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クリスマスにはささやかな勇気を
「ねえ、今年は私の部屋でクリスマスパーティーしない?」
期末テストも終わった冬休み前、ミコトからこう提案された。シンをはじめ勇、千晶ともに反対する者はおらず、自動的に開催が決まった。クリスマスパーティーといっても何をするんだとシンが尋ねると、
「そうだねー、ご飯はうちで用意するから、みんなそれぞれクリスマスプレゼントを用意して交換会しようよ!」
とミコトは答えた。こちらの提案にも反対意見はなく、きたる十二月二十五日までにクリスマスプレゼントを用意する運びとなった。高校生の憂鬱なイベントである期末テストを乗り切った体に新たな楽しみが提示され、シンは心躍る心地だった。勇や千晶には言わないが。
かくしてシンは、クリスマスパーティー前の最後の土曜日にショッピングモールにやってきた。クリスマスプレゼントを用意する必要に駆られ、年末近付く浮かれ切ったショッピングモールを彷徨う。
モール内にはいたるところにクリスマスツリーやリースが飾られ、特に一階に置いてある巨大なクリスマスツリーは待ち合わせ場所になっているほど目立つものだった。吹き抜けになっているため二階から見てもツリーの天辺を飾る星が目立つほどだ。シンはパーカーのポケットに両手を突っ込み、歩いていた足を止めた。楕円を描く吹き抜けの二階廊下、一階にあるクリスマスツリー付近には待ち合わせをしている複数人のグループや恋人同士と見られる者たちがいる。シンの周囲も家族連れやカップル等何名かで連れ添って歩く者たちばかりだ。一人で立ち止まったシンは幾許かの孤独を覚えた。
――隣にミコトがいてくれたらいいのに。
ふわりと浮かぶ恋慕を奥歯で噛み締め、シンは喧騒の中再び歩き始めた。黄昏れている場合ではない、クリスマスプレゼントに相応しい品物を探さなくては。
あらかじめどのようなものがいいかは調べていた。季節は冬、男女問わず贈り物として相応しいものといえば、マフラーか手袋といったところか。シンは手頃な雑貨屋に入り、マフラーと手袋を眺めていた。真っ先にミコトの顔が浮かび、くすんだピンク色のマフラーを手に取りぶんぶんと首を横に振った。もしこれを勇が手に取ったらと思うと寒気がする。隣にあったブルーグレーのマフラーを手に取った。これならミコトの首元にあっても勇が身につけてもおかしくないはずだ。
レジに持っていきプレゼント用と告げると、店員はにこりと笑って可愛らしい包装紙を手に取った。緑と赤が鮮やかな、見るからにクリスマスの装いの上等な包装紙だった。ブルーグレーのマフラーが鮮烈な包装紙で包まれ、金色のリボンでさらに豪華な装いになって返ってきた。シンはありがとうございます、と言いつつクリスマスプレゼントを受け取った。これをミコトに直接手渡すような間柄なら、と少しばかり妄想が弾んだ。
そうしてクリスマスプレゼントを手に入れたシンが雑貨屋から出ると、
「あ!間薙くん!」
軽やかな少女の声に呼び止められた。週末の喧騒の中でもくっきり切り取られて聞こえる声、シンが顔を上げると月森ミコトが立っていた。
「ああ、月森。どうしたんだ、こんなとこで」
「それはこっちのセリフだよ!」
可憐な笑顔を浮かべるミコトは、シンの抱えるプレゼントに目を向けた。
「間薙くんもクリスマスプレゼント買いに来たの?」
「ああ、そうだ。月森も買いに来たのか」
「そうだよー!じゃーん!」
ミコトは背中に隠し持っていた小さな箱を見せた。掌より少し大きい程度の緑色の箱に赤いリボンが結ばれている。正直なところ、今この場で喉から手が出るほど欲しかった。シンはごくりと唾を飲んだ。ミコトはシンの様子に気付いているのかいないのか、明るい口調で言った。
「中身が何かは当日までのお楽しみー!よかった、何を買ったか見てなくて」
「そうだな。こういうのは当日になって初めてわかる方がいいからな」
もしもミコトのプレゼントを勇が受け取りでもした場合は後で交換条件を持ち出す必要があるな、とシンは脳内で独りごちた。
ミコトは忙しなく腕時計を確認し、シンに尋ねた。
「ねえ間薙くん、これから用事とかある?」
「いや、ないけど」
「じゃあさ!」
ミコトはぴょこんと飛び跳ねるようにして笑い、身を乗り出した。
「ちょっとお茶でもしない?せっかく外で会ったんだし!」
「ああ、いいな。確か一階にカフェがあったぞ」
「ほんと?じゃあちょっとお茶しよっか!」
千載一遇のチャンス、逃すはずがない。シンは隣にミコトがいる喜びを噛み締めつつカフェへと歩いた。
今年は奇しくも終業式がクリスマス当日だった。シン含め生徒たちは終業式など上の空、午前中に学校が終わると飛び跳ねんばかりに皆喜んでいた。
そうして迎えるクリスマスパーティー。シンがプレゼントを抱えてミコトの家を訪ねると、
「あ、間薙くん!上がって上がって!新田くんと千晶ちゃん、もう来てるよ!」
可愛らしい私服姿のミコトに出迎えられ、口元がだらしなく緩みそうになった。
通されたミコトの部屋はベッドにこたつ、学習机とシンプルながら置いてある小物類が可愛らしい、女子高生らしい部屋だった。少し緊張したシンが息を吸うと、こたつの上に置かれた豪勢な食事の匂いが鼻腔をくすぐった。ああ、腹が減った。
「おうシン、遅かったな!」
「待ちくたびれたわ」
勇と千晶はこたつに足を突っ込み自分の部屋かと言わんばかりに寛いでおり、シンは少しばかり笑ってしまった。斜め右側にミコトがいる席に座ることになり、私服姿のミコトをじっくりと眺めることができるいい席だ、とこっそり喜んだ。
「じゃあみんな揃ったし、クリスマスパーティー始めましょ!」
ミコトの弾けるような声とともに、今年のクリスマスパーティーが始まった。
ローストチキンやクリスマスケーキ、ワインを模した炭酸飲料を飲んだりして過ごしているうちに、プレゼント交換の時間がやってきた。じゃんけんで勝った者から好きなプレゼントを選ぶという至極単純な方法だった。シンはミコトのプレゼント以外眼中になく、おそらく今年最後のじゃんけんにここぞとばかり気合いを入れて臨んだ。結果見事一番最初に勝ち抜け、ミコトのプレゼントを選ぶことができた。掌より少し大きい程度の小ぶりな緑色の箱を持ったシンは、今日一番の目的を果たすことができたとガッツポーズを取りたい気分だった。勇や千晶に揶揄われるのでそんなことはしなかったが。
こたつの上の料理が大方なくなってきた頃、シンは急激に眠くなっていた。かくいう勇は真っ先にこたつの熱に当てられて眠りこんでおり、
「うう……そんなに食べらんねーよ……」
と寝言を言いながらすやすやと寝息を立てていた。千晶は呑気な寝顔を見せる勇に呆れ返り、
「もう、勇くんったら。叩き起こしてやろうかしら」
と苦言を呈していた。ミコトはくすくすと笑い、
「千晶ちゃん、寝かせてあげようよ。でもこのままじゃ風邪引いちゃうね、膝掛けかけてあげよっか」
学習机の椅子にかけていた膝掛けを勇にそっとかけてやっていた。その様子を見ながらオレも寝こけたらミコトに気遣ってもらえるだろうか、などと寝ぼけたことを考えシンはあくびをした。
「あらシンくん、あなたも眠そうね」
対面にいる千晶に呆れた様子で言われ、ますます眠気が強くなってきた。シンは生あくびを噛み殺しつつ、
「ああ……こたつ、あったかいからな」
なんとか答えた。その声はふわふわと軽く、普段の芯のある声からは想像もできないものだった。斜め右側にいるミコトはふふ、と可笑しそうに笑っていた。
「間薙くん、眠かったら寝てもいいよ。ちゃんと起こしてあげるから」
「…………」
その可愛らしい笑顔に、できればお前の膝枕がいいなどと寝言が浮かんだが、対面に千晶がいることを思い出しなんとか喉の奥に引っ込めた。もしも二人きりだったら言ってたな、と思いながらシンはごろりと寝転がった。その瞬間瞼が重くなり、自然とシンは目を閉じまどろんでいた。
「それで……どうなの?」
ぽわぽわとしたシンの意識に千晶の声が聞こえた。肩のあたりにふわふわと柔らかくあたたかいものがかかっている。ミコトが膝掛けでもかけてくれたのだろうか。そう思いシンが目を開けようとした瞬間、
「間薙くんのこと?」
ミコトの声が聞こえ、シンは反射的にぎゅっと目を閉じた。瞼の裏の暗闇の中で現在の状況を把握しようと耳を澄ませた。
四角いこたつの左斜め前は勇がいた。すうすうと寝息が聞こえる、おそらく彼はまだ夢の中だ。右斜め前にはミコトがいる、千晶と何ごとか話しているらしい。
「そう。あなたシンくんが好きって言ってたじゃない」
唐突に聞こえた千晶の言葉に、びくっとシンの体が竦んだ。半分寝ていた脳みそがバチッと目覚めるのを感じた。シンは息を潜め寝たふりを続けながら女子二人の会話に耳を澄ませた。ミコトがふう、と息を吐きながら言った。
「うん……でも特に進展はないかなー」
「進展なしなの?」
「うん」
はぁ、と千晶の深いため息が響いた。とんとんと指先でこたつを叩くような音が聞こえる。
「あ、でも千晶ちゃん!この前クリスマスプレゼント買いに行ったら間薙くんがいてさ!ちょっとお茶したんだよ!」
「え、何それ。初耳ね」
「これ千晶ちゃんには言ってなかったかもね」
「それで?告白したとか、そういうことはないの?」
「ないよ。単にお茶しただけ」
「はぁー……」
再度千晶の深い深いため息が聞こえた。呆れの色濃いため息だった。あ、でも、とミコトの慌てる声が聞こえる。
「学校の外で間薙くんと会って話すなんて、初めてだよ。進展したかな?どう、千晶ちゃん」
「ミコトから誘ってデートした、とかならともかく、たまたま会っただけでしょう?進展とは少し違うんじゃないかしら」
「そっかー……」
ミコトの声のトーンが急激に下がるのを感じた。学校以外で会うことなんかなかったから進展だぞ、とシンは誰にも届かない脳内で補完した。千晶の気怠い声が響く。
「それにしてもじれったいわね。デートに誘うくらいやってみたらいいじゃない。シンくんなら付き合ってくれそうだけど」
「デート?いきなり二人っきりでデートなんてハードル高いよー!」
赤面でもしていそうな高いミコトの声に、いやお前から誘われたら一瞬でついていくぞ、とこれまたシンは脳内で補完した。シンは相変わらず狸寝入りを続けている。盗み聞きが誠実な振る舞いでないことは重々承知しているが、起きる理由がなかった。
「そうね……じゃあせめて一緒に帰るところから始めてみたら……って、今日から冬休みなのよね……」
困った口調の千晶に、ミコトはぽつりと返した。
「……やっぱりデート、誘った方がいいかな」
「そうね。そうしなさい」
こたつのぬくもりを感じながら、シンは覚悟とともにぎゅっと拳を握りしめた。彼女の勇気ある行動を待つべきか、それとも自ら一歩を踏み出すべきか決断すべきときが来ているようだった。
クリスマスパーティーが終わり、年の瀬の忙しい頃。間薙シンは灰色の手袋をつけて駅で待ち合わせをしていた。吐いた息は白く、相手が来るまで待つのは寒いが今日ばかりは苦にならなかった。
「あ!間薙くん、お待たせ!」
行き交う雑踏の中、月森ミコトが駆けてくるのが見えた。彼女の首にはブルーグレーのマフラーが巻かれている。
「いや、大して待ってない。さっき来たばかりだから」
「本当?でも待たせちゃったね、ごめんね」
待ち合わせの定番のセリフを言いつつ、シンはミコトを改めて眺めた。クリスマスパーティーのときに見納めかと思っていた彼女の私服姿。可愛い。さすがに今日が本当に今年の見納めになるだろう。
「あ、間薙くん、私のクリスマスプレゼントつけてくれたんだね」
ミコトがシンの灰色の手袋を見て嬉しそうに言った。シンは彼女に手が見えるようにし、
「ああ、寒いからな。遠慮なく使わせてもらってる。月森もオレのプレゼント、使ってくれてるんだな」
「うん!私だったら買わない色だから重宝してる」
ブルーグレーは地味すぎないかと思ったが、意外にも彼女の大人びた側面を引き出し似合っていた。シンはほっと一息ついた。自身が頭を悩ませたものを思い人が使ってくれるなんて、単純に嬉しいところだ。
「じゃあ行くか」
「そうだね!」
二人で寄り添い師走の街を歩いていく。このデートでもっと距離を詰められたら。なんてシンは甘い考えに浸っていた。
「ねえ、今年は私の部屋でクリスマスパーティーしない?」
期末テストも終わった冬休み前、ミコトからこう提案された。シンをはじめ勇、千晶ともに反対する者はおらず、自動的に開催が決まった。クリスマスパーティーといっても何をするんだとシンが尋ねると、
「そうだねー、ご飯はうちで用意するから、みんなそれぞれクリスマスプレゼントを用意して交換会しようよ!」
とミコトは答えた。こちらの提案にも反対意見はなく、きたる十二月二十五日までにクリスマスプレゼントを用意する運びとなった。高校生の憂鬱なイベントである期末テストを乗り切った体に新たな楽しみが提示され、シンは心躍る心地だった。勇や千晶には言わないが。
かくしてシンは、クリスマスパーティー前の最後の土曜日にショッピングモールにやってきた。クリスマスプレゼントを用意する必要に駆られ、年末近付く浮かれ切ったショッピングモールを彷徨う。
モール内にはいたるところにクリスマスツリーやリースが飾られ、特に一階に置いてある巨大なクリスマスツリーは待ち合わせ場所になっているほど目立つものだった。吹き抜けになっているため二階から見てもツリーの天辺を飾る星が目立つほどだ。シンはパーカーのポケットに両手を突っ込み、歩いていた足を止めた。楕円を描く吹き抜けの二階廊下、一階にあるクリスマスツリー付近には待ち合わせをしている複数人のグループや恋人同士と見られる者たちがいる。シンの周囲も家族連れやカップル等何名かで連れ添って歩く者たちばかりだ。一人で立ち止まったシンは幾許かの孤独を覚えた。
――隣にミコトがいてくれたらいいのに。
ふわりと浮かぶ恋慕を奥歯で噛み締め、シンは喧騒の中再び歩き始めた。黄昏れている場合ではない、クリスマスプレゼントに相応しい品物を探さなくては。
あらかじめどのようなものがいいかは調べていた。季節は冬、男女問わず贈り物として相応しいものといえば、マフラーか手袋といったところか。シンは手頃な雑貨屋に入り、マフラーと手袋を眺めていた。真っ先にミコトの顔が浮かび、くすんだピンク色のマフラーを手に取りぶんぶんと首を横に振った。もしこれを勇が手に取ったらと思うと寒気がする。隣にあったブルーグレーのマフラーを手に取った。これならミコトの首元にあっても勇が身につけてもおかしくないはずだ。
レジに持っていきプレゼント用と告げると、店員はにこりと笑って可愛らしい包装紙を手に取った。緑と赤が鮮やかな、見るからにクリスマスの装いの上等な包装紙だった。ブルーグレーのマフラーが鮮烈な包装紙で包まれ、金色のリボンでさらに豪華な装いになって返ってきた。シンはありがとうございます、と言いつつクリスマスプレゼントを受け取った。これをミコトに直接手渡すような間柄なら、と少しばかり妄想が弾んだ。
そうしてクリスマスプレゼントを手に入れたシンが雑貨屋から出ると、
「あ!間薙くん!」
軽やかな少女の声に呼び止められた。週末の喧騒の中でもくっきり切り取られて聞こえる声、シンが顔を上げると月森ミコトが立っていた。
「ああ、月森。どうしたんだ、こんなとこで」
「それはこっちのセリフだよ!」
可憐な笑顔を浮かべるミコトは、シンの抱えるプレゼントに目を向けた。
「間薙くんもクリスマスプレゼント買いに来たの?」
「ああ、そうだ。月森も買いに来たのか」
「そうだよー!じゃーん!」
ミコトは背中に隠し持っていた小さな箱を見せた。掌より少し大きい程度の緑色の箱に赤いリボンが結ばれている。正直なところ、今この場で喉から手が出るほど欲しかった。シンはごくりと唾を飲んだ。ミコトはシンの様子に気付いているのかいないのか、明るい口調で言った。
「中身が何かは当日までのお楽しみー!よかった、何を買ったか見てなくて」
「そうだな。こういうのは当日になって初めてわかる方がいいからな」
もしもミコトのプレゼントを勇が受け取りでもした場合は後で交換条件を持ち出す必要があるな、とシンは脳内で独りごちた。
ミコトは忙しなく腕時計を確認し、シンに尋ねた。
「ねえ間薙くん、これから用事とかある?」
「いや、ないけど」
「じゃあさ!」
ミコトはぴょこんと飛び跳ねるようにして笑い、身を乗り出した。
「ちょっとお茶でもしない?せっかく外で会ったんだし!」
「ああ、いいな。確か一階にカフェがあったぞ」
「ほんと?じゃあちょっとお茶しよっか!」
千載一遇のチャンス、逃すはずがない。シンは隣にミコトがいる喜びを噛み締めつつカフェへと歩いた。
今年は奇しくも終業式がクリスマス当日だった。シン含め生徒たちは終業式など上の空、午前中に学校が終わると飛び跳ねんばかりに皆喜んでいた。
そうして迎えるクリスマスパーティー。シンがプレゼントを抱えてミコトの家を訪ねると、
「あ、間薙くん!上がって上がって!新田くんと千晶ちゃん、もう来てるよ!」
可愛らしい私服姿のミコトに出迎えられ、口元がだらしなく緩みそうになった。
通されたミコトの部屋はベッドにこたつ、学習机とシンプルながら置いてある小物類が可愛らしい、女子高生らしい部屋だった。少し緊張したシンが息を吸うと、こたつの上に置かれた豪勢な食事の匂いが鼻腔をくすぐった。ああ、腹が減った。
「おうシン、遅かったな!」
「待ちくたびれたわ」
勇と千晶はこたつに足を突っ込み自分の部屋かと言わんばかりに寛いでおり、シンは少しばかり笑ってしまった。斜め右側にミコトがいる席に座ることになり、私服姿のミコトをじっくりと眺めることができるいい席だ、とこっそり喜んだ。
「じゃあみんな揃ったし、クリスマスパーティー始めましょ!」
ミコトの弾けるような声とともに、今年のクリスマスパーティーが始まった。
ローストチキンやクリスマスケーキ、ワインを模した炭酸飲料を飲んだりして過ごしているうちに、プレゼント交換の時間がやってきた。じゃんけんで勝った者から好きなプレゼントを選ぶという至極単純な方法だった。シンはミコトのプレゼント以外眼中になく、おそらく今年最後のじゃんけんにここぞとばかり気合いを入れて臨んだ。結果見事一番最初に勝ち抜け、ミコトのプレゼントを選ぶことができた。掌より少し大きい程度の小ぶりな緑色の箱を持ったシンは、今日一番の目的を果たすことができたとガッツポーズを取りたい気分だった。勇や千晶に揶揄われるのでそんなことはしなかったが。
こたつの上の料理が大方なくなってきた頃、シンは急激に眠くなっていた。かくいう勇は真っ先にこたつの熱に当てられて眠りこんでおり、
「うう……そんなに食べらんねーよ……」
と寝言を言いながらすやすやと寝息を立てていた。千晶は呑気な寝顔を見せる勇に呆れ返り、
「もう、勇くんったら。叩き起こしてやろうかしら」
と苦言を呈していた。ミコトはくすくすと笑い、
「千晶ちゃん、寝かせてあげようよ。でもこのままじゃ風邪引いちゃうね、膝掛けかけてあげよっか」
学習机の椅子にかけていた膝掛けを勇にそっとかけてやっていた。その様子を見ながらオレも寝こけたらミコトに気遣ってもらえるだろうか、などと寝ぼけたことを考えシンはあくびをした。
「あらシンくん、あなたも眠そうね」
対面にいる千晶に呆れた様子で言われ、ますます眠気が強くなってきた。シンは生あくびを噛み殺しつつ、
「ああ……こたつ、あったかいからな」
なんとか答えた。その声はふわふわと軽く、普段の芯のある声からは想像もできないものだった。斜め右側にいるミコトはふふ、と可笑しそうに笑っていた。
「間薙くん、眠かったら寝てもいいよ。ちゃんと起こしてあげるから」
「…………」
その可愛らしい笑顔に、できればお前の膝枕がいいなどと寝言が浮かんだが、対面に千晶がいることを思い出しなんとか喉の奥に引っ込めた。もしも二人きりだったら言ってたな、と思いながらシンはごろりと寝転がった。その瞬間瞼が重くなり、自然とシンは目を閉じまどろんでいた。
「それで……どうなの?」
ぽわぽわとしたシンの意識に千晶の声が聞こえた。肩のあたりにふわふわと柔らかくあたたかいものがかかっている。ミコトが膝掛けでもかけてくれたのだろうか。そう思いシンが目を開けようとした瞬間、
「間薙くんのこと?」
ミコトの声が聞こえ、シンは反射的にぎゅっと目を閉じた。瞼の裏の暗闇の中で現在の状況を把握しようと耳を澄ませた。
四角いこたつの左斜め前は勇がいた。すうすうと寝息が聞こえる、おそらく彼はまだ夢の中だ。右斜め前にはミコトがいる、千晶と何ごとか話しているらしい。
「そう。あなたシンくんが好きって言ってたじゃない」
唐突に聞こえた千晶の言葉に、びくっとシンの体が竦んだ。半分寝ていた脳みそがバチッと目覚めるのを感じた。シンは息を潜め寝たふりを続けながら女子二人の会話に耳を澄ませた。ミコトがふう、と息を吐きながら言った。
「うん……でも特に進展はないかなー」
「進展なしなの?」
「うん」
はぁ、と千晶の深いため息が響いた。とんとんと指先でこたつを叩くような音が聞こえる。
「あ、でも千晶ちゃん!この前クリスマスプレゼント買いに行ったら間薙くんがいてさ!ちょっとお茶したんだよ!」
「え、何それ。初耳ね」
「これ千晶ちゃんには言ってなかったかもね」
「それで?告白したとか、そういうことはないの?」
「ないよ。単にお茶しただけ」
「はぁー……」
再度千晶の深い深いため息が聞こえた。呆れの色濃いため息だった。あ、でも、とミコトの慌てる声が聞こえる。
「学校の外で間薙くんと会って話すなんて、初めてだよ。進展したかな?どう、千晶ちゃん」
「ミコトから誘ってデートした、とかならともかく、たまたま会っただけでしょう?進展とは少し違うんじゃないかしら」
「そっかー……」
ミコトの声のトーンが急激に下がるのを感じた。学校以外で会うことなんかなかったから進展だぞ、とシンは誰にも届かない脳内で補完した。千晶の気怠い声が響く。
「それにしてもじれったいわね。デートに誘うくらいやってみたらいいじゃない。シンくんなら付き合ってくれそうだけど」
「デート?いきなり二人っきりでデートなんてハードル高いよー!」
赤面でもしていそうな高いミコトの声に、いやお前から誘われたら一瞬でついていくぞ、とこれまたシンは脳内で補完した。シンは相変わらず狸寝入りを続けている。盗み聞きが誠実な振る舞いでないことは重々承知しているが、起きる理由がなかった。
「そうね……じゃあせめて一緒に帰るところから始めてみたら……って、今日から冬休みなのよね……」
困った口調の千晶に、ミコトはぽつりと返した。
「……やっぱりデート、誘った方がいいかな」
「そうね。そうしなさい」
こたつのぬくもりを感じながら、シンは覚悟とともにぎゅっと拳を握りしめた。彼女の勇気ある行動を待つべきか、それとも自ら一歩を踏み出すべきか決断すべきときが来ているようだった。
クリスマスパーティーが終わり、年の瀬の忙しい頃。間薙シンは灰色の手袋をつけて駅で待ち合わせをしていた。吐いた息は白く、相手が来るまで待つのは寒いが今日ばかりは苦にならなかった。
「あ!間薙くん、お待たせ!」
行き交う雑踏の中、月森ミコトが駆けてくるのが見えた。彼女の首にはブルーグレーのマフラーが巻かれている。
「いや、大して待ってない。さっき来たばかりだから」
「本当?でも待たせちゃったね、ごめんね」
待ち合わせの定番のセリフを言いつつ、シンはミコトを改めて眺めた。クリスマスパーティーのときに見納めかと思っていた彼女の私服姿。可愛い。さすがに今日が本当に今年の見納めになるだろう。
「あ、間薙くん、私のクリスマスプレゼントつけてくれたんだね」
ミコトがシンの灰色の手袋を見て嬉しそうに言った。シンは彼女に手が見えるようにし、
「ああ、寒いからな。遠慮なく使わせてもらってる。月森もオレのプレゼント、使ってくれてるんだな」
「うん!私だったら買わない色だから重宝してる」
ブルーグレーは地味すぎないかと思ったが、意外にも彼女の大人びた側面を引き出し似合っていた。シンはほっと一息ついた。自身が頭を悩ませたものを思い人が使ってくれるなんて、単純に嬉しいところだ。
「じゃあ行くか」
「そうだね!」
二人で寄り添い師走の街を歩いていく。このデートでもっと距離を詰められたら。なんてシンは甘い考えに浸っていた。
