つかいかた

「まーた、モトラドをティーテーブルにしてるね、キノは」
「ちょうどいいからね」
 湖のほとりで、キノがエルメスでお茶をしていた。
 キノは、センタースタンドで立つエルメスのシートへと、横座りで腰掛けていた。後輪上のキャリアには、年季の入った革製の旅行鞄が載っている。そしてその鞄の上に、キノがいつも使っている銀色のカップが置かれていた。
 ひょいと手を伸ばして、キノがカップを持ち上げる。カップの中には、さっき作ったばかりのお茶が揺れていた。二杯目だった。
 キノは美味しそうにお茶を飲んで、一息つく。それから、しみじみと呟いた。
「エルメスは便利だね。一台で、椅子にもテーブルにもなれる」
「本来の使い方じゃないけどねえ」
 呆れた口調で言ったエルメスに構わず、キノはカップを持たない手を親指から順に指折り数え始める。
「洗濯物を干したい時は物干し台になるし、狙撃をする時は射撃台にもなる。エキゾースト・パイプでお湯も沸かせる。そういえば、ベビーベッドになったこともあったね」
「本来の使い方じゃ、以下略。あと、なったんじゃなくて勝手にされたんだよ?」
 呆れ声を重ねたエルメスに、キノが小指を折り込みながら言う。
「それに、こうして話し相手にもなってくれる」
「ま、それは正しい使い方だね」
 言われたエルメスがまんざらでもなさそうに返して、キノはくすっと笑った。お茶をもう一口飲む。
「このお茶を飲み終わったら、エルメスの本来の使い方をするよ」
「おっ、待ってました! ほらキノ、早く飲んで。一気、一気」
「しないよ」
 きっぱりと答えながら、キノが笑う。吐息に吹かれたお茶の湯気が、形を崩して溶けていった。