次の日だ
ダンデは近くのホテルに泊まると朝早くナマエの家を訪ねた

夢ではなかった事を確かめたくて話したい事が沢山ありすぎて子供のようにじっとする事ができなかった


「ナマエ！俺だっダンデだ！」


ノックをしソワソワと扉の前で待つと少しして扉の鍵が内側から開いた音が聞こえた


『ダンデさん？早いですね』


朝日が眩しそうに瞳を細め顔を出した彼女は確かにナマエで、ダンデは夢ではなかった事に喜びを感じ嬉しそうに瞳を細めた


「おはようナマエ！」


『おはようございます…どうしたんですか急に』


「どうしたって…久しぶりに会えたんだぞ？君ともっと話したいんだ！」


『ん…じゃあ…少しだけなら』


漸く扉を大きく開いてくれた彼女はまだ着替えておらずパジャマ姿だった
長い髪も梳かしておらずボサボサで、朝に弱い彼女が変わっていない事についダンデの口元が緩む


中に入る事を許され改めて室内を眺めるとやはり埃が酷い、彼女が進む先にはキッチンがあり掃除中だったのだろう
ほんの少し他より綺麗になっておりダンデは勧められた椅子へと腰掛けた


『コーヒーでいいですか？』


「ああ！なんでも大丈夫だ！」


眠そうに瞬きしお湯を沸かす彼女はふらふらと頭を揺らしており可愛らしい
ダンデはムズムズする手を強く握りじっと彼女を見つめ続けた


数分後出されたコーヒーと数枚のクッキーを有り難くいただき向かい側に座った彼女にダンデは聞きたかった事をゆっくりと聞き出す


「君は今まで何処にいたんだ？突然いなくなって心配したんだぜ？」


『……………』


素直に答えてくれると思えば彼女は黙り込んでしまいコーヒーをフーフーと冷ます事に集中する


「これからは昔みたいにここに住むのか？」


ならばと質問を変えた
昔が駄目ならこれからの未来だけをみればいい
期待を込めて聞くが彼女はこの質問にもすぐには答えてくれなかった


『……まだ考え中です、とりあえず掃除しながらどうしようか考えようかと思って』


「……そうか」

急に流れた沈黙、数分側静かになった空間にどうしたものかと悩んでいるとコーヒーを飲んでいた彼女が先に口を開いた


『あの…今更なんですが』


「ん？」


『チャンピオン…おめでとうございます』


やっとこちらを見たナマエは頬をほんのりと染めながらダンデにお祝いの言葉を口にした
ずっと昔言いたくても言えなかった言葉だ

一瞬昔の少女時代の彼女と重なりダンデは瞳を大きくさせるとじんわりと瞳を潤ませた


『ダンデさん？』


「あ…ああ…すまない…その…嬉しくてっ」


誰よりも彼女からその言葉を聞きたかった
大人になり漸く聞けた彼女からの言葉を噛み締めダンデは潤んだ目元を乱暴に手のひらで拭った


「俺も君に言いたい事が沢山あるんだ…何から話せばいいか分からない程沢山あるが…」


ダンデは一度唾を飲み込むと立ち上がり椅子に座ったままのナマエの元へと近寄り、ゆっくりと片膝を床につけた


『え、ダンデさん？何をっ』


慌てる彼女の手を右手で取りダンデは帽子を外しその左手を後ろへと下げた


「あの日からずっと言いたかった事………俺は」



「……君の事が好きだ」



漸く言えた愛の言葉
ダンデは愛を示すように彼女の手の甲に唇を落としリップ音を鳴らした
最後に別れた時髪の毛にしたように…


『ぁ…あたしっ…』


唇を離すと彼女は震えながらその手を引っ込め自分の胸元へと抱きしめた
耳まで真っ赤にしながら泣きそうに瞳を潤めた彼女は何かを言おうとし口を動かすがすぐに唇を強く噛み締め視線をそらした


「ナマエ？」


告白に応えてくれない彼女に疑問を感じた
表情からして嫌ってはない
寧ろ両想いの可能性が高いというのに頷いてくれないのだ


「君の気持ちを教えてくれないか？」



『あたしは…ダンデさんの隣には相応しくないです』


「相応しくないってどういう事だ？」


席を立ってしまう彼女はキッチンへと逃げ、ダンデも彼女を追いかけ詰め寄った
シンクに向かって俯く彼女を逃がすまいと後ろから覆いかぶさるように近寄り同じようにシンクの縁に両手をつける

左右に見えるダンデの手に逃げ場を失い困っているとダンデは寝癖のついた髪から香る甘い香りに頬を熱くさせ頭にキスを贈った


『ひゃっ！』


「んっ……はぁ……言うまで離れないぜ」


唇は後頭部から首筋へと襲いかかりナマエはぶるりと甘い刺激に震え、はくはくと口を必死に動かした


『あ、貴方はチャンピオンで…有名人です、でもあたしは…ふぁっ、ん』


ちゅっ…っぷ…


白い首筋にキスをし顔を離したダンデは背筋を戻すと小さな彼女を見下ろし片眉を上げた


「そんなの関係ない、俺は一人の男として君がずっと好きなんだ！君は？違うのか？」


キュッと唇を硬く閉ざし俯く彼女
何をそんなに恐れているのか分からない
だが逃がす気もないダンデはならばと作戦を変えることにした


「少し考えてみてくれないか？俺との事を」


『………』



「っ…俺も急ぎすぎたな、すまない…これからゆっくり今の俺を知ってくれ……ただ」


シンクから両手を離し変わりに彼女の腰を掴み体を反転させこちらを向かせると赤く染まったナマエの顔がよく見えた


細い腰を両手でグッと握り見つめれば、行き場のない両手を胸の前で丸くさせた愛らしい人がよく見えキスしたい衝動に駆られる


「愛してる…それだけは知っていてくれ」


ゆっくりと顔を近づけ唇を奪おうとしたが


『っ！』


ビクンッと怯えたように肩を竦めた彼女の姿に気が付き、唇は本来触れたかった場所からずれ額へと触れた


……ちゅっ


熱い唇が離れるとナマエは眉を下げダンデを見つめ、彼もまた我慢するように眉を下げて微笑んだ


『…っ、帰ってください』


「怒ったのか？ナマエ」


『いいから帰ってください！』


顔を両手で隠し俯く彼女にこれ以上は攻める事はできない、ダンデはまだ話したい事を胸に残しながらも了解しゆっくりと彼女から手を離し両手を頭の左右に上げて見せた

もう何もしないとアピールし終えると彼は名残惜しそうにその場を後にし


残されたナマエはゆっくりとその場にずるずると座り込み彼が触れた額を撫で熱いため息を吐いた


『あたしの事なんか…忘れててくれればよかったのにっ…なんで…愛してるなんて言うんですか
っ』


嬉しさと悲しみが同時に押し寄せてくる
自分の気持ちが分からなくなった彼女は一人静かに涙しテーブルの上のコーヒーの湯気は静かに消えていった