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黒髪少年はやきもち焼き
金曜日の夜、ミコトはヒイラギの部屋で風呂に入っていた。今週は彼の部屋に泊まる週。もう彼の部屋は見慣れたものだが、彼と一緒に過ごす夜が楽しいのはいつまでも変わらない。
ミコトが入浴を終えタオルで髪を拭きながら部屋に戻ると、
「おかえり、ミコト。髪乾かしてあげる」
準備完了と言わんばかりのヒイラギがドライヤーと櫛を持ってニコニコと笑っていた。彼は何故かやたらとミコトの髪に触れたがる。彼に髪を乾かしてもらうのも日常になりつつあった。
「うん、お願い」
最初は正直何で?が先に来たが、髪を乾かすのが億劫なミコトはだんだんと甘えるようになっていた。自分で乾かすよりよほど丁寧に仕上げてくれるし、少しばかり特別感もあった。
二人で洗面所に行き、鏡の前に立つ。ヒイラギがドライヤーを手にミコトの髪を乾かしてくれる。ちょうどいい温度の熱風と、時折頭皮に触れる彼の指先。髪や頭に触れられるということが、こんなに心躍るだなんて知らなかった。ヒイラギは丁寧に櫛を通しながら、慈しむような優しい顔で髪を乾かしている。美容院でヒイラギが働いていたらさぞモテモテだろうと容易に想像できた。腰のベルトから鋏を取りだす美容師のヒイラギ。うん、間違いなく絵になる。
「なに、ミコト。にやにやしちゃって」
鏡越しにヒイラギの怪訝な視線が刺さった。鏡に映った自分の口元がだらしなく緩んでいた。意識していなかっただけにとんでもなく恥ずかしい。風呂上がりだというのに変な汗をかいてしまう。
「ヒイラギくんが美容院にいたら、とか考えてたの」
「僕が美容院に?面白いこと言うね」
「美容師さんに髪とか触られたらちょっとドキッとしない?」
「……」
正直に思ったことを伝えると、ヒイラギは唇を尖らせ黙った。あれ、何かまずいことを言っただろうか。ドライヤーの風の音がうるさい。
「ヒイラギくん?」
「美容院にかっこいい美容師さんがいるとか?それでドキドキしてるの?」
ヒイラギの声は低く、先ほどまでのからかう明るい声音ではなかった。露骨なまでの不機嫌、ミコトは慌てた。
「え?違うよ、そうじゃなくて。髪って普段触られないし、近いからドキドキするよね」
「今はドキドキしてないの?髪触ってるし、近いよね」
ドライヤーの風が止む。ドライヤーを置いたヒイラギの右手がミコトの腹部を抱きしめ、左手が髪を撫でてくる。自然と彼の顔はミコトの首筋付近にあり、不機嫌な彼の吐息がくすぐったい。
「ドキドキしてるよ?ヒイラギくん、やきもち焼いてる?」
「焼いてる。ものすごく焼いてる。あー、やきもち焼いちゃったなあ」
投げやりな彼の声音とは裏腹に、ぎゅっと抱きしめられる。髪はいつもどおり綺麗に乾かされ、ヒイラギの指の間をさらさらと通り過ぎていく。ミコトの肩に顎を乗せたヒイラギは、見るからに不貞腐れていた。
「ねえミコト。僕すごく悲しくなっちゃったからさ、お願いがあるんだけど」
「なに?」
「ほら、僕だいぶ前髪伸びちゃったよね」
ヒイラギは自らの前髪を一房つまんだ。その前髪は睫毛に触れるほど伸びた部分もあり、瞳に影を落としている。
「うん、そうだね」
「だからさあ、ミコトに切ってもらおうかなー」
「え!?私に!?」
「うん」
心底驚いた。ミコトは美容師でも何でもない、当然ながら他人の髪を切ったことなどない。自分の前髪を適当に切り揃えるくらいだ。
「私素人だよ?ヒイラギくんの前髪難しいから、私が切ったらとんでもないことになりそう」
「いいよ?ミコトが切ってくれるなら」
「えぇ……」
前髪は第一印象の何割かを占める重要な部分である、責任重大だ。できたら避けたい。
「なんで嫌がるの?誰かに髪を触られたらドキドキするんでしょ?僕もミコトに触られてドキドキしたいんだけど」
「あ、なるほど……」
後ろから抱きしめてくる彼は、ミコトの肩に顔を埋めている。洗面所の鏡に映った彼は、ちらりと上目遣いでミコトに甘えていた。
――ねえ、切ってくれないの?
そう雄弁に語る彼の大きな翡翠の瞳に、ミコトは勝てたためしがない。ミコトはしょうがないな、と口にしながら決心した。そしてあ、と思う。
「ねえヒイラギくん。髪切る鋏なんて、持ってないよね」
「ないよ。普通の鋏ならあるけど」
そう言って彼が手渡したのは、本当にどこででも買える、紙を切る鋏だった。比較的新しく切れ味はそれなりにありそうなのが救いか。
「本当にいいの?ギザギザのジャギジャギになっちゃいそう」
「いいってば。ミコトにしてもらうのが大事だから」
ワンルームのフローリングに正座をした彼は、ぷくりと頬を膨らませてミコトを睨んでいた。可愛い。とんでもなく綺麗な彼だが、こういう子供っぽい表情も似合ってしまうのは本当にずるいと思う。
「じゃあ動かないで、目を閉じてて?やってみるから」
「はーい」
元気よく返事をして目を閉じた彼は、本当に幼い子供のようだった。あれ、私弟がいたっけな、と錯覚するほどに。
ミコトは鋏を右手に持ち、左手で彼の前髪をすくいとった。指先に彼の長い睫毛が当たり、少しだけくすぐったい。彼は目を閉じつつも唇の端が少し緩んでいて、妙に嬉しそうだった。
ああ、緊張するなあ。他人の髪を切るなんて初めてのミコトは、大きく深呼吸した。自分の前髪を切るなら適当でもいいけれど、ヒイラギの前髪となるとそうはいかない。不器用なりに鋏を当て、一息に切る。じゃきん、と尖った音とともに、黒髪がはらはらと落ちた。彼の膝にはティッシュを敷いている、紙の白さと髪の黒さが対照的で美しい。
じゃきん、じゃきん。夜の静けさに髪を切る音が響く。彼の伸びていた前髪が眉よりやや上あたりまで短くなった。後はあの複雑な形をどうにかしなくては、と試行錯誤する。この髪型、どうやって注文して切ってもらっているのだろうと心から疑問に思った。
「ヒイラギくん、とりあえず切ってみたよ。でも顔に髪ついてるから、動かないでね」
「わかった」
むずむずと動きたそうにしている彼に釘を刺し、麗しい白磁の肌についた短い髪屑を取り払う。指でつまむときに彼の肌を傷つけてしまいそうで、ある意味では髪を切るより恐ろしい。彼の肌に爪痕を残すなんて大罪だと考えた直後、そういえば前背中に爪を、と思い出してミコトは赤面した。
首や胸元に落ちた髪も丁寧に払い、ミコトはよし、と頷いた。その声を合図に、ヒイラギが目を開く。膝上のティッシュに落ちている髪を見、彼は目を丸くした。
「うわ、結構な量だね。ありがとう、ミコト」
「うん……頑張ってはみたけど……」
正直なところ、うまくいったとは思えない。が、これ以上修正しようとすると余計におかしくなる気がして妥協した。髪を包んだティッシュを捨て、ヒイラギがむぎゅ、とミコトに抱きついてきた。
「ミコト、ありがとう」
背中に回ったヒイラギの両腕、胸に頬を擦り付け笑う彼、もう完全に予想外の反応だった。硬直するミコトをよそに、彼は満足そうに笑う。
「え……鏡で見なくていいの?」
「いいよ。ミコトが切ってくれたから十分」
「えぇ……?」
困惑するミコトに、彼は無邪気な笑顔を返した。
「ミコトに髪を触られたとき、すごくドキドキしたよ。これからはミコトに切ってもらおうかな?あ、あと僕の髪も乾かしてほしいなぁ」
「髪を乾かすのはいいよ。でも切るのはちょっと……すごく緊張するし難しいから」
「えー」
ヒイラギのじっとりと不満げな視線が刺さった。さっきまであんなに嬉しそうだったのに。
「た、たまになら……髪を切るのはたまにで許して!ね、ヒイラギくん」
「うーん……まぁミコトがそこまで言うなら」
何とか納得はしてもらえたようだが、その代わりヒイラギはぎゅううとミコトを抱きしめて離さなかった。しばらくこの体勢から動けそうにないな、と諦めつつ、ミコトはヒイラギの頭を撫でた。
金曜日の夜、ミコトはヒイラギの部屋で風呂に入っていた。今週は彼の部屋に泊まる週。もう彼の部屋は見慣れたものだが、彼と一緒に過ごす夜が楽しいのはいつまでも変わらない。
ミコトが入浴を終えタオルで髪を拭きながら部屋に戻ると、
「おかえり、ミコト。髪乾かしてあげる」
準備完了と言わんばかりのヒイラギがドライヤーと櫛を持ってニコニコと笑っていた。彼は何故かやたらとミコトの髪に触れたがる。彼に髪を乾かしてもらうのも日常になりつつあった。
「うん、お願い」
最初は正直何で?が先に来たが、髪を乾かすのが億劫なミコトはだんだんと甘えるようになっていた。自分で乾かすよりよほど丁寧に仕上げてくれるし、少しばかり特別感もあった。
二人で洗面所に行き、鏡の前に立つ。ヒイラギがドライヤーを手にミコトの髪を乾かしてくれる。ちょうどいい温度の熱風と、時折頭皮に触れる彼の指先。髪や頭に触れられるということが、こんなに心躍るだなんて知らなかった。ヒイラギは丁寧に櫛を通しながら、慈しむような優しい顔で髪を乾かしている。美容院でヒイラギが働いていたらさぞモテモテだろうと容易に想像できた。腰のベルトから鋏を取りだす美容師のヒイラギ。うん、間違いなく絵になる。
「なに、ミコト。にやにやしちゃって」
鏡越しにヒイラギの怪訝な視線が刺さった。鏡に映った自分の口元がだらしなく緩んでいた。意識していなかっただけにとんでもなく恥ずかしい。風呂上がりだというのに変な汗をかいてしまう。
「ヒイラギくんが美容院にいたら、とか考えてたの」
「僕が美容院に?面白いこと言うね」
「美容師さんに髪とか触られたらちょっとドキッとしない?」
「……」
正直に思ったことを伝えると、ヒイラギは唇を尖らせ黙った。あれ、何かまずいことを言っただろうか。ドライヤーの風の音がうるさい。
「ヒイラギくん?」
「美容院にかっこいい美容師さんがいるとか?それでドキドキしてるの?」
ヒイラギの声は低く、先ほどまでのからかう明るい声音ではなかった。露骨なまでの不機嫌、ミコトは慌てた。
「え?違うよ、そうじゃなくて。髪って普段触られないし、近いからドキドキするよね」
「今はドキドキしてないの?髪触ってるし、近いよね」
ドライヤーの風が止む。ドライヤーを置いたヒイラギの右手がミコトの腹部を抱きしめ、左手が髪を撫でてくる。自然と彼の顔はミコトの首筋付近にあり、不機嫌な彼の吐息がくすぐったい。
「ドキドキしてるよ?ヒイラギくん、やきもち焼いてる?」
「焼いてる。ものすごく焼いてる。あー、やきもち焼いちゃったなあ」
投げやりな彼の声音とは裏腹に、ぎゅっと抱きしめられる。髪はいつもどおり綺麗に乾かされ、ヒイラギの指の間をさらさらと通り過ぎていく。ミコトの肩に顎を乗せたヒイラギは、見るからに不貞腐れていた。
「ねえミコト。僕すごく悲しくなっちゃったからさ、お願いがあるんだけど」
「なに?」
「ほら、僕だいぶ前髪伸びちゃったよね」
ヒイラギは自らの前髪を一房つまんだ。その前髪は睫毛に触れるほど伸びた部分もあり、瞳に影を落としている。
「うん、そうだね」
「だからさあ、ミコトに切ってもらおうかなー」
「え!?私に!?」
「うん」
心底驚いた。ミコトは美容師でも何でもない、当然ながら他人の髪を切ったことなどない。自分の前髪を適当に切り揃えるくらいだ。
「私素人だよ?ヒイラギくんの前髪難しいから、私が切ったらとんでもないことになりそう」
「いいよ?ミコトが切ってくれるなら」
「えぇ……」
前髪は第一印象の何割かを占める重要な部分である、責任重大だ。できたら避けたい。
「なんで嫌がるの?誰かに髪を触られたらドキドキするんでしょ?僕もミコトに触られてドキドキしたいんだけど」
「あ、なるほど……」
後ろから抱きしめてくる彼は、ミコトの肩に顔を埋めている。洗面所の鏡に映った彼は、ちらりと上目遣いでミコトに甘えていた。
――ねえ、切ってくれないの?
そう雄弁に語る彼の大きな翡翠の瞳に、ミコトは勝てたためしがない。ミコトはしょうがないな、と口にしながら決心した。そしてあ、と思う。
「ねえヒイラギくん。髪切る鋏なんて、持ってないよね」
「ないよ。普通の鋏ならあるけど」
そう言って彼が手渡したのは、本当にどこででも買える、紙を切る鋏だった。比較的新しく切れ味はそれなりにありそうなのが救いか。
「本当にいいの?ギザギザのジャギジャギになっちゃいそう」
「いいってば。ミコトにしてもらうのが大事だから」
ワンルームのフローリングに正座をした彼は、ぷくりと頬を膨らませてミコトを睨んでいた。可愛い。とんでもなく綺麗な彼だが、こういう子供っぽい表情も似合ってしまうのは本当にずるいと思う。
「じゃあ動かないで、目を閉じてて?やってみるから」
「はーい」
元気よく返事をして目を閉じた彼は、本当に幼い子供のようだった。あれ、私弟がいたっけな、と錯覚するほどに。
ミコトは鋏を右手に持ち、左手で彼の前髪をすくいとった。指先に彼の長い睫毛が当たり、少しだけくすぐったい。彼は目を閉じつつも唇の端が少し緩んでいて、妙に嬉しそうだった。
ああ、緊張するなあ。他人の髪を切るなんて初めてのミコトは、大きく深呼吸した。自分の前髪を切るなら適当でもいいけれど、ヒイラギの前髪となるとそうはいかない。不器用なりに鋏を当て、一息に切る。じゃきん、と尖った音とともに、黒髪がはらはらと落ちた。彼の膝にはティッシュを敷いている、紙の白さと髪の黒さが対照的で美しい。
じゃきん、じゃきん。夜の静けさに髪を切る音が響く。彼の伸びていた前髪が眉よりやや上あたりまで短くなった。後はあの複雑な形をどうにかしなくては、と試行錯誤する。この髪型、どうやって注文して切ってもらっているのだろうと心から疑問に思った。
「ヒイラギくん、とりあえず切ってみたよ。でも顔に髪ついてるから、動かないでね」
「わかった」
むずむずと動きたそうにしている彼に釘を刺し、麗しい白磁の肌についた短い髪屑を取り払う。指でつまむときに彼の肌を傷つけてしまいそうで、ある意味では髪を切るより恐ろしい。彼の肌に爪痕を残すなんて大罪だと考えた直後、そういえば前背中に爪を、と思い出してミコトは赤面した。
首や胸元に落ちた髪も丁寧に払い、ミコトはよし、と頷いた。その声を合図に、ヒイラギが目を開く。膝上のティッシュに落ちている髪を見、彼は目を丸くした。
「うわ、結構な量だね。ありがとう、ミコト」
「うん……頑張ってはみたけど……」
正直なところ、うまくいったとは思えない。が、これ以上修正しようとすると余計におかしくなる気がして妥協した。髪を包んだティッシュを捨て、ヒイラギがむぎゅ、とミコトに抱きついてきた。
「ミコト、ありがとう」
背中に回ったヒイラギの両腕、胸に頬を擦り付け笑う彼、もう完全に予想外の反応だった。硬直するミコトをよそに、彼は満足そうに笑う。
「え……鏡で見なくていいの?」
「いいよ。ミコトが切ってくれたから十分」
「えぇ……?」
困惑するミコトに、彼は無邪気な笑顔を返した。
「ミコトに髪を触られたとき、すごくドキドキしたよ。これからはミコトに切ってもらおうかな?あ、あと僕の髪も乾かしてほしいなぁ」
「髪を乾かすのはいいよ。でも切るのはちょっと……すごく緊張するし難しいから」
「えー」
ヒイラギのじっとりと不満げな視線が刺さった。さっきまであんなに嬉しそうだったのに。
「た、たまになら……髪を切るのはたまにで許して!ね、ヒイラギくん」
「うーん……まぁミコトがそこまで言うなら」
何とか納得はしてもらえたようだが、その代わりヒイラギはぎゅううとミコトを抱きしめて離さなかった。しばらくこの体勢から動けそうにないな、と諦めつつ、ミコトはヒイラギの頭を撫でた。
