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A cup of coffee,please?
ブラックコーヒーが好きだ。間薙シンは今日も家でドリップコーヒーを淹れ香りを楽しんでいた。
「えー!シンってブラックコーヒー飲めるの!?私も飲めるようになりたい!かっこつけたい!」
コーヒーを淹れるたびにミコトの言葉が蘇る。シンは単純にブラックコーヒーの香りや味が好きなだけで、かっこつけているわけではないのだが。そう言うと、
「そうなの?でもブラックコーヒー飲めるってなんかかっこいいじゃん!」
と興奮した様子の彼女に言われた。彼女の感性はいまいち理解できないが、「かっこいい」と言われて悪い気はしない。それ以降、ブラックコーヒーを飲むたびにシンはミコトを思い出し笑みを零すようになっていた。
「シンもブラックコーヒー飲めるようになったの、最近なんでしょ?じゃあどうやったら飲めるようになるのか教えて!私もブラック飲めるようになりたい!」
とミコトに乞われ、彼女のブラックコーヒーを飲む練習に付き合うことになった。面倒なことに巻き込まれたという諦念と彼女と一緒に過ごす時間が増えるという喜び。砂糖をたっぷり入れたコーヒーみたいだな、なんて思いながらシンはブラックコーヒーを口にしていた。
「まあまずは、砂糖や牛乳をちょっとずつ減らしていくところからじゃないか」
シンの提案はいたってシンプル。喫茶店のテーブルについたミコトは、黒いコーヒーの水面を至極真面目な顔で見つめていた。
「ギリギリのラインを見極めろってことね?難しいな……」
ぶつぶつと言いながら牛乳や砂糖を少しずつ足し、スプーンで混ぜて味見する。ミコトはんー!と言いながらぎゅっと目を閉じた。
「にっが!これは無理!」
「じゃあもうちょっと足せ。ほら」
砂糖の入った容器と牛乳をそっと差し出す。うう、とミコトは唸りながらまた砂糖と牛乳を足していく。ふと見つめたミコトのコーヒーは牛乳を足したとはいえ茶色より黒色に近く、ずいぶんと背伸びをしたようだ。普段彼女が飲んでいるのはカフェオレ色のコーヒーだというのに。
「無理しすぎだ。急に量を減らしたら無理に決まってる」
シンが助言すると、ミコトはキッとシンを睨んだ直後シュンと肩を落とした。
「ううー……本当そのとおりです……私が甘かったです……」
見通しの甘さを認めながらコーヒーに砂糖を加える彼女は何かのギャグなのだろうか。シンはふ、と笑ってしまった。ミコトはシンを指差し、キリッと睨みつけた。
「あー!あーあーあー!自分がブラック飲めるからってその態度!スカしちゃってー!」
「スカしてない……ちょっと面白かっただけだ」
喚く彼女を見ながら飲んだブラックコーヒーは、少し酸味が強いような気がした。これはこれで美味いからいいのだけれど。シンはまた笑いそうになるのを何とか堪えた。彼女を見ていると笑いが尽きない、本当に飽きない存在だった。
「ねぇシン!これ見て!」
ある日の放課後の帰り道、ミコトがスマートフォンの画面を見せてきた。彼女の声は高く弾んでおり、何かいいことでもあったのだろうかとシンは画面を見た。
レトロで雰囲気のある内装の店と店名が書かれ、大きく「ケーキビュッフェ」と書いてあった。九十分制で主にケーキ等スイーツと軽食が楽しめるバイキング……否、ビュッフェらしい。画面をスクロールすると「こだわりのコーヒーや紅茶とともに」と書かれていた。彼女が何を言いたいのかすぐに察した。
「ケーキの食べ放題か。行ってみたいのか?」
シンが尋ねると、ミコトはキラキラした目で大きく頷いた。
「ケーキとコーヒーって合うっていうじゃん!これなら私もブラックコーヒー飲めるかも!」
鼻息荒く話す彼女にシンは苦笑いを零しながら、可愛らしいケーキが並ぶ写真を見て少し気持ち悪くなっていた。軽食があると書いてあるのだから、甘いもの以外にも料理はあるだろうか。それなら何とか付き添ってもいいか。と思っていると、
「シン、来週の土日に行こうよ!予約は私がしておくから!」
と彼女は身を乗り出してくる。その目には星が浮かび、そんな彼女の提案を断るという選択肢は存在しなかった。彼女がコーヒーと格闘するところも見てみたいし。
「じゃあ来週行ってみるか」
そう自然に返すと、やったー!とミコトは拳を天に突き上げていた。
「わー、すっごいねシン!いっぱいケーキがあるよ!」
彼女と約束した日、シンは件のケーキビュッフェを訪れていた。ミコトが言うとおり、一口サイズの可愛らしいケーキが所狭しと並び、プリンや杏仁豆腐といったケーキ以外のスイーツも充実していた。隅の方には思い出したようにサンドイッチやパスタなど塩辛い料理が置かれている。甘いものだけでなくほっとしたシンが店内を見渡すと女性ばかり、慣れない華やかな雰囲気と甘く濃厚な香りに酔いそうになった。
「種類が多いな。これは飽きなさそうだ」
「見て見てシン!コーヒーマシンもあるよ!」
ケーキや料理を取り分け席についた彼女は、とりわけ存在感のあるエスプレッソマシンを指差した。誰かがボタンを押すたびにスチームが沸き上がり、コーヒーの香りが漂う。ドリップコーヒーを淹れているシンとしては興味深いものだった。
「へー、すごいな。行ってみるか」
「うん!」
それぞれカップを持ち、二人でエスプレッソマシンを眺めた。ブレンドコーヒーからカプチーノ、エスプレッソ、カフェインレスコーヒーまである。シンはとりあえず無難なブレンドコーヒーを淹れてみた。コポポ、と音を立てて溢れた黒い液体は香り高く、いいコーヒーだなとシンの顔は綻んだ。
「ねえねえシンせんせー、おすすめとかない?」
「そうだな……」
くいくいとシンの服の袖を引っ張る彼女は子供のようで見ていて和む。シンは顎に手を当て思案した。そういえばブラックコーヒーが飲めない頃はカプチーノの泡で誤魔化していた気がする。
「カプチーノとかいいんじゃないか。ミルクの泡でだいぶ飲みやすくなるぞ」
「そうなんだ!じゃあシンせんせーのおすすめ飲んでみる!」
ニコニコと笑って彼女はカプチーノのボタンを押した。ぶしゅうぅ、と音を立てて蒸気が舞い上がり、コーヒーとミルクの泡が混じった液体が溢れた。おおー、と声を上げながら様子を見つめる彼女は未知の体験に心躍る子供のようで可愛らしい。
二人はカップを持ちテーブルに戻った。彼女の席にはバラエティ豊かなケーキの皿とカプチーノ、シンの席にはサンドイッチ等軽食とブレンドコーヒー。いただきますと口にして、二人は食事を始めた。彼女は無謀にも砂糖を入れずにカプチーノを口にした。彼女の唇が白い泡で縁取られ、ミコトは目を丸くした。
「わ、美味しい!これなら砂糖がなくても飲めちゃう!」
「ケーキとも合うんじゃないか」
シンの助言に従い、ケーキを口にした後カプチーノを嗜んだ。彼女は数秒ゆったりと味わった後、大袈裟に何度も頷いてみせた。
「んー……うんうんうん、美味しい!でもちょっと脂っこいというか、しつこいかもね」
「そうか」
色々なケーキを食べつつカプチーノを楽しむ彼女は、普段の子供っぽさが少し引っ込み大人に見えなくもない。シンはサンドイッチにかぶり付き、甘味を楽しむ彼女を微笑ましく見守っていた。
「シン、カプチーノのこと教えてくれてありがとう!すごく美味しいよ!」
カップを持って笑った彼女の口元には白い泡がついたままだった。シンはミコトの口元を指差し苦笑した。
「泡、ついてるぞ」
「え、どこどこ?」
「拭いてやる」
紙ナプキンを手に取ると、シンは身を乗り出しそっと彼女の口元を拭ってやった。泡が消えた彼女は顔を赤らめ、
「あ、ありがとう。ごめんね、子供っぽくて」
と言いつつ慎重にカプチーノを飲む。今度は泡がついていなかった。
「ケーキとコーヒーって合うんだね。これならブラックも飲めちゃうかも!?ちょっと待ってて、シン!」
彼女は意気込むとエスプレッソマシンに走っていった。そんな慌てると転ぶぞ、などと反射的に思った後、これじゃ親みたいだな、とシンは呆れつつため息をついた。
「よーし!ブレンドコーヒー淹れてきたよ!」
戻ってきた彼女のカップには真っ黒の液体、嗅ぎ慣れたコーヒーの香り。普段のミコトなら間違いなく飲まない、まごうことなきブラックコーヒーだった。彼女はショートケーキを一口食べた後、コーヒーを一口啜った。その瞬間、彼女の表情が明るく輝いた。
「うわあ、すごく美味しい!」
「ブラック、飲めたな」
「うんうん!ケーキがなくても飲めちゃったりして!」
調子に乗ったミコトはコーヒーをもう一口。こくんと飲み込んだ瞬間、彼女の顔がわかりやすく曇った。
「…………コーヒー単体では無理みたい」
「そうか、まあ無理するな」
シンはコーヒーの香りを楽しみながらミコトの様子を観察していた。スイーツとコーヒーを交互に嗜む彼女は忙しないが、ほぅと吐いた息はブラックコーヒーの香りが漂い大人の空気。普段の彼女とはまた違う雰囲気で、シンは自然と微笑んでいた。彼の飲むコーヒーは変わらずブラック、鋭い苦味と微かな酸味が心地よい。
「あれ、そういえばシン、ケーキ全然食べてないね。……もしかして、甘いもの苦手だったりする?」
ミコトの言うとおり、彼の皿はサンドイッチやサラダで埋まり、スイーツはほんのひとかけらしかなかった。もっぱら塩辛いものばかり食べ、甘味のないコーヒーを飲んでいる。さてどう誤魔化したものかと思案したが、うまい言い方が思いつかない。シンは早々に降参し、素直に呟いた。
「ああ、まあ……あまり得意ではないな」
「え、そうなの!?うわ、ごめん……」
露骨にしょんぼりと俯く彼女に、シンは首を横に振った。
「甘いものだけじゃないから何も食べられないわけじゃなし、オレもわかったうえで来た。だから気にするな」
「うん……」
「お前もブラックコーヒーを飲めるようになったみたいだし、それでいいじゃないか」
コーヒーの香りが混じったシンの言葉に嘘偽りなかった。頬杖をつきミコトを見守るシンの口元は優しく綻んでいた。
ブラックコーヒーが好きだ。間薙シンは今日も家でドリップコーヒーを淹れ香りを楽しんでいた。
「えー!シンってブラックコーヒー飲めるの!?私も飲めるようになりたい!かっこつけたい!」
コーヒーを淹れるたびにミコトの言葉が蘇る。シンは単純にブラックコーヒーの香りや味が好きなだけで、かっこつけているわけではないのだが。そう言うと、
「そうなの?でもブラックコーヒー飲めるってなんかかっこいいじゃん!」
と興奮した様子の彼女に言われた。彼女の感性はいまいち理解できないが、「かっこいい」と言われて悪い気はしない。それ以降、ブラックコーヒーを飲むたびにシンはミコトを思い出し笑みを零すようになっていた。
「シンもブラックコーヒー飲めるようになったの、最近なんでしょ?じゃあどうやったら飲めるようになるのか教えて!私もブラック飲めるようになりたい!」
とミコトに乞われ、彼女のブラックコーヒーを飲む練習に付き合うことになった。面倒なことに巻き込まれたという諦念と彼女と一緒に過ごす時間が増えるという喜び。砂糖をたっぷり入れたコーヒーみたいだな、なんて思いながらシンはブラックコーヒーを口にしていた。
「まあまずは、砂糖や牛乳をちょっとずつ減らしていくところからじゃないか」
シンの提案はいたってシンプル。喫茶店のテーブルについたミコトは、黒いコーヒーの水面を至極真面目な顔で見つめていた。
「ギリギリのラインを見極めろってことね?難しいな……」
ぶつぶつと言いながら牛乳や砂糖を少しずつ足し、スプーンで混ぜて味見する。ミコトはんー!と言いながらぎゅっと目を閉じた。
「にっが!これは無理!」
「じゃあもうちょっと足せ。ほら」
砂糖の入った容器と牛乳をそっと差し出す。うう、とミコトは唸りながらまた砂糖と牛乳を足していく。ふと見つめたミコトのコーヒーは牛乳を足したとはいえ茶色より黒色に近く、ずいぶんと背伸びをしたようだ。普段彼女が飲んでいるのはカフェオレ色のコーヒーだというのに。
「無理しすぎだ。急に量を減らしたら無理に決まってる」
シンが助言すると、ミコトはキッとシンを睨んだ直後シュンと肩を落とした。
「ううー……本当そのとおりです……私が甘かったです……」
見通しの甘さを認めながらコーヒーに砂糖を加える彼女は何かのギャグなのだろうか。シンはふ、と笑ってしまった。ミコトはシンを指差し、キリッと睨みつけた。
「あー!あーあーあー!自分がブラック飲めるからってその態度!スカしちゃってー!」
「スカしてない……ちょっと面白かっただけだ」
喚く彼女を見ながら飲んだブラックコーヒーは、少し酸味が強いような気がした。これはこれで美味いからいいのだけれど。シンはまた笑いそうになるのを何とか堪えた。彼女を見ていると笑いが尽きない、本当に飽きない存在だった。
「ねぇシン!これ見て!」
ある日の放課後の帰り道、ミコトがスマートフォンの画面を見せてきた。彼女の声は高く弾んでおり、何かいいことでもあったのだろうかとシンは画面を見た。
レトロで雰囲気のある内装の店と店名が書かれ、大きく「ケーキビュッフェ」と書いてあった。九十分制で主にケーキ等スイーツと軽食が楽しめるバイキング……否、ビュッフェらしい。画面をスクロールすると「こだわりのコーヒーや紅茶とともに」と書かれていた。彼女が何を言いたいのかすぐに察した。
「ケーキの食べ放題か。行ってみたいのか?」
シンが尋ねると、ミコトはキラキラした目で大きく頷いた。
「ケーキとコーヒーって合うっていうじゃん!これなら私もブラックコーヒー飲めるかも!」
鼻息荒く話す彼女にシンは苦笑いを零しながら、可愛らしいケーキが並ぶ写真を見て少し気持ち悪くなっていた。軽食があると書いてあるのだから、甘いもの以外にも料理はあるだろうか。それなら何とか付き添ってもいいか。と思っていると、
「シン、来週の土日に行こうよ!予約は私がしておくから!」
と彼女は身を乗り出してくる。その目には星が浮かび、そんな彼女の提案を断るという選択肢は存在しなかった。彼女がコーヒーと格闘するところも見てみたいし。
「じゃあ来週行ってみるか」
そう自然に返すと、やったー!とミコトは拳を天に突き上げていた。
「わー、すっごいねシン!いっぱいケーキがあるよ!」
彼女と約束した日、シンは件のケーキビュッフェを訪れていた。ミコトが言うとおり、一口サイズの可愛らしいケーキが所狭しと並び、プリンや杏仁豆腐といったケーキ以外のスイーツも充実していた。隅の方には思い出したようにサンドイッチやパスタなど塩辛い料理が置かれている。甘いものだけでなくほっとしたシンが店内を見渡すと女性ばかり、慣れない華やかな雰囲気と甘く濃厚な香りに酔いそうになった。
「種類が多いな。これは飽きなさそうだ」
「見て見てシン!コーヒーマシンもあるよ!」
ケーキや料理を取り分け席についた彼女は、とりわけ存在感のあるエスプレッソマシンを指差した。誰かがボタンを押すたびにスチームが沸き上がり、コーヒーの香りが漂う。ドリップコーヒーを淹れているシンとしては興味深いものだった。
「へー、すごいな。行ってみるか」
「うん!」
それぞれカップを持ち、二人でエスプレッソマシンを眺めた。ブレンドコーヒーからカプチーノ、エスプレッソ、カフェインレスコーヒーまである。シンはとりあえず無難なブレンドコーヒーを淹れてみた。コポポ、と音を立てて溢れた黒い液体は香り高く、いいコーヒーだなとシンの顔は綻んだ。
「ねえねえシンせんせー、おすすめとかない?」
「そうだな……」
くいくいとシンの服の袖を引っ張る彼女は子供のようで見ていて和む。シンは顎に手を当て思案した。そういえばブラックコーヒーが飲めない頃はカプチーノの泡で誤魔化していた気がする。
「カプチーノとかいいんじゃないか。ミルクの泡でだいぶ飲みやすくなるぞ」
「そうなんだ!じゃあシンせんせーのおすすめ飲んでみる!」
ニコニコと笑って彼女はカプチーノのボタンを押した。ぶしゅうぅ、と音を立てて蒸気が舞い上がり、コーヒーとミルクの泡が混じった液体が溢れた。おおー、と声を上げながら様子を見つめる彼女は未知の体験に心躍る子供のようで可愛らしい。
二人はカップを持ちテーブルに戻った。彼女の席にはバラエティ豊かなケーキの皿とカプチーノ、シンの席にはサンドイッチ等軽食とブレンドコーヒー。いただきますと口にして、二人は食事を始めた。彼女は無謀にも砂糖を入れずにカプチーノを口にした。彼女の唇が白い泡で縁取られ、ミコトは目を丸くした。
「わ、美味しい!これなら砂糖がなくても飲めちゃう!」
「ケーキとも合うんじゃないか」
シンの助言に従い、ケーキを口にした後カプチーノを嗜んだ。彼女は数秒ゆったりと味わった後、大袈裟に何度も頷いてみせた。
「んー……うんうんうん、美味しい!でもちょっと脂っこいというか、しつこいかもね」
「そうか」
色々なケーキを食べつつカプチーノを楽しむ彼女は、普段の子供っぽさが少し引っ込み大人に見えなくもない。シンはサンドイッチにかぶり付き、甘味を楽しむ彼女を微笑ましく見守っていた。
「シン、カプチーノのこと教えてくれてありがとう!すごく美味しいよ!」
カップを持って笑った彼女の口元には白い泡がついたままだった。シンはミコトの口元を指差し苦笑した。
「泡、ついてるぞ」
「え、どこどこ?」
「拭いてやる」
紙ナプキンを手に取ると、シンは身を乗り出しそっと彼女の口元を拭ってやった。泡が消えた彼女は顔を赤らめ、
「あ、ありがとう。ごめんね、子供っぽくて」
と言いつつ慎重にカプチーノを飲む。今度は泡がついていなかった。
「ケーキとコーヒーって合うんだね。これならブラックも飲めちゃうかも!?ちょっと待ってて、シン!」
彼女は意気込むとエスプレッソマシンに走っていった。そんな慌てると転ぶぞ、などと反射的に思った後、これじゃ親みたいだな、とシンは呆れつつため息をついた。
「よーし!ブレンドコーヒー淹れてきたよ!」
戻ってきた彼女のカップには真っ黒の液体、嗅ぎ慣れたコーヒーの香り。普段のミコトなら間違いなく飲まない、まごうことなきブラックコーヒーだった。彼女はショートケーキを一口食べた後、コーヒーを一口啜った。その瞬間、彼女の表情が明るく輝いた。
「うわあ、すごく美味しい!」
「ブラック、飲めたな」
「うんうん!ケーキがなくても飲めちゃったりして!」
調子に乗ったミコトはコーヒーをもう一口。こくんと飲み込んだ瞬間、彼女の顔がわかりやすく曇った。
「…………コーヒー単体では無理みたい」
「そうか、まあ無理するな」
シンはコーヒーの香りを楽しみながらミコトの様子を観察していた。スイーツとコーヒーを交互に嗜む彼女は忙しないが、ほぅと吐いた息はブラックコーヒーの香りが漂い大人の空気。普段の彼女とはまた違う雰囲気で、シンは自然と微笑んでいた。彼の飲むコーヒーは変わらずブラック、鋭い苦味と微かな酸味が心地よい。
「あれ、そういえばシン、ケーキ全然食べてないね。……もしかして、甘いもの苦手だったりする?」
ミコトの言うとおり、彼の皿はサンドイッチやサラダで埋まり、スイーツはほんのひとかけらしかなかった。もっぱら塩辛いものばかり食べ、甘味のないコーヒーを飲んでいる。さてどう誤魔化したものかと思案したが、うまい言い方が思いつかない。シンは早々に降参し、素直に呟いた。
「ああ、まあ……あまり得意ではないな」
「え、そうなの!?うわ、ごめん……」
露骨にしょんぼりと俯く彼女に、シンは首を横に振った。
「甘いものだけじゃないから何も食べられないわけじゃなし、オレもわかったうえで来た。だから気にするな」
「うん……」
「お前もブラックコーヒーを飲めるようになったみたいだし、それでいいじゃないか」
コーヒーの香りが混じったシンの言葉に嘘偽りなかった。頬杖をつきミコトを見守るシンの口元は優しく綻んでいた。
