全年齢向け
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
レイニーデイから恋が始まる(1/2)
「ねーねーミコト、百合川くんと付き合ってんの?」
百合川ヒイラギと相合傘をして帰った翌日、登校したばかりのミコトに友人の声が刺さった。何もやましいことはないし、ごく普通に普段どおりにしていればいいのに、びくんとミコトの体が跳ねた。
「え……なんで?」
机に鞄を置きながらおそらくは引き攣った顔で友人を見ると、友人はにんまりと笑っている。それはもう、どこからどう見ても野次馬の笑み。
「見たよー?百合川くんと相合傘してるとこー。ねー、見たよねー?」
「見た見たー」
無責任な野次馬がまた一人増える。覚悟はしていた。誰かに見られていて、翌朝間違いなく話題に上るだろうと。だが実際追及されるとなかなかどうして、気まずい。
「相合傘はしたけど……そういうのじゃないよ」
「えー、ほんとにぃー?」
「ほんとだよ」
間違いなく事実を述べているのだが友人はどう解釈したのか、意地の悪い笑顔を崩してくれない。「ふーん、ほー、へーえ」なんて言っているから、嘘だと思われている。事実とは遠く離れた都合のいい現実を作り出しているに違いない。
「……ほんとだって……」
こういうとき、ムキになって言い返してもロクなことにならないと肌で知っている。知っているが、何も言わないのも癪に障るのでやんわりと抵抗だけはしておく。……聞いているのか効いているのかよくわからないけど。
ミコトはため息をつき、椅子に座った。もう友人たちが盛り上がるのは止められないから、こちらにとばっちりがこない限り大人しくするに限る。ヒイラギには噂になっても気にしないとは言ったし実際気にするつもりもないが、こうも耳障りだと彼にも迷惑をかけていそうで、そちらの方が気になる。
――百合川くんに悪いことしちゃったかなあ。
ミコトとしては百パーセント善意の行動で、相合傘のおかげで二人ともあまり濡れずに済んだから後悔はない。ただちょっと、ほんの少し、じわじわと申し訳ない思いが滲み出る。朝から少し体が重く感じるが、まあとりあえず今日も一日頑張るか。ミコトは小さく息をついて、鞄の荷物を取り出した。
終業のチャイムが鳴る。長いホームルームも終わり、今日も無事に一日が過ぎた。休憩時間という休憩時間に百合川ヒイラギのことを散々聞かれたけれども、まあそれはどうしようもないことだった。明日になれば野次馬の興味も薄らいでいくだろう。ふうと吐息を漏らしたとき、ポケットに入れたスマートフォンが震えた。何ともなしに取り出すと、通知欄に「百合川ヒイラギ」とあった。……硬直した。
――何だろう。
そういえば昨日連絡先を交換したなあ、と他人事のように思い出した。彼に連絡することもなかったから完全に忘れていた。まさか彼から連絡があるとも思っていなかった。想定外だ。アプリを起動してメッセージを確認する。
『もし暇なら、ここに来てみない?』
絵文字や顔文字といった装飾のない簡素な文章と、写真が添付されていた。半袖カッターシャツのヒイラギがベンチに座っている自撮り写真。顔がほとんど映っていないのが彼らしい。涼しげな木陰のベンチ、グラウンドと思しき地面が少しだけ写りこんでいるから、縄印学園高等科のどこかなのだろうとはわかるけれど、あまりにも情報が少ない。
『どこ?』
行くかどうかは別として、場所が気になる。端的な疑問を投げると、
『黒い猫を追いかけていったらわかるよ』
「……?」
ずいぶんと抽象的な文章が返され、ミコトは首を傾げた。縄印学園のグラウンドに野良猫がいるのをたまに見かけるが、黒い野良猫なんかいただろうか。思い返してみたが記憶にない。記憶にないが、せっかく百合川ヒイラギから連絡があったのだし、ミコトの知らないベンチがどこにあるのか興味がある。少しばかり黒い猫を追いかけるアリスになってみてもいいかもしれない。ミコトはスマートフォンをポケットにしまい、鞄を肩にかけて立ち上がった。百合川くんと会うの、とかまだ冗談半分で聞いてくる友人を曖昧な笑顔でかわし、ミコトは校舎から出た。グラウンドを一瞥する。
「……あ」
ちらりと見つめたグラウンドの隅に、黒い影が見えた。ぴょこんと立った三角形の耳、長くしなやかな尻尾。まさに噂の黒い猫だった。こんなすぐ見つけられるなんて、本当にアリスの大冒険、始まっちゃうかも?ミコトは猫に駆け寄った。猫はミコトの接近に体を震わせると、ミコトを警戒の瞳で数秒見つめ、駆けていった。しなやかな体躯で駆け抜けていく黒い猫を何とか見失わないように追いかける。無心で走り兎ではなく猫を追うアリスは、放課後の喧騒を縫うように駆けた。
「……はあっ」
放課後の気怠い体に全力疾走は苦しい。荒い息を吐きながら追いかけていくと、通常ならまず確実に辿り着けないグラウンドの端も端、おそらく縄印学園高等科敷地内の四隅の一角に辿り着く。息が切れて立ち止まり、汗を拭いながら呼吸を整えていると、
「やあ、月森さん。お疲れ」
涼やかな百合川ヒイラギの声が響いた。顔を上げると、木陰のベンチにヒイラギが座っているのが見えた。決死の覚悟で追いかけていた黒猫がベンチの上、ヒイラギの右隣に寄り添うように佇んでいる。その頭をヒイラギの掌が優しく撫でていた。
「百合川くん……」
「大丈夫?ほら、座りなよ」
苦笑するヒイラギの左隣に座り、タオルを取り出した。六月の暑くなってきた最中に全力疾走、汗をかかないはずがない。汗を拭きながら初めて訪れる場所を見渡した。グラウンドの片隅にぽつんとあるベンチ、その後ろには何本かそれなりに大きい木が植えられ、心地よい木陰を形作っている。風が吹くと葉擦れの穏やかな音が響く。グラウンドでは野球部やサッカー部の練習が行われているが、その声が環境音楽のように遠く聞こえる。練習風景も小さく見える程度で存在感が薄い。グラウンドと地続きの場所ではあるが、ここだけが切り離されたのかと思うほど人がおらず、思いの外静かな場所だった。
「こんなところにベンチがあったんだね……知らなかった」
「多分、知らない人の方が多いと思うよ」
「百合川くんも猫を追いかけてきたの?」
「うん」
ヒイラギの手が猫の顎をくすぐるように撫でると、猫は目を細めてにゃお、と鳴いた。人馴れした猫だ。自分もちょっとくらい触れたりしないだろうか。ミコトが手を伸ばした瞬間猫はふしゃあ、と露骨に警戒した声を上げ、ベンチから下りて離れていく。
「あー……一見さんお断り、ってやつ?」
「そうだね。僕も触らせてもらうまで結構かかったよ」
ヒイラギは去っていく猫の後ろ姿を一瞥した後、ミコトに笑いかけた。
「そっぽ向いちゃうとその日は絶対帰ってこないんだ。月森さんが悪いわけじゃないよ。僕も最初はあんな感じだったから」
「そっか、残念」
去る者追わず。そこまでして撫でたいわけでもなかったし、ミコトはベンチにもたれかかり息をついた。先ほどまで走っていた体にこもっていた熱が、木陰の涼しさに少しずつ逃げていくのを感じる。見上げると、揺れる葉がまだ明るい陽光に照らされているのが視界に映る。ちらちらと葉の影の隙間から明るい斑模様が落ちる。
「月森さん、急に連絡したけど来てくれてありがとう」
「百合川くんから連絡があるとは思わなかったから、びっくりしちゃった」
「僕も来てくれると思ってなかったから、びっくりしたよ」
「えっ?」
ミコトは思わずヒイラギを凝視した。二人して顔を見合わせて黙る。じっと真正面から見つめ合うこと数十秒、互いにぷっと噴き出した。
「なにそれ?百合川くんから誘っておいて、来ないかもしれないって思ってたの?」
「うん、変だよね?でも、来てくれたらいいなとも思ってたよ」
「ちゃんと来たよ。褒めてくれてもよくない?」
「うん、あんなに汗だくになって来てくれてさ。ありがとう」
汗だく、と言われて唐突に恥ずかしくなった。年頃の乙女たるもの、やはり色々と気にかかるが、何も言わなければこのまま流れていく話題だろうから、ミコトはぐっと黙った。
「あ、そうだ、百合川くん。リボン、ありがとう」
「リボン?えーっと……ああ、傘につけたやつのこと?」
「そう、それ」
言いながら、ミコトの脳裏に自らの傘が浮かぶ。自分が結んだベージュのリボンに寄り添うように結ばれた、レモンイエローの蝶結び。
「見てくれたんだ。……なんか、今思い返すとちょっと恥ずかしいな」
「え?なんで?すごく可愛いし、嬉しかったよ?」
「そっか。月森さんが喜んでくれたならよかったけど……リボン、余っちゃってさ。正直使い道がないし、困ったよ」
「え、ほんと?もしよかったら、余ったリボン、もらってもいい?」
「月森さんが欲しいならあげるよ」
「やった、ありがとう」
「明日にでも持ってくるよ」
まさかリボンがもらえるとは思わず、ミコトは純粋に喜んだ。普段のミコトだと買わない色だし、キーホルダーやコサージュの飾り等々、使い道は無限大だ。ちょっと寄り道をする程度のつもりだったけれど、思ったよりも収穫があった。
「ねえ、月森さん。また明日、放課後ここで待ち合わせない?」
「うん、いいよ」
きっとこれからこの場所が、百合川ヒイラギと顔を合わせる場所になるだろう。いつかあの黒い猫とも仲良くなれたらいいなと思いながら、ミコトは笑った。
「ねーねーミコト、百合川くんと付き合ってんの?」
百合川ヒイラギと相合傘をして帰った翌日、登校したばかりのミコトに友人の声が刺さった。何もやましいことはないし、ごく普通に普段どおりにしていればいいのに、びくんとミコトの体が跳ねた。
「え……なんで?」
机に鞄を置きながらおそらくは引き攣った顔で友人を見ると、友人はにんまりと笑っている。それはもう、どこからどう見ても野次馬の笑み。
「見たよー?百合川くんと相合傘してるとこー。ねー、見たよねー?」
「見た見たー」
無責任な野次馬がまた一人増える。覚悟はしていた。誰かに見られていて、翌朝間違いなく話題に上るだろうと。だが実際追及されるとなかなかどうして、気まずい。
「相合傘はしたけど……そういうのじゃないよ」
「えー、ほんとにぃー?」
「ほんとだよ」
間違いなく事実を述べているのだが友人はどう解釈したのか、意地の悪い笑顔を崩してくれない。「ふーん、ほー、へーえ」なんて言っているから、嘘だと思われている。事実とは遠く離れた都合のいい現実を作り出しているに違いない。
「……ほんとだって……」
こういうとき、ムキになって言い返してもロクなことにならないと肌で知っている。知っているが、何も言わないのも癪に障るのでやんわりと抵抗だけはしておく。……聞いているのか効いているのかよくわからないけど。
ミコトはため息をつき、椅子に座った。もう友人たちが盛り上がるのは止められないから、こちらにとばっちりがこない限り大人しくするに限る。ヒイラギには噂になっても気にしないとは言ったし実際気にするつもりもないが、こうも耳障りだと彼にも迷惑をかけていそうで、そちらの方が気になる。
――百合川くんに悪いことしちゃったかなあ。
ミコトとしては百パーセント善意の行動で、相合傘のおかげで二人ともあまり濡れずに済んだから後悔はない。ただちょっと、ほんの少し、じわじわと申し訳ない思いが滲み出る。朝から少し体が重く感じるが、まあとりあえず今日も一日頑張るか。ミコトは小さく息をついて、鞄の荷物を取り出した。
終業のチャイムが鳴る。長いホームルームも終わり、今日も無事に一日が過ぎた。休憩時間という休憩時間に百合川ヒイラギのことを散々聞かれたけれども、まあそれはどうしようもないことだった。明日になれば野次馬の興味も薄らいでいくだろう。ふうと吐息を漏らしたとき、ポケットに入れたスマートフォンが震えた。何ともなしに取り出すと、通知欄に「百合川ヒイラギ」とあった。……硬直した。
――何だろう。
そういえば昨日連絡先を交換したなあ、と他人事のように思い出した。彼に連絡することもなかったから完全に忘れていた。まさか彼から連絡があるとも思っていなかった。想定外だ。アプリを起動してメッセージを確認する。
『もし暇なら、ここに来てみない?』
絵文字や顔文字といった装飾のない簡素な文章と、写真が添付されていた。半袖カッターシャツのヒイラギがベンチに座っている自撮り写真。顔がほとんど映っていないのが彼らしい。涼しげな木陰のベンチ、グラウンドと思しき地面が少しだけ写りこんでいるから、縄印学園高等科のどこかなのだろうとはわかるけれど、あまりにも情報が少ない。
『どこ?』
行くかどうかは別として、場所が気になる。端的な疑問を投げると、
『黒い猫を追いかけていったらわかるよ』
「……?」
ずいぶんと抽象的な文章が返され、ミコトは首を傾げた。縄印学園のグラウンドに野良猫がいるのをたまに見かけるが、黒い野良猫なんかいただろうか。思い返してみたが記憶にない。記憶にないが、せっかく百合川ヒイラギから連絡があったのだし、ミコトの知らないベンチがどこにあるのか興味がある。少しばかり黒い猫を追いかけるアリスになってみてもいいかもしれない。ミコトはスマートフォンをポケットにしまい、鞄を肩にかけて立ち上がった。百合川くんと会うの、とかまだ冗談半分で聞いてくる友人を曖昧な笑顔でかわし、ミコトは校舎から出た。グラウンドを一瞥する。
「……あ」
ちらりと見つめたグラウンドの隅に、黒い影が見えた。ぴょこんと立った三角形の耳、長くしなやかな尻尾。まさに噂の黒い猫だった。こんなすぐ見つけられるなんて、本当にアリスの大冒険、始まっちゃうかも?ミコトは猫に駆け寄った。猫はミコトの接近に体を震わせると、ミコトを警戒の瞳で数秒見つめ、駆けていった。しなやかな体躯で駆け抜けていく黒い猫を何とか見失わないように追いかける。無心で走り兎ではなく猫を追うアリスは、放課後の喧騒を縫うように駆けた。
「……はあっ」
放課後の気怠い体に全力疾走は苦しい。荒い息を吐きながら追いかけていくと、通常ならまず確実に辿り着けないグラウンドの端も端、おそらく縄印学園高等科敷地内の四隅の一角に辿り着く。息が切れて立ち止まり、汗を拭いながら呼吸を整えていると、
「やあ、月森さん。お疲れ」
涼やかな百合川ヒイラギの声が響いた。顔を上げると、木陰のベンチにヒイラギが座っているのが見えた。決死の覚悟で追いかけていた黒猫がベンチの上、ヒイラギの右隣に寄り添うように佇んでいる。その頭をヒイラギの掌が優しく撫でていた。
「百合川くん……」
「大丈夫?ほら、座りなよ」
苦笑するヒイラギの左隣に座り、タオルを取り出した。六月の暑くなってきた最中に全力疾走、汗をかかないはずがない。汗を拭きながら初めて訪れる場所を見渡した。グラウンドの片隅にぽつんとあるベンチ、その後ろには何本かそれなりに大きい木が植えられ、心地よい木陰を形作っている。風が吹くと葉擦れの穏やかな音が響く。グラウンドでは野球部やサッカー部の練習が行われているが、その声が環境音楽のように遠く聞こえる。練習風景も小さく見える程度で存在感が薄い。グラウンドと地続きの場所ではあるが、ここだけが切り離されたのかと思うほど人がおらず、思いの外静かな場所だった。
「こんなところにベンチがあったんだね……知らなかった」
「多分、知らない人の方が多いと思うよ」
「百合川くんも猫を追いかけてきたの?」
「うん」
ヒイラギの手が猫の顎をくすぐるように撫でると、猫は目を細めてにゃお、と鳴いた。人馴れした猫だ。自分もちょっとくらい触れたりしないだろうか。ミコトが手を伸ばした瞬間猫はふしゃあ、と露骨に警戒した声を上げ、ベンチから下りて離れていく。
「あー……一見さんお断り、ってやつ?」
「そうだね。僕も触らせてもらうまで結構かかったよ」
ヒイラギは去っていく猫の後ろ姿を一瞥した後、ミコトに笑いかけた。
「そっぽ向いちゃうとその日は絶対帰ってこないんだ。月森さんが悪いわけじゃないよ。僕も最初はあんな感じだったから」
「そっか、残念」
去る者追わず。そこまでして撫でたいわけでもなかったし、ミコトはベンチにもたれかかり息をついた。先ほどまで走っていた体にこもっていた熱が、木陰の涼しさに少しずつ逃げていくのを感じる。見上げると、揺れる葉がまだ明るい陽光に照らされているのが視界に映る。ちらちらと葉の影の隙間から明るい斑模様が落ちる。
「月森さん、急に連絡したけど来てくれてありがとう」
「百合川くんから連絡があるとは思わなかったから、びっくりしちゃった」
「僕も来てくれると思ってなかったから、びっくりしたよ」
「えっ?」
ミコトは思わずヒイラギを凝視した。二人して顔を見合わせて黙る。じっと真正面から見つめ合うこと数十秒、互いにぷっと噴き出した。
「なにそれ?百合川くんから誘っておいて、来ないかもしれないって思ってたの?」
「うん、変だよね?でも、来てくれたらいいなとも思ってたよ」
「ちゃんと来たよ。褒めてくれてもよくない?」
「うん、あんなに汗だくになって来てくれてさ。ありがとう」
汗だく、と言われて唐突に恥ずかしくなった。年頃の乙女たるもの、やはり色々と気にかかるが、何も言わなければこのまま流れていく話題だろうから、ミコトはぐっと黙った。
「あ、そうだ、百合川くん。リボン、ありがとう」
「リボン?えーっと……ああ、傘につけたやつのこと?」
「そう、それ」
言いながら、ミコトの脳裏に自らの傘が浮かぶ。自分が結んだベージュのリボンに寄り添うように結ばれた、レモンイエローの蝶結び。
「見てくれたんだ。……なんか、今思い返すとちょっと恥ずかしいな」
「え?なんで?すごく可愛いし、嬉しかったよ?」
「そっか。月森さんが喜んでくれたならよかったけど……リボン、余っちゃってさ。正直使い道がないし、困ったよ」
「え、ほんと?もしよかったら、余ったリボン、もらってもいい?」
「月森さんが欲しいならあげるよ」
「やった、ありがとう」
「明日にでも持ってくるよ」
まさかリボンがもらえるとは思わず、ミコトは純粋に喜んだ。普段のミコトだと買わない色だし、キーホルダーやコサージュの飾り等々、使い道は無限大だ。ちょっと寄り道をする程度のつもりだったけれど、思ったよりも収穫があった。
「ねえ、月森さん。また明日、放課後ここで待ち合わせない?」
「うん、いいよ」
きっとこれからこの場所が、百合川ヒイラギと顔を合わせる場所になるだろう。いつかあの黒い猫とも仲良くなれたらいいなと思いながら、ミコトは笑った。