修羅と雪
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#2 別離と再会
ナイトメア・システムにより壊滅したマントラ軍本拠地。ゴズテンノウが滅び、かつての級友、橘千晶が創世の道を歩き始めたことを知った今、傍らにいるミユキは不安そうな顔をしていた。シンの耳にもゴズテンノウの最期の慟哭が耳にこびりついている。半分魔に染まったシンですら恐れ慄いたのだ、純粋な人間であるミユキの衝撃はいかほどのものか。高尾祐子の手がかりを求めてカブキチョウに急ぐ前に、シンは立ち止まった。暗く静かなマントラ軍本拠地、炎がぱちぱちと虚しい火の粉を散らしている。
「間薙くん、どうしたの?カブキチョウに行くんだよね」
「お前が心配だ、月島」
「え……私?」
シンの半歩後ろで立ち止まったミユキの顔が、篝火に朱く照らされている。俯き加減の彼女の口からため息が漏れた。
「間薙くん……私、そんなに変かな?」
「ああ、不安そうだ。急に色んなことを聞かされたからな、怖くなってるんじゃないかって」
シンはミユキに近付き、小さな後頭部に手を回した。向かい合ったミユキの頭が、ぽすんとシンの胸に寄りかかった。え、とミユキの困惑する声が聞こえた。
「オレの勘違いだったら悪い。でも、放っておけなかった」
「間薙くん……ありがとう」
シンの胸に俯いたままの彼女の肩は、少しだけ震えているように見えた。シンですらすぐには飲み込めない内容が次々とやって来る、ミユキには更に理解し難いだろう。戦えぬ彼女を守るのは当然としても、せめてその心を少しでも軽くしてやりたかった。まだ半分残っているシンの人の心も、暗闇で燃ゆる篝火の如く揺れていた。
「橘さんのこととか、マントラ軍がなくなったこととか色々あったけど、一番気になってるのはジャックフロストなの」
「ジャックフロスト?」
「うん」
思いもしなかった悪魔の名前が聞こえた。ミユキは顔を上げた。
「マントラ軍にいなかったでしょ?無事かなって。間薙くんに会うまでは、ジャックフロストがよくしてくれたから」
「そういえばあいつ、いなかったな」
門前の炎に臆し立ち止まっていた白い雪だるま。マントラ軍の地を登っていく最中、彼の姿はなかった。ナイトメア・システムにマガツヒを吸われ消滅したか、どこか別の場所にいるのか。二人にはわからないことだが、どこかで達者にしていてほしい。シンとは一目会っただけの悪魔だがミユキを守ってくれた、シンにも憐憫の情が湧いた。
「あいつが元気なら、またどこかで会える。月島は優しいな」
シンの言葉に、ミユキは静かに首を振った。
「ううん、優しいとかじゃなくて……私を助けてくれたから。そうだね、どこかでまた会えたらいいな」
シンが微笑むと、ミユキも笑い返してくれた。いつかあの雪だるまと笑い合う彼女も見てみたいかもしれない、などと呑気なことを思った。
カブキチョウ捕囚所は耳が痛くなるような静寂が覆う、誰もいない場所だった。シンは抜かりなく周囲を確認しながらミユキと歩を進めた。一見静かで何もない場所に見えても気を抜いてはいけない。シンは肌に刺さる刺々しい気配を感じていた。嗜虐的な悪魔が発する不穏な空気、いつどこから襲ってきてもおかしくない。
「なんか静かだね……怖いな」
「月島、離れるなよ」
「う、うん……」
おっかなびっくりついてくるミユキは、やはりシンとは違うか弱き人間だ。守ってやらねばと使命に燃えた。
シンは廊下の突き当たりで何かを見つけた。壁に大きな鏡が取り付けられていた。鏡の表面は曇り、水色の渦を巻いている。シンの姿もミユキの姿も映さぬ鏡の前に、何かが落ちていた。
「これは……?」
シンが拾ったのは小さな玉だった。蛤の殻に似た縞模様が美しい、白っぽい玉だった。これは一体何だとシンが観察していると、玉が輝き始めた。その輝きはやがて鏡の渦と共鳴し、激しく明滅する。あまりの眩しさに半分目を閉じたとき、シンの体が鏡に吸い込まれていく。
「間薙くん!」
「月島!!」
シンはミユキに手を伸ばしたが、彼女に届くより早く鏡に吸い込まれてしまった。くそ、しまった……!悔恨の情すら鏡に吸い込まれ、シンの体は蜃気楼のカブキチョウに放り出されていった。
「間薙くん!間薙くん!!」
眩い光が消え目を開いたミユキの前に、間薙シンはいなかった。後には大きな鏡だけ。目が眩むほどの輝きを放った鏡は沈黙し、曇った水色の渦を映すのみ。叫びながら鏡を叩くが、何の反応もない。ただ硬い表面を叩く痛みだけが拳に走った。
「間薙くん!!……どうしよう」
一人取り残されたミユキは項垂れた。これまでボルテクス界を彷徨ってきたが、必ず誰かがそばにいてくれた。真に孤独となってしまったこの瞬間、猛烈な不安が押し寄せてくる。ミユキは辺りを見回した。何か不穏なものが息づく気配があるが、誰もいない。
ミユキは一度目を閉じ、大きく息を吸った。駄目だ、誰かに頼っている場合じゃない。そもそもここに来たのは何故だったか思い出せ。カブキチョウには未来が見えるマネカタがいる、と新田勇に言われたからだったではないか。このどこかにそのマネカタがいるのなら、歩いていればいつか出会えるはずだ。シンもこの捕囚所のどこかにいるかもしれない。それなら、自らの足で歩き求めるべきだ。
「よーし……」
ばちん、と自らの両手で頬を叩いた。少しばかり痛いが、ようやく気合いが入った。さあ、今こそ歩を進めるときだ。ミユキは周囲を注意深く観察しながら歩き始めた。カツ、カツ、と足音がやけにうるさく聞こえる。万一悪魔に出会ったら逃げの一手、少しも気は抜けない。
ところどころ小部屋がある。音を立てるのは危険極まりないが、それでも確認せねばなるまい、ミユキは一部屋一部屋丁寧に扉を開けた。扉を開けるたびに誰もいない、と落胆し、それでももしかしたらと一歩部屋に入り見回し無人を確認する。一階にシンはいない。恐る恐る二階に上るとやはり同じように廊下が続き、いくつかの小部屋がある。緊張しながら歩いていると、見慣れた白い雪だるまを見つけた。
「ジャックフロスト!?」
駆け寄り声をかけると、雪だるま――ジャックフロストは片手を上げ、ヒホ!と小気味よく答えた。
「ミユキ!久しぶりホー」
「よかった、無事だったのね!」
思わずミユキはジャックフロストに抱きついた。ヒホホ、とジャックフロストは苦しそうにじたばたと手足を動かした。
「イケブクロにいなかったから、大丈夫だったか心配してたの」
「ヒホ?イケブクロ、何かあったホ?確かにマントラ軍は留守だったホ」
「留守だった?中、入ったの?」
尋ねるミユキに、ジャックフロストはむん、と胸を張って答えた。
「そうだホ!そしたらカブキチョウの方に行ったって聞いて、こっちに来たホ!」
「え……ここ、マントラ軍がいるの?」
「らしいヒホ。でもオイラ、怖くて動けないホ〜……」
ジャックフロストもこの場に漂う刺すような気配を感じ取っているらしい。ミユキもマントラ軍がいると聞き怖気が走った。ゴズテンノウの最期の怨嗟を思い出してしまった。かつてマントラ軍に属していたトールもゴズテンノウの威光が消えた今、統制を失ったと言っていた。とんでもない暴徒の巣窟に足を踏み入れてしまったかもしれない、とミユキは唇を噛んだ。
「ミユキはどうしてこんなところにいるホ?一緒にいた悪魔はどうしたホ?」
「はぐれちゃって、今探してるところなの」
「ヒホ!?こんなところをミユキ一人で探してるヒホ!?」
ぴょんとジャックフロストが飛び上がり、ぶんぶんと首を横に振った。ジャックフロストにまで「こんなところ」と言われてしまう場所、ミユキは身慄いした。それでもシンを、少しでも手がかりを探さねばならない。ミユキは深く息を吐いた。胸に燻る不安がほんの少し薄れた気がした。
「ジャックフロスト、私行くね。間薙くんを探さなきゃ」
「ミユキ……うう……オイラは怖いホ……」
項垂れたジャックフロストは力無く脱力し座り込んだ。ミユキは彼の頭を撫でながら抱きしめ、無理矢理にでも笑んだ。
「私は一人でも大丈夫だよ。ありがとう、ジャックフロスト。元気でよかった。サイキョーでサイコーの悪魔、ジャックフロストならなれるよ」
「ヒホ……!」
ジャックフロストに手を振り別れを告げ、ミユキは再び歩き始めた。立ち止まるわけにはいかなかった。
カブキチョウ捕囚所を牛耳っていた諸悪の根源であるミズチを倒したシンは、無事マネカタの指導者フトミミと出会った。何かよくない「気」を纏った元クラスメイト、新田勇とも再会した。しかし、月島ミユキには未だ辿り着けずにいた。もしや悪魔の毒牙にかかって、と最悪の想像に駆られていたところ、
「やあ、先ほども会ったね」
複数のマネカタを引き連れたフトミミがいた。シンは逸る心を抑えきれず舌打ちしそうになったが立ち止まった。
「すまないね。君には世話になったから予言を一つ、と思ってね。君が探している少女……この一つ下の階を彷徨っているようだ。迎えに行ってあげたらどうかな?」
「!!」
有用どころではない情報だった。「ありがとう」と一言呟き、シンは駆けた。フトミミの予言を聞き、勇の無事も一応確認した。後は彼女と再会できれば、と急いだ。階段を駆け下りた瞬間、
「間薙くん!」
もうすっかり聞き慣れた声が聞こえた。ミユキだ。シンは心のままに駆け寄り、彼女を抱きしめていた。腕の中でミユキが困惑する気配が満ちた。
「あ、あの、間薙くん……!?」
「よかった。探した」
たったその二言を伝え、ぎゅうと抱きしめる。彼女の髪からどことなく艶が失われている気がした。粗暴な悪魔が跋扈する中、一人でさぞ不安だっただろう。もう離さない、そんな決意を込めた抱擁だった。彼女の心の奥底を覗き込むような視線を受け、シンは抱きしめる力を緩めた。ミユキはうっすら涙を溜めた瞳でシンを見上げていた。その潤んだ瞳、とても綺麗だ。……なんて寝言がシンの脳裏を掠めていった。
「月島、大丈夫か。どこも怪我してないか」
「だ、大丈夫だよ。ありがとう、心配してくれて。新田くんや探してたマネカタとは会えた?」
「ああ、一応。勇も無事だった」
「そっか……よかった」
ほっと胸を撫で下ろすミユキにようやく笑顔が灯った。そのあたたかな光はシンの心にも灯った。少し離れただけでこの心のかき乱されよう、もう二度と離してはいけない。シンは固く決意した。
ナイトメア・システムにより壊滅したマントラ軍本拠地。ゴズテンノウが滅び、かつての級友、橘千晶が創世の道を歩き始めたことを知った今、傍らにいるミユキは不安そうな顔をしていた。シンの耳にもゴズテンノウの最期の慟哭が耳にこびりついている。半分魔に染まったシンですら恐れ慄いたのだ、純粋な人間であるミユキの衝撃はいかほどのものか。高尾祐子の手がかりを求めてカブキチョウに急ぐ前に、シンは立ち止まった。暗く静かなマントラ軍本拠地、炎がぱちぱちと虚しい火の粉を散らしている。
「間薙くん、どうしたの?カブキチョウに行くんだよね」
「お前が心配だ、月島」
「え……私?」
シンの半歩後ろで立ち止まったミユキの顔が、篝火に朱く照らされている。俯き加減の彼女の口からため息が漏れた。
「間薙くん……私、そんなに変かな?」
「ああ、不安そうだ。急に色んなことを聞かされたからな、怖くなってるんじゃないかって」
シンはミユキに近付き、小さな後頭部に手を回した。向かい合ったミユキの頭が、ぽすんとシンの胸に寄りかかった。え、とミユキの困惑する声が聞こえた。
「オレの勘違いだったら悪い。でも、放っておけなかった」
「間薙くん……ありがとう」
シンの胸に俯いたままの彼女の肩は、少しだけ震えているように見えた。シンですらすぐには飲み込めない内容が次々とやって来る、ミユキには更に理解し難いだろう。戦えぬ彼女を守るのは当然としても、せめてその心を少しでも軽くしてやりたかった。まだ半分残っているシンの人の心も、暗闇で燃ゆる篝火の如く揺れていた。
「橘さんのこととか、マントラ軍がなくなったこととか色々あったけど、一番気になってるのはジャックフロストなの」
「ジャックフロスト?」
「うん」
思いもしなかった悪魔の名前が聞こえた。ミユキは顔を上げた。
「マントラ軍にいなかったでしょ?無事かなって。間薙くんに会うまでは、ジャックフロストがよくしてくれたから」
「そういえばあいつ、いなかったな」
門前の炎に臆し立ち止まっていた白い雪だるま。マントラ軍の地を登っていく最中、彼の姿はなかった。ナイトメア・システムにマガツヒを吸われ消滅したか、どこか別の場所にいるのか。二人にはわからないことだが、どこかで達者にしていてほしい。シンとは一目会っただけの悪魔だがミユキを守ってくれた、シンにも憐憫の情が湧いた。
「あいつが元気なら、またどこかで会える。月島は優しいな」
シンの言葉に、ミユキは静かに首を振った。
「ううん、優しいとかじゃなくて……私を助けてくれたから。そうだね、どこかでまた会えたらいいな」
シンが微笑むと、ミユキも笑い返してくれた。いつかあの雪だるまと笑い合う彼女も見てみたいかもしれない、などと呑気なことを思った。
カブキチョウ捕囚所は耳が痛くなるような静寂が覆う、誰もいない場所だった。シンは抜かりなく周囲を確認しながらミユキと歩を進めた。一見静かで何もない場所に見えても気を抜いてはいけない。シンは肌に刺さる刺々しい気配を感じていた。嗜虐的な悪魔が発する不穏な空気、いつどこから襲ってきてもおかしくない。
「なんか静かだね……怖いな」
「月島、離れるなよ」
「う、うん……」
おっかなびっくりついてくるミユキは、やはりシンとは違うか弱き人間だ。守ってやらねばと使命に燃えた。
シンは廊下の突き当たりで何かを見つけた。壁に大きな鏡が取り付けられていた。鏡の表面は曇り、水色の渦を巻いている。シンの姿もミユキの姿も映さぬ鏡の前に、何かが落ちていた。
「これは……?」
シンが拾ったのは小さな玉だった。蛤の殻に似た縞模様が美しい、白っぽい玉だった。これは一体何だとシンが観察していると、玉が輝き始めた。その輝きはやがて鏡の渦と共鳴し、激しく明滅する。あまりの眩しさに半分目を閉じたとき、シンの体が鏡に吸い込まれていく。
「間薙くん!」
「月島!!」
シンはミユキに手を伸ばしたが、彼女に届くより早く鏡に吸い込まれてしまった。くそ、しまった……!悔恨の情すら鏡に吸い込まれ、シンの体は蜃気楼のカブキチョウに放り出されていった。
「間薙くん!間薙くん!!」
眩い光が消え目を開いたミユキの前に、間薙シンはいなかった。後には大きな鏡だけ。目が眩むほどの輝きを放った鏡は沈黙し、曇った水色の渦を映すのみ。叫びながら鏡を叩くが、何の反応もない。ただ硬い表面を叩く痛みだけが拳に走った。
「間薙くん!!……どうしよう」
一人取り残されたミユキは項垂れた。これまでボルテクス界を彷徨ってきたが、必ず誰かがそばにいてくれた。真に孤独となってしまったこの瞬間、猛烈な不安が押し寄せてくる。ミユキは辺りを見回した。何か不穏なものが息づく気配があるが、誰もいない。
ミユキは一度目を閉じ、大きく息を吸った。駄目だ、誰かに頼っている場合じゃない。そもそもここに来たのは何故だったか思い出せ。カブキチョウには未来が見えるマネカタがいる、と新田勇に言われたからだったではないか。このどこかにそのマネカタがいるのなら、歩いていればいつか出会えるはずだ。シンもこの捕囚所のどこかにいるかもしれない。それなら、自らの足で歩き求めるべきだ。
「よーし……」
ばちん、と自らの両手で頬を叩いた。少しばかり痛いが、ようやく気合いが入った。さあ、今こそ歩を進めるときだ。ミユキは周囲を注意深く観察しながら歩き始めた。カツ、カツ、と足音がやけにうるさく聞こえる。万一悪魔に出会ったら逃げの一手、少しも気は抜けない。
ところどころ小部屋がある。音を立てるのは危険極まりないが、それでも確認せねばなるまい、ミユキは一部屋一部屋丁寧に扉を開けた。扉を開けるたびに誰もいない、と落胆し、それでももしかしたらと一歩部屋に入り見回し無人を確認する。一階にシンはいない。恐る恐る二階に上るとやはり同じように廊下が続き、いくつかの小部屋がある。緊張しながら歩いていると、見慣れた白い雪だるまを見つけた。
「ジャックフロスト!?」
駆け寄り声をかけると、雪だるま――ジャックフロストは片手を上げ、ヒホ!と小気味よく答えた。
「ミユキ!久しぶりホー」
「よかった、無事だったのね!」
思わずミユキはジャックフロストに抱きついた。ヒホホ、とジャックフロストは苦しそうにじたばたと手足を動かした。
「イケブクロにいなかったから、大丈夫だったか心配してたの」
「ヒホ?イケブクロ、何かあったホ?確かにマントラ軍は留守だったホ」
「留守だった?中、入ったの?」
尋ねるミユキに、ジャックフロストはむん、と胸を張って答えた。
「そうだホ!そしたらカブキチョウの方に行ったって聞いて、こっちに来たホ!」
「え……ここ、マントラ軍がいるの?」
「らしいヒホ。でもオイラ、怖くて動けないホ〜……」
ジャックフロストもこの場に漂う刺すような気配を感じ取っているらしい。ミユキもマントラ軍がいると聞き怖気が走った。ゴズテンノウの最期の怨嗟を思い出してしまった。かつてマントラ軍に属していたトールもゴズテンノウの威光が消えた今、統制を失ったと言っていた。とんでもない暴徒の巣窟に足を踏み入れてしまったかもしれない、とミユキは唇を噛んだ。
「ミユキはどうしてこんなところにいるホ?一緒にいた悪魔はどうしたホ?」
「はぐれちゃって、今探してるところなの」
「ヒホ!?こんなところをミユキ一人で探してるヒホ!?」
ぴょんとジャックフロストが飛び上がり、ぶんぶんと首を横に振った。ジャックフロストにまで「こんなところ」と言われてしまう場所、ミユキは身慄いした。それでもシンを、少しでも手がかりを探さねばならない。ミユキは深く息を吐いた。胸に燻る不安がほんの少し薄れた気がした。
「ジャックフロスト、私行くね。間薙くんを探さなきゃ」
「ミユキ……うう……オイラは怖いホ……」
項垂れたジャックフロストは力無く脱力し座り込んだ。ミユキは彼の頭を撫でながら抱きしめ、無理矢理にでも笑んだ。
「私は一人でも大丈夫だよ。ありがとう、ジャックフロスト。元気でよかった。サイキョーでサイコーの悪魔、ジャックフロストならなれるよ」
「ヒホ……!」
ジャックフロストに手を振り別れを告げ、ミユキは再び歩き始めた。立ち止まるわけにはいかなかった。
カブキチョウ捕囚所を牛耳っていた諸悪の根源であるミズチを倒したシンは、無事マネカタの指導者フトミミと出会った。何かよくない「気」を纏った元クラスメイト、新田勇とも再会した。しかし、月島ミユキには未だ辿り着けずにいた。もしや悪魔の毒牙にかかって、と最悪の想像に駆られていたところ、
「やあ、先ほども会ったね」
複数のマネカタを引き連れたフトミミがいた。シンは逸る心を抑えきれず舌打ちしそうになったが立ち止まった。
「すまないね。君には世話になったから予言を一つ、と思ってね。君が探している少女……この一つ下の階を彷徨っているようだ。迎えに行ってあげたらどうかな?」
「!!」
有用どころではない情報だった。「ありがとう」と一言呟き、シンは駆けた。フトミミの予言を聞き、勇の無事も一応確認した。後は彼女と再会できれば、と急いだ。階段を駆け下りた瞬間、
「間薙くん!」
もうすっかり聞き慣れた声が聞こえた。ミユキだ。シンは心のままに駆け寄り、彼女を抱きしめていた。腕の中でミユキが困惑する気配が満ちた。
「あ、あの、間薙くん……!?」
「よかった。探した」
たったその二言を伝え、ぎゅうと抱きしめる。彼女の髪からどことなく艶が失われている気がした。粗暴な悪魔が跋扈する中、一人でさぞ不安だっただろう。もう離さない、そんな決意を込めた抱擁だった。彼女の心の奥底を覗き込むような視線を受け、シンは抱きしめる力を緩めた。ミユキはうっすら涙を溜めた瞳でシンを見上げていた。その潤んだ瞳、とても綺麗だ。……なんて寝言がシンの脳裏を掠めていった。
「月島、大丈夫か。どこも怪我してないか」
「だ、大丈夫だよ。ありがとう、心配してくれて。新田くんや探してたマネカタとは会えた?」
「ああ、一応。勇も無事だった」
「そっか……よかった」
ほっと胸を撫で下ろすミユキにようやく笑顔が灯った。そのあたたかな光はシンの心にも灯った。少し離れただけでこの心のかき乱されよう、もう二度と離してはいけない。シンは固く決意した。
