも信用できないんだけど、その自信」
「料理教室の先生だって、“異国の料理は奥が深いですね。我が国の人間にはない発想です”と言ってくれた」
「モノは言い様だよね」
「ああ、エルメスにも食事ができれば、この自信作を食べてもらったのに……」
「うん。今、自分がモトラドでよかったって心から思ったよ、キノ」
「ボクだって、エルメスがエルメスでよかったといつも思っているよ。だから、この形にしたんだ」
「その台詞、こんなシチュエーションじゃなかったらすっごく嬉しかったんだけどねえ」
「もしまた作ることがあったら、今度はもっとエルメスそっくりのクッキーを目指すよ」
「まあ、気持ちだけで十分だよ、キノ。──ごちそうさま」
「いいや。これはエルメスのつもりで作ったんだよ」
「はい?」
「ほら、ここがヘッドライトで、この辺がハンドル。下の丸いところがタイヤ」
「…………。いやいやいや、全然見えない! 全然似てない!」
「そうかな? 結構上手くできたと思ったんだけれど」
「キノの“上手くできた”の基準が分かんない! キノには目の前のモトラドがそう見えてるわけ?」
「まあ、見える世界は誰しも同じとは限らないからね」
「なんかそれっぽいこと言ってごまかそうとしてない? というか、なんで急にクッキーなんて作ってきたのさ?」
「ホテルのレストランで料理教室をやっていたんだよ。近くを通ったら、一緒にどうかって誘われてね。材料は全部用意してくれるっていうから、それならと思って」
「……ねえキノ、それ、もちろん人には食べさせなかったんだよね……?」
「うん。せっかくだからエルメスに見せようと思って、作ったのはボクが持って帰ってきたんだ」
「よかった、犠牲になった人がいなくて」
「では、いただきます」
「うわー、キノに食べられるー! こわーい!」
「食べづらいよ、エルメス」
「容赦なく噛み砕いてるくせに。──あれ? キノ、そのクッキー、生地に何か入れてる?」
「ああ。“生地に何か混ぜてもいい”ってことだったから、ほうれん草とかレバーをすり潰したペーストを入れたんだ」
「えっ、なんで? 何そのチョイス? クッキー作ったんだよね?」
「鉄分のある食材を使った方がエルメスらしさを表現できるかなと思って、入れてみた」
「“入れてみた”じゃないよ! なんで妙なところ凝っちゃうのさ、ただでさえ料理下手なのに!」
「いや、確かにボクは料理が上手くないけれど、今回はすごくいい出来だよ。自信作と言ってもいい」
「何よりも信用できないんだけど、その自信」
「料理教室の先生だって、“異国の料理は奥が深いですね。我が国の人間にはない発想です”と言ってくれた」
「モノは言い様だよね」
「ああ、エルメスにも食事ができれば、この自信作を食べてもらったのに……」
「うん。今、自分がモトラドでよかったって心から思ったよ、キノ」
「ボクだって、エルメスがエルメスでよかったといつも思っているよ。だから、この形にしたんだ」
「その台詞、こんなシチュエーションじゃなかったらすっごく嬉しかったんだけどねえ」
「もしまた作ることがあったら、今度はもっとエルメスそっくりのクッキーを目指すよ」
「まあ、気持ちだけで十分だよ、キノ。──ごちそうさま」