幼なじみと王子様が私を離してくれない
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
3
幼なじみと愛を紡ぐ
マナは舞踏会の招待状をまじまじと眺めた後、「欠席」に印をつけ王城に送り返すことにした。もう心は決まっている。招待状を送り返したその日、マナはシンの家を訪れた。すっかり日が暮れ月と星が戯れる時間帯ながら、シンはノックに応じて扉を開けてくれた。
「どうした、マナ。こんな時間に」
突然の訪問に、さすがのシンも少し驚いた様子だった。
「あの、どうしても二人で話したいことがあって。……いいかな」
「ああ、構わないぞ。茶でも淹れるか」
シンに促され家に入り、彼がお茶を淹れる背中を見ながらテーブルに座った。心臓が痛いほど唸っている。きっとあの日、シンが自分に思いを告げたときもこんな心地だったのだろうと今ならわかる。
「待たせてすまない。それで、話って何だ」
シンはティーカップを二つ置くと対面に座り、真正面からマナを見つめた。その瞳はシンにしては珍しく戸惑いが混じったもので、不安そうにも見えた。
「あのね……私、シンと結婚したいの。だから、舞踏会には行かないことにした。ずっと私のこと大切にしてくれたシンと一緒にいたい」
ドキドキとうるさい心臓を宥めながら正直な気持ちを口にした。シンは目を丸く見開いた後そっと立ち上がり、椅子に座るマナを後ろから抱きしめた。首筋にあたたかいシンの涙が零れ、嗚咽が聞こえる。シンはマナを抱きしめたまま震えていた。心配になったマナが目を向けると、
「マナ」
名を呼ばれ、唇を奪われていた。あまりにも突然のことで困惑している間に、シンは何度も口付けてくる。涙の味がする口付けは切実で、彼の熱い思いを感じさせた。
「悪い、泣いたりして。……格好悪いな、オレ」
「ううん、気にしてないよ。でも、大丈夫?」
「大丈夫だ。……嬉しすぎても人間って泣くんだな。涙が止まらない」
シンはマナから離れ、拳で涙を拭っていた。静かに噛み締めるように泣く彼のそばに寄り添い、マナは彼の背中を撫でた。マナよりも広く逞しい背中だが今だけは小さく見える。鼻を赤くして涙を流す彼は恥ずかしそうにしており、マナには微笑ましかった。そっと彼に抱きつき、普段よりもやや高い体温に身を委ねる。
「私のこと大切に思ってくれてありがとう。私もシンのこと、大切にするからね。一緒に幸せになろうね」
マナの言葉に返ってきたのは、頭を大きな掌で撫でられる安心感だった。
舞踏会が開催される数日前、シンとマナは王城を訪れた。ヒイラギは驚いた様子だったが二人の姿を見て何かを察したらしく、すぐに部屋に通してくれた。
ヒイラギに促され、ティータイムの用意がされたテーブルに三人で座る。ヒイラギはシンとマナを見て寂しそうに笑った。
「マナ、おめでとう。シンと結婚することにしたんだね」
「え?そうですけど、どうしてわかったんですか」
「舞踏会に欠席の返事が来て、その後二人で挨拶に来たらさすがの僕もわかるよ。二人ともおめでとう」
ヒイラギの言葉にシンはマナとともに頭を下げ、
「ありがとう。……正直、祝福されるとは思ってなかった」
「シンは僕のことをどう思ってるのさ。確かに僕もマナと結婚したかったけど、そんな礼儀知らずじゃないよ」
ヒイラギと苦笑いを交わした。足を組みティーカップを手にするヒイラギはこれ以上なく優雅だったが、どことなく落ち着きがなかった。同じ女性を愛する者同士、選ばれなかったらきっとシンも同じような態度を取っていただろう。シンが口にした紅茶は少しの渋みと苦味があり、奥行きのある味だった。
「そういえば、シンは舞踏会はどうするの?」
ヒイラギに尋ねられ、シンは少し考えた後答えた。
「お前がオレを友人として認めてくれるなら出席しようと考えてる。……せっかく何かの縁で接点ができたのだから、オレは友達でいたいと思ってる」
「……そっか」
ヒイラギはぴくりと眉を動かしたが、すぐに笑みを浮かべ紅茶を一口。カップをソーサーに置くと、彼は青い髪を揺らして微笑んだ。
「そうだね。僕も君とは友達でいたいと思っているよ。だからシンには来てほしいな。その間、マナを一人にしちゃうのは申し訳ないけど」
「あ、私のことはお気になさらず……!」
慌てて手を振るマナを見ながら、シンはヒイラギと顔を見合わせた。ヒイラギは微笑みを絶やさずシンを見つめていた。
「じゃあマナ、行ってくるから」
舞踏会の日の夕方、シンは家を出る前に振り返り、同棲しているマナの額にキスをした。シンと一緒に彼の家で暮らし始めてまだ数日しか経っておらず、スキンシップにも慣れていない頃だった。
「うん、行ってらっしゃい。気をつけてね」
顔が赤いのを感じながらマナは手を振り彼を見送った。シンは普段自宅で患者を診療するモンク、彼が出ていくのを見送るのは初めてだった。むしろ外で農作業をする分、マナの方が見送られるくらいだ。愛しい彼の帰りを待つというのはどんな気分だろう。
舞踏会の開催は夜、シンが戻ってくるのは夜遅くになる。夕方までにいつもどおり農作業を終わらせてしまった、こんなに手持ち無沙汰な時間は初めてだ。マナは久しぶりに一人の夕食を食べ、のんびりと本を読むなどして過ごした。ふとしたときにシンはどうしているだろうと頭によぎり、一人で考え事に耽ったりしていた。シンと暮らす前は父親と二人暮らしで雑談をしていたし、シンと暮らせば彼と言葉を交わしてしていた。孤独な時間の経験が少ないマナは、テーブルで頬杖をつきお茶を飲みながらただひたすらにシンの帰りを待った。
「ただいま」
夜も更け、普段なら寝ていてもおかしくない時間にシンは帰ってきた。マナはシンの声とともに立ち上がり、
「おかえり!」
シンに抱きついた。シンは驚いた様子だったが、
「ただいま。遅くなったな」
マナの頭を優しく撫でてくれた。何も考えずに抱きついたため今気が付いた。シンは黒の燕尾服を身に纏い、普段とは違う優美な雰囲気に仕上がっていた。そんな彼を見たのは初めてで、風雅な色気を漂わせる彼にマナは赤面した。シンは不思議そうに尋ねる。
「ん、どうした?」
「そんな服着てるところ初めて見たからドキッとしちゃって」
「ああ、これか?舞踏会用の服をヒイラギが貸してくれたんだ。せっかくだから着て帰ったらと言われたから、そのまま帰ってきたんだが」
「すごく似合ってるよ。かっこいい」
正直すぎる感想を伝えると、今度はシンの顔が赤らむ番だった。頬をかきながら目を泳がせている。
「そうか。着て帰って正解だったな。もうしばらくこの格好でいた方がいいか?」
「うん!いてほしい!そうだシン、お茶淹れたら飲む?」
「ああ、飲みたい」
「じゃあ座って待ってて!」
シンをテーブルに座らせお茶の用意をする。シンにティーカップを差し出し向かい側に座ると、優雅な紳士のシンがいてどぎまぎする。マナはお茶を一口飲んで息を吐き、心を落ち着かせた。
「舞踏会、どうだった?」
「別世界だったな。オレ以外は全員王族やら貴族やらで、本当にオレがいていいのかと思ったくらいだ」
「ヒイラギ様、お元気だった?」
「ああ、元気そうだったぞ。また三人で会いたいと言ってた。もし結婚式があるなら呼んでほしいとも」
話していると、マナはくすくすと笑った。
「村の結婚式にヒイラギ様が来たらみんなびっくりしちゃうね」
「そうだな。だができたらヒイラギを呼びたいと思ってるが、マナはどうだ?」
「いろいろお世話になったし、お呼びしたいなって思ってる。ヒイラギ様も呼んでほしいって言ってるのなら尚更ね」
二人で村のお茶を楽しみながら夜は更けていく。シンとたわいもない話をする時間は愛おしく、マナは終始微笑んでいた。
「ね、シン」
マナは立ち上がり、シンのそばに立つと彼の腕を引いた。燕尾服でお茶を嗜む彼は本当に王族か貴族のようだったが、不思議そうにマナを見る顔は可愛らしかった。
「その格好でぎゅってして?いつもと違う感じ、もっと楽しみたい」
「ああ、いいぞ」
微笑んだシンはマナと向かい合い、優しく抱きしめてくれた。服装が違っても彼の抱擁は穏やかで、ずっとその体温に触れていると心地よい眠りに落ちていけそうな気がした。
マナとシンが結婚することは小さな村にあっという間に知れ渡り、しばらくして結婚式が執り行われることになった。村唯一の教会で二人は愛を誓い、その後は村人たちが作ってくれた豪勢な料理を食べながら飲めや歌えの盛大な宴の始まりだった。教会での厳かな雰囲気は一瞬だけ、二人の新しい門出を村人総出で祝う明るい空気に満ちた。
村人たちが教会の外で陽気に歌い踊る中、マナとシンは料理や酒を楽しみつつ楽しそうな村人たちを見守っていた。口々に「おめでとう」と言ってくる彼らに笑顔で返していると、唯一村の外の招待客であるヒイラギが二人の元へやってきた。
「やあ、今日は本当におめでとう。僕がいると浮いちゃうかなって思ったけど、意外とそんなことなかったね」
「ああ、正直意外だった。まあめでたいことだから、王族が混じってても気にしなかったんだろ。村に滞在してたからお前のことはみんな知ってたし」
「ヒイラギ様、今日はありがとうございます。わざわざ来ていただけるなんて思ってませんでした」
マナがそう言うと、ヒイラギは少し寂しそうに笑った。
「友人二人の門出なんだ、お祝いしたいと思って当然だよ。でも、本当によかった。二人が幸せそうで僕は嬉しい」
ヒイラギの麗しいまつ毛が涙で濡れ、頬に雫が滴り落ちていく。ヒイラギは涙を拭いながらも微笑み、二人に花束を手渡した。白と橙を基調とした可憐な花の集まりは甘い香りが漂い、花びらにヒイラギの涙が零れ落ちる。
「ごめんね、泣いちゃって。本当に嬉しいんだ。どうかお幸せに。たまに王城に来て、幸せのお裾分けをしてくれると嬉しいな」
シンは花束を受け取り、マナと顔を見合わせ笑った。
「ありがとう、ヒイラギ。少し落ち着いたら、またお前のところに遊びに行くから」
日が沈み、夜になっても結婚式の名残の宴会は続いていた。少し冷えてきた、シンはマナを伴い家へ戻った。二人とも儀式を終えた緊張の糸が切れ、すっかり脱力していた。ヒイラギから受け取った花束は小分けにして自宅の様々な場所に飾り付けられ、瑞々しい可憐な雰囲気を纏わせていた。
自宅二階、寝室。枕元にもヒイラギの花が飾られている。可愛らしい花を見ると、シンは結婚式で会ったヒイラギの涙を思い出す。少し前のシンなら、ヒイラギからもらった花を見た日には黒々とした嫉妬で目も当てられない状態だっただろう。オレも変わったな、とシンは心の中で独りごちた。
「シン、どうしたの?」
ベッドに腰掛けたマナが不思議そうにシンを見つめていた。シンはマナの隣に座り、彼女を抱き寄せた。
「お前がオレを選んでくれたことを噛み締めてただけだ」
「?何言ってるの、シン」
「ヒイラギを選んでもよかったのに、お前はオレを選んでくれた。それが嬉しくて幸せで……マナ」
シンはマナの頬に口付け、彼女だけに言葉を紡ぐ。
「愛してる。お前だけをずっと。オレを選んだこと、絶対に後悔なんてさせない」
「ふふ、シンってば、くすぐったい」
頬だけでは足らない。額にも唇にも首筋にも、何度でも口付ける。唇を寄せるたびに笑う彼女が愛おしく、シンは彼女を抱きしめたままベッドに寝転んだ。
「マナ、好きだ。大好きだ。愛してる」
「私も」
二人で顔を見合わせ視線を絡ませ合い、抱き合った。一つのベッドで二人眠るのは少し狭いが、自然と密着することになりむしろ嬉しかった。これからはマナと同じ家で眠り目覚め、日々を過ごしていく。それがこの世の何よりも幸せだろうとシンは確信していた。
幼なじみと愛を紡ぐ
マナは舞踏会の招待状をまじまじと眺めた後、「欠席」に印をつけ王城に送り返すことにした。もう心は決まっている。招待状を送り返したその日、マナはシンの家を訪れた。すっかり日が暮れ月と星が戯れる時間帯ながら、シンはノックに応じて扉を開けてくれた。
「どうした、マナ。こんな時間に」
突然の訪問に、さすがのシンも少し驚いた様子だった。
「あの、どうしても二人で話したいことがあって。……いいかな」
「ああ、構わないぞ。茶でも淹れるか」
シンに促され家に入り、彼がお茶を淹れる背中を見ながらテーブルに座った。心臓が痛いほど唸っている。きっとあの日、シンが自分に思いを告げたときもこんな心地だったのだろうと今ならわかる。
「待たせてすまない。それで、話って何だ」
シンはティーカップを二つ置くと対面に座り、真正面からマナを見つめた。その瞳はシンにしては珍しく戸惑いが混じったもので、不安そうにも見えた。
「あのね……私、シンと結婚したいの。だから、舞踏会には行かないことにした。ずっと私のこと大切にしてくれたシンと一緒にいたい」
ドキドキとうるさい心臓を宥めながら正直な気持ちを口にした。シンは目を丸く見開いた後そっと立ち上がり、椅子に座るマナを後ろから抱きしめた。首筋にあたたかいシンの涙が零れ、嗚咽が聞こえる。シンはマナを抱きしめたまま震えていた。心配になったマナが目を向けると、
「マナ」
名を呼ばれ、唇を奪われていた。あまりにも突然のことで困惑している間に、シンは何度も口付けてくる。涙の味がする口付けは切実で、彼の熱い思いを感じさせた。
「悪い、泣いたりして。……格好悪いな、オレ」
「ううん、気にしてないよ。でも、大丈夫?」
「大丈夫だ。……嬉しすぎても人間って泣くんだな。涙が止まらない」
シンはマナから離れ、拳で涙を拭っていた。静かに噛み締めるように泣く彼のそばに寄り添い、マナは彼の背中を撫でた。マナよりも広く逞しい背中だが今だけは小さく見える。鼻を赤くして涙を流す彼は恥ずかしそうにしており、マナには微笑ましかった。そっと彼に抱きつき、普段よりもやや高い体温に身を委ねる。
「私のこと大切に思ってくれてありがとう。私もシンのこと、大切にするからね。一緒に幸せになろうね」
マナの言葉に返ってきたのは、頭を大きな掌で撫でられる安心感だった。
舞踏会が開催される数日前、シンとマナは王城を訪れた。ヒイラギは驚いた様子だったが二人の姿を見て何かを察したらしく、すぐに部屋に通してくれた。
ヒイラギに促され、ティータイムの用意がされたテーブルに三人で座る。ヒイラギはシンとマナを見て寂しそうに笑った。
「マナ、おめでとう。シンと結婚することにしたんだね」
「え?そうですけど、どうしてわかったんですか」
「舞踏会に欠席の返事が来て、その後二人で挨拶に来たらさすがの僕もわかるよ。二人ともおめでとう」
ヒイラギの言葉にシンはマナとともに頭を下げ、
「ありがとう。……正直、祝福されるとは思ってなかった」
「シンは僕のことをどう思ってるのさ。確かに僕もマナと結婚したかったけど、そんな礼儀知らずじゃないよ」
ヒイラギと苦笑いを交わした。足を組みティーカップを手にするヒイラギはこれ以上なく優雅だったが、どことなく落ち着きがなかった。同じ女性を愛する者同士、選ばれなかったらきっとシンも同じような態度を取っていただろう。シンが口にした紅茶は少しの渋みと苦味があり、奥行きのある味だった。
「そういえば、シンは舞踏会はどうするの?」
ヒイラギに尋ねられ、シンは少し考えた後答えた。
「お前がオレを友人として認めてくれるなら出席しようと考えてる。……せっかく何かの縁で接点ができたのだから、オレは友達でいたいと思ってる」
「……そっか」
ヒイラギはぴくりと眉を動かしたが、すぐに笑みを浮かべ紅茶を一口。カップをソーサーに置くと、彼は青い髪を揺らして微笑んだ。
「そうだね。僕も君とは友達でいたいと思っているよ。だからシンには来てほしいな。その間、マナを一人にしちゃうのは申し訳ないけど」
「あ、私のことはお気になさらず……!」
慌てて手を振るマナを見ながら、シンはヒイラギと顔を見合わせた。ヒイラギは微笑みを絶やさずシンを見つめていた。
「じゃあマナ、行ってくるから」
舞踏会の日の夕方、シンは家を出る前に振り返り、同棲しているマナの額にキスをした。シンと一緒に彼の家で暮らし始めてまだ数日しか経っておらず、スキンシップにも慣れていない頃だった。
「うん、行ってらっしゃい。気をつけてね」
顔が赤いのを感じながらマナは手を振り彼を見送った。シンは普段自宅で患者を診療するモンク、彼が出ていくのを見送るのは初めてだった。むしろ外で農作業をする分、マナの方が見送られるくらいだ。愛しい彼の帰りを待つというのはどんな気分だろう。
舞踏会の開催は夜、シンが戻ってくるのは夜遅くになる。夕方までにいつもどおり農作業を終わらせてしまった、こんなに手持ち無沙汰な時間は初めてだ。マナは久しぶりに一人の夕食を食べ、のんびりと本を読むなどして過ごした。ふとしたときにシンはどうしているだろうと頭によぎり、一人で考え事に耽ったりしていた。シンと暮らす前は父親と二人暮らしで雑談をしていたし、シンと暮らせば彼と言葉を交わしてしていた。孤独な時間の経験が少ないマナは、テーブルで頬杖をつきお茶を飲みながらただひたすらにシンの帰りを待った。
「ただいま」
夜も更け、普段なら寝ていてもおかしくない時間にシンは帰ってきた。マナはシンの声とともに立ち上がり、
「おかえり!」
シンに抱きついた。シンは驚いた様子だったが、
「ただいま。遅くなったな」
マナの頭を優しく撫でてくれた。何も考えずに抱きついたため今気が付いた。シンは黒の燕尾服を身に纏い、普段とは違う優美な雰囲気に仕上がっていた。そんな彼を見たのは初めてで、風雅な色気を漂わせる彼にマナは赤面した。シンは不思議そうに尋ねる。
「ん、どうした?」
「そんな服着てるところ初めて見たからドキッとしちゃって」
「ああ、これか?舞踏会用の服をヒイラギが貸してくれたんだ。せっかくだから着て帰ったらと言われたから、そのまま帰ってきたんだが」
「すごく似合ってるよ。かっこいい」
正直すぎる感想を伝えると、今度はシンの顔が赤らむ番だった。頬をかきながら目を泳がせている。
「そうか。着て帰って正解だったな。もうしばらくこの格好でいた方がいいか?」
「うん!いてほしい!そうだシン、お茶淹れたら飲む?」
「ああ、飲みたい」
「じゃあ座って待ってて!」
シンをテーブルに座らせお茶の用意をする。シンにティーカップを差し出し向かい側に座ると、優雅な紳士のシンがいてどぎまぎする。マナはお茶を一口飲んで息を吐き、心を落ち着かせた。
「舞踏会、どうだった?」
「別世界だったな。オレ以外は全員王族やら貴族やらで、本当にオレがいていいのかと思ったくらいだ」
「ヒイラギ様、お元気だった?」
「ああ、元気そうだったぞ。また三人で会いたいと言ってた。もし結婚式があるなら呼んでほしいとも」
話していると、マナはくすくすと笑った。
「村の結婚式にヒイラギ様が来たらみんなびっくりしちゃうね」
「そうだな。だができたらヒイラギを呼びたいと思ってるが、マナはどうだ?」
「いろいろお世話になったし、お呼びしたいなって思ってる。ヒイラギ様も呼んでほしいって言ってるのなら尚更ね」
二人で村のお茶を楽しみながら夜は更けていく。シンとたわいもない話をする時間は愛おしく、マナは終始微笑んでいた。
「ね、シン」
マナは立ち上がり、シンのそばに立つと彼の腕を引いた。燕尾服でお茶を嗜む彼は本当に王族か貴族のようだったが、不思議そうにマナを見る顔は可愛らしかった。
「その格好でぎゅってして?いつもと違う感じ、もっと楽しみたい」
「ああ、いいぞ」
微笑んだシンはマナと向かい合い、優しく抱きしめてくれた。服装が違っても彼の抱擁は穏やかで、ずっとその体温に触れていると心地よい眠りに落ちていけそうな気がした。
マナとシンが結婚することは小さな村にあっという間に知れ渡り、しばらくして結婚式が執り行われることになった。村唯一の教会で二人は愛を誓い、その後は村人たちが作ってくれた豪勢な料理を食べながら飲めや歌えの盛大な宴の始まりだった。教会での厳かな雰囲気は一瞬だけ、二人の新しい門出を村人総出で祝う明るい空気に満ちた。
村人たちが教会の外で陽気に歌い踊る中、マナとシンは料理や酒を楽しみつつ楽しそうな村人たちを見守っていた。口々に「おめでとう」と言ってくる彼らに笑顔で返していると、唯一村の外の招待客であるヒイラギが二人の元へやってきた。
「やあ、今日は本当におめでとう。僕がいると浮いちゃうかなって思ったけど、意外とそんなことなかったね」
「ああ、正直意外だった。まあめでたいことだから、王族が混じってても気にしなかったんだろ。村に滞在してたからお前のことはみんな知ってたし」
「ヒイラギ様、今日はありがとうございます。わざわざ来ていただけるなんて思ってませんでした」
マナがそう言うと、ヒイラギは少し寂しそうに笑った。
「友人二人の門出なんだ、お祝いしたいと思って当然だよ。でも、本当によかった。二人が幸せそうで僕は嬉しい」
ヒイラギの麗しいまつ毛が涙で濡れ、頬に雫が滴り落ちていく。ヒイラギは涙を拭いながらも微笑み、二人に花束を手渡した。白と橙を基調とした可憐な花の集まりは甘い香りが漂い、花びらにヒイラギの涙が零れ落ちる。
「ごめんね、泣いちゃって。本当に嬉しいんだ。どうかお幸せに。たまに王城に来て、幸せのお裾分けをしてくれると嬉しいな」
シンは花束を受け取り、マナと顔を見合わせ笑った。
「ありがとう、ヒイラギ。少し落ち着いたら、またお前のところに遊びに行くから」
日が沈み、夜になっても結婚式の名残の宴会は続いていた。少し冷えてきた、シンはマナを伴い家へ戻った。二人とも儀式を終えた緊張の糸が切れ、すっかり脱力していた。ヒイラギから受け取った花束は小分けにして自宅の様々な場所に飾り付けられ、瑞々しい可憐な雰囲気を纏わせていた。
自宅二階、寝室。枕元にもヒイラギの花が飾られている。可愛らしい花を見ると、シンは結婚式で会ったヒイラギの涙を思い出す。少し前のシンなら、ヒイラギからもらった花を見た日には黒々とした嫉妬で目も当てられない状態だっただろう。オレも変わったな、とシンは心の中で独りごちた。
「シン、どうしたの?」
ベッドに腰掛けたマナが不思議そうにシンを見つめていた。シンはマナの隣に座り、彼女を抱き寄せた。
「お前がオレを選んでくれたことを噛み締めてただけだ」
「?何言ってるの、シン」
「ヒイラギを選んでもよかったのに、お前はオレを選んでくれた。それが嬉しくて幸せで……マナ」
シンはマナの頬に口付け、彼女だけに言葉を紡ぐ。
「愛してる。お前だけをずっと。オレを選んだこと、絶対に後悔なんてさせない」
「ふふ、シンってば、くすぐったい」
頬だけでは足らない。額にも唇にも首筋にも、何度でも口付ける。唇を寄せるたびに笑う彼女が愛おしく、シンは彼女を抱きしめたままベッドに寝転んだ。
「マナ、好きだ。大好きだ。愛してる」
「私も」
二人で顔を見合わせ視線を絡ませ合い、抱き合った。一つのベッドで二人眠るのは少し狭いが、自然と密着することになりむしろ嬉しかった。これからはマナと同じ家で眠り目覚め、日々を過ごしていく。それがこの世の何よりも幸せだろうとシンは確信していた。
14/14ページ