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【お相手:5主人公 お題:雨宿り】
そろそろ梅雨の到来を感じ始める頃合い、突然の雨はこの時期特有のものだ。とはいえ、実際に通り雨に降られると憂鬱にもなる。彼女はあーあ、とぼやきながら品川駅の東口でぼんやりと雨を眺めていた。
――天気予報じゃ、雨が降るなんて言ってなかったのに!
ゆえに彼女は傘を持っていなかった。折り畳み傘すら。濡れた髪を絞るとぽたぽたと雨粒が落ちていく。セーラー服もすっかり濡れてしまった、少し重たく感じる。
すっと隣に誰かが立った。ふと目をやると、黒髪の少年だった。百合の花が咲く学ランも濡れてしまえば百合が萎れて見える。それとは対照的に彼の黒髪は濡れて艶々と輝き、見惚れてしまう美しさだった。彼は視線に気付き、彼女の方に近付いてきた。
「やあ。すごい雨だね」
「ほんと。学生寮に帰るのも億劫になっちゃう」
二人が見つめた先は、線になった雨が肉眼で見えるお天気。短距離とはいえ、傘もなしに飛び込む勇気はなかった。ふう、と隣の少年が息をつく音が聞こえた。
隣り合った二人は、ただぼんやりと雨を眺めていた。その間、傘を広げて歩いていく人影や諦めて駆け抜けていく勇者も見受けられた。二人はそのどちらにもなれず、降り続ける雨をじっと見つめていた。雨音を聞いていると、少年が彼女に笑いかけた。
「ねえ、この雨って通り雨かな?ここで待ってたら止むと思う?」
「えっとね……」
スマートフォンを取り出した彼女は天気アプリを起動した。雨雲レーダーの予測を確認する。
「十分後には雨雲が通り過ぎるみたい。多分通り雨だと思うよ」
「そっか。じゃあ、十分だけお話しようか」
「うん、いいよ」
こんな綺麗な少年と雨宿りしている上に、お話まで。彼女の心臓は少しばかり速い鼓動を刻んだ。何を話そうか?人生で最もときめく十分間の始まりだった。
【お相手:人修羅 お題:雨宿り】
とんでもない雨の中シンは駆け抜け、住宅街の小さなベンチに落ち着いた。形ばかりの屋根があり、それだけでもずいぶんと違う。助かった。シンはふう、と一息つくと学生カバンからハンカチを取り出した。
酷い目に遭った。まさかこんな唐突に雨が降るなんて。傘のないシンはひとまずの止まり木に腰掛けた。顔や髪を簡単にハンカチで拭いて一息つくと、前方から誰かが走ってくるのが見えた。学生カバンで頭に降る雨を防ぎながら全力疾走するセーラー服。屋根の下にやってきてようやく彼女が誰かわかった。
「あ!シン!」
彼女は屋根の中に入ると、びしょびしょの学生カバンをベンチに置いた。手で濡れたセーラー服を叩くたびにキラキラと雫が散る。
「ああ、お前も雨宿りか」
「うん、そう。今日雨降るとか言ってた?傘持ってないよ」
「オレもだ」
シンは前髪を弄りながら、ハンカチを差し出した。ミコトは髪やスカートを手で絞りつつ、不思議そうな顔をしている。
「もしよかったら使ってくれ。濡れてるけど」
「あ、いいの?ありがとう」
彼女は明るく笑うとハンカチを受け取り、首や手を拭き始めた。突然の雨はただただ陰鬱なばかりと思っていたが、意外とそうでもないらしい。シンは小さく安堵の息をついた。
「ありがとう、シン。ハンカチ持ってるなんてさすがだね」
「お前も持ってた方が何かと便利だぞ」
「今日はたまたま忘れてただけだし!」
彼女が不服そうに言ってくるのも可愛らしい。まさに雨の中咲いた鮮やかな紫陽花。予想外の逢瀬があるのなら、たまには雨もいいかもしれない。
「それにしても、シン」
ミコトはシンの隣に腰掛け、じっと見つめてきた。穴が開きそうなほど一点を、シンの顔を見つめている。その遠慮のない視線にシンは頬が熱くなるのを感じた。
「なんだ」
「濡れて髪の毛がぺたんとなってるの、可愛いね!」
「は?」
完全に予想の埒外のことを言われシンが呆気に取られていると、彼女の手がシンの髪に触れた。普段なら外側にはねている部分だ。今は雨に濡れ重力に垂れ下がっている。
「うんうん、この髪型のシンは普段とだいぶ雰囲気が違うぞ?私は好きだよ!たまには今みたいな髪型にしたらどう?」
「……そうか」
さすがに鏡は持っておらず、今シンがどのような状態なのか確認はできない。ひょっとすると水も滴るいい男になっているのかもしれない。
――髪乾かす前に様子を見てみるか。
シンは髪を撫でながらぼんやりと思った。
【お相手:越水 お題:雨宿り】
ざぁぁー……。
東京には雨が降っていた。朝はそれなりにいい天気だったが時間経過とともに雲が増え、夜にはこの有様である。越水は傘を持ち退勤準備を始めた。
ベテル日本支部の最後の退勤者は概ね越水であり、退勤準備も慣れたものだ。各部屋の施錠を確認し、誰も職員がいないか異常がないかを確認する。この日も流れ作業で行っていたところ、
「あ、越水長官!お疲れ様です!」
研究室に女性が一人残っていた。といっても仕事は終わったようで、カバンを肩にかけ帰る直前だった。
「ご苦労。残っているのは君だけか?」
「はい、私が最後だと思います。長官、毎日遅くまでお疲れ様です」
「この部屋が最後だ。鍵を閉め帰るとしよう」
「わかりました」
二人で施錠し、鍵を所定の位置にしまい日本支部を出ようとした瞬間、彼女がぴたりと立ち止まった。
「どうした?」
「雨、降ってるんですね……」
彼女は露骨に顔を歪めた。その表情と言葉で察するものがあったが、念の為確認する。
「傘を持っていないのか?」
「そうなんですよ……」
はぁー、と彼女は深いため息をつく。そうしてしばらく嫌そうな顔をしていたが、数秒後覚悟を決めた武士のような表情に変わった。
「まぁ、近いんで……全力ダッシュすれば大丈夫ですかね」
「全力ダッシュ?この雨の中走るのか」
彼女はスーツ、それも膝丈のスカートを履いていて、足元はローヒールとはいえヒールのついた靴。雨の中走って無事でいられる服装ではない。越水は息をつき、彼女に提案することにした。
「私の車に乗っていかないか。送っていく」
「え……えっ!?」
悲壮な覚悟を決めた彼女の顔が驚愕に崩れた。彼女は口を半分開いて呆然としている。
「え、えええ、そんな畏れ多い!」
「君が濡れたいというなら止めはしない。君さえよければ家まで送る。家の場所を知られたくないなら君の指定した場所で降ろすこともできるが」
越水としては誰も不幸にならない提案だと思っていたが、彼女は逡巡していた。二人沈黙する間にも雨は降り続き、何なら雨足が強くなっているまである。はぁー、とため息をつく彼女を見つつ、越水は再度口を開いた。
「雨は止みそうにないな」
そう言って隣にいる彼女に目をやると、彼女はぐったりと項垂れていた。きゅっと肩にかけたカバンを握りしめると、彼女は顔を上げた。
「わかりました。では長官のご厚意に与ります。送っていってください」
「了解した」
ようやく建設的な同意をした彼女の頬は、ほんのりと赤く染まっていた。
【お相手:勇 お題:雨宿り】
「わー!めっちゃ雨降ってきたー!!」
いつもどおり家に帰っていた放課後、突然凄まじい雨が降ってきた。さっきまで晴れていたはずなのに空は曇天、たっぷりの水分を蓄えた灰色の空からとんでもない雨が降ってくる。
傘持ってない!タオルも持ってない!やばい!濡れる!!
とにかく何とか雨から逃れようと私は走った。住宅街には屋根のある場所なんて……あったー!!
全力ダッシュで駆け寄ったのは、小さな雨よけがついたベンチだった。あー助かった、屋根があるだけでも全然違う。屋根があっても足元は濡れるけど、頭から雨を被らないだけだいぶマシだ。あー、ほっとした……。
とひと息ついていたら、ベンチに誰か座っているのが見えた。さっきまでダッシュに夢中だったから見えてなかった。
黒い髪の男の子だった。うちの高校の制服とは違う学ランを着ている。全身濡れていて、私と同じようにダッシュでここまで濡れながら来たんだろう。濡れた黒い髪をいじっている彼はとても綺麗だった。黒い髪は濡れてツヤツヤしていて、太い首筋に水が垂れているのが色っぽい。灰色の瞳は物憂げで、全然知らない男の子ながら私はドキリとしていた。
「あ、あの!」
「ん?」
声をかけると、男の子がこちらを向いた。私を上目遣いで見てくる目、なんかすごくドキドキする。私は何とか言葉を続けた。
「ベンチ、座ってもいいですか?」
「あ、ああ、どうぞ」
「ありがとう」
彼と同じベンチに座る。他人同士、拳二個分くらいの距離を開ける。私は学生カバンからハンカチを取り出した。結構濡れてるけど、まあまだ使えるくらいではある。
「あの、ハンカチ使います?」
隣にいる彼に聞いてみると、彼はぽかんとしていた。
「え?使っていいのか?オマエもびしょ濡れじゃん」
「あはは、まあ私は何とかなりますから……」
スカートをぎゅっと絞って水を落としつつ、私は答えた。ハンカチを差し出すと、彼は私とハンカチを二度見していた。
「使っていいなら遠慮なく使うけど……ほんとにいいのか?」
「いいですって」
「じゃあ、遠慮なく使わせてもらうぜ」
彼はハンカチを受け取り、顔や首筋の雨粒を拭き取っていた。綺麗な男の子だな……私はじっと見入ってしまった。
「ああ、ちゃんとこれ、洗って返すから。だから、連絡先教えてくれよ」
「え?」
「連絡先。どこで待ち合わせるかとかわかんないと返せないだろ?」
そう言って彼が差し出したのはスマホの画面。アドレスを読み込む画面が表示されている。
「あ、うん。わかった、教えるね」
雨が降り続ける中、二人で連絡先を交換した。新しく追加されたアドレスには「新田勇」とあった。
「えっと……新田くん?」
「そ、『新田くん』。オマエ、雨の中めっちゃ叫んでたから変なヤツかと思ったけど、意外とフツーだな」
「〜〜!!」
そういえばあまりの雨に一人で叫んでた気がする。思い出してしまって赤面した。あのときは誰かが見てるなんて思いもしなかったんだよ……。
「そ、それは忘れてよ」
「わかったわかった。ハンカチ返すまでには忘れるよ」
ニカっと笑った新田くんは綺麗なのにかっこよくて、胸のドキドキが治まらなかった。
そろそろ梅雨の到来を感じ始める頃合い、突然の雨はこの時期特有のものだ。とはいえ、実際に通り雨に降られると憂鬱にもなる。彼女はあーあ、とぼやきながら品川駅の東口でぼんやりと雨を眺めていた。
――天気予報じゃ、雨が降るなんて言ってなかったのに!
ゆえに彼女は傘を持っていなかった。折り畳み傘すら。濡れた髪を絞るとぽたぽたと雨粒が落ちていく。セーラー服もすっかり濡れてしまった、少し重たく感じる。
すっと隣に誰かが立った。ふと目をやると、黒髪の少年だった。百合の花が咲く学ランも濡れてしまえば百合が萎れて見える。それとは対照的に彼の黒髪は濡れて艶々と輝き、見惚れてしまう美しさだった。彼は視線に気付き、彼女の方に近付いてきた。
「やあ。すごい雨だね」
「ほんと。学生寮に帰るのも億劫になっちゃう」
二人が見つめた先は、線になった雨が肉眼で見えるお天気。短距離とはいえ、傘もなしに飛び込む勇気はなかった。ふう、と隣の少年が息をつく音が聞こえた。
隣り合った二人は、ただぼんやりと雨を眺めていた。その間、傘を広げて歩いていく人影や諦めて駆け抜けていく勇者も見受けられた。二人はそのどちらにもなれず、降り続ける雨をじっと見つめていた。雨音を聞いていると、少年が彼女に笑いかけた。
「ねえ、この雨って通り雨かな?ここで待ってたら止むと思う?」
「えっとね……」
スマートフォンを取り出した彼女は天気アプリを起動した。雨雲レーダーの予測を確認する。
「十分後には雨雲が通り過ぎるみたい。多分通り雨だと思うよ」
「そっか。じゃあ、十分だけお話しようか」
「うん、いいよ」
こんな綺麗な少年と雨宿りしている上に、お話まで。彼女の心臓は少しばかり速い鼓動を刻んだ。何を話そうか?人生で最もときめく十分間の始まりだった。
【お相手:人修羅 お題:雨宿り】
とんでもない雨の中シンは駆け抜け、住宅街の小さなベンチに落ち着いた。形ばかりの屋根があり、それだけでもずいぶんと違う。助かった。シンはふう、と一息つくと学生カバンからハンカチを取り出した。
酷い目に遭った。まさかこんな唐突に雨が降るなんて。傘のないシンはひとまずの止まり木に腰掛けた。顔や髪を簡単にハンカチで拭いて一息つくと、前方から誰かが走ってくるのが見えた。学生カバンで頭に降る雨を防ぎながら全力疾走するセーラー服。屋根の下にやってきてようやく彼女が誰かわかった。
「あ!シン!」
彼女は屋根の中に入ると、びしょびしょの学生カバンをベンチに置いた。手で濡れたセーラー服を叩くたびにキラキラと雫が散る。
「ああ、お前も雨宿りか」
「うん、そう。今日雨降るとか言ってた?傘持ってないよ」
「オレもだ」
シンは前髪を弄りながら、ハンカチを差し出した。ミコトは髪やスカートを手で絞りつつ、不思議そうな顔をしている。
「もしよかったら使ってくれ。濡れてるけど」
「あ、いいの?ありがとう」
彼女は明るく笑うとハンカチを受け取り、首や手を拭き始めた。突然の雨はただただ陰鬱なばかりと思っていたが、意外とそうでもないらしい。シンは小さく安堵の息をついた。
「ありがとう、シン。ハンカチ持ってるなんてさすがだね」
「お前も持ってた方が何かと便利だぞ」
「今日はたまたま忘れてただけだし!」
彼女が不服そうに言ってくるのも可愛らしい。まさに雨の中咲いた鮮やかな紫陽花。予想外の逢瀬があるのなら、たまには雨もいいかもしれない。
「それにしても、シン」
ミコトはシンの隣に腰掛け、じっと見つめてきた。穴が開きそうなほど一点を、シンの顔を見つめている。その遠慮のない視線にシンは頬が熱くなるのを感じた。
「なんだ」
「濡れて髪の毛がぺたんとなってるの、可愛いね!」
「は?」
完全に予想の埒外のことを言われシンが呆気に取られていると、彼女の手がシンの髪に触れた。普段なら外側にはねている部分だ。今は雨に濡れ重力に垂れ下がっている。
「うんうん、この髪型のシンは普段とだいぶ雰囲気が違うぞ?私は好きだよ!たまには今みたいな髪型にしたらどう?」
「……そうか」
さすがに鏡は持っておらず、今シンがどのような状態なのか確認はできない。ひょっとすると水も滴るいい男になっているのかもしれない。
――髪乾かす前に様子を見てみるか。
シンは髪を撫でながらぼんやりと思った。
【お相手:越水 お題:雨宿り】
ざぁぁー……。
東京には雨が降っていた。朝はそれなりにいい天気だったが時間経過とともに雲が増え、夜にはこの有様である。越水は傘を持ち退勤準備を始めた。
ベテル日本支部の最後の退勤者は概ね越水であり、退勤準備も慣れたものだ。各部屋の施錠を確認し、誰も職員がいないか異常がないかを確認する。この日も流れ作業で行っていたところ、
「あ、越水長官!お疲れ様です!」
研究室に女性が一人残っていた。といっても仕事は終わったようで、カバンを肩にかけ帰る直前だった。
「ご苦労。残っているのは君だけか?」
「はい、私が最後だと思います。長官、毎日遅くまでお疲れ様です」
「この部屋が最後だ。鍵を閉め帰るとしよう」
「わかりました」
二人で施錠し、鍵を所定の位置にしまい日本支部を出ようとした瞬間、彼女がぴたりと立ち止まった。
「どうした?」
「雨、降ってるんですね……」
彼女は露骨に顔を歪めた。その表情と言葉で察するものがあったが、念の為確認する。
「傘を持っていないのか?」
「そうなんですよ……」
はぁー、と彼女は深いため息をつく。そうしてしばらく嫌そうな顔をしていたが、数秒後覚悟を決めた武士のような表情に変わった。
「まぁ、近いんで……全力ダッシュすれば大丈夫ですかね」
「全力ダッシュ?この雨の中走るのか」
彼女はスーツ、それも膝丈のスカートを履いていて、足元はローヒールとはいえヒールのついた靴。雨の中走って無事でいられる服装ではない。越水は息をつき、彼女に提案することにした。
「私の車に乗っていかないか。送っていく」
「え……えっ!?」
悲壮な覚悟を決めた彼女の顔が驚愕に崩れた。彼女は口を半分開いて呆然としている。
「え、えええ、そんな畏れ多い!」
「君が濡れたいというなら止めはしない。君さえよければ家まで送る。家の場所を知られたくないなら君の指定した場所で降ろすこともできるが」
越水としては誰も不幸にならない提案だと思っていたが、彼女は逡巡していた。二人沈黙する間にも雨は降り続き、何なら雨足が強くなっているまである。はぁー、とため息をつく彼女を見つつ、越水は再度口を開いた。
「雨は止みそうにないな」
そう言って隣にいる彼女に目をやると、彼女はぐったりと項垂れていた。きゅっと肩にかけたカバンを握りしめると、彼女は顔を上げた。
「わかりました。では長官のご厚意に与ります。送っていってください」
「了解した」
ようやく建設的な同意をした彼女の頬は、ほんのりと赤く染まっていた。
【お相手:勇 お題:雨宿り】
「わー!めっちゃ雨降ってきたー!!」
いつもどおり家に帰っていた放課後、突然凄まじい雨が降ってきた。さっきまで晴れていたはずなのに空は曇天、たっぷりの水分を蓄えた灰色の空からとんでもない雨が降ってくる。
傘持ってない!タオルも持ってない!やばい!濡れる!!
とにかく何とか雨から逃れようと私は走った。住宅街には屋根のある場所なんて……あったー!!
全力ダッシュで駆け寄ったのは、小さな雨よけがついたベンチだった。あー助かった、屋根があるだけでも全然違う。屋根があっても足元は濡れるけど、頭から雨を被らないだけだいぶマシだ。あー、ほっとした……。
とひと息ついていたら、ベンチに誰か座っているのが見えた。さっきまでダッシュに夢中だったから見えてなかった。
黒い髪の男の子だった。うちの高校の制服とは違う学ランを着ている。全身濡れていて、私と同じようにダッシュでここまで濡れながら来たんだろう。濡れた黒い髪をいじっている彼はとても綺麗だった。黒い髪は濡れてツヤツヤしていて、太い首筋に水が垂れているのが色っぽい。灰色の瞳は物憂げで、全然知らない男の子ながら私はドキリとしていた。
「あ、あの!」
「ん?」
声をかけると、男の子がこちらを向いた。私を上目遣いで見てくる目、なんかすごくドキドキする。私は何とか言葉を続けた。
「ベンチ、座ってもいいですか?」
「あ、ああ、どうぞ」
「ありがとう」
彼と同じベンチに座る。他人同士、拳二個分くらいの距離を開ける。私は学生カバンからハンカチを取り出した。結構濡れてるけど、まあまだ使えるくらいではある。
「あの、ハンカチ使います?」
隣にいる彼に聞いてみると、彼はぽかんとしていた。
「え?使っていいのか?オマエもびしょ濡れじゃん」
「あはは、まあ私は何とかなりますから……」
スカートをぎゅっと絞って水を落としつつ、私は答えた。ハンカチを差し出すと、彼は私とハンカチを二度見していた。
「使っていいなら遠慮なく使うけど……ほんとにいいのか?」
「いいですって」
「じゃあ、遠慮なく使わせてもらうぜ」
彼はハンカチを受け取り、顔や首筋の雨粒を拭き取っていた。綺麗な男の子だな……私はじっと見入ってしまった。
「ああ、ちゃんとこれ、洗って返すから。だから、連絡先教えてくれよ」
「え?」
「連絡先。どこで待ち合わせるかとかわかんないと返せないだろ?」
そう言って彼が差し出したのはスマホの画面。アドレスを読み込む画面が表示されている。
「あ、うん。わかった、教えるね」
雨が降り続ける中、二人で連絡先を交換した。新しく追加されたアドレスには「新田勇」とあった。
「えっと……新田くん?」
「そ、『新田くん』。オマエ、雨の中めっちゃ叫んでたから変なヤツかと思ったけど、意外とフツーだな」
「〜〜!!」
そういえばあまりの雨に一人で叫んでた気がする。思い出してしまって赤面した。あのときは誰かが見てるなんて思いもしなかったんだよ……。
「そ、それは忘れてよ」
「わかったわかった。ハンカチ返すまでには忘れるよ」
ニカっと笑った新田くんは綺麗なのにかっこよくて、胸のドキドキが治まらなかった。
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