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近いです、お師匠様!
その銃さばきは人を超え、修羅の如し。
などと噂され、すっかり「人修羅」という厳めしい称号がついたシンは、ハイ・ラガードでは周知の人だった。ガンナーを目指す者なら一度は彼の銃さばきを見るべし、などと言われてしまい、当の本人は嫌気がさしていた。天高き城を目指して一人迷宮を探索する。シンが望む孤独で静かな日々は、シンが武勲を立てるほどに遠ざかっていった。
「シンさん!シンさーん!」
この日も迷宮帰りのシンはハイ・ラガードで呼び止められた。嫌な予感とともに振り返ると、キラキラした瞳の少女に見つめられていた。少女はコートを着込み、その腰には銃がぶら下がっている。
「初めまして!私、ミコトっていいます!噂の『人修羅』の弟子になりたいんです!」
シンは頭を抱え、はああ、と深い深いため息をついた。早く棘魚亭で食事にありつきたいのに。
「オレはそういうのはやってないんだ。よそを当たってくれ」
最低限の答えを言い放ち、シンは踵を返した。腹が減った、とにかく酒場に急ごう。足早に去っていくシンを追いかける少女の声が聞こえたが、シンは徹底的に無視した。
新米ガンナーのミコトは、「人修羅」に憧れて銃を手に取った。
人修羅を見かけたのは偶然だった。冒険者の親と採取に出かけた際、通りがかった彼が魔物を倒してくれた。そのときに見た彼の軽やかな身のこなし、銃を取り出し発砲するまでの流れるような動作にすっかり見惚れ、ミコトは彼にもう一度会いたい……いや、彼の弟子になりたくてたまらなかった。渋る親に銃をねだり、根負けさせたのもいい思い出だ。
銃を手に入れ冒険者となったミコトだが、彼女の頭には人修羅――シンへの憧憬でいっぱいだった。だから何度も彼に会いにいった。たとえ何度袖にされても、この思い叶うまで諦めるつもりはなかった。
だから今日もミコトは、迷宮帰りの彼を鋼の棘魚亭で待ち構えていた。マスターにも顔を覚えられ、
「おっ、嬢ちゃん、今日も人修羅待ちか?」
「そうです!弟子にしてもらえるまで頑張ります!」
おうおう青春だねえ、などと言われながら見守られるのもいつものことだった。彼に話しかけにいくのが何度目なのか、ミコトですらわからなかった。十五回目くらいから数えるのをやめた。
からん、とカウベルが鳴り、棘魚亭の扉が開いた。
「あ!」
「……またお前か」
ミコトが視線を送った先にはシンがいた。彼はミコトを見るなり嫌そうに眉を顰めたが、いつもどおり諦めた顔でカウンターに座った。
「弟子の話ならお断りだ」
「そう言わないでくださいよ!」
シンの隣に座り、ミコトはにこにこと笑顔を振りまいた。シンは面倒だ、と言わんばかりの険しい顔だった。
「どうしてオレにこだわるんだ。ガンナーならライシュッツとか他にもいるだろう」
「私はシンさんがいいんです!」
「はあ……」
シンは頭を抱え、ジョッキの飲み物を一気に口に含んだ。金色の瞳は呆れたように遠くを見つめている。
「私、以前シンさんに助けてもらったんです!そのときシンさんの戦ってる姿を見て、かっこいいなって思って……それからずっと憧れてるんです!」
「オレが助けた?お前を?」
「はい!迷宮で採取してるときに助けてもらいました!」
「さあ……覚えてないな」
ミコトが見つめたシンは、また遠い目をしていた。食事をしながら器用にため息をついている。変わり映えのしない会話をしているところに、マスターがニヤニヤと楽しそうな笑みを浮かべながら近寄ってきた。
「おいおい、こんなちみっこい子に意地悪かぁ?何度もお前目当てに来てくれてんじゃねぇか、一回くらい話を聞いてやってもバチはあたんねぇだろ?」
「そうですよ!お願いします!このとおりです!」
まさに渡りに船、ミコトは丁重に頭を下げた。シンはマスターをじとりと睨み、深いため息をついた。
「……わかった。じゃあ、賭けでもやるか」
食事を終えたシンについて来い、と言われ大人しくついていくと、ハイ・ラガードの外れにあるシンの家に辿り着いた。一人暮らしと思しき小さな家の隣には、銃の練習台と思われる的がいくつも置いてあった。いずれも銃弾の当たった跡が残り、塗料がまばらに剥げている。
「ここに立って十発撃ってみろ。そのうち一発でもあの的に当たったら、お前を弟子にしてやる」
「え!?」
予想外の言葉だった。夕暮れに染まるハイ・ラガード、十数メートル先の的は橙に色付き、長い影を伸ばしている。
「ほら、やってみろ。たとえ初心者でも、筋がよければここから一発くらいは当てられるはずだ。オレに見せてみろ」
腕を組んだ彼にじっと見つめられていた。ミコトは銃を抜いた。もちろん多少の練習をしたことはあるが実戦経験はなく、素人同然だ。しかしこれまで梃子でも動かなかった彼から与えられた、唯一のチャンスだ。逃すわけにはいかない。ミコトは緊張を吐息に乗せ吐き出すと、銃を構えた。
乾いた銃声が十発、響き渡る。一発の鉛玉が硬い音を響かせ、的の端に突き刺さった。
「……お前、筋がよさそうだ。約束だ、お前は今日からオレの弟子だ。色々教えてやる。また明日来い。いいな」
朝目を覚ましたミコトは、寝ぼけながらも昨日シンから言われた言葉をはっきり思い出していた。まさか自分が憧れてやまない人修羅の弟子になるなんて。ミコトはうきうきと弾む思いをそのままに、シンの家に向かった。
「ああ、来たか。……まったく、弟子ができるなんて思いもしなかったけどな」
「今日からよろしくお願いします!」
玄関でシンに出迎えられ、ミコトは直角に腰を曲げて深々と礼をした。シンはそんなにしなくていい、と手を振りながら言ってくれた。
再び訪れた、簡易な射撃場。様々な形、大きさの的がずらりと並んでいた。
「じゃあ、まずは構えからだ。昨日よくそんな構えで当たったもんだ」
「え?そ、そうですか?」
「ああ。何事も基礎を疎かにしてはいけないからな。とりあえず構えて立ってみろ」
ミコトは銃を持ち、的に向けて構えた。シンはそれを様々な角度から眺め、ミコトの隣に立った。
「あれこれ言うより、やった方がいいだろう。オレの構えと見比べて、オレの構えになるようにしてみろ」
ミコトの隣で銃を構えるシンの姿はまさに威風堂々、王者の佇まいだった。ミコトに銃を向けているわけでもないのに、眉間を撃ち抜かれそうな緊迫感が漂っている。ミコトと比べると何かが違うのはわかる。が、どこがどう違うかと問われると説明できない。シンの構えを見ながら、ミコトは試行錯誤してみた。だがどうにも同一になっているようには見えない。
「オレの構えになってないことはわかるか」
「それはわかるんですけど、どう直せばいいかわからなくて」
正直に伝えると、ミコトの背後にシンが立った。シンはミコトの背中に寄り添い、ミコトの構える手に手を添えた。
「お前の構えは右に寄りすぎだ。もう少し左へ……そう。腰が少し曲がっている。真っ直ぐ的を見据えろ」
銃を持つミコトの手をシンの手が覆い、後ろから抱きしめられているに等しい体勢で細かな指導がされる。シンの声がすぐ耳元で聞こえ、ミコトの顔はみるみるうちに赤く染まっていく。男性にこんなに密着されるなど初めてで、困惑を通り越して緊張する。
「このまま撃ってみろ。当たるはずだ」
「は、はい」
引き金を引く。乾いた銃声が響き、銃弾が的の中心よりやや右斜め下に突き刺さった。昨日ミコトが当てたときよりもはるかに中心に近く、指導の効果を感じる。感じるが、ミコトの心はシンの体温にかき乱されるばかりだった。
「当たったな。中心から逸れたのは手振れのせいだ。とにかく、まずはこの構えを覚えるんだ。いいな。……どうした?」
シンの不思議そうな声が耳元で響いた。相変わらず背後から抱擁を受け銃を持つ手を支えられている体勢なのだ、ミコトは俯き加減に赤面していた。
「あ、あの、近い、です」
「え?……あ」
ミコトに言われてようやくシンも気付いたらしく、ぱっと彼の手と体が離れた。シンも顔をうっすら赤らめており、ミコトから目を逸らしていた。
「悪い、嫌だっただろう」
「あ、そんなことない、です、けど」
ミコトが首を横に振ると、シンは小さく咳払いをした。ややばつの悪そうな顔をしながらも、
「とにかく、まずは構えからだ。明日も来い。……もうちょっと離れて教えるから」
と言ってくれた。
「はい!よろしくお願いします、師匠!」
思わず口をついて出た言葉に、
「……師匠?」
シンは不思議そうな顔をしていた。
その銃さばきは人を超え、修羅の如し。
などと噂され、すっかり「人修羅」という厳めしい称号がついたシンは、ハイ・ラガードでは周知の人だった。ガンナーを目指す者なら一度は彼の銃さばきを見るべし、などと言われてしまい、当の本人は嫌気がさしていた。天高き城を目指して一人迷宮を探索する。シンが望む孤独で静かな日々は、シンが武勲を立てるほどに遠ざかっていった。
「シンさん!シンさーん!」
この日も迷宮帰りのシンはハイ・ラガードで呼び止められた。嫌な予感とともに振り返ると、キラキラした瞳の少女に見つめられていた。少女はコートを着込み、その腰には銃がぶら下がっている。
「初めまして!私、ミコトっていいます!噂の『人修羅』の弟子になりたいんです!」
シンは頭を抱え、はああ、と深い深いため息をついた。早く棘魚亭で食事にありつきたいのに。
「オレはそういうのはやってないんだ。よそを当たってくれ」
最低限の答えを言い放ち、シンは踵を返した。腹が減った、とにかく酒場に急ごう。足早に去っていくシンを追いかける少女の声が聞こえたが、シンは徹底的に無視した。
新米ガンナーのミコトは、「人修羅」に憧れて銃を手に取った。
人修羅を見かけたのは偶然だった。冒険者の親と採取に出かけた際、通りがかった彼が魔物を倒してくれた。そのときに見た彼の軽やかな身のこなし、銃を取り出し発砲するまでの流れるような動作にすっかり見惚れ、ミコトは彼にもう一度会いたい……いや、彼の弟子になりたくてたまらなかった。渋る親に銃をねだり、根負けさせたのもいい思い出だ。
銃を手に入れ冒険者となったミコトだが、彼女の頭には人修羅――シンへの憧憬でいっぱいだった。だから何度も彼に会いにいった。たとえ何度袖にされても、この思い叶うまで諦めるつもりはなかった。
だから今日もミコトは、迷宮帰りの彼を鋼の棘魚亭で待ち構えていた。マスターにも顔を覚えられ、
「おっ、嬢ちゃん、今日も人修羅待ちか?」
「そうです!弟子にしてもらえるまで頑張ります!」
おうおう青春だねえ、などと言われながら見守られるのもいつものことだった。彼に話しかけにいくのが何度目なのか、ミコトですらわからなかった。十五回目くらいから数えるのをやめた。
からん、とカウベルが鳴り、棘魚亭の扉が開いた。
「あ!」
「……またお前か」
ミコトが視線を送った先にはシンがいた。彼はミコトを見るなり嫌そうに眉を顰めたが、いつもどおり諦めた顔でカウンターに座った。
「弟子の話ならお断りだ」
「そう言わないでくださいよ!」
シンの隣に座り、ミコトはにこにこと笑顔を振りまいた。シンは面倒だ、と言わんばかりの険しい顔だった。
「どうしてオレにこだわるんだ。ガンナーならライシュッツとか他にもいるだろう」
「私はシンさんがいいんです!」
「はあ……」
シンは頭を抱え、ジョッキの飲み物を一気に口に含んだ。金色の瞳は呆れたように遠くを見つめている。
「私、以前シンさんに助けてもらったんです!そのときシンさんの戦ってる姿を見て、かっこいいなって思って……それからずっと憧れてるんです!」
「オレが助けた?お前を?」
「はい!迷宮で採取してるときに助けてもらいました!」
「さあ……覚えてないな」
ミコトが見つめたシンは、また遠い目をしていた。食事をしながら器用にため息をついている。変わり映えのしない会話をしているところに、マスターがニヤニヤと楽しそうな笑みを浮かべながら近寄ってきた。
「おいおい、こんなちみっこい子に意地悪かぁ?何度もお前目当てに来てくれてんじゃねぇか、一回くらい話を聞いてやってもバチはあたんねぇだろ?」
「そうですよ!お願いします!このとおりです!」
まさに渡りに船、ミコトは丁重に頭を下げた。シンはマスターをじとりと睨み、深いため息をついた。
「……わかった。じゃあ、賭けでもやるか」
食事を終えたシンについて来い、と言われ大人しくついていくと、ハイ・ラガードの外れにあるシンの家に辿り着いた。一人暮らしと思しき小さな家の隣には、銃の練習台と思われる的がいくつも置いてあった。いずれも銃弾の当たった跡が残り、塗料がまばらに剥げている。
「ここに立って十発撃ってみろ。そのうち一発でもあの的に当たったら、お前を弟子にしてやる」
「え!?」
予想外の言葉だった。夕暮れに染まるハイ・ラガード、十数メートル先の的は橙に色付き、長い影を伸ばしている。
「ほら、やってみろ。たとえ初心者でも、筋がよければここから一発くらいは当てられるはずだ。オレに見せてみろ」
腕を組んだ彼にじっと見つめられていた。ミコトは銃を抜いた。もちろん多少の練習をしたことはあるが実戦経験はなく、素人同然だ。しかしこれまで梃子でも動かなかった彼から与えられた、唯一のチャンスだ。逃すわけにはいかない。ミコトは緊張を吐息に乗せ吐き出すと、銃を構えた。
乾いた銃声が十発、響き渡る。一発の鉛玉が硬い音を響かせ、的の端に突き刺さった。
「……お前、筋がよさそうだ。約束だ、お前は今日からオレの弟子だ。色々教えてやる。また明日来い。いいな」
朝目を覚ましたミコトは、寝ぼけながらも昨日シンから言われた言葉をはっきり思い出していた。まさか自分が憧れてやまない人修羅の弟子になるなんて。ミコトはうきうきと弾む思いをそのままに、シンの家に向かった。
「ああ、来たか。……まったく、弟子ができるなんて思いもしなかったけどな」
「今日からよろしくお願いします!」
玄関でシンに出迎えられ、ミコトは直角に腰を曲げて深々と礼をした。シンはそんなにしなくていい、と手を振りながら言ってくれた。
再び訪れた、簡易な射撃場。様々な形、大きさの的がずらりと並んでいた。
「じゃあ、まずは構えからだ。昨日よくそんな構えで当たったもんだ」
「え?そ、そうですか?」
「ああ。何事も基礎を疎かにしてはいけないからな。とりあえず構えて立ってみろ」
ミコトは銃を持ち、的に向けて構えた。シンはそれを様々な角度から眺め、ミコトの隣に立った。
「あれこれ言うより、やった方がいいだろう。オレの構えと見比べて、オレの構えになるようにしてみろ」
ミコトの隣で銃を構えるシンの姿はまさに威風堂々、王者の佇まいだった。ミコトに銃を向けているわけでもないのに、眉間を撃ち抜かれそうな緊迫感が漂っている。ミコトと比べると何かが違うのはわかる。が、どこがどう違うかと問われると説明できない。シンの構えを見ながら、ミコトは試行錯誤してみた。だがどうにも同一になっているようには見えない。
「オレの構えになってないことはわかるか」
「それはわかるんですけど、どう直せばいいかわからなくて」
正直に伝えると、ミコトの背後にシンが立った。シンはミコトの背中に寄り添い、ミコトの構える手に手を添えた。
「お前の構えは右に寄りすぎだ。もう少し左へ……そう。腰が少し曲がっている。真っ直ぐ的を見据えろ」
銃を持つミコトの手をシンの手が覆い、後ろから抱きしめられているに等しい体勢で細かな指導がされる。シンの声がすぐ耳元で聞こえ、ミコトの顔はみるみるうちに赤く染まっていく。男性にこんなに密着されるなど初めてで、困惑を通り越して緊張する。
「このまま撃ってみろ。当たるはずだ」
「は、はい」
引き金を引く。乾いた銃声が響き、銃弾が的の中心よりやや右斜め下に突き刺さった。昨日ミコトが当てたときよりもはるかに中心に近く、指導の効果を感じる。感じるが、ミコトの心はシンの体温にかき乱されるばかりだった。
「当たったな。中心から逸れたのは手振れのせいだ。とにかく、まずはこの構えを覚えるんだ。いいな。……どうした?」
シンの不思議そうな声が耳元で響いた。相変わらず背後から抱擁を受け銃を持つ手を支えられている体勢なのだ、ミコトは俯き加減に赤面していた。
「あ、あの、近い、です」
「え?……あ」
ミコトに言われてようやくシンも気付いたらしく、ぱっと彼の手と体が離れた。シンも顔をうっすら赤らめており、ミコトから目を逸らしていた。
「悪い、嫌だっただろう」
「あ、そんなことない、です、けど」
ミコトが首を横に振ると、シンは小さく咳払いをした。ややばつの悪そうな顔をしながらも、
「とにかく、まずは構えからだ。明日も来い。……もうちょっと離れて教えるから」
と言ってくれた。
「はい!よろしくお願いします、師匠!」
思わず口をついて出た言葉に、
「……師匠?」
シンは不思議そうな顔をしていた。
