ダンデが旅に出てからというもの彼女へのイジメは落ち着くどころか激しくなった


ドンッ！
『うっ！』


「ぶりっ子が調子にのんな！」


登校中わざとぶつかってくる生徒
下駄箱には靴の中に汚れた雑巾やゴミが入っており、それらを片付ける為に毎日遅刻扱いにされ教師からも怒られた

訳を話そうにも生徒達からの視線が怖くて言えない、学校には相談室や保健室といった話せる場もあったがそれすら怖くて行けなかった


耐えていればいつかは飽きて終わる
そう信じたが数週間経っても数ヶ月経ってもイジメは終わらずナマエの心身を襲った

食事の時間でさえどこに言っても見張られているようで食べ物が喉を通らず胃が痛み吐いたりもした


『(我慢…我慢しなきゃ…)』



ギリギリと千切れそうな胃の痛み
泣き叫ぶ心の声を知らぬふりをし薬に頼る日々
だがそれもついに限界を迎え


『っ…ふっ……』



ガクンと足元から崩れた彼女は廊下に倒れてしまい動けなくなった
周りに生徒達はいるのに誰も助けず漸く教師が駆け寄り声をかけるが上手く聞こえない


涙でぼやけた視界の中、こちらを指差し笑う生徒達が見えた

ナマエは悔しさにカサついた唇を噛み締めると瞳を閉じ意識を手放しその日を最後に学校には姿を見せなくなった









それから約半年が過ぎた頃だ
ダンデは見事にチャンピオンとなり大きなトロフィーをハロンへと持ち帰った
家族は勿論喜び仲のよかった同級生だった男友達から髪をぐしゃぐしゃにされながら祝福を受けた


「(早く彼女にっ！今の時間ならまだ学校にいるよな？)」


チャンピオンユニフォームのまま学校へと駆け出し彼女の教室を目指した
道中教師や生徒達と言葉を交わしながら時間をかけお目当ての教室につくとダンデはドアの前で一つ深呼吸をした


「(まずは帰ってきた事をサプライズさせて…その後告白だ！)」


ここに辿り着くまで何度も頭の中で練習した愛の告白、きっと彼女も照れながら自分を受け入れるだろうと期待しドアを開けるが


「ナマエ！帰った……ぜ……」


彼が見たのは彼女が座っていた席の上に置かれた花瓶だった
既に何枚か花びらを散らしたそれはいつから飾っていたのか分からない

いやそれよりもこれではまるで死人に向けたような行為だ


「な…んだ…これは」


ダンデは信じられないものを見るようにゆっくりと教室内に入り真っ直ぐにナマエの席へと向かった

途中女子生徒達からの黄色い声やどよめきも聞こえたがダンデは先に確認を優先させ机を見つめた

汚れた机には消えきれなかったマジックペンでのイタズラ書きが残っており、それらを読むように指先でなぞる




「…………なんなんだ……これは」



字を読むにつれ怒りを沸々と込み上げた彼は顔を恐ろしくさせ眉間にしわを何本も作った




「誰だ…こんな事をしたのは…」




静かに低い声をあげ帽子の陰から金色の瞳を生徒達に向けるが誰も答えない
知らないはずが無いのに答えない彼らに余計に腹を立てダンデは奥歯を強く噛み締めた




「っ…誰がやった！！！こんな事をしてっ…ナマエはどこだ！！」





教室の窓がビリビリと波打つように大きな怒声が響く



酷い言葉を書かれた机
死人扱いされた花瓶の置物


こんな扱いをされた彼女は一体どんな気持ちだろうか悲しみと怒りに染まった彼に生徒の一人が震えながら答えた


「ナマエさんなら…もう何ヶ月も学校にきてませんっ」


「っ！」


ダンデはマントの音を強くたて急いで教室を飛び出した
目指すは彼女の家だ、そこにいてくれと願うように息を荒げながら走るが…


彼女の家は最後に見た時よりも荒れており雑草が伸び放題となっていた
まるで何年も家主が不在だったような姿にダンデは声をなくし恐る恐る玄関の扉をノックした


「ナマエ…ナマエ？俺だ！ダンデだっ帰ってきたぜ！頼むからここを開けてくれ！」


遠慮がちだったノックは次第に強く激しくなるが返事はなく


誰も出てはくれなかった


「嘘だ…だって…約束…したじゃないかっ」


ドアを叩いた手をそのままにズルズルと崩れ落ちる彼の頭から帽子が地面にはらりと落ちる
額をドアに擦り付けた彼は顔をくしゃりと歪め金色の瞳から大きな雫となった涙をポロポロと落とした


「〜〜っ…ナマエっ」


一体彼女はいつからあんな目に遭っていたのだろう

自分が華やかな世界で夢を手にしていた時
彼女はずっとつらい目に遭っていたのかもしれない、そう思うとダンデは自分自身に腹をたて後悔と悔しさに涙を増やしていった


「ぅ…あ……あああぁぁっっ！！！」


少年の声は届かない
この場にいない彼女に向けて謝罪を込めて泣き声をあげ


ダンデは何年も彼女の行方を探し帰りを待った


チャンピオン姿を見せ約束を守る
その日を迎える為に何年もガラルの王の玉座を守り気がつけば彼は無敗の王として十年も戦っていた



片手にはダイマックスバンド
そしてもう片方にはあの時受け取ったリストバンドをし今日もスタジアムに立つ為に控え室で準備をする


「ナマエ…見ててくれ」


一人静かな控え室の中で呟く彼は戦い前のルーティンのように左手のリストバンドへと口づけをしマントを肩にかける

背中まで長くなった紫の髪を片手で払い帽子を深く被ると鏡に振り返りすっかり逞しい大人の男になった自分を見つめた


「…………チャンピオンタイムだ」