Happy Birthday, my dear!

「キノー! 誕生日おめでとー!」
「え? ああ……、うん。どうも」
「反応薄くないっ?」
「いや、あの国ででっちあげた日付だし。そもそもボクには毎日の日付の感覚すらないし」
「細かいこと気にしないで、おとなしく祝われてよー。こっちは昨日からスタンバイしてたんだよ?」
「ああ……。どうりで、エルメスがなんかそわそわしてると思った」
「というわけだからキノ、誕生日会をやろう!」
「え? 今日は朝から走って、この平原を抜ける予定だったんだけれど」
「いいからいいから! この場所は逃げないけど、今年のキノの誕生日は今日だけなんだよ」
「……まあ、祝ってくれるのは嬉しいよ。ありがとう、エルメス」
「どういたしまして! じゃあキノ、そこに座って。まずはお祝いのバースデーソングを歌うから」
「エルメスが歌ってくれるのか。それは楽しみだ」
「それじゃあ、歌うね──」

「……えっと、エルメス?」
「──ん? なあにキノ。まだ歌の途中なんだけど」
「なんか、歌……、長くないか? かれこれ五番くらいまで聴いている気がする……」
「うん、これ十番まであるやつだから」
「そんなに?」
「だって、キノの誕生日なんだよ? この溢れ出るお祝いの気持ちはとても一番だけじゃ収まらないよ!」
「いや、一番だけでも充分伝わってくるよ……」

「──はいキノ、おめでとー! ぱちぱちぱちー!」
「うん、ありがとう。まさか全部歌いきるとは……」
「えー、では続きまして、誕生日プレゼント!」
「そんなものまであるの?」
「といっても、とーぜんモノはあげられないので、代わりに、何かキノがしてほしいことがあったら叶えたいと思います」
「ボクが、エルメスにしてほしいこと?」
「うん。今日はキノの大事な日だから、モトラドにできることならなんでもしてあげるよ!」
「それなら、お言葉に甘えて」
「うんうん、甘えて甘えて? ──ちなみに、“朝早く起きてほしい”は除外だからね」
「…………。読まれたか……」
「まあねー。伊達に長年キノの相棒やってないからねー」
「さすがだ。──それ以外で、エルメスにしてほしいことか……。…………。よし、決めた」
「なになに?」
「“エルメスの誕生日を教えてほしい”」
「へ? はい?」
「相棒同士なのに、ボクだけエルメスに祝われるのは不公平だから。ボクにも、エルメスのことを祝わせてくれたっていいだろ」
「いいけど、ありがたいけど、嬉しいけど……、これは予想外だったなあ。というか、こっちの誕生日をいつにしたのか忘れちゃったんだよねえ。何せキノの誕生日のことで頭がいっぱいで」
「エルメスの頭って? それなら、今日一緒に祝ってしまおうか」
「え? いいの?」
「いいよ。おめでたいことは、いくつ重なっていいさ」
「ま、そうだね」
「というわけで、誕生日おめでとう。エルメス」
「ありがと! まったく、今日はキノを喜ばせるつもりだったのに、こっちが嬉しくなっちゃったじゃん」
「どういたしまして。さて、ケーキもプレゼントもないけれど……、エルメスは、ボクに何かしてほしいことはある?」
「そうだねえ。せっかくだけど、今はもうないかも」
「そう?」
「今、ちょうどしてもらってるからね。──笑ってほしかったんだよ」