サイト1周年記念短編
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#2 5主人公の場合
「ねえ、お揃いの何か、ほしくない?」
ある日の放課後、いつもどおりカフェでヒイラギと二人でゆったり過ごしていると、彼が甘えるように言った。頬杖をつき尋ねる姿は愛おしいの一言で、ミコトは思わず息を呑んだ。
「お揃いの何かって?」
「ほら、僕たち付き合い始めてもうすぐ一年でしょ?お祝いついでにそういうのがほしいなって」
「あ、そっか」
ミコトはスマートフォンを取り出し、カレンダーアプリを起動した。ハートマークをつけた記念日が間近に迫っていた。彼の方から切り出されるとは思っていなかった。
「お揃いのものかぁ……何がいいかな?」
ミコトは天井を見ながら考えてみたがろくなものが思いつかない。キーホルダーのようなものはふさわしくないな、と思うくらいだ。
「もしもミコトに抵抗がなければ、ピンキーリングなんてどうかな?」
「ピンキーリング?」
ヒイラギは右手の小指をぴんと立てた。小指ですら長く美しいヒイラギの手は、約束してほしいと乞い願うようだった。彼が少し首を傾げて懇願する様は可愛らしく、まさに反則の領域。
「ピンキーリングかあ……」
ミコトは互いの小指にお揃いの指輪をしているところを想像した。学園では校則があるから厳しいが、例えばデートのときに互いの小指にお揃いの指輪をしている。なんとも素敵な光景だ。
「うん、いいね!今度一緒に探しに行こっか!」
ミコトが頷くと、ヒイラギはそれはそれは嬉しそうに破顔した。
ミコトはヒイラギと手を繋ぎ、街へ繰り出した。ペアリングを扱っている店は思いの外多く、ああでもないこうでもないと言いながらハシゴした結果、ようやく二人の納得がいくピンキーリングに出会えた。早速二人はピンキーリングを小指にはめ、手を繋いでいた。小指に輝くシンプルな銀の指輪は、存在を主張しすぎないが慎ましやかな二人の絆を感じさせる。
「そうだ、ミコト。今日はちょっといいご飯屋さんを予約してあるんだ。一緒に行こう」
「え?あ、うん」
ヒイラギに手を引かれてやってきたのは、カジュアルながらも落ち着いた雰囲気のイタリアンレストランだった。席についたヒイラギは、組んだ両手をテーブルに置いた。彼の左手小指には買ったばかりのピンキーリング。白銀の輝きが彼の指をより美しく演出していた。
「今日はありがとね、ミコト。僕のわがままに付き合ってくれて」
「ううん、私もお揃いのリングほしかったし、嬉しかったよ」
ミコトも右手を見せた。右手の小指にシンプルなデザインのピンキーリングが光っている。その輝きは華美すぎず、背伸びをしているが学生らしい可愛らしさも残している。
「一年の記念日にここに来たかったんだ。記念日だって言って予約すると、特別なデザートを出してくれるんだよ」
「へー、そうなんだ。ヒイラギくん、色々調べてくれたんだね。ありがとう」
「どういたしまして」
にこりと微笑む彼は黒髪艶やかで美しく、何度見ても見惚れてしまうきらめきを放っていた。
「そうだ、ミコト。ピンキーリングの意味って知ってる?」
「意味?」
「そう。左手と右手で意味が違うんだよ」
「えっ、そうなの?」
ミコトは特に何も考えずに利き手に指輪をはめていた。驚くミコトにヒイラギは穏やかな微笑みを返す。
「幸せは右から入ってきて左に流れていくって言い伝えがあるんだ。だから、左手のピンキーリングは今ある幸せを逃さないって意味だよ。右手のピンキーリングは幸運をより招きやすくするんだって」
「じゃあ私、もっと幸せになっちゃうんだね」
「そうだね」
ヒイラギは笑いながら、左手小指につけたピンキーリングを撫でていた。慈しむ触り方は見ているミコトも少し照れ臭くなってしまう。
「あれ?じゃあヒイラギくんが左手にピンキーリングをつけてるのは……」
ふと疑問を口にすると、ヒイラギは左手小指を見せながら笑った。
「ミコトと付き合えてとても幸せだからね。逃したくないって思うのは当然じゃない?」
「〜〜!!」
公衆の面前とまではいかないが、他に客もいる中でさらりと言ってのけるヒイラギには赤面を返すしかなかった。ミコトの顔に火が灯り、赤々と染まる。ヒイラギはその様子を見てくすくすと笑っていた。
「ふふ、顔真っ赤。可愛いね」
彼の言葉一つ一つに鼓動を速めながらも食事は進み、ついにデザートがやってきた。小さな丸いショートケーキに「Happy Anniversary」と書かれた薄いチョコレートの板が飾り付けられている。可愛らしいふわふわとしたお菓子にミコトは顔を輝かせた。
「わあ、すごい。可愛いね!」
「うん、思ってたより可愛いね。写真、撮ってもらおっか」
店員にスマートフォンを渡し、綺麗なケーキと二人が写真に収まる。二人の小指のきらめきは写真の中でも目立っていた。
美味しいご飯を食べた後は二人の時間。ミコトはヒイラギとともに学生寮の自室に戻った。部屋に入った瞬間、ヒイラギに腕を引かれ強く抱きしめられていた。
「ミコト」
耳元で甘く囁かれ、耳たぶや首筋に甘く舌が這う。二人きりの室内で響く彼の声は低く、ミコトの首筋にぞくりと甘い電流が走った。
「ヒイラギくんっ……くすぐったい……」
「ふふ、可愛い」
反射的に身を捩るが、彼の舌が肌に張り付き吐息を吹きかけられる。ただ単に少し挨拶されただけなのに、ミコトの体は艶やかな熱を持ち始めていた。
「ヒイラギくんっ、ちょ、ちょっと、ストップ!」
「ん?」
彼の気の向くままに耳たぶや首筋を甘噛みされていたが、今日は試したいことがあった。ヒイラギを優しく押し返し、不思議そうな顔をする彼を机に連れていく。
「じゃーん!ねえヒイラギくん、せっかくだからマニキュア塗ってみようよ!」
ピンキーリングを買うと言われたときから、マニキュアを塗ってみたいと思っていた。この日のためにコツコツ買い集めたマニキュアは七色。虹の配色に近い鮮やかな小瓶が並んだ机を見て、ヒイラギはぽかんとしていた。
「え?マニキュア?僕も?」
「そう!ヒイラギくんって手も爪も綺麗だし、きっと映えるよ〜!何色がいいかな?」
試しに緑や青を手に取り、彼の爪の横に置いてみる。彼は手と小瓶を交互に見つめ、難しい顔をしていた。
「僕は紫が好きかな……ミコトはどうするの?」
「ヒイラギくんのおすすめしてくれた色を塗ろうかなと思って!」
そう言うとヒイラギは真っ先にミコトの手を取り、マニキュア片手にうんうん唸り始めた。自分の色を決めるときよりよほど真剣な眼差しだった。これから一世一代の大仕事をこなすような真面目な視線にミコトの方が戸惑ってしまう。
「ミコトは何色でも可愛いだろうけど……僕はオレンジを見たいかな」
「わかった!じゃあ塗ってみよっか!」
「僕のもミコトが塗ってくれるの?」
「うん!ガタガタになっちゃったらごめんね!」
正直な意気込みを述べたところ、彼はくすりと笑みを漏らした。
「もしうまくいかなくてもそれが味になるよ、きっと」
「そうだといいな〜……じゃあヒイラギくん、ここに座って」
ヒイラギを椅子に座らせ、ミコトは彼の手を取った。彼の指定した紫のマニキュアを丁寧に塗っていく。ラメのないシンプルな暗めの紫色が、彼の爪を彩っていく。嗅ぎ慣れないケミカルな香りが狭い部屋に満ちていく。
――ヒイラギくんの手、大きくて指も長くて、本当に綺麗だな。
まじまじと見つめて手に触れると、改めてヒイラギの男性らしさを感じる。ミコトは妙に緊張していた。普段この手と手を繋ぎ、抱きしめられ触れられていると再認識すると照れてしまう。雑念が入るとマニキュアがヨレる、ミコトは時折深呼吸を挟みながら慎重に筆を動かしていた。その様子をヒイラギは穏やかな瞳で見つめている。
「ミコト、塗るの上手だね。すごく綺麗だよ」
「そうかな、ありがとう。乾くまで擦ったりしちゃダメだよ」
「はーい」
ようやく塗り終わり、ミコトはひと息ついた。変な緊張感を味わった体は脱力し、口からは深いため息が漏れた。気を取り直し、彼の希望したオレンジのマニキュアを塗り始める。こちらもラメのないマットな質感のもので、新鮮な果実を思わせる鮮烈な色合いだった。夏の海に似合いそう、と思いながらじっくりマニキュアを塗っていく。ヒイラギをちらりと見ると、彼は紫色に染まる指先を興味深そうに眺めていた。
「ミコトがマニキュア塗ってるところ、初めて見たな。今までのデートでもマニキュアってしてなかったよね?」
「うん。ピンキーリングを買うって言われて、そういえばって思って。平日にはできないし、たまにはいいよね」
彼に見つめられながらの作業が終わり、二人は机に両手を置いた。男性らしいヒイラギの指先は落ち着いた紫に、華奢な女性らしいミコトの指先は明るいオレンジに染まっている。それぞれの小指には買ったばかりのピンキーリングが光り、同じものを身につける絆を感じさせる。
「二人ともマニキュアしてるのっていいね。ほら、ミコト。手、握って」
二人は普段どおり掌を向かい合わせ指を絡めた。紫とオレンジの指先が愛し合い絡み合う。今までにない艶やかな色味に二人は笑った。
「なんだかいいね。これからデートのたびにミコトにマニキュア塗ってもらおうかな?」
「あはは、私ヒイラギくんの専属ネイリストになっちゃう?」
顔を見合わせて笑った二人は、自然と唇を触れ合わせた。唇の温度としっとりした感触を分け合い、互いに強く手を握る。
「んっ……ふ……」
ヒイラギの体がさらに密着し、濡れた舌が挨拶をしにやって来る。受け入れたミコトの口内は熱く、二人の唾液が微かな音を鳴らした。繋いだ両手もさらに相手を求め、ぎゅうと握り合う。
「んん……」
唇が離れ、麗しいヒイラギの顔がすぐ近くにあった。彼は左手でミコトの耳に触れた。視界の端にピンキーリングの輝きと紫の爪が映り、鮮烈な軌跡を残した。
「なんか……マニキュアしたヒイラギくん、いつもよりえっちな感じがする」
「えっちな感じ?なに、それ」
「わ、わかんないけど……そんな感じがするの」
説明になっていない説明をすると、ヒイラギは苦笑いを零した。ふふ、と笑みながら彼はミコトの手を引きベッドに押し倒した。左手で頬や首筋に触れられ、ミコトの心臓が高鳴った。
「付き合って一年だし、そろそろ大人の階段を上っちゃってもいいんじゃない?」
ヒイラギの吐息混じりの声が耳元で響いた。彼の蠱惑的な声が耳の奥へ蜜のように流し込まれていく。
「こ、高校生のうちは駄目だよ、ヒイラギくんっ」
潤んだ瞳で見下ろす彼に必死で訴えた。彼は一瞬きょとんとした後、くすくすと笑った。
「大丈夫、冗談だよ。ミコトがそういう考えなのはちゃんとわかってるよ。だから」
彼の両手がミコトの両手を捉えた。大きな掌でベッドに縫い付けられ、指を絡め取られる。
「学園を卒業したら、君をちょうだい」
とびっきりの艶やかな声で言われ、ミコトは全身ぞくぞくと震えた。彼に存在丸ごと抱かれるときも、ピンキーリングとマニキュアの彩りを見ることになるのだろうと悟った。
「ねえ、お揃いの何か、ほしくない?」
ある日の放課後、いつもどおりカフェでヒイラギと二人でゆったり過ごしていると、彼が甘えるように言った。頬杖をつき尋ねる姿は愛おしいの一言で、ミコトは思わず息を呑んだ。
「お揃いの何かって?」
「ほら、僕たち付き合い始めてもうすぐ一年でしょ?お祝いついでにそういうのがほしいなって」
「あ、そっか」
ミコトはスマートフォンを取り出し、カレンダーアプリを起動した。ハートマークをつけた記念日が間近に迫っていた。彼の方から切り出されるとは思っていなかった。
「お揃いのものかぁ……何がいいかな?」
ミコトは天井を見ながら考えてみたがろくなものが思いつかない。キーホルダーのようなものはふさわしくないな、と思うくらいだ。
「もしもミコトに抵抗がなければ、ピンキーリングなんてどうかな?」
「ピンキーリング?」
ヒイラギは右手の小指をぴんと立てた。小指ですら長く美しいヒイラギの手は、約束してほしいと乞い願うようだった。彼が少し首を傾げて懇願する様は可愛らしく、まさに反則の領域。
「ピンキーリングかあ……」
ミコトは互いの小指にお揃いの指輪をしているところを想像した。学園では校則があるから厳しいが、例えばデートのときに互いの小指にお揃いの指輪をしている。なんとも素敵な光景だ。
「うん、いいね!今度一緒に探しに行こっか!」
ミコトが頷くと、ヒイラギはそれはそれは嬉しそうに破顔した。
ミコトはヒイラギと手を繋ぎ、街へ繰り出した。ペアリングを扱っている店は思いの外多く、ああでもないこうでもないと言いながらハシゴした結果、ようやく二人の納得がいくピンキーリングに出会えた。早速二人はピンキーリングを小指にはめ、手を繋いでいた。小指に輝くシンプルな銀の指輪は、存在を主張しすぎないが慎ましやかな二人の絆を感じさせる。
「そうだ、ミコト。今日はちょっといいご飯屋さんを予約してあるんだ。一緒に行こう」
「え?あ、うん」
ヒイラギに手を引かれてやってきたのは、カジュアルながらも落ち着いた雰囲気のイタリアンレストランだった。席についたヒイラギは、組んだ両手をテーブルに置いた。彼の左手小指には買ったばかりのピンキーリング。白銀の輝きが彼の指をより美しく演出していた。
「今日はありがとね、ミコト。僕のわがままに付き合ってくれて」
「ううん、私もお揃いのリングほしかったし、嬉しかったよ」
ミコトも右手を見せた。右手の小指にシンプルなデザインのピンキーリングが光っている。その輝きは華美すぎず、背伸びをしているが学生らしい可愛らしさも残している。
「一年の記念日にここに来たかったんだ。記念日だって言って予約すると、特別なデザートを出してくれるんだよ」
「へー、そうなんだ。ヒイラギくん、色々調べてくれたんだね。ありがとう」
「どういたしまして」
にこりと微笑む彼は黒髪艶やかで美しく、何度見ても見惚れてしまうきらめきを放っていた。
「そうだ、ミコト。ピンキーリングの意味って知ってる?」
「意味?」
「そう。左手と右手で意味が違うんだよ」
「えっ、そうなの?」
ミコトは特に何も考えずに利き手に指輪をはめていた。驚くミコトにヒイラギは穏やかな微笑みを返す。
「幸せは右から入ってきて左に流れていくって言い伝えがあるんだ。だから、左手のピンキーリングは今ある幸せを逃さないって意味だよ。右手のピンキーリングは幸運をより招きやすくするんだって」
「じゃあ私、もっと幸せになっちゃうんだね」
「そうだね」
ヒイラギは笑いながら、左手小指につけたピンキーリングを撫でていた。慈しむ触り方は見ているミコトも少し照れ臭くなってしまう。
「あれ?じゃあヒイラギくんが左手にピンキーリングをつけてるのは……」
ふと疑問を口にすると、ヒイラギは左手小指を見せながら笑った。
「ミコトと付き合えてとても幸せだからね。逃したくないって思うのは当然じゃない?」
「〜〜!!」
公衆の面前とまではいかないが、他に客もいる中でさらりと言ってのけるヒイラギには赤面を返すしかなかった。ミコトの顔に火が灯り、赤々と染まる。ヒイラギはその様子を見てくすくすと笑っていた。
「ふふ、顔真っ赤。可愛いね」
彼の言葉一つ一つに鼓動を速めながらも食事は進み、ついにデザートがやってきた。小さな丸いショートケーキに「Happy Anniversary」と書かれた薄いチョコレートの板が飾り付けられている。可愛らしいふわふわとしたお菓子にミコトは顔を輝かせた。
「わあ、すごい。可愛いね!」
「うん、思ってたより可愛いね。写真、撮ってもらおっか」
店員にスマートフォンを渡し、綺麗なケーキと二人が写真に収まる。二人の小指のきらめきは写真の中でも目立っていた。
美味しいご飯を食べた後は二人の時間。ミコトはヒイラギとともに学生寮の自室に戻った。部屋に入った瞬間、ヒイラギに腕を引かれ強く抱きしめられていた。
「ミコト」
耳元で甘く囁かれ、耳たぶや首筋に甘く舌が這う。二人きりの室内で響く彼の声は低く、ミコトの首筋にぞくりと甘い電流が走った。
「ヒイラギくんっ……くすぐったい……」
「ふふ、可愛い」
反射的に身を捩るが、彼の舌が肌に張り付き吐息を吹きかけられる。ただ単に少し挨拶されただけなのに、ミコトの体は艶やかな熱を持ち始めていた。
「ヒイラギくんっ、ちょ、ちょっと、ストップ!」
「ん?」
彼の気の向くままに耳たぶや首筋を甘噛みされていたが、今日は試したいことがあった。ヒイラギを優しく押し返し、不思議そうな顔をする彼を机に連れていく。
「じゃーん!ねえヒイラギくん、せっかくだからマニキュア塗ってみようよ!」
ピンキーリングを買うと言われたときから、マニキュアを塗ってみたいと思っていた。この日のためにコツコツ買い集めたマニキュアは七色。虹の配色に近い鮮やかな小瓶が並んだ机を見て、ヒイラギはぽかんとしていた。
「え?マニキュア?僕も?」
「そう!ヒイラギくんって手も爪も綺麗だし、きっと映えるよ〜!何色がいいかな?」
試しに緑や青を手に取り、彼の爪の横に置いてみる。彼は手と小瓶を交互に見つめ、難しい顔をしていた。
「僕は紫が好きかな……ミコトはどうするの?」
「ヒイラギくんのおすすめしてくれた色を塗ろうかなと思って!」
そう言うとヒイラギは真っ先にミコトの手を取り、マニキュア片手にうんうん唸り始めた。自分の色を決めるときよりよほど真剣な眼差しだった。これから一世一代の大仕事をこなすような真面目な視線にミコトの方が戸惑ってしまう。
「ミコトは何色でも可愛いだろうけど……僕はオレンジを見たいかな」
「わかった!じゃあ塗ってみよっか!」
「僕のもミコトが塗ってくれるの?」
「うん!ガタガタになっちゃったらごめんね!」
正直な意気込みを述べたところ、彼はくすりと笑みを漏らした。
「もしうまくいかなくてもそれが味になるよ、きっと」
「そうだといいな〜……じゃあヒイラギくん、ここに座って」
ヒイラギを椅子に座らせ、ミコトは彼の手を取った。彼の指定した紫のマニキュアを丁寧に塗っていく。ラメのないシンプルな暗めの紫色が、彼の爪を彩っていく。嗅ぎ慣れないケミカルな香りが狭い部屋に満ちていく。
――ヒイラギくんの手、大きくて指も長くて、本当に綺麗だな。
まじまじと見つめて手に触れると、改めてヒイラギの男性らしさを感じる。ミコトは妙に緊張していた。普段この手と手を繋ぎ、抱きしめられ触れられていると再認識すると照れてしまう。雑念が入るとマニキュアがヨレる、ミコトは時折深呼吸を挟みながら慎重に筆を動かしていた。その様子をヒイラギは穏やかな瞳で見つめている。
「ミコト、塗るの上手だね。すごく綺麗だよ」
「そうかな、ありがとう。乾くまで擦ったりしちゃダメだよ」
「はーい」
ようやく塗り終わり、ミコトはひと息ついた。変な緊張感を味わった体は脱力し、口からは深いため息が漏れた。気を取り直し、彼の希望したオレンジのマニキュアを塗り始める。こちらもラメのないマットな質感のもので、新鮮な果実を思わせる鮮烈な色合いだった。夏の海に似合いそう、と思いながらじっくりマニキュアを塗っていく。ヒイラギをちらりと見ると、彼は紫色に染まる指先を興味深そうに眺めていた。
「ミコトがマニキュア塗ってるところ、初めて見たな。今までのデートでもマニキュアってしてなかったよね?」
「うん。ピンキーリングを買うって言われて、そういえばって思って。平日にはできないし、たまにはいいよね」
彼に見つめられながらの作業が終わり、二人は机に両手を置いた。男性らしいヒイラギの指先は落ち着いた紫に、華奢な女性らしいミコトの指先は明るいオレンジに染まっている。それぞれの小指には買ったばかりのピンキーリングが光り、同じものを身につける絆を感じさせる。
「二人ともマニキュアしてるのっていいね。ほら、ミコト。手、握って」
二人は普段どおり掌を向かい合わせ指を絡めた。紫とオレンジの指先が愛し合い絡み合う。今までにない艶やかな色味に二人は笑った。
「なんだかいいね。これからデートのたびにミコトにマニキュア塗ってもらおうかな?」
「あはは、私ヒイラギくんの専属ネイリストになっちゃう?」
顔を見合わせて笑った二人は、自然と唇を触れ合わせた。唇の温度としっとりした感触を分け合い、互いに強く手を握る。
「んっ……ふ……」
ヒイラギの体がさらに密着し、濡れた舌が挨拶をしにやって来る。受け入れたミコトの口内は熱く、二人の唾液が微かな音を鳴らした。繋いだ両手もさらに相手を求め、ぎゅうと握り合う。
「んん……」
唇が離れ、麗しいヒイラギの顔がすぐ近くにあった。彼は左手でミコトの耳に触れた。視界の端にピンキーリングの輝きと紫の爪が映り、鮮烈な軌跡を残した。
「なんか……マニキュアしたヒイラギくん、いつもよりえっちな感じがする」
「えっちな感じ?なに、それ」
「わ、わかんないけど……そんな感じがするの」
説明になっていない説明をすると、ヒイラギは苦笑いを零した。ふふ、と笑みながら彼はミコトの手を引きベッドに押し倒した。左手で頬や首筋に触れられ、ミコトの心臓が高鳴った。
「付き合って一年だし、そろそろ大人の階段を上っちゃってもいいんじゃない?」
ヒイラギの吐息混じりの声が耳元で響いた。彼の蠱惑的な声が耳の奥へ蜜のように流し込まれていく。
「こ、高校生のうちは駄目だよ、ヒイラギくんっ」
潤んだ瞳で見下ろす彼に必死で訴えた。彼は一瞬きょとんとした後、くすくすと笑った。
「大丈夫、冗談だよ。ミコトがそういう考えなのはちゃんとわかってるよ。だから」
彼の両手がミコトの両手を捉えた。大きな掌でベッドに縫い付けられ、指を絡め取られる。
「学園を卒業したら、君をちょうだい」
とびっきりの艶やかな声で言われ、ミコトは全身ぞくぞくと震えた。彼に存在丸ごと抱かれるときも、ピンキーリングとマニキュアの彩りを見ることになるのだろうと悟った。
