朝も早くトレーナースクールに通う生徒達が学校へと登校している
ここはハロンからすぐ近くのブラッシータウン

牧場や畑の多いハロンより少しだけ賑やかな町だった

土の道と違いコンクリートの道は歩く度に靴の音を聞かせてくれる
ハイヒールやローファー、そしてスニーカー等靴によってその音は様々だ


『(なんだか楽器みたいでおもしろいなぁ)』



菫色の瞳をした小柄な少女は寝癖のついたプラチナブロンドの長い髪を揺らし、呑気にそんな事を考えながら歩いていた

すると後ろから背中を誰かに軽く叩かれ我に戻ったように振り返る


「やあ！おはようっ！ナマエ！」


『うわっ！ぁ…ダンデさん、ソニアさんもおはようございます』


「やっほ！あっ！まぁ〜た髪の毛梳かしてないでしょ！後ろボサボサじゃん」


紫色の癖毛と金色の瞳が特徴的な少年とブラウン色の髪を可愛く結んだ少女

二つ年上のダンデとソニアだ
ナマエとはクラスも学年も違ったがハロン出身の縁もあり仲が良かった


『あ……忘れてました』


「んも〜っ！ほら梳かしてあげるから！」


ソニアは面倒見の良い姉のような存在で何かと世話を焼いてくれるからナマエは彼女が好きだった


「俺もやりたい！ソニア！もう一個ブラシを持ってきてないのか？」


「ダメダメ！ダンデくんにやらせたら手加減できなくて髪の毛抜けちゃうでしょ！」


「む！そんな乱暴にしないぜ！」


ナマエの髪を取り合うように触ってくる彼らは世話したくてたまらないのだろう
もうすぐ十歳、年上としての気持ちが芽生えており下級生のナマエには優しくしたいようだ


「ナマエの髪は綺麗だな…俺と違ってサラサラだし色が綺麗だ」


「プラチナブロンドなんてこの辺じゃナマエだけだもんね」


『ん〜でもたまに幽霊とかおばあちゃんみたいって言われますよ？』


プラチナブロンドは銀髪とも白髪とも言える
それを面白がって悪い言い方をする生徒もいる為ナマエは自分の髪を愛せなかった


「そんな事ないぜ！俺は君の髪大好きだ！」


真っ直ぐに気持ちを伝えたダンデは頬を膨らませると怒りつつ指で彼女の髪を梳かしブツブツと文句を口にする


「そいつら嫉妬してんのよ！ナマエは気にしちゃ駄目よ？」


『……ありがとう…ございます』


二人からの言葉に心がこそばゆくなる
嬉しくて頬が緩みそうになるのを感じていると髪が梳かし終わった
太陽の光を浴びた髪の毛美しく光を受け止めダンデは名残惜しそうに指の隙間から逃げていく髪を見つめた


「そうだ！学校が終わったらウチに来ないか？ホップが結構喋るようになったんだ！」


『本当！行きたいです！』


勢いよく振り返り髪を揺らしながらこちらを見た彼女は満面の笑みを浮かべダンデに前のめりで近寄った
ダンデも吊られて微笑むと彼女を心から歓迎し放課後の約束を交わした、その後は三人で学校に着くまで他愛ない話をし笑顔が絶えなかった


『(楽しいなぁ…あたしもダンデさん達と同い年だったら…教室も一緒だったのにな)』


年が違えばクラスも違う
もうすぐ十歳の彼らはきっと今年のジムチャレンジに参加する事だろう


自分を置いて旅に出るのだろう



『(悲しんだって仕方ないよね？それより今をいっぱい楽しまなきゃ！)』



「ナマエ？どうした？」



俯いてしまいそうになる頭を無理矢理上げ左右に振るとダンデが不思議そうにこちらを見下ろした


『何でもないです！放課後が楽しみだなっと思って！』








二人と別れ自分の教室へのドアを目の前にナマエは一度深呼吸をする
日課とかしたこれは放課後までの長い時間を堪える為のもの


ガラリとドアを開ければ先に来ていた生徒達が一斉にこちらを見る


『お、…おはよう』


だが返事はない
女子達はクスクスと笑いながら固まって何かを話し始め、男子達も関わらないように背を向ける


『(いつも通り……か)』



特に何かしたつもりはなかったが、クラスから浮いてしまった
原因がなんなのか聞きたくても誰も相手にしてくれず彼女は一人ぼっちだった

男子達も思うところはあるが、この時の年頃では女子の口の方が強い
口喧嘩で負けるのが嫌で男子達も手助けする事ができなかったのだ


「おばけおばあちゃん来たよ？」


「おはようだって、話しかけてあげたら？」


「え〜喋ったら呪われそう！髪白くされたら嫌だもん」


クスクスと聞こえるように話す彼女達は大勢で一人をイジメるのが楽しいようだ
全員が特別嫌いというわけではないが、グループになってしまうと周りに合わせてしまうものだ

自分可愛さに同じようにナマエのある事ない事の悪口を言い楽しむ生徒達

本当に憎しみを感じている数人の生徒


彼女達の視線を浴び胃の辺りが苦しくなるのを耐えながら今日も長い一日が始まる


『(大丈夫…何もしなければいいの、放課後まで…何も考えないの)』


自分自身に言い聞かせナマエは重くなる体をふらつかせ自分の席の椅子に座り、ついさっきまでは楽しかった気持ちもじわじわと暗く冷たくなっていく気がした


『(ダンデさん達といた時はここもぽかぽかだったのに…)』


胸を撫でダンデやソニアの笑顔を思い浮かべるとまるで今の自分は太陽と月のように正反対だなと小さく苦笑いを浮かべた