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ビターチョコレートバレンタイン
バレンタインは男子高校生にとって一大イベントだ。店頭にバレンタイン用のチョコレートが並び始める一月中旬からバレンタイン当日まで、どこかそわそわした男子たちで教室は埋め尽くされる。間薙シンも例に漏れず、女子たちのチョコレートの行方が気になって仕方がない男子生徒の一人だった。
シンの去年の戦績は月森ミコトと橘千晶からのチョコレート、合計二個であった。チョコレートに特別な意味合いがあってほしいミコトからは、
「はい、義理チョコ!私と千晶ちゃん以外からチョコもらえそう?」
と言われつつ笑顔で渡される始末であり、大変複雑な結果だった。ということで、去年からこれまでにかけてシンも色々とアプローチをしてきた。その結果がどうなるか、シンとしては定期考査の結果よりも重大だった。
まずは二人の時間を増やそうとシンは試みた。幼なじみという関係性にあぐらをかいていたとシンは大いに反省した。
「いきなりデートは飛躍がすぎるだろ!まずは一緒に帰るところから始めたらどうだ?」
という勇の助言に従い、ミコトが現れそうな時間を見計らい下駄箱に行き、
「あ、ミコト。……偶然だな」
「あ、シン!」
さも偶然ですよと言わんばかりに声をかけた。ミコトはシンのそんな苦労を知ってか知らずか、無邪気な笑顔を向けてくれた。
そしてこの際きちんと聞いてみろと勇に背を押されたことから、何回目かの帰り道でミコトに尋ねた。
「ミコト、今年のバレンタインは誰にチョコを渡したんだ」
意を決した質問に、彼女はさらりと答えてくれた。
「えっとね、お父さんと弟とシン、勇、千晶ちゃん!いつもどおりだね」
……よかった。心の底から安堵した。少なくとも家族と幼なじみ四人組の枠をはみ出た対象者はいなかったようだ。
そうしてさらに何度か偶然を装い一緒に帰り、より核心に迫る質問をすることにした。ある帰り道、シンは拳を握り尋ねた。
「ミコト」
「ん?なーに?」
チョコレートを渡した相手のときのように、気軽には聞けなかった。ごくり。唾を呑み、一泊置いてシンは口を開いた。
「……気になる奴とか、好きな奴とか……いるのか?」
「いないよー」
躊躇いがちに口にした言葉とは裏腹に、ひどくあっさりとした言葉が返ってきた。それどころかミコトは身を乗り出し、
「え、シン、もしかしていい人紹介してくれるの!?」
と聞き返す始末だった。拍子抜けしたが、シンは心の中でぐっと拳を振り上げた。この即答ぶり、付き合っている男子がいなければ好きな相手もいないようだ。さらにミコトは恋愛に興味もある様子、チャンス到来とはまさにこのこと。妙な神風が吹く前にかっさらってしまうべきだ。
「するわけないだろ」
この一言でできれば察してほしいところだったが、ミコトは口を尖らせ、
「ちぇー。なんかいい話でもあるのかと思ったのにー」
と言うばかりであった。
偶然を装った必然の帰り道をミコトと幾度となく共有し、機は熟した。さあそろそろ二人きりのデートと洒落込むかとシンが決意したのは、涙のバレンタインを経験してから数ヶ月が経過した頃だった。学年が一つ上がり何をするにも最適な春、シンはスマートフォンを片手に決意を固めていた。
「やっほーシン!そういえば二人で出かけるのって初めてだね!」
話題の映画があるから見に行こう。勇気を出して誘うと意外にもあっさりOKが出た。私服姿のミコトは新鮮で可愛らしく、緊張が少しほどける気がした。
これまで彼女とは幼なじみ四人組――勇と千晶も交えた四人でしか出かけたことがなかった。四人で出かけるとどうしても男二人、女二人で話しがちで、意外とミコトとの時間は少なかった。しかし今回は二人きり、それも隣り合って映画を見るという距離の近さ、いやでも話をすることになる。シンは楽しみと緊張で手に汗をかいていた。対するミコトはというと、
「ねえシン、パンフレット買ってっていい?」
「いいぞ」
ごく普通の、四人で遊びに出かけるときと同じ反応に見えた。自然体なのか限りなく自然な演技をしているのか判別がつかない。シンは忙しなく髪を弄りながら彼女と並んで映画を見た。
正直映画の内容はほとんど覚えていない。ポップコーンや飲み物を取る彼女の手に意識が向きすぎて、それどころではなかった。
「ワンチャン手を繋いたりできるんじゃねぇか?オマエ、男見せてこいよ!」
と勇には言われていたが、さすがに無理だった。様々な意味で。ただその言葉があったせいか、その日はずっとミコトの綺麗な手から目が離せなかった。
一度デートに誘うと二回目からは誘うハードルがぐっと低くなり、彼女とは何度も二人で出かけた。カラオケ、ゲームセンター、ボウリング等々。学生ゆえあまり金銭的余裕がなく近場で遊ぶことに終始していたが、四人で遊ぶのと二人で遊ぶのはずいぶんと違った。彼女と昼食や夕食込みのデートとなると話す機会も増え、ぐっと距離が縮まった気がしていた。しかし胸に秘めた思いを告げることはなかった。身構えてはいたものの時機が来ず、二人は「幼なじみ」のままであった。
そうして迎えた今年のバレンタインデー。シンは密かに期待していた。彼女と親密になるための努力は怠らなかった。自ら告白することはできなかったが、もしかすると彼女の方から働きかけがあるかもしれない、と。
「よおシン、首尾はどうよ」
登校時、後ろから馴れ馴れしく話しかけてきた勇にシンは曖昧に笑った。
「うまくいきそうな気がする」
「おー、また報告よろしくな!」
そう言って各々の教室に分かれ、バレンタインの一日が始まった。正直、授業なんてどうでもよかった。
長い一日が終わった頃にはシンはぐったりとしていた。机に突っ伏しそうになったが何とか思い留まる。放課後を知らせるチャイムが鳴ったのを合図に帰り支度をしていると、
「やっほーシン!」
ミコトが足取りも軽く教室に入ってきた。ずき、と心臓が軋むような音を立てた。チョコレートは確実。そう思っているが、その意味合いはいかに。彼女はシンが座る机までやってくると、
「はい、義理チョコ!」
最上級の笑顔を浮かべ、シンに小さな包みを手渡した。ピンク色の包装紙が可愛らしいが、衝撃的な音の連なりが耳を貫いた。
「……義理チョコ?」
硬直したシンがぎこちなく尋ねると、ミコトは不思議そうに首を傾げていた。
「そうだよ?どうしたの、シン」
「……」
今朝感じていた手応えは気のせいだったのか。シンは露骨に肩を落としそうになりながらも、何とか包みを抱え大切にカバンに入れた。
「あー!今年も私と千晶ちゃん以外からチョコもらえなくてがっかりしてるなぁ!?そうでしょ、シン!」
「いや……その……」
放課後の喧騒の中茶化すミコトの声がはっきり聞こえ、シンは泣きそうになった。あれだけ絆を深めたはずなのに。いや、深まっていなかったのか?これは分析及び検証が必要だ。可及的速やかに勇に声をかけなくては。
「私たち以外からチョコもらえないかもって思って、今年はちょっとお高いチョコにしたから!そうがっかりしなさんな、シン」
ぽんぽんと肩を叩いたミコトは、にっこりと笑うと颯爽と教室を出ていった。ああ、他にチョコレートを渡す相手がいるのか聞きそびれた。シンがそう思ったのは、彼女がいなくなりずいぶんと経ってからだった。
「で、どうだったんだよ!」
バレンタインの放課後、腐れ縁の新田勇とファストフード店で成果を報告し合った。二人が提出したチョコレートはピンク色の包装紙のもの一つと、赤い包装紙のもの一つ。月森ミコトのチョコレートと橘千晶のチョコレート二つきりだった。包装紙が全く同じで、同一の店でまとめて買ったものと一目でわかるものだった。
「はっきり言われたよ、義理チョコだって」
シンはテーブルに突っ伏し、シェイクを口にした。冷たく甘い。義理のチョコレート二つという現実のようだ。
「うまくいきそうな気がする、っつってたのに!」
対面の勇は腹を抱えて笑っていた。シンは目尻にうっすら涙が浮かぶのを感じた。拳でこっそり拭い、起き上がる。
「これは……告白しないとどうにもならないみたいだ」
シンはストローを噛みながらぼそりと呟いた。ひーひーと呼吸困難になりそうな勢いで笑っている勇を尻目に、今に見ていろと歯噛みしていた。今度こそ、彼女の心を射止めてやる。シンは飲み干し空になった紙コップをぐしゃりと握りつぶした。
バレンタインは男子高校生にとって一大イベントだ。店頭にバレンタイン用のチョコレートが並び始める一月中旬からバレンタイン当日まで、どこかそわそわした男子たちで教室は埋め尽くされる。間薙シンも例に漏れず、女子たちのチョコレートの行方が気になって仕方がない男子生徒の一人だった。
シンの去年の戦績は月森ミコトと橘千晶からのチョコレート、合計二個であった。チョコレートに特別な意味合いがあってほしいミコトからは、
「はい、義理チョコ!私と千晶ちゃん以外からチョコもらえそう?」
と言われつつ笑顔で渡される始末であり、大変複雑な結果だった。ということで、去年からこれまでにかけてシンも色々とアプローチをしてきた。その結果がどうなるか、シンとしては定期考査の結果よりも重大だった。
まずは二人の時間を増やそうとシンは試みた。幼なじみという関係性にあぐらをかいていたとシンは大いに反省した。
「いきなりデートは飛躍がすぎるだろ!まずは一緒に帰るところから始めたらどうだ?」
という勇の助言に従い、ミコトが現れそうな時間を見計らい下駄箱に行き、
「あ、ミコト。……偶然だな」
「あ、シン!」
さも偶然ですよと言わんばかりに声をかけた。ミコトはシンのそんな苦労を知ってか知らずか、無邪気な笑顔を向けてくれた。
そしてこの際きちんと聞いてみろと勇に背を押されたことから、何回目かの帰り道でミコトに尋ねた。
「ミコト、今年のバレンタインは誰にチョコを渡したんだ」
意を決した質問に、彼女はさらりと答えてくれた。
「えっとね、お父さんと弟とシン、勇、千晶ちゃん!いつもどおりだね」
……よかった。心の底から安堵した。少なくとも家族と幼なじみ四人組の枠をはみ出た対象者はいなかったようだ。
そうしてさらに何度か偶然を装い一緒に帰り、より核心に迫る質問をすることにした。ある帰り道、シンは拳を握り尋ねた。
「ミコト」
「ん?なーに?」
チョコレートを渡した相手のときのように、気軽には聞けなかった。ごくり。唾を呑み、一泊置いてシンは口を開いた。
「……気になる奴とか、好きな奴とか……いるのか?」
「いないよー」
躊躇いがちに口にした言葉とは裏腹に、ひどくあっさりとした言葉が返ってきた。それどころかミコトは身を乗り出し、
「え、シン、もしかしていい人紹介してくれるの!?」
と聞き返す始末だった。拍子抜けしたが、シンは心の中でぐっと拳を振り上げた。この即答ぶり、付き合っている男子がいなければ好きな相手もいないようだ。さらにミコトは恋愛に興味もある様子、チャンス到来とはまさにこのこと。妙な神風が吹く前にかっさらってしまうべきだ。
「するわけないだろ」
この一言でできれば察してほしいところだったが、ミコトは口を尖らせ、
「ちぇー。なんかいい話でもあるのかと思ったのにー」
と言うばかりであった。
偶然を装った必然の帰り道をミコトと幾度となく共有し、機は熟した。さあそろそろ二人きりのデートと洒落込むかとシンが決意したのは、涙のバレンタインを経験してから数ヶ月が経過した頃だった。学年が一つ上がり何をするにも最適な春、シンはスマートフォンを片手に決意を固めていた。
「やっほーシン!そういえば二人で出かけるのって初めてだね!」
話題の映画があるから見に行こう。勇気を出して誘うと意外にもあっさりOKが出た。私服姿のミコトは新鮮で可愛らしく、緊張が少しほどける気がした。
これまで彼女とは幼なじみ四人組――勇と千晶も交えた四人でしか出かけたことがなかった。四人で出かけるとどうしても男二人、女二人で話しがちで、意外とミコトとの時間は少なかった。しかし今回は二人きり、それも隣り合って映画を見るという距離の近さ、いやでも話をすることになる。シンは楽しみと緊張で手に汗をかいていた。対するミコトはというと、
「ねえシン、パンフレット買ってっていい?」
「いいぞ」
ごく普通の、四人で遊びに出かけるときと同じ反応に見えた。自然体なのか限りなく自然な演技をしているのか判別がつかない。シンは忙しなく髪を弄りながら彼女と並んで映画を見た。
正直映画の内容はほとんど覚えていない。ポップコーンや飲み物を取る彼女の手に意識が向きすぎて、それどころではなかった。
「ワンチャン手を繋いたりできるんじゃねぇか?オマエ、男見せてこいよ!」
と勇には言われていたが、さすがに無理だった。様々な意味で。ただその言葉があったせいか、その日はずっとミコトの綺麗な手から目が離せなかった。
一度デートに誘うと二回目からは誘うハードルがぐっと低くなり、彼女とは何度も二人で出かけた。カラオケ、ゲームセンター、ボウリング等々。学生ゆえあまり金銭的余裕がなく近場で遊ぶことに終始していたが、四人で遊ぶのと二人で遊ぶのはずいぶんと違った。彼女と昼食や夕食込みのデートとなると話す機会も増え、ぐっと距離が縮まった気がしていた。しかし胸に秘めた思いを告げることはなかった。身構えてはいたものの時機が来ず、二人は「幼なじみ」のままであった。
そうして迎えた今年のバレンタインデー。シンは密かに期待していた。彼女と親密になるための努力は怠らなかった。自ら告白することはできなかったが、もしかすると彼女の方から働きかけがあるかもしれない、と。
「よおシン、首尾はどうよ」
登校時、後ろから馴れ馴れしく話しかけてきた勇にシンは曖昧に笑った。
「うまくいきそうな気がする」
「おー、また報告よろしくな!」
そう言って各々の教室に分かれ、バレンタインの一日が始まった。正直、授業なんてどうでもよかった。
長い一日が終わった頃にはシンはぐったりとしていた。机に突っ伏しそうになったが何とか思い留まる。放課後を知らせるチャイムが鳴ったのを合図に帰り支度をしていると、
「やっほーシン!」
ミコトが足取りも軽く教室に入ってきた。ずき、と心臓が軋むような音を立てた。チョコレートは確実。そう思っているが、その意味合いはいかに。彼女はシンが座る机までやってくると、
「はい、義理チョコ!」
最上級の笑顔を浮かべ、シンに小さな包みを手渡した。ピンク色の包装紙が可愛らしいが、衝撃的な音の連なりが耳を貫いた。
「……義理チョコ?」
硬直したシンがぎこちなく尋ねると、ミコトは不思議そうに首を傾げていた。
「そうだよ?どうしたの、シン」
「……」
今朝感じていた手応えは気のせいだったのか。シンは露骨に肩を落としそうになりながらも、何とか包みを抱え大切にカバンに入れた。
「あー!今年も私と千晶ちゃん以外からチョコもらえなくてがっかりしてるなぁ!?そうでしょ、シン!」
「いや……その……」
放課後の喧騒の中茶化すミコトの声がはっきり聞こえ、シンは泣きそうになった。あれだけ絆を深めたはずなのに。いや、深まっていなかったのか?これは分析及び検証が必要だ。可及的速やかに勇に声をかけなくては。
「私たち以外からチョコもらえないかもって思って、今年はちょっとお高いチョコにしたから!そうがっかりしなさんな、シン」
ぽんぽんと肩を叩いたミコトは、にっこりと笑うと颯爽と教室を出ていった。ああ、他にチョコレートを渡す相手がいるのか聞きそびれた。シンがそう思ったのは、彼女がいなくなりずいぶんと経ってからだった。
「で、どうだったんだよ!」
バレンタインの放課後、腐れ縁の新田勇とファストフード店で成果を報告し合った。二人が提出したチョコレートはピンク色の包装紙のもの一つと、赤い包装紙のもの一つ。月森ミコトのチョコレートと橘千晶のチョコレート二つきりだった。包装紙が全く同じで、同一の店でまとめて買ったものと一目でわかるものだった。
「はっきり言われたよ、義理チョコだって」
シンはテーブルに突っ伏し、シェイクを口にした。冷たく甘い。義理のチョコレート二つという現実のようだ。
「うまくいきそうな気がする、っつってたのに!」
対面の勇は腹を抱えて笑っていた。シンは目尻にうっすら涙が浮かぶのを感じた。拳でこっそり拭い、起き上がる。
「これは……告白しないとどうにもならないみたいだ」
シンはストローを噛みながらぼそりと呟いた。ひーひーと呼吸困難になりそうな勢いで笑っている勇を尻目に、今に見ていろと歯噛みしていた。今度こそ、彼女の心を射止めてやる。シンは飲み干し空になった紙コップをぐしゃりと握りつぶした。
