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ときめくパステル☆モエラブバースト!
「勇、折り入って頼みたいことがある」
「おう、何だよシン、改まって」
ある日の放課後、新田勇は間薙シンに声をかけられた。学生カバンを肩にかけたシンはきょろきょろと辺りを見回し、
「ここではちょっと……帰り道で話していいか」
「?いいけど」
言いづらそうな顔をしていた。放課後に入ったばかりの教室にはそれなりに生徒がいる、人がいる中では言えない話か。これは面白いものが聞けるかもしれない、と勇は珍しく興味が湧いた。二人は帰り道にファストフード店に入り、話すことになった。二人がけの対面の席、シンは席に着くなり深刻極まりない顔をし、声を潜めた。
「勇、その……」
「何だよ、さっさと言えよ」
飲み物を口にしながら、勇はシンが切り出すのを待つ。放課後のファストフード店は学生と思しき客でごった返しているが、幸いにも二人と同じ高校の生徒は見当たらなかった。シンは落ち着きなく目線を動かしていたが、ようやく口を開いた。
「オレと一緒にここに行ってくれ」
そう言ってシンはスマートフォンの画面を見せてきた。パステルカラーのハートや星が散りばめられた異様に可愛らしい雰囲気のページ、そこには、
「メイド喫茶モエラブバースト……?」
と書かれていた。棒読みで勇が読んだその言葉に、シンは居た堪れないと言わんばかりの赤面だった。
「はあ?メイド喫茶?シン、オマエが?」
「しっ!声が大きい!」
シンは慌てて取り繕い辺りを見回したが、うるさいファストフード店で二人に目を向ける者など誰もいなかった。勇は椅子に深く座り直すと、シンをじろじろと見つめた。間薙シン、新田勇のクラスメイト。無口に近い男で表情の変化も乏しく、あまり世俗的なことに興味はないタイプ……と思っていたが、認識を改めるべきかもしれない。
「どういう風の吹き回しだよ、メイド喫茶について来いなんてさ」
「……ミコトが働いてるんだよ」
「あぁ……そゆこと」
月森ミコト、勇とシンのクラスメイト兼シンの彼女だ。勇の中であっさり点と点が繋がった。勇はパチン、と指を鳴らした。
「つまり可愛い彼女がメイドやってるところを見に行きたいけど、一人でメイド喫茶に行く勇気がない、と」
「言わなくていい……」
シンは茹でダコもかくやと言わんばかりに顔を赤らめ、テーブルに突っ伏した。ほーほー、と勇は声を上げながらシンを観察した。こんな切羽詰まった様子のシンは珍しい、これは取引材料になりそうだ。
「いいぜー、オレもメイド喫茶なんて行ったことないから、興味あるしな。ただし、タダってわけにはいかねぇな」
「……何が目当てだ」
「昼飯三回シンのおごり、ってのはどうよ」
指で三を示し、勇はニヤリと笑ってみせた。突っ伏したシンはしばし黙って考えていたが、
「わかった。おごってやる」
見事譲歩した。勇は内心ガッツポーズを取っていた。これは美味しい機会が巡ってきたようだ。
間薙シンは新田勇を伴い、月森ミコトが勤務するメイド喫茶の前にいた。小さな店舗だったが、丸文字で「メイド喫茶モエラブバースト」と書かれた可愛らしい看板を掲げ存在感は十分。さらに壁や扉がパステルピンクのハートや水玉模様をあしらった可愛らしい雰囲気で、シンと勇は縁のない世界に圧倒されていた。
「ここかぁ……噂のメイド喫茶モエラブバーストってのは」
「いちいち店の名前を言わなくていい」
勇が口にした店名を聞くだけで恥ずかしくなる。シンは顔を赤らめ目を逸らした。公式サイトで店構えや内装を確認し覚悟を決めたつもりだったが、いざ実物を目の当たりにすると足がすくんでしまう。勇もほえー、などと言いながら面白そうに建物を観察していた。
「んじゃ、入るとしますか。シン、ここにぼーっと立ってる方が恥ずかしいだろ」
「ああ、そうだな……」
正直まだ心の準備が、などと言い出せる空気ではなかった。むしろこうやって背中を押してもらえるのはありがたい……かもしれない。やはり勇を連れてきてよかった。シン一人だとこのまま踵を返してしまいそうだった。
「お帰りなさいませ、ご主人様!」
二人が意を決して扉を開けると、二人の姿をめざとく見つけたメイドが駆け寄り、可愛らしく挨拶した。
「……あ」
シンと勇は思わず間抜けな声を上げた。やって来たメイドは、どこからどう見ても月森ミコトだった。白と黒のフリルやリボンがたっぷりあしらわれたメイド服を着た彼女は、とびきりの笑顔で硬直した。三人の時間が止まった気がした。店内はそれなりに客が多く、ざわめきで三人の沈黙がかき消されたのは幸いだった。
「に、二名様ご案内しまーす!お帰りなさいませ、ご主人様!」
我に返ったミコトは再度完璧なメイドスマイルを振りまき、驚愕に固まる男二人を席に案内した。ふわふわの可愛らしい店内とほどよいざわめきの中、二人は向かい合って席に着く。勇はいつもどおりのスカした笑顔だったが、どことなく呆れたような雰囲気だった。
「月森、メイドだったな」
「ああ、うん、メイドだった」
勇がこっそり呟いた言葉に、シンはそんな阿呆みたいな返ししかできなかった。数十秒しか見ていないが、メイドのミコトは可愛かった。装飾過多にも思えるメイド服がよく似合い、元気な笑顔も可愛くて……ああ、正直もう十分だから帰りたい。シンは遠い目をしながら、勇とともに料理を注文した。空腹なのかすらよくわからなかった。
「おいシン、見てみろ」
「は?」
勇がテーブルに広げたメニューを指差した。二人はオムライスを注文したが、そこには「ご指名のメイドが愛情をたっぷり注ぎます!」と書いてある。
「あれじゃね?萌え萌えキュン!じゃね?」
「なんだそれは……」
両手でハートを作った勇が妙に可愛こぶった声で言った。勇のあざとい仕草など一体誰が求めているんだ、とシンは呆れた。勇は面白そうに笑った。
「感謝しろよ、シン。月森の愛情たっぷりオムライス、食べたいだろ?」
「まあ……そうだけど」
「お、別料金だけどチェキもあるらしいぜ!オマエせっかくだから月森と撮ってけよ」
「は、はあ?」
シンはこの店に全くついていけていないが、勇はさすがの適応力だった。唖然としながらも、改めてシンはメニューに目を落とした。キラキラとした雰囲気のメニューには「チェキ」の文字。なるほど好きなメイドと写真を撮れるというわけか。……万が一勇がミコトと二人で撮ろうとしたらぶっ殺してでも止めなくてはなるまい。シンはこっそり拳を握りしめた。
「お待たせしました!愛情たっぷりオムライスでございます!」
二人分のオムライスが運ばれてきた。二人のテーブルにやってきたのはやはりというか、ミコトだった。シンは改めてミコトを観察した。頭を覆いつくさんばかりのヘッドドレス、フリルとリボンがたっぷりの白と黒のメイド服、白黒ボーダーのニーハイソックス、どこを見ても文句のつけようのない完璧な可愛らしさだった。来てよかった。勇もこの姿を見ていると思うと少々腹立たしいが。
「私が愛情をたーっぷり注ぎますね!」
そう言って笑うミコトの手にはケチャップ。彼女はニコニコと可愛らしい笑顔を浮かべたまま、
「美味しくなーれ、美味しくなーれ」
二つのオムライスに猫の絵を描き、小さなハートも追加した。黄色い卵のキャンバスが一気に華やぐ。ミコトはメイド服の裾を片手で持ち上げ礼をすると、
「失礼しました!ごゆっくりお楽しみくださいね、ご主人様!」
完璧なウインクを投げてキッチンに歩いていった。その背中を男二人は呆然と見送っていたが、先に現世に戻ってきたのは勇だった。
「なるほど、あれが『愛情』ってワケ」
「そうみたいだな」
シンはオムライスに目を落とした。黄色い卵に描かれた愛らしい猫とハート、確かにこれ以上ない愛情を受け取った。これを他の奴らにもしているのか、と考えると複雑な心境だが、シンはオムライスを一口食べた。味はあまり期待できないかと思っていたが、意外にも本格的なオムライスだった。とろとろの卵とケチャップライスは王道ながら間違いない美味しさだった。
「なんだよシン、面白くなさそーな顔してさ。オレにも愛情たっぷりかけたのが気に食わないって?」
頬杖をついてスプーンでシンを指し、勇はニヤニヤと気色の悪い笑みを浮かべている。ぐっ、とシンの喉にオムライスが詰まった。水で流し込みながら何か言ってやろうかと思ったが、何も思い浮かばなかった。ただ勇をギロリと睨みつけるだけで精一杯だった。
「……勇がいなかったらオレ一人では来れなかったと思う。だから、感謝してる」
「なんか妙に素直だな。気持ち悪りぃ」
勇の顔が気まずそうに歪み、シンは勝った、と内心思った。何に勝ったのかは不明だが、とりあえず憎まれ口を叩かなくて正解だったと思う。
シンのスマートフォンが震えた。メッセージアプリに新着表示、開いてみるとミコトからだった。あと一時間でバイト終わるからよかったら一緒に帰ろ、とある。シンは微笑みを零すと、勇に言った。
「なあ勇、あと一時間くらいどこかで時間潰すの付き合ってくれないか」
「はあ?……あー、なるほど?」
当初は訝しげだった勇は合点がいったとばかりに頷く。察しのいいクラスメイトで助かった、とシンは心から感謝した。
「シンくん!お待たせ!」
シンがカフェで飲み物を楽しんでいると、ミコトが大きく手を振りながら現れた。飲み物片手にシンの向かい側に座る。
「ごめんね、突然メッセージ送って!待っててくれたらなって思ったけど、本当に待っててくれるとは思わなくて!」
「お前からああ言われたら待つに決まってるだろ」
素朴な本心を伝えると、ミコトは照れくさそうに笑っていた。
彼女はバイト終わり、当然ながらごく普通の私服を着ている。シンにはメイドの彼女がだぶって見えた。
「でもびっくりしたよ!シンくんがまさかメイド喫茶に来るなんてさ!ああいうところ、シンくん苦手そうだから」
「ああ、まあ……初めての体験だったな」
シンの脳裏にメイド喫茶の店内が浮かんだ。ピンクや水色のパステルカラーで彩られた店内、彼女がいなければ間違いなく足を踏み入れない場所だった。今となってみればなかなか面白い体験ではあった。
「むしろ、何も言わずに行って悪かった。驚いただろ」
「ほんとほんと!びっくりしちゃった!」
「メイド服、よく似合ってたぞ」
「ほんと?ありがとう、嬉しい!」
率直な褒め言葉に、ミコトは頬を赤らめて喜んでみせた。可愛い。やはりミコトはメイドでなくとも可愛らしい。シンの口元が綻び、自然と柔らかな笑みを浮かべていた。
「なあ、ミコト」
「なに?」
「今度はオレ一人で行くから、二人で、その、写真撮らせてほしい」
「あ、チェキってこと?いいよー!」
どうしてもチェキという単語が言い出せず、シンは一瞬口ごもった。ミコトの察しがよくて大変助かる。
「私ももしシンくんがきてくれるなら一人の方が嬉しいな!オムライスのサービス、気合い入っちゃうかも!」
はしゃぐミコトを見ながら、シンは頬杖をついた。メイド服の彼女と撮った写真なんて、きっと一生の思い出になるだろう。あとはほんの少し、勇気が必要なだけだ。いつかは勇気を出さないとな、とシンは苦笑した。
「勇、折り入って頼みたいことがある」
「おう、何だよシン、改まって」
ある日の放課後、新田勇は間薙シンに声をかけられた。学生カバンを肩にかけたシンはきょろきょろと辺りを見回し、
「ここではちょっと……帰り道で話していいか」
「?いいけど」
言いづらそうな顔をしていた。放課後に入ったばかりの教室にはそれなりに生徒がいる、人がいる中では言えない話か。これは面白いものが聞けるかもしれない、と勇は珍しく興味が湧いた。二人は帰り道にファストフード店に入り、話すことになった。二人がけの対面の席、シンは席に着くなり深刻極まりない顔をし、声を潜めた。
「勇、その……」
「何だよ、さっさと言えよ」
飲み物を口にしながら、勇はシンが切り出すのを待つ。放課後のファストフード店は学生と思しき客でごった返しているが、幸いにも二人と同じ高校の生徒は見当たらなかった。シンは落ち着きなく目線を動かしていたが、ようやく口を開いた。
「オレと一緒にここに行ってくれ」
そう言ってシンはスマートフォンの画面を見せてきた。パステルカラーのハートや星が散りばめられた異様に可愛らしい雰囲気のページ、そこには、
「メイド喫茶モエラブバースト……?」
と書かれていた。棒読みで勇が読んだその言葉に、シンは居た堪れないと言わんばかりの赤面だった。
「はあ?メイド喫茶?シン、オマエが?」
「しっ!声が大きい!」
シンは慌てて取り繕い辺りを見回したが、うるさいファストフード店で二人に目を向ける者など誰もいなかった。勇は椅子に深く座り直すと、シンをじろじろと見つめた。間薙シン、新田勇のクラスメイト。無口に近い男で表情の変化も乏しく、あまり世俗的なことに興味はないタイプ……と思っていたが、認識を改めるべきかもしれない。
「どういう風の吹き回しだよ、メイド喫茶について来いなんてさ」
「……ミコトが働いてるんだよ」
「あぁ……そゆこと」
月森ミコト、勇とシンのクラスメイト兼シンの彼女だ。勇の中であっさり点と点が繋がった。勇はパチン、と指を鳴らした。
「つまり可愛い彼女がメイドやってるところを見に行きたいけど、一人でメイド喫茶に行く勇気がない、と」
「言わなくていい……」
シンは茹でダコもかくやと言わんばかりに顔を赤らめ、テーブルに突っ伏した。ほーほー、と勇は声を上げながらシンを観察した。こんな切羽詰まった様子のシンは珍しい、これは取引材料になりそうだ。
「いいぜー、オレもメイド喫茶なんて行ったことないから、興味あるしな。ただし、タダってわけにはいかねぇな」
「……何が目当てだ」
「昼飯三回シンのおごり、ってのはどうよ」
指で三を示し、勇はニヤリと笑ってみせた。突っ伏したシンはしばし黙って考えていたが、
「わかった。おごってやる」
見事譲歩した。勇は内心ガッツポーズを取っていた。これは美味しい機会が巡ってきたようだ。
間薙シンは新田勇を伴い、月森ミコトが勤務するメイド喫茶の前にいた。小さな店舗だったが、丸文字で「メイド喫茶モエラブバースト」と書かれた可愛らしい看板を掲げ存在感は十分。さらに壁や扉がパステルピンクのハートや水玉模様をあしらった可愛らしい雰囲気で、シンと勇は縁のない世界に圧倒されていた。
「ここかぁ……噂のメイド喫茶モエラブバーストってのは」
「いちいち店の名前を言わなくていい」
勇が口にした店名を聞くだけで恥ずかしくなる。シンは顔を赤らめ目を逸らした。公式サイトで店構えや内装を確認し覚悟を決めたつもりだったが、いざ実物を目の当たりにすると足がすくんでしまう。勇もほえー、などと言いながら面白そうに建物を観察していた。
「んじゃ、入るとしますか。シン、ここにぼーっと立ってる方が恥ずかしいだろ」
「ああ、そうだな……」
正直まだ心の準備が、などと言い出せる空気ではなかった。むしろこうやって背中を押してもらえるのはありがたい……かもしれない。やはり勇を連れてきてよかった。シン一人だとこのまま踵を返してしまいそうだった。
「お帰りなさいませ、ご主人様!」
二人が意を決して扉を開けると、二人の姿をめざとく見つけたメイドが駆け寄り、可愛らしく挨拶した。
「……あ」
シンと勇は思わず間抜けな声を上げた。やって来たメイドは、どこからどう見ても月森ミコトだった。白と黒のフリルやリボンがたっぷりあしらわれたメイド服を着た彼女は、とびきりの笑顔で硬直した。三人の時間が止まった気がした。店内はそれなりに客が多く、ざわめきで三人の沈黙がかき消されたのは幸いだった。
「に、二名様ご案内しまーす!お帰りなさいませ、ご主人様!」
我に返ったミコトは再度完璧なメイドスマイルを振りまき、驚愕に固まる男二人を席に案内した。ふわふわの可愛らしい店内とほどよいざわめきの中、二人は向かい合って席に着く。勇はいつもどおりのスカした笑顔だったが、どことなく呆れたような雰囲気だった。
「月森、メイドだったな」
「ああ、うん、メイドだった」
勇がこっそり呟いた言葉に、シンはそんな阿呆みたいな返ししかできなかった。数十秒しか見ていないが、メイドのミコトは可愛かった。装飾過多にも思えるメイド服がよく似合い、元気な笑顔も可愛くて……ああ、正直もう十分だから帰りたい。シンは遠い目をしながら、勇とともに料理を注文した。空腹なのかすらよくわからなかった。
「おいシン、見てみろ」
「は?」
勇がテーブルに広げたメニューを指差した。二人はオムライスを注文したが、そこには「ご指名のメイドが愛情をたっぷり注ぎます!」と書いてある。
「あれじゃね?萌え萌えキュン!じゃね?」
「なんだそれは……」
両手でハートを作った勇が妙に可愛こぶった声で言った。勇のあざとい仕草など一体誰が求めているんだ、とシンは呆れた。勇は面白そうに笑った。
「感謝しろよ、シン。月森の愛情たっぷりオムライス、食べたいだろ?」
「まあ……そうだけど」
「お、別料金だけどチェキもあるらしいぜ!オマエせっかくだから月森と撮ってけよ」
「は、はあ?」
シンはこの店に全くついていけていないが、勇はさすがの適応力だった。唖然としながらも、改めてシンはメニューに目を落とした。キラキラとした雰囲気のメニューには「チェキ」の文字。なるほど好きなメイドと写真を撮れるというわけか。……万が一勇がミコトと二人で撮ろうとしたらぶっ殺してでも止めなくてはなるまい。シンはこっそり拳を握りしめた。
「お待たせしました!愛情たっぷりオムライスでございます!」
二人分のオムライスが運ばれてきた。二人のテーブルにやってきたのはやはりというか、ミコトだった。シンは改めてミコトを観察した。頭を覆いつくさんばかりのヘッドドレス、フリルとリボンがたっぷりの白と黒のメイド服、白黒ボーダーのニーハイソックス、どこを見ても文句のつけようのない完璧な可愛らしさだった。来てよかった。勇もこの姿を見ていると思うと少々腹立たしいが。
「私が愛情をたーっぷり注ぎますね!」
そう言って笑うミコトの手にはケチャップ。彼女はニコニコと可愛らしい笑顔を浮かべたまま、
「美味しくなーれ、美味しくなーれ」
二つのオムライスに猫の絵を描き、小さなハートも追加した。黄色い卵のキャンバスが一気に華やぐ。ミコトはメイド服の裾を片手で持ち上げ礼をすると、
「失礼しました!ごゆっくりお楽しみくださいね、ご主人様!」
完璧なウインクを投げてキッチンに歩いていった。その背中を男二人は呆然と見送っていたが、先に現世に戻ってきたのは勇だった。
「なるほど、あれが『愛情』ってワケ」
「そうみたいだな」
シンはオムライスに目を落とした。黄色い卵に描かれた愛らしい猫とハート、確かにこれ以上ない愛情を受け取った。これを他の奴らにもしているのか、と考えると複雑な心境だが、シンはオムライスを一口食べた。味はあまり期待できないかと思っていたが、意外にも本格的なオムライスだった。とろとろの卵とケチャップライスは王道ながら間違いない美味しさだった。
「なんだよシン、面白くなさそーな顔してさ。オレにも愛情たっぷりかけたのが気に食わないって?」
頬杖をついてスプーンでシンを指し、勇はニヤニヤと気色の悪い笑みを浮かべている。ぐっ、とシンの喉にオムライスが詰まった。水で流し込みながら何か言ってやろうかと思ったが、何も思い浮かばなかった。ただ勇をギロリと睨みつけるだけで精一杯だった。
「……勇がいなかったらオレ一人では来れなかったと思う。だから、感謝してる」
「なんか妙に素直だな。気持ち悪りぃ」
勇の顔が気まずそうに歪み、シンは勝った、と内心思った。何に勝ったのかは不明だが、とりあえず憎まれ口を叩かなくて正解だったと思う。
シンのスマートフォンが震えた。メッセージアプリに新着表示、開いてみるとミコトからだった。あと一時間でバイト終わるからよかったら一緒に帰ろ、とある。シンは微笑みを零すと、勇に言った。
「なあ勇、あと一時間くらいどこかで時間潰すの付き合ってくれないか」
「はあ?……あー、なるほど?」
当初は訝しげだった勇は合点がいったとばかりに頷く。察しのいいクラスメイトで助かった、とシンは心から感謝した。
「シンくん!お待たせ!」
シンがカフェで飲み物を楽しんでいると、ミコトが大きく手を振りながら現れた。飲み物片手にシンの向かい側に座る。
「ごめんね、突然メッセージ送って!待っててくれたらなって思ったけど、本当に待っててくれるとは思わなくて!」
「お前からああ言われたら待つに決まってるだろ」
素朴な本心を伝えると、ミコトは照れくさそうに笑っていた。
彼女はバイト終わり、当然ながらごく普通の私服を着ている。シンにはメイドの彼女がだぶって見えた。
「でもびっくりしたよ!シンくんがまさかメイド喫茶に来るなんてさ!ああいうところ、シンくん苦手そうだから」
「ああ、まあ……初めての体験だったな」
シンの脳裏にメイド喫茶の店内が浮かんだ。ピンクや水色のパステルカラーで彩られた店内、彼女がいなければ間違いなく足を踏み入れない場所だった。今となってみればなかなか面白い体験ではあった。
「むしろ、何も言わずに行って悪かった。驚いただろ」
「ほんとほんと!びっくりしちゃった!」
「メイド服、よく似合ってたぞ」
「ほんと?ありがとう、嬉しい!」
率直な褒め言葉に、ミコトは頬を赤らめて喜んでみせた。可愛い。やはりミコトはメイドでなくとも可愛らしい。シンの口元が綻び、自然と柔らかな笑みを浮かべていた。
「なあ、ミコト」
「なに?」
「今度はオレ一人で行くから、二人で、その、写真撮らせてほしい」
「あ、チェキってこと?いいよー!」
どうしてもチェキという単語が言い出せず、シンは一瞬口ごもった。ミコトの察しがよくて大変助かる。
「私ももしシンくんがきてくれるなら一人の方が嬉しいな!オムライスのサービス、気合い入っちゃうかも!」
はしゃぐミコトを見ながら、シンは頬杖をついた。メイド服の彼女と撮った写真なんて、きっと一生の思い出になるだろう。あとはほんの少し、勇気が必要なだけだ。いつかは勇気を出さないとな、とシンは苦笑した。
