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新年に言祝ぎあれ
初詣に行かないか、と間薙シンがクラスメイトの月森ミコトに声をかけたのは数週間前。あっさりいいよ、と承諾されて拍子抜けした後悶々と日々を過ごし、今日新年を迎えた。
冷静に考えなくとも、シンが女子と二人きりで出かけるのは初めてだった。さて、どんな服を着て行けばいいのやら。ベッドに数少ない手持ちの服を広げ、シンはうーん、と考え込んでいた。季節は真冬。いつものパーカーにハーフパンツと思ったが下半身が冷えるか。ここは趣向を変えて革ジャンもありか、と思ったがやはり寒いか。色々と慣れない頭で考えたものの、ろくな結論が出ないまま刻一刻と待ち合わせ時間が迫る。少しくらいおかしな服装になったとしても、遅刻する方がよほど問題だ。結局シンはいつものパーカーにジーンズを合わせた。こんなことなら、オシャレに一家言ありそうな新田勇に助言を乞うてもよかったかもしれない。うっすら後悔しながらも、シンは家を出た。
「あ、間薙くん!おーい!」
待ち合わせ場所の駅に向かうと、月森ミコトが大きく手を振っていた。人通りが多いがいち早く気付いてくれた、素直に嬉しい。
「悪い、待たせたな」
「ううん、今来たばっかりだよー」
待ち合わせの常套句を交わしながら、シンは何気なく彼女を眺めた。そういえば彼女と学校の外で会うのは初めてだ。私服姿を見るのも初めてで、制服姿とはずいぶん違う印象を受ける。可愛い。私服姿のミコトを見れただけで十分な収穫だな、と思いながらシンは歩いた。
駅から徒歩数分の距離に目的の神社がある。元日というだけあり、周囲の人々はみな神社に向かっている。二人も人の流れに沿って歩いていく。あまりの人の多さに駅前は活気づき、新年の賑わいに心も弾んだ。
「すごいね、人いっぱいだね」
きょろきょろと辺りを見回すミコトの声も楽しそうだった。彼女の声は、このざわめきの中でもよく聞こえる。
「ここは毎年こんな感じだぞ。ここに初詣で来るの、初めてなのか」
「うん。いつも家の近くの神社に行ってるから。わあ、屋台がいっぱい。後で寄りたいなぁ」
鳥居をくぐった参道の両脇には、所狭しと屋台が並んでいる。ここぞとばかりに客を呼び込む威勢のいい声が響き、駅前とはまた違う賑わいで満ちていた。ソースの焦げる匂い、揚げ物の匂い、食欲をそそる種々様々な匂いが鼻をくすぐった。
「なんなら今寄ってもいいぞ」
「先にお参りしようよ。ゴミが出るし」
「それもそうだな」
参道の人口密度は高く、自然と二人の距離は近かった。何も意識せずともミコトと手が触れ合いそうになる。今ならはぐれないように、と理由をつけて手を握れそうな気もしたが、シンは言い出せなかった。
しばらくして社殿に辿り着いた。社殿周辺も人が多く、人の頭で賽銭箱が見えない。せっかちな何人かが背後から賽銭を放り投げ手を合わせる音が聞こえたが、
「月森、やっぱり一番前まで行くよな?」
「もちろん」
二人はのんびり前が空くのを待つこととした。少しずつにじり寄っていき、ようやく最前列に立つ。シンは財布を取り出した。今日のために取っておいた五円玉を取り出し賽銭箱に入れると手を合わせ、目を閉じた。
――月森ともう少し仲良くなれますように。
ちらと隣に立つ彼女を一瞥し、シンは静かに心の中で唱えた。もう少し強欲になってもよいのかもしれないが、ささやかな願いに留めた。
祈りを終えた彼女と社殿を離れる。ミコトは晴れやかに笑っていた。
「間薙くんは何をお願いしたの?」
「え?」
まさか尋ねられるとは思わなかった。数秒空気が喉に詰まり咳き込んだ。もしかしたら、珍しく赤面しているのをミコトに悟られたかもしれない。
「今年一年健康に、とかそんなところだ」
できる限り自然に嘘をついた。ミコトは特に疑問を抱く様子もなく、「そっかー」との相槌。よかった、誤魔化せたようだ。
「月森は?」
「私?私も似た感じ。やっぱり健康が一番だよねー」
彼女は朗らかに笑っている。シンと同じように本心を覆い隠しているのかはわからなかった。シンは言葉どおりの無難な願いではなかったらいいのに、と心の中で願った。
二人は流れるようにおみくじの列に並び、それぞれのくじを手にした。中身を確認する前の緊張した様子のミコトは可愛らしく、シンは笑みを漏らした。ミコトの可憐な指先がくじを開いた。
「あ、吉だ。うーん、微妙だなあ。間薙くんはどうだった?」
「中吉だ」
立ち止まり、互いのくじを見せ合う。シンはちらりと恋愛の欄を見た。「行動せよ」と端的な助言が書かれている。……まったくもってそのとおりだ。ぐさりと胸に刺さった。帰り際、次の約束を取り付けろとでもいうことだろうか。
「新年早々、どっちも微妙な感じかもね」
「大吉じゃないってことはまだ伸びしろがあるってことだから、そっちの方がいいかもしれないぞ」
「あぁ、なるほど!間薙くんって前向きだね」
弾けるように笑う彼女を見ていると、たとえ大凶を引いたとしても喜べた気がする。二人でくじを所定の場所に結ぶ。周りにもたくさんの白いくじが結ばれているが、シンだけは二人で結んだくじの場所を忘れないだろう。
「間薙くん!お腹空いちゃった、屋台行こう!」
「ああ」
主目的が終わったがここからが本番だ。一目散に駆けていく彼女を追いかけた。参道でシンたちを惹きつけてやまなかった美味しそうな匂いに、二人は吸い寄せられていく。
「屋台なんて久しぶりだなー!子供の頃、勇くんと一緒に行ったきりかも」
たこ焼きに竹串を刺しながら、ミコトは嬉しそうに言った。……勇くん。彼女が何気なく呼んだ少年の名が、シンの耳に刺さる。
「そういえば月森、勇と仲がいいのか?」
「うん。あれ、言ってなかったっけ。勇くんとは家が近くてさ、幼なじみなの」
「幼なじみ……」
シンには縁のない関係性だった。もしもシンとミコトの関係に名前をつけるなら、何になるだろうか。クラスメイト……は間違いない。友人、と言って差し支えないだろうか。
「勇くん、ああ見えて食いしん坊でさ。屋台に行ったらあれも食べたいこれも食べたいって、うるさかったんだよね」
「……そうか」
どこか遠くを見つめながら、ミコトは懐かしむ声で言う。いくら子供の頃とはいえ他の男の話、それもシンにも近しい相手の話。シンの眉が片方、ぴくりと持ち上がった。
「あ、そうだ。ねえ間薙くん、たこ焼き食べる?」
「一個もらっていいか」
「いいよ、どうぞ」
もう一本の竹串をミコトから受け取り適当なものに刺し、シンは口に放り込んだ。熱い。噛んだ瞬間柔らかな生地がとろけた。ふうふうと冷ましながら何とか飲み込み、シンはぺこりと礼をした。
「美味い。ありがとう」
「屋台の食べ物って美味しいよねー」
そう言ってにこにこと楽しそうな彼女を見ているとつくづく思う。お前と食べたからだ、と。
ぐるりと屋台を巡りひととおり腹も満たせたところで、お開きの時間が近付いてきた。二人並んで駅に歩いていく。あと数分もすれば彼女と別れてしまう。次に会うのは始業式、それなりに間が空いている。シンは意を決し、口を開いた。
「月森」
「なに、どうしたの?」
「オレのことも名前で呼んでほしい」
「えっ?」
零れ落ちた言葉に、きょとんとした顔が返ってきた。想定していた反応ではあったものの、いざそんなつぶらな瞳で見つめられると、用意していた言葉が吹き飛んでしまいそうになる。シンは頬を掻いた。
「いや、その……オレたちも二人で出かけたりするのに、ずっと名字で呼び合ってるの、他人行儀な気がしないか?」
我ながら苦しい言い訳だと思うが、願望を伝えることができたのは進歩だった。シンは息を呑み、じっと返事を待つ。おそらく人生で最も緊張する数秒間だった。
「確かにそうだね。えっと……シンくん、かな?」
「ああ」
可憐に笑う彼女はさらりと望む呼び方を返してくれる。シンは柄にもなく安堵した。ここまで来ればあと一息だ。
「お前のことも、名前で呼びたい」
「うん、いいよ」
「……ミコト」
あまりにもあっさり許可が下り、逆に吃り気味になってしまった。ミコトは天真爛漫な笑顔を浮かべていた。
「あはは、なんでそんなに緊張してるの?シンくんって変なところを気にするよね」
「え、あ、いや……」
「シンくん」。まだ聞き慣れておらず、いざ呼ばれると面映い。不自然に赤らむ顔をどうすることもできなかった。まったく、彼女はとことんまで重罪人だ。
「勇くんも千晶ちゃんも名前で呼んでるのに、シンくんだけずっと名字だったね。何でだろ?」
「あまり話したことがないからだろ。今年はお前ともっと話したい。色々付き合ってくれるか」
「いいよ、楽しみだね!」
駅に向かう足取りも軽く、彼女は朗らかだった。……彼女と自分の間に些か認識の相違がある気がするが、それでもシンは笑った。ああ、このふわふわした綿雲のような気持ち。きちんとぶつけねばなるまい。
「ミコト、今日これから暇か?」
「うん?特に予定とかないよ」
「じゃあ街の方に出てみないか」
意を決した誘い文句に、ミコトは即頷いた。
「いいよ、どこ行こっか?」
「ああ、じゃあ……」
駅に向かいながら二人で話し合う。学校の外でミコトと時間を過ごすのは初めてだ。行動せよ。くじの言うとおり今年は励んでみようか、とシンは珍しく神に感謝した。
初詣に行かないか、と間薙シンがクラスメイトの月森ミコトに声をかけたのは数週間前。あっさりいいよ、と承諾されて拍子抜けした後悶々と日々を過ごし、今日新年を迎えた。
冷静に考えなくとも、シンが女子と二人きりで出かけるのは初めてだった。さて、どんな服を着て行けばいいのやら。ベッドに数少ない手持ちの服を広げ、シンはうーん、と考え込んでいた。季節は真冬。いつものパーカーにハーフパンツと思ったが下半身が冷えるか。ここは趣向を変えて革ジャンもありか、と思ったがやはり寒いか。色々と慣れない頭で考えたものの、ろくな結論が出ないまま刻一刻と待ち合わせ時間が迫る。少しくらいおかしな服装になったとしても、遅刻する方がよほど問題だ。結局シンはいつものパーカーにジーンズを合わせた。こんなことなら、オシャレに一家言ありそうな新田勇に助言を乞うてもよかったかもしれない。うっすら後悔しながらも、シンは家を出た。
「あ、間薙くん!おーい!」
待ち合わせ場所の駅に向かうと、月森ミコトが大きく手を振っていた。人通りが多いがいち早く気付いてくれた、素直に嬉しい。
「悪い、待たせたな」
「ううん、今来たばっかりだよー」
待ち合わせの常套句を交わしながら、シンは何気なく彼女を眺めた。そういえば彼女と学校の外で会うのは初めてだ。私服姿を見るのも初めてで、制服姿とはずいぶん違う印象を受ける。可愛い。私服姿のミコトを見れただけで十分な収穫だな、と思いながらシンは歩いた。
駅から徒歩数分の距離に目的の神社がある。元日というだけあり、周囲の人々はみな神社に向かっている。二人も人の流れに沿って歩いていく。あまりの人の多さに駅前は活気づき、新年の賑わいに心も弾んだ。
「すごいね、人いっぱいだね」
きょろきょろと辺りを見回すミコトの声も楽しそうだった。彼女の声は、このざわめきの中でもよく聞こえる。
「ここは毎年こんな感じだぞ。ここに初詣で来るの、初めてなのか」
「うん。いつも家の近くの神社に行ってるから。わあ、屋台がいっぱい。後で寄りたいなぁ」
鳥居をくぐった参道の両脇には、所狭しと屋台が並んでいる。ここぞとばかりに客を呼び込む威勢のいい声が響き、駅前とはまた違う賑わいで満ちていた。ソースの焦げる匂い、揚げ物の匂い、食欲をそそる種々様々な匂いが鼻をくすぐった。
「なんなら今寄ってもいいぞ」
「先にお参りしようよ。ゴミが出るし」
「それもそうだな」
参道の人口密度は高く、自然と二人の距離は近かった。何も意識せずともミコトと手が触れ合いそうになる。今ならはぐれないように、と理由をつけて手を握れそうな気もしたが、シンは言い出せなかった。
しばらくして社殿に辿り着いた。社殿周辺も人が多く、人の頭で賽銭箱が見えない。せっかちな何人かが背後から賽銭を放り投げ手を合わせる音が聞こえたが、
「月森、やっぱり一番前まで行くよな?」
「もちろん」
二人はのんびり前が空くのを待つこととした。少しずつにじり寄っていき、ようやく最前列に立つ。シンは財布を取り出した。今日のために取っておいた五円玉を取り出し賽銭箱に入れると手を合わせ、目を閉じた。
――月森ともう少し仲良くなれますように。
ちらと隣に立つ彼女を一瞥し、シンは静かに心の中で唱えた。もう少し強欲になってもよいのかもしれないが、ささやかな願いに留めた。
祈りを終えた彼女と社殿を離れる。ミコトは晴れやかに笑っていた。
「間薙くんは何をお願いしたの?」
「え?」
まさか尋ねられるとは思わなかった。数秒空気が喉に詰まり咳き込んだ。もしかしたら、珍しく赤面しているのをミコトに悟られたかもしれない。
「今年一年健康に、とかそんなところだ」
できる限り自然に嘘をついた。ミコトは特に疑問を抱く様子もなく、「そっかー」との相槌。よかった、誤魔化せたようだ。
「月森は?」
「私?私も似た感じ。やっぱり健康が一番だよねー」
彼女は朗らかに笑っている。シンと同じように本心を覆い隠しているのかはわからなかった。シンは言葉どおりの無難な願いではなかったらいいのに、と心の中で願った。
二人は流れるようにおみくじの列に並び、それぞれのくじを手にした。中身を確認する前の緊張した様子のミコトは可愛らしく、シンは笑みを漏らした。ミコトの可憐な指先がくじを開いた。
「あ、吉だ。うーん、微妙だなあ。間薙くんはどうだった?」
「中吉だ」
立ち止まり、互いのくじを見せ合う。シンはちらりと恋愛の欄を見た。「行動せよ」と端的な助言が書かれている。……まったくもってそのとおりだ。ぐさりと胸に刺さった。帰り際、次の約束を取り付けろとでもいうことだろうか。
「新年早々、どっちも微妙な感じかもね」
「大吉じゃないってことはまだ伸びしろがあるってことだから、そっちの方がいいかもしれないぞ」
「あぁ、なるほど!間薙くんって前向きだね」
弾けるように笑う彼女を見ていると、たとえ大凶を引いたとしても喜べた気がする。二人でくじを所定の場所に結ぶ。周りにもたくさんの白いくじが結ばれているが、シンだけは二人で結んだくじの場所を忘れないだろう。
「間薙くん!お腹空いちゃった、屋台行こう!」
「ああ」
主目的が終わったがここからが本番だ。一目散に駆けていく彼女を追いかけた。参道でシンたちを惹きつけてやまなかった美味しそうな匂いに、二人は吸い寄せられていく。
「屋台なんて久しぶりだなー!子供の頃、勇くんと一緒に行ったきりかも」
たこ焼きに竹串を刺しながら、ミコトは嬉しそうに言った。……勇くん。彼女が何気なく呼んだ少年の名が、シンの耳に刺さる。
「そういえば月森、勇と仲がいいのか?」
「うん。あれ、言ってなかったっけ。勇くんとは家が近くてさ、幼なじみなの」
「幼なじみ……」
シンには縁のない関係性だった。もしもシンとミコトの関係に名前をつけるなら、何になるだろうか。クラスメイト……は間違いない。友人、と言って差し支えないだろうか。
「勇くん、ああ見えて食いしん坊でさ。屋台に行ったらあれも食べたいこれも食べたいって、うるさかったんだよね」
「……そうか」
どこか遠くを見つめながら、ミコトは懐かしむ声で言う。いくら子供の頃とはいえ他の男の話、それもシンにも近しい相手の話。シンの眉が片方、ぴくりと持ち上がった。
「あ、そうだ。ねえ間薙くん、たこ焼き食べる?」
「一個もらっていいか」
「いいよ、どうぞ」
もう一本の竹串をミコトから受け取り適当なものに刺し、シンは口に放り込んだ。熱い。噛んだ瞬間柔らかな生地がとろけた。ふうふうと冷ましながら何とか飲み込み、シンはぺこりと礼をした。
「美味い。ありがとう」
「屋台の食べ物って美味しいよねー」
そう言ってにこにこと楽しそうな彼女を見ているとつくづく思う。お前と食べたからだ、と。
ぐるりと屋台を巡りひととおり腹も満たせたところで、お開きの時間が近付いてきた。二人並んで駅に歩いていく。あと数分もすれば彼女と別れてしまう。次に会うのは始業式、それなりに間が空いている。シンは意を決し、口を開いた。
「月森」
「なに、どうしたの?」
「オレのことも名前で呼んでほしい」
「えっ?」
零れ落ちた言葉に、きょとんとした顔が返ってきた。想定していた反応ではあったものの、いざそんなつぶらな瞳で見つめられると、用意していた言葉が吹き飛んでしまいそうになる。シンは頬を掻いた。
「いや、その……オレたちも二人で出かけたりするのに、ずっと名字で呼び合ってるの、他人行儀な気がしないか?」
我ながら苦しい言い訳だと思うが、願望を伝えることができたのは進歩だった。シンは息を呑み、じっと返事を待つ。おそらく人生で最も緊張する数秒間だった。
「確かにそうだね。えっと……シンくん、かな?」
「ああ」
可憐に笑う彼女はさらりと望む呼び方を返してくれる。シンは柄にもなく安堵した。ここまで来ればあと一息だ。
「お前のことも、名前で呼びたい」
「うん、いいよ」
「……ミコト」
あまりにもあっさり許可が下り、逆に吃り気味になってしまった。ミコトは天真爛漫な笑顔を浮かべていた。
「あはは、なんでそんなに緊張してるの?シンくんって変なところを気にするよね」
「え、あ、いや……」
「シンくん」。まだ聞き慣れておらず、いざ呼ばれると面映い。不自然に赤らむ顔をどうすることもできなかった。まったく、彼女はとことんまで重罪人だ。
「勇くんも千晶ちゃんも名前で呼んでるのに、シンくんだけずっと名字だったね。何でだろ?」
「あまり話したことがないからだろ。今年はお前ともっと話したい。色々付き合ってくれるか」
「いいよ、楽しみだね!」
駅に向かう足取りも軽く、彼女は朗らかだった。……彼女と自分の間に些か認識の相違がある気がするが、それでもシンは笑った。ああ、このふわふわした綿雲のような気持ち。きちんとぶつけねばなるまい。
「ミコト、今日これから暇か?」
「うん?特に予定とかないよ」
「じゃあ街の方に出てみないか」
意を決した誘い文句に、ミコトは即頷いた。
「いいよ、どこ行こっか?」
「ああ、じゃあ……」
駅に向かいながら二人で話し合う。学校の外でミコトと時間を過ごすのは初めてだ。行動せよ。くじの言うとおり今年は励んでみようか、とシンは珍しく神に感謝した。
