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fear and the sweet night
「ねえヒイラギくん、ホラー映画って見たことある?」
ある日、ミコトが僕に尋ねてきた。ただの雑談かと思ったら、何だか神妙な顔だった。
「見たことないけど、どうしたの」
「友達にね、おすすめされたの。そんなに怖くないよ、面白かったよって言われて」
と言いながらミコトがスマホで見せてきたのは、青白い顔の女の人のドアップにタイトルが書かれた画面。不吉な色合い、不気味なフォント、どこからどう見ても幽霊系のホラー映画だ。パッと見では「そんなに怖くない」ようには見えない。
「あれ?ミコトって怖いのだめじゃなかったっけ」
これまでのミコトとのデートを思い返した。遊園地でお化け屋敷だけは絶対行きたくないと言っていたし、学園祭の薄暗い迷路の出し物も行かなかったし、この手のものは苦手だと思っていた。
「そうなんだけど……誰かと一緒なら大丈夫かなあって思って。ヒイラギくん、そういうの平気そうだし」
「たぶん僕は大丈夫だと思うけど、無理して見なくてもいいんじゃない?」
「映画なら見るだけだし、一回試したいかなって」
ね?どうかな?と首を傾げるミコトは可愛くて、僕は即頷いた。ミコトと映画を見るなんて久しぶりだ。ホラー映画なんて僕も初めてだし、それはそれで興味があった。
一緒に映画を見ようと約束した土曜日の夜。僕の部屋でミコトとふたり、シングルベッドにうつ伏せで隣り合って寝転ぶ。ふたりで布団を被り、タブレットを置く。ちょっと見づらいけど、これなら僕が近くにいるから怖さが薄れるだろう。部屋の電気は消してある。タブレットの青白い光に照らされて、ミコトは不安そうに僕を見つめた。
「ねえ、どうしても電気消さなきゃだめ?」
「せっかく見るなら雰囲気がほしいでしょ?大丈夫、僕がいるから」
ミコトの肩に擦り寄ってにっこり笑いかけると、ミコトはう〜、とか言いつつもタブレットに向き直る。もう見る前から不穏な空気が漂っているけど、頑張ろうとしてるミコトは可愛い。
「じゃあ見てみよっか」
そんなこんなで僕らのホラー映画鑑賞が始まった。夜の学生寮は静かだ、タブレットから再生される映画の音しか聞こえない。ごく普通の女の人がひょんなことから呪われたアイテムを拾って青白い女の幽霊に呪われちゃう、よくあるホラー展開だ。ホラー小説は読んだことがあるけど、映画はやっぱり音とか色とか、演出がいいなあ。結構怖い。なんて、僕は冷静に見ることができていたが。
「……っ!!」
隣のミコトはというと、幽霊が出てくるシーンや不穏な演出にいちいち驚いたり息を呑んだりしていた。悲鳴を上げるまではいかないけど、露骨に怖がっているのが伝わってくる。普段は見られない仕草だから可愛いなあと思うけど、かわいそうでもある。でも僕からやめよっかと言うのも変だし、ミコトが見続けるならとそのまま見ていた。
見始めて一時間くらい経ったかな?映画も盛り上がってきて、どんどんホラーな展開や演出が増えてきた。すると、
「ヒイラギくん……!!」
ぎゅう、とミコトが僕の腕にすがりついてきた。泣きそうな震えた声で、近くで見た顔は妙に白っぽく見えた。僕は再生を止め、タブレットを閉じた。タブレットの青白い光がなくなり本当に真っ暗になる。ミコトのひ、と怯える声が聞こえたから、僕は布団を頭まで被って寝転び、ミコトを強く抱きしめた。目が慣れてきてうっすらミコトの表情が見えた。僕を泣きそうな目で見つめている。
「大丈夫大丈夫。僕がいるよ」
ミコトの頭や背中をゆっくり撫でて、ぽんぽんと叩いた。そうしているうちに、強張っていたミコトの体が少しずつほぐれていく。
「ありがとうヒイラギくん……怖かった」
「今日はこのまま寝よっか。続きはもういいでしょ?」
「うん」
ミコトは僕の胸に顔を擦りつけて、背中に両腕を回して思いきり抱きついてきた。ミコトはしばらくそのまま甘えていたが、
「ねえ、ヒイラギくん」
「なに?」
「キス、していい?」
僕の目の前で呟いた。吐息が僕の鼻をかすめるような至近距離。僕がふふ、と笑って
「いいよ」
と言った瞬間、ミコトがキスしてきた。触れ合ってすぐ離れる一瞬だけのキスをして、ミコトは僕の首筋に顔を埋める。
「ありがとう。怖かったけど、今夜は寝れそう」
「そっか、よかった。おやすみ、ミコト」
「おやすみ」
ミコトの耳に口付けて、僕は可愛い彼女を抱きしめた。映画を最後まで見られなかったのは残念だけど、ミコトがこうやって甘えてきてくれたからとんとん……どころか大儲けだ。今夜はよく眠れそうだ。
部屋の中が明るくなってきた気がする。僕はあくびをしながら目を覚ました。いつもどおりのシングルベッド、今朝はミコトも一緒だ。昨日は怯えて怖いと言っていた彼女も気持ちよく眠っているようで、僕に抱きついたまま寝息を立てている。可愛い。僕はミコトの頭を撫でた。さらさらと心地いい感触だった。
「ヒイラギくん……」
「あ、おはよう」
ぱち、とミコトが目を開けた。僕を呼ぶ声はちょっとふやけた感じで、まだ完全には起きていない感じがする。
「よく眠れた?」
「うん……ありがとう、ヒイラギくん」
「どういたしまして」
僕はミコトに笑いかけたが、当のミコトはなんだかすっきりしない顔をしていた。
「どうしたの、まだ眠たい?」
「ううん、違うの……ちょっと怖い夢を見て……」
「怖い夢?」
「うん。はっきり覚えてないんだけど、女の人に追いかけられる夢だったと思う」
昨日見た映画にも似たようなシーンがあった。青白い顔の女の人が髪を振り乱しながら走って追いかけてくる、なかなか怖い絵面だった。ミコトの脳には綺麗に刷り込まれてしまったのかもしれない。
「そっか、怖かったね。今は怖くない?大丈夫?」
「うん……あの、ヒイラギくん」
ミコトは気まずそうに目を逸らしたり僕を見つめたりしながら、ぎこちなく話した。
「私ひとりだと眠れそうにないから、しばらくヒイラギくんと一緒に寝てもいい?」
「昨日みたいな感じで?うん、いいよ。頼ってくれて嬉しいな」
答えた瞬間、ミコトは嬉しそうに顔を綻ばせた。でもほんの少し、申し訳なさそうな上目遣いをする。
「ごめんね、ヒイラギくん。わがまま言って」
「わがままなんかじゃないよ。ミコトと一緒なんだよ、嬉しいに決まってるからね」
あざといミコトの額にキスをすると、彼女は恥ずかしそうに目を逸らし、顔を赤らめた。ああ、とっても可愛い。昨日より強く抱きしめて寝たら、夢なんか見ずに済むだろうか。そう思いながら、僕はミコトを抱きしめた。朝だけど、もう少しこのままでいたかった。
「ねえヒイラギくん、ホラー映画って見たことある?」
ある日、ミコトが僕に尋ねてきた。ただの雑談かと思ったら、何だか神妙な顔だった。
「見たことないけど、どうしたの」
「友達にね、おすすめされたの。そんなに怖くないよ、面白かったよって言われて」
と言いながらミコトがスマホで見せてきたのは、青白い顔の女の人のドアップにタイトルが書かれた画面。不吉な色合い、不気味なフォント、どこからどう見ても幽霊系のホラー映画だ。パッと見では「そんなに怖くない」ようには見えない。
「あれ?ミコトって怖いのだめじゃなかったっけ」
これまでのミコトとのデートを思い返した。遊園地でお化け屋敷だけは絶対行きたくないと言っていたし、学園祭の薄暗い迷路の出し物も行かなかったし、この手のものは苦手だと思っていた。
「そうなんだけど……誰かと一緒なら大丈夫かなあって思って。ヒイラギくん、そういうの平気そうだし」
「たぶん僕は大丈夫だと思うけど、無理して見なくてもいいんじゃない?」
「映画なら見るだけだし、一回試したいかなって」
ね?どうかな?と首を傾げるミコトは可愛くて、僕は即頷いた。ミコトと映画を見るなんて久しぶりだ。ホラー映画なんて僕も初めてだし、それはそれで興味があった。
一緒に映画を見ようと約束した土曜日の夜。僕の部屋でミコトとふたり、シングルベッドにうつ伏せで隣り合って寝転ぶ。ふたりで布団を被り、タブレットを置く。ちょっと見づらいけど、これなら僕が近くにいるから怖さが薄れるだろう。部屋の電気は消してある。タブレットの青白い光に照らされて、ミコトは不安そうに僕を見つめた。
「ねえ、どうしても電気消さなきゃだめ?」
「せっかく見るなら雰囲気がほしいでしょ?大丈夫、僕がいるから」
ミコトの肩に擦り寄ってにっこり笑いかけると、ミコトはう〜、とか言いつつもタブレットに向き直る。もう見る前から不穏な空気が漂っているけど、頑張ろうとしてるミコトは可愛い。
「じゃあ見てみよっか」
そんなこんなで僕らのホラー映画鑑賞が始まった。夜の学生寮は静かだ、タブレットから再生される映画の音しか聞こえない。ごく普通の女の人がひょんなことから呪われたアイテムを拾って青白い女の幽霊に呪われちゃう、よくあるホラー展開だ。ホラー小説は読んだことがあるけど、映画はやっぱり音とか色とか、演出がいいなあ。結構怖い。なんて、僕は冷静に見ることができていたが。
「……っ!!」
隣のミコトはというと、幽霊が出てくるシーンや不穏な演出にいちいち驚いたり息を呑んだりしていた。悲鳴を上げるまではいかないけど、露骨に怖がっているのが伝わってくる。普段は見られない仕草だから可愛いなあと思うけど、かわいそうでもある。でも僕からやめよっかと言うのも変だし、ミコトが見続けるならとそのまま見ていた。
見始めて一時間くらい経ったかな?映画も盛り上がってきて、どんどんホラーな展開や演出が増えてきた。すると、
「ヒイラギくん……!!」
ぎゅう、とミコトが僕の腕にすがりついてきた。泣きそうな震えた声で、近くで見た顔は妙に白っぽく見えた。僕は再生を止め、タブレットを閉じた。タブレットの青白い光がなくなり本当に真っ暗になる。ミコトのひ、と怯える声が聞こえたから、僕は布団を頭まで被って寝転び、ミコトを強く抱きしめた。目が慣れてきてうっすらミコトの表情が見えた。僕を泣きそうな目で見つめている。
「大丈夫大丈夫。僕がいるよ」
ミコトの頭や背中をゆっくり撫でて、ぽんぽんと叩いた。そうしているうちに、強張っていたミコトの体が少しずつほぐれていく。
「ありがとうヒイラギくん……怖かった」
「今日はこのまま寝よっか。続きはもういいでしょ?」
「うん」
ミコトは僕の胸に顔を擦りつけて、背中に両腕を回して思いきり抱きついてきた。ミコトはしばらくそのまま甘えていたが、
「ねえ、ヒイラギくん」
「なに?」
「キス、していい?」
僕の目の前で呟いた。吐息が僕の鼻をかすめるような至近距離。僕がふふ、と笑って
「いいよ」
と言った瞬間、ミコトがキスしてきた。触れ合ってすぐ離れる一瞬だけのキスをして、ミコトは僕の首筋に顔を埋める。
「ありがとう。怖かったけど、今夜は寝れそう」
「そっか、よかった。おやすみ、ミコト」
「おやすみ」
ミコトの耳に口付けて、僕は可愛い彼女を抱きしめた。映画を最後まで見られなかったのは残念だけど、ミコトがこうやって甘えてきてくれたからとんとん……どころか大儲けだ。今夜はよく眠れそうだ。
部屋の中が明るくなってきた気がする。僕はあくびをしながら目を覚ました。いつもどおりのシングルベッド、今朝はミコトも一緒だ。昨日は怯えて怖いと言っていた彼女も気持ちよく眠っているようで、僕に抱きついたまま寝息を立てている。可愛い。僕はミコトの頭を撫でた。さらさらと心地いい感触だった。
「ヒイラギくん……」
「あ、おはよう」
ぱち、とミコトが目を開けた。僕を呼ぶ声はちょっとふやけた感じで、まだ完全には起きていない感じがする。
「よく眠れた?」
「うん……ありがとう、ヒイラギくん」
「どういたしまして」
僕はミコトに笑いかけたが、当のミコトはなんだかすっきりしない顔をしていた。
「どうしたの、まだ眠たい?」
「ううん、違うの……ちょっと怖い夢を見て……」
「怖い夢?」
「うん。はっきり覚えてないんだけど、女の人に追いかけられる夢だったと思う」
昨日見た映画にも似たようなシーンがあった。青白い顔の女の人が髪を振り乱しながら走って追いかけてくる、なかなか怖い絵面だった。ミコトの脳には綺麗に刷り込まれてしまったのかもしれない。
「そっか、怖かったね。今は怖くない?大丈夫?」
「うん……あの、ヒイラギくん」
ミコトは気まずそうに目を逸らしたり僕を見つめたりしながら、ぎこちなく話した。
「私ひとりだと眠れそうにないから、しばらくヒイラギくんと一緒に寝てもいい?」
「昨日みたいな感じで?うん、いいよ。頼ってくれて嬉しいな」
答えた瞬間、ミコトは嬉しそうに顔を綻ばせた。でもほんの少し、申し訳なさそうな上目遣いをする。
「ごめんね、ヒイラギくん。わがまま言って」
「わがままなんかじゃないよ。ミコトと一緒なんだよ、嬉しいに決まってるからね」
あざといミコトの額にキスをすると、彼女は恥ずかしそうに目を逸らし、顔を赤らめた。ああ、とっても可愛い。昨日より強く抱きしめて寝たら、夢なんか見ずに済むだろうか。そう思いながら、僕はミコトを抱きしめた。朝だけど、もう少しこのままでいたかった。