『(ダンデさんに…好きって…言われちゃった)』



彼が帰った後あたしはパジャマのまま自室に向かい、ふらふらとベッドがあった方向へと向かった


ベッドというか今は上の寝具がない為、すのこベッドという感じだけど…


あたしはベッドの直ぐ側に置いていたさっきまで寝ていた寝袋の中へと潜り込んだ


『はぁ…温い』


久しぶりの自分の部屋はタンスや机はそのままだが中身は空っぽで生活感がない

あの日…学校で倒れたあたしを心配し両親が引っ越しを提案してくれた
いつか帰ってくるかもしれないと父がこの家を残しててくれたけどまさか本当に戻ってくる事になるなんて


『……これからどうしよっかな』


今年で十八歳のあたしは一人暮らしをしたいと両親に願った
昔の事もあり心配した両親は知らない場所で娘を一人にさせるのを心配し、この家で暮らす事になったけど

ダンデさんに会ってしまったのは予想外だった
誰もあたしなんか覚えてないと思ったのに彼はずっと覚えててくれてしかも…す…好きって言ってくれた


本当に嬉しくて…思い出すと涙がまたじんわりと湧いてきそう
でも素直に嬉しいと思う反面怖さもある

有名すぎる彼の側にいたらまた昔のようにイジメられるんじゃないか
ファンや彼を本気で想う人だってきっと沢山いるし何もないあたしじゃ釣り合わない


怖さに負けて彼の告白を受け止めきれなくて失礼な態度をとってしまった


『嫌われたらどうしよう』


ぽそりと呟いた心の声、嫌われたくないけど離れなくちゃいけない


寝袋に包まれながらあたしは彼と深い関係にならず離れる計画を悶々と考えていた









一方

シュートシティに戻ったダンデは今回の事を相談しようとキバナに電話していた


【オマエ…マジで恋愛まで方向音痴な】


「やはり急に告白は不味かっただろうか？」


【当たり前だろーがっ！久しぶりに会った男にいきなり告られて迫られてみろよ！その子じゃなくてもビビるわっ！】


「ぐっ！つい…嬉しくて」


【マジねぇ〜わ〜】


顔を青ざめさせ眉間にしわを寄せた彼はダラダラとこめかみに冷や汗を浮かべ恋愛の達人に助けを求める

告白は必ずしようと思っていたが焦りすぎた
彼女との心の距離感を感じこのままでは他の男の元に行ってしまうのではと慌ててしまい想いを勢いでぶつけたが、結果はこの通り保留だ

女性と深く付き合った事のないダンデにとって愛をゆっくり育てるのは未知の経験だ

綺麗な花を早く物にしたくて堪らず、完全に育つ前に摘み取るようなものだ


【てか本当に脈ありなわけ？オマエの気のせいじゃね？】


「っ！絶対彼女も俺が好きだ！」


【うわぁ〜うぜぇ自信、これだから童貞は怖いわ】


「真剣に相談にのってくれキバナっ！それに童貞は今は関係ないだろっ！」


【いやいや、あるし】


ナマエ一筋だった為経験なんて勿論ない
キスも初めてだが、何故か彼女相手なら上手くできると自信がダンデにはあった



「イメトレなら何年も何年もしてきた！絶対彼女を大切にするしキスだって上手くできる筈だぜ！」


【その思い込みが童貞の怖いとこなんだっつーの、女の子はオマエが思ってるより繊細だし難しい生き物なわけよ】


「っ、なら…これからの戦略を教えてくれ！俺はまずどうしたらいい？」



藁にも縋る思いだった
なんとしても彼女を自分の恋人にしたい
彼女にもちゃんと好かれたい


必死になるチャンピオンにキバナは優越感を感じ機嫌が良くなる



【んふふ！オレさまに任せな！でも絶対暴走しないって約束しろよ？】


「努力するぜっ！」


ナマエがダンデから離れる計画を考えているとは知らず、彼はキバナから彼女との距離を縮める方法を聞き大きく頷いていた


【と、まあ〜簡単に言えば時間をかけてゆっくり好感度あげろって事だな】


「なあ、その間彼女に触るのは駄目なのか？手を握るとか」


【駄目だな、オマエすぐ暴走しそうだし自然に〜とか出来なさそうじゃん】


「うぐっ！」


図星をつかれガクンと頭を下げるとダンデは先ほど触れた彼女の肌を思い出した
甘い香りに白い肌、そして甘い声…全てリアルに思い出す事ができ男としての本能が疼く

なのにこれからは側にいながら触れてはならないとキバナから言われてしまった


「我慢か…つらいな」


くしゃりと前髪を掻きむしり弱音を吐くと電話の向こうでキバナが小さく笑った



【マジな子なんだろ？なら大事にしなきゃって事よ】


全てを悟ったように語るキバナはいっそ尊敬できるが、ダンデはここで疑問も感じた


「君そんなに凄いのになんで本命を作らないんだ？」


【………………それについてはノーコメント】


「む？」


キバナにはキバナなりに理由があるのか、それとも本命にしたくてもその前に別れてしまう原因があるのか

どちらにせよキバナは自分の本命には触れて欲しくないようで話は戻り仕事の時間になるまでダンデはキバナからの助言を聞き頭に叩き込んでいたそうだ