short short short!

短編にすらならない夢。ただの会話文とか。
更新履歴にも載らない。

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  • ペッシは練習をする

    20200530(土)00:20
    ※一方通行シリーズ
     プロシュート→夢主→ペッシ

    「ペッシくんに女を口説かせる?ふざけないでよ、プロシュート。ペッシくんに口説かれていいのは、わたしだけなんだよ!」
    「オメーも知ってんだろ。オレたちの仕事にはそういう事も必要だってな。それとだ、オメーの我が儘なんか聞いてねーよ」
    「で、でも兄貴……。オレ、口説くとかしたことねーよ」
    「教えてやるって言ってんだ。いいか?見てろ、ペッシ。おい、オメーちょっとこっちに来い。相手の女役をやれ」
    「ペッシくんに口説かれるおいしい役……ッ」
    「まずは手本を見せるんだよ」
    「……相手がペッシくんじゃないなら、わたしは嫌」
    「嫌もクソもねーよ。さっさと来い!」


    「よく見ろ。相手の女を壁と身体で挟んだら、こうやって屈んで目を覗け。絶対に逸らすな。そして相手の気の緩みってのが見えたら、身体に触れる。この段階では、まだ心を完全に許してねえ状態だ。まずは手だ。肩だとか頬だとかは嫌がられる」
    「擽ったい、プロシュート。離して」
    「(兄貴、ターゲットの女に近付く時よりも真剣じゃあねーか……?)」
    「オメー、真面目にやれよ」
    「だってペッシくんじゃないと、ときめかない」
    「(おかしいのはオメーだよ!他の女なら、兄貴にそんな事をされたら直ぐに落ちるんだよ!)」
    「早くペッシくんに練習させてあげてよ!楽しみなんだから!」
    「(兄貴の目が……怖ェ!)」

    プロシュートペッシ

  • モブから見た恋人たち~トリッシュ~

    20200528(木)18:22
    モブ視点から見た様子
    ※百合

    オレは、カフェで時間を潰していた。女と待ち合わせた時刻まで。若者の多いこのカフェは、落ち着いているとはあまり言えない。どちらかといえば賑やかだ。空いている席を探して座れば、隣のテーブルには女が二人。同級生か?妙に距離の近い二人だな。目立つピンク色の髪の女は、隣に座る女に肩を密着させている。たまに頬が触れ合うまで近付いて何かを話し、クスクスと笑い合っていた。まあ、女ってのは、友達同士でも手を繋いだりするし、不思議じゃあねーか。

    「トリッシュちゃんのそのイヤリング、可愛いね」
    「お揃いにする?」
    「いいの?」
    「色違いもあったから、合う物を選んであげるわ」
    「ありがとう!」

    片方の女が、ピンク髪の女が付けていたイヤリングを指先で弄ぶ。すると、ピンク髪の女の方も手を伸ばし、相手の髪を退けて耳を曝させた。耳の形を指先でなぞり、厚くも薄くもない耳朶を摘まむと、それを揉み解し始める。おいおい、女同士って友達でもそんなことをするのかよ。

    「耳……ッ。擽ったいってば、トリッシュちゃん」
    「綺麗な耳ね」
    「何それ。初めて言われた」
    「形も色も素敵よ。何の色でも似合いそう」

    ピンク髪の女は耳へと唇を寄せると、それにキスをした。マジかよ。いくら友達だっていっても、そこまでするか?キスをされた女は、嫌がる素振りなんて見せず、むしろ恥じらって赤くなった耳を押さえながら俯いた。

    「耳、弱いんだってば」
    「そうだった?」
    「知ってるくせに」
    「初めて知ったわ」
    「嘘」

    ……もしかしてこいつら、そういう関係か?ピンク髪の女は、退けていた髪を下ろすと、今度は唇にキスをする。それに応える相手の女は、まるで「当然」「普段からしてます」って感じの慣れたものだった。そりゃあ、そういうのがいるってのは知ってたけれどよ、見たのは初めてだ。角度を変え、何度も何度も唇を啄み合う二人。オレはそれを目の端を使って眺めた。

    「ルージュ、剥げちゃうよ」
    「移そうかしら」
    「移していいよ」

    オレがこの二人を見ていた間に、待ち合わせの時間は過ぎていて、後で恋人にスゲー怒鳴られちまった。だってよォ、あんなの見ちまうだろ。



    モブから見た恋人たちsss、終わり。

    トリッシュ

  • モブから見た恋人たち~リゾット~

    20200527(水)06:16
    モブ視点から見た様子

    うちは小さなレストランだ。目立たない場所に立っているせいで、同規模の店と比較をしてもお客は少ない方だろう。それでもやっていけるのは、ある程度の常連客がいるからだ。その常連客ってのは九割がギャング。なんでかって?うちの父もギャングだからだ。表の顔は、レストランの店主ってヤツ。つまり、うちの店は同じ組織のヤツの溜まり場。そんな場所に、見覚えのねえ客が十分前にやって来た。

    男と女。同じ男でも見上げるくらいにデケー男と、チビな女。怖ェくらいに物静かな男と、バカみてえに明るい女。女といったが、女の子……の方が合っている気がする。とにかくその妙な組み合わせに、オレはカウンターから二人を眺めていた。女はカンノーロを食べながら、男に話しかけている。その内容は聞こえてこないが、見ている限りでは女が一方的に話して、男はただ聞いているだけに思えた。

    何なんだ、この二人。兄妹か?男からは感情とか温もりとか、そんな人間らしいものが一切感じられないが、女を見る瞳は穏やかなものだ。道端に寝転がる猫を窓越しに見つめる女に、男はただじっと視線を向けている。まるで、その女の他には興味がないと言っているかのようだ。

    「あの猫、可愛いね。ね、リゾット」
    「……オレは、そういうことはよく分からない」
    「ホルマジオの猫も可愛いけど」
    「そうなのか」
    「リゾットは、猫は好き?」
    「好きでもないが、嫌いでもない。興味がないな」

    女がカンノーロを食べ終え、紅茶を飲みほしたところで、男は音もなく立ち上がった。それに、やや遅れて女が追う。男はレジで代金を支払うと、真横に身を寄せる女の頭を撫で、そして小せェ手を握った。男のデカい手に、すっぽりと収まる女の手。男の太い腕に密着する、女の薄い身体。何だか凄まじい背徳感が、空気を伝ってオレに甘く響いた。

    「ふふっ。また来てね、お兄さん、お嬢ちゃん」

    さっきまで厨房にいたはずの母が、気付けばオレの隣に立って微笑んでいた。そして、女のもう片方の手に、飴玉を二つ握らせる。飴玉なんて今時、ガキでも喜ばねーだろ。そう思っていたが、女は星を散りばめて満面の笑みを浮かべると、それを手に「ありがとうございます」と声を張った。

    「本当に仲の良い兄妹ね」

    母の一言に、女は動きを止めた。表情すらも凍ったように固まっている。ちょっと待てよ。この反応、まさか。

    「お兄さん、妹さんをしっかり守るんだよ。この辺は危ないからね。お嬢ちゃんも、お兄さんの言う事をちゃんと聞きなさいね」

    母は気付いていない。この二人は兄妹などではなく、恐らく恋人同士だということを。

    「じゃあ、また来てね」

    最後まで気付かない母は、二人を見送ると呟いていた。「仲は良いけど、似てない兄妹だね」と。

    リゾット

  • モブから見た恋人たち~ギアッチョ~

    20200526(火)06:32
    モブ視点から見た様子

    渋滞だ。この先で事故でもあったのか?全く動かねえ車たちに苛立ちを感じていると、前の車から男と女の声が聞こえて来た。なんだ、カップルか?お互いにオープンカーゆえに遮る物がなく、二人の会話が鮮明に流れて来る。特に水色だなんて派手な色をした髪の男……。渋滞にブチギレてるのか、スゲー怒鳴っていた。エンジン音をかき消すくらいに。とんだ迷惑な野郎だ。女もよくあんな男の隣に座っていられるな。

    「クソがッ!動かねえ!」
    「ギアッチョ、うるさい」
    「てめー、車の中で物を食うなって言ったよなァ~!?」
    「だって渋滞して、進まないんだもん。いくらドライアイスを使ってるからって、このままじゃあジェラートが溶けちゃう。ここで能力を使えないでしょ。ていうかギアッチョが凍らせたら、ジェラートが本当にただの氷になって食べられないし」
    「零すなよ!」
    「美味しい~」

    車内での飲食を嫌うタイプか、こいつ。女はそんな男の怒りを簡単に躱し、ジェラートを食べ進めている。男も男で色々とスゲーが、女も相当だぜありゃあ。

    「ギアッチョも食べる?」
    「いらねえ」
    「食べなよ」
    「いらねえって言ってんだろうが!オメー、耳は付いてんのかァ~!?」
    「ギアッチョの視力に異常がなければ、わたしの耳はちゃんと付いてるはずだよ。はい、あーん!」

    男の言葉を無視し、女はジェラートを掬ったスプーンを相手に押し付ける。これだけ怒りっぽい男だ。車で食べ物を口にするのを嫌がるわりに、さっきから車に拳を叩き込んでいる。その勢いで女の手も叩き落とすんじゃあねーかって思ったが、意外にも男は少しだけ黙り込むと、ジェラートが乗るスプーンに噛み付いた。

    「美味しい?」
    「……まあ」
    「わたし、ここのジェラートが好きなんだ」
    「そうかよ」
    「ギアッチョとのデートで、初めて行ったお店だし」
    「よく覚えてるな、そんなこと。仕事のことは直ぐに忘れちまうってのによ」
    「ギアッチョだって覚えてるくせに」
    「……」
    「あ、ほら、ちょっと動いたよ」
    「こんなの動いた内に入らねーよ」
    「この先、どこか抜け道ってあったっけ?」
    「さあな。仕方ねえ。任務は終わったと、リゾットにはオメーが連絡をしろ。それと、渋滞で遅れるってな」
    「了解!ねえ、遅れるついでに、どこかに寄って行こうよ」
    「はあ?」
    「ギアッチョとドライブしたいな~」

    この男、恋人に弱いな。女の甘えに舌打ちをしつつも、男は「分かった」と投げやりだが答えていた。

    「渋滞もいいよね。ギアッチョと長く一緒にいられるし」

    ああ、こりゃあ弱るのも分かる。

    ギアッチョ

  • モブから見た恋人たち~メローネ~

    20200525(月)10:44
    モブ視点から見た様子

    別な列車に乗ればよかった。あたしの目の前にいるカップルに、そう思わざるを得なかった。男の方は変なマスクを顔面に付けて、身体の半分なんて殆ど露出してしまっている。どこで買っているのかしら、あんな服。男は女の肩に腕を回して、妙にいやらしい動きを見せるその手で二の腕を撫で回している。女は全く抵抗せず、男の手を受け入れていた。「ねえ、メローネ」と、女が男を呼ぶ。見た目からは全く想像できないが、男は柔らかい口調で首を傾げていた。

    「何だい?」
    「誰もいないね」
    「ああ。時間帯が時間帯だからな。でも、運転手はいるぜ」
    「ここに来ないなら、いないのと同じだよ」
    「確かに、それはそうだ。なら、君にキスをしても問題ないってわけだ」
    「あまり変なキスはしないでね」
    「約束はできないな」

    ここに、目の前にあたしがいるのに。女が男に顔を近付け、男はもう片方の手で女の顎を捕らえる。啄むだけだったキスが段々と濃厚なものになっていって、舌を絡め合う音が聞こえて来た。赤い舌を伸ばして、女の唇を舐めては吸い上げるを繰り返し、顎を掴んでいた手で頬を撫でる。最悪だわ。こっちは、さっき恋人にフラれたばかりだってのに、何でこんなものを見なきゃいけないのよ。舌打ちを鳴らして視線を下げることで逃れれば、今度は女の甘い声が響いた。

    「メローネ、それはダメ。これから仕事でしょ」
    「堪えろって言うのか?酷いな」
    「仕事が終わったら、好きにしていいよ」
    「終わったら、君に何でもしていいってことか?」
    「痛いのは嫌だよ」
    「あのな、そう言われるとしたくなるのが男なんだぜ」
    「……まあ、メローネにならいいかな」
    「君は本当に……ディ・モールトいい女だ。興奮するよ」

    そう囁いて女の頬にキスをした男は、立ち上がってこちらへと近付く。そして、あたしの隣に腰を下ろして、顔を覗き込んできた。身を引こうとしたけれど、もう一方の側には、いつの間にか女が座っていた。

    「お姉さん、年齢は?わたしの予想だと……二十二歳!どう?合ってる?」
    「すまないが、君の星座と血液型を教えてくれないか?」
    「メローネ、こっちに鞄があったよ!身分証とかないか、調べてみるよ」
    「だそうだ。やっぱり答えなくていい」
    「な、何なのよ!あなたたち!」
    「あった!はい、メローネ!年齢、合ってたよ!」
    「グラッツェ。さすが、君の目に狂いはないな。……なるほど、よし。じゃあ次に、この中で好みのやり方を教えてくれないか?もっと深く、君のことが知りたいんだ。大切な事だからな」
    「お姉さん。震えてるけど、怖い?大丈夫だよ。ただちょっと聞きたいだけだから」

    本当に、別の列車に乗ればよかった。

    メローネ

  • モブから見た恋人たち~ペッシ~

    20200524(日)07:00
    モブ視点から見た様子

    オレがよく行く釣り場には、あるカップルが定期的に来る。男の方が釣り好きなんだろうな。興味深そうに話を聞く女に、男は嬉しそうに釣りの知識を披露していた。腕は確かなようで、ボウズってことがない。女の方は、魚は平気でも、虫エサが苦手なんだろう。釣り針にエサを付けることが出来ず、蠢く虫エサに半泣きになって男に付けてくれと訴えていた。男はいちいち、自分の釣り竿を置いて女の針にエサを付けている。これでも、女は慣れた方だ。最初に見た時は、虫エサにビビッて海にぶちまけていたからな。男からエサの付いた竿を受け取ると、女はそれを海に向かって振るう。エサを付けられねえわりには、そのフォームは中々のものだ。男が丁寧に教えていたからな。

    「見て見て!ペッシくん!釣れた!」

    女が釣りあげたのは、小さな魚。それでも自分が釣ったということが嬉しいんだろう。子供みてえに目を輝かせて、いかにも「褒めて」って感じで男に見せていた。男は、女がどんなものを釣っても褒める。魚から針を抜く時も、女には決してさせない。以前、女が針を抜こうとした時に、「針が刺さったら危ねーだろ」と横から止めていた。

    「逃がすの?」
    「ああ」
    「やらせて」
    「そっと逃がすんだぜ?」
    「分かってるよ」

    針を抜いた魚を受け取った女は、それを海に放す。泳いで消えていく魚を見送って、再び男にエサを取り付けてもらっていた。

    「やっぱり、海はちょっぴり寒いね」
    「そうだな」
    「ペッシくん、温めて」
    「しょうがねーな」
    「あ、ホルマジオの真似?」
    「違ェよ」

    寒いという女の片手を、男がそっと握る。女もそれを返して、男との距離を縮めていた。「温かい」と顔を綻ばせる女に、男も表情を緩める。随分と甘い空気を漂わせるカップルの横で、オレは項垂れてしまった。なんでオレ、釣りに来てカップルを見なきゃいけねーんだ……。

    「美味しい魚が釣れるといいね」
    「持って帰ったら、また兄貴に『生臭ェ』って言われちまうよ」
    「アジトには持って帰らないよ。家だよ、家!ペッシくんのために料理するの」

    いいよなあ、一緒に趣味を楽しめる恋人ってよ。オレも作りてえな。ん?ちょっと待て。アジト……?

    ペッシ

  • モブから見た恋人たち~プロシュート~

    20200523(土)07:02
    モブ視点から見た様子

    あたしは、勤務先の店によく来るある人が気になっていた。凄く魅力的な男の人。鋭い目付きが、整えられた髪が、他の人では着こなせない派手な服装が、彼の魅力を引き立てている。ただ席に座っているだけなのに、それだけなのに周囲の目を引き付ける。まるでモデルだった。こんな人がこの街にいるなんて。仕事は何をしているんだろう。好きな物は何だろう。好きな女の人のタイプはどんな感じだろう。話しかけたかったけれど、人を寄せ付けない雰囲気に、あたしは出来ないでいた。

    その人はいつも、彼を「兄貴」と呼ぶ二人を連れていた。一人は男の人。もう一人は女の人だった。男の人の方は、彼の言葉に従うばかりで、反抗なんてしているところを見た事がない。女の人の方は、男の人と比べると自分の意思をはっきりと口にして、時々彼を困らせていた。彼は、二人の先輩であり教育係なのだろう。怒鳴ったりもしているけれど、見捨てたりなんてしていなかった。

    「プロシュート、デザート頼んでいい?」
    「食ってもいいが、前みてえに途中で『腹痛ェ』とか言ったら容赦しねえ」
    「だってあの時、食べて直ぐに走らせたんだもん!痛くなるよ!」
    「ターゲットが逃げ出したってのに、ノロノロ歩いていられるかよ!」

    一か月前くらいから、女の人の彼への呼び方が「兄貴」から「プロシュート」に変わった。前から気付いていた。彼は、その女の人には少しだけ甘いことに。ああ、好きだったんだな。そして、二人はそういう関係になったんだろう。前よりも距離が近くなっていて、彼が女の人を見る時の目が酷く優しく、触れる手もより慎重になっていた。

    「プロシュート」
    「何だ」
    「約束、覚えてるよね?終わったらデートしてくれるって」
    「覚えてる。だからさっさと頼んで食え。間に合わなくなる」
    「プロシュートも一緒に食べよう」
    「いらねーよ」

    こう言っても、彼は食べるんだろうな。彼女には優しいから。

    プロシュート

  • モブから見た恋人たち~イルーゾォ~

    20200522(金)23:36
    モブ視点から見た様子
    ※イルーゾォの恋人シリーズの夢主。相変わらず病んでいます。夢主からモブへの暴力シーンあり。

    ちょっとした気分転換だった。いつもと違う道を通って家へ帰ろうとしたぼくは、あるものを見てしまった。それは、狭い路地で女が女に掴みかかっているところ。そして殴っていた。一方的に。矢印が片方だけに向く喧嘩の原因は、殴っている方の女の言葉から分かってしまった。恋人に手を出された……らしい。それほど体格が良いというわけでもない女は、容赦なくその色白の拳を叩き込んでいる。そして、既に力なく横たわるだけの女の傍で屈むと、満面の笑みで首を傾げた。

    「まだ生きてるよね?」

    表情に似つかわしくない、冷たい声だった。女は血に塗れた手で、どう見ても死にかけている相手の頬に触れる。そして、人差し指でそこを突き始めた。

    「わたしからイルーゾォを取るなんて、あなたには無理だよ、無理」

    本当にその姿は、玩具で遊んでいる子供のようだった。ぼくは女の異常性に寒気を覚え、頭が「ここはヤバい。逃げないと」と信号を出すが、身体が命令を聞いてはくれなかった。息を殺すことしか出来ず、ぼくは女が今からするであろうことをただ眺める。幸いなことに、女はこちらに気付いていないようだが……。

    すると、奇妙な静けさが漂う空間に、一つの電子音が鳴り響いた。音の出所は、女の持っていた携帯電話。女は画面を見るなり頬を染めて目を輝かせ、直ぐに通話ボタンを押した。

    「もしもし!イルーゾォ?今?今ね……今、買い物をしてるの。うん。欲しいものがあって。もう帰って来たの?じゃあ、今から急いで帰る!イルーゾォに早く会いたい!大好きだよ!待っててね!帰ったら、キスしてね!」

    電話の相手は、女の恋人だったらしい。弾む声で話していたが、女はその最中も瀕死の相手を突いて遊んでいた。通話を切った女は恍惚と息を吐くと、ゆっくりと立ち上がる。

    次の瞬間、女の目がぼくを刺した。

    「イルーゾォへの秘密が、二つ増えたな」

    同時に女の足がこちらへ向いた。ぼくは、未だに動けないでいる。

    イルーゾォ

  • モブから見た恋人たち~ホルマジオ~

    20200522(金)05:52
    モブ視点から見た様子

    女が一人、酔い潰れていた。酒に弱いんだろうな。グラス一杯でテーブルに突っ伏してしまっていた。譫言のように「ホルマジオ」と呟いては、テーブルに額を擦り付けている。そしてやがて、鼻を啜る音が聞こえて来た。なんだ、フラれた末のヤケ酒か?小さい頭が持ち上げられたと同時に、オレは横目で女の顔を伺う。それが結構、可愛かった。寄せられた眉、涙で潤んだ目、酒で仄かに色付いた頬と唇。口に含んでいた酒を、思わず飲み込んでしまった。フラれたってなら、声を掛けてもいいよな。オレは期待を胸に、女に声を掛けようと身体を傾けた。その時だった。後ろから現れた太い腕。その先にある手が、女の頭を撫でた。

    「ギアッチョに聞いて来てみれば、本当に飲んでたのかよ。オメー、酒に弱ェだろ」
    「ホルマジオ……ッ」

    この男が『ホルマジオ』か?頭に剃り込みを入れた男は店員に水を頼むと、女の隣へと座って、受け取ったそれを女に押し付けた。

    「冷たいッ」
    「ほら、水飲んで頭をすっきりさせろ」
    「お水よりも、ホルマジオが欲しい」
    「えらく積極的だなァ~」
    「だって、一週間も会えなかったから」

    なんだ、別れたわけじゃあねーのか。一週間会えなかったって、仕事か?女は男に抱き付くと、首へ顔を埋めて頬擦りをする。男はまるでガキをあやすように、女の頭を撫でた。

    「ホルマジオの匂い……!」
    「しょうがねーなァ~、オメーってヤツはよ」
    「寂しかった、会いたかった、ホルマジオ」
    「オレもずっと会いたかったぜ~?」

    女の萎みきった空気はどこへ行ったのか。男に只管甘える女は、さっきとは違う意味で泣いてしまっている。男は荒っぽい手付きで女の目元を拭ってやりながら、瞳だけをオレに向けて来た。男の視線に射抜かれた途端、オレの背中に汗が伝った。妙に冷たい汗が。

    「人の女に手ェ出そうとしてんじゃあねーよ」

    男が声を出さずに、口の動きだけでそう言った。勿論、オレへ対して。

    ホルマジオ

  • モブから見た恋人たち~アバッキオ~

    20200521(木)06:36
    モブ視点から見た様子

    午前で仕事が終わったオレは、家に帰る前に飲み物を買って、公園のベンチで寛いでいた。雲ひとつない晴れ渡った空が気持ちいい。やはり、こんな日は外で過ごすに限る。買ったばかりの飲み物に口を付けようとした時、オレの目の前を一人の男が横切り、隣のベンチへと腰を下ろした。……スゲー迫力のある男だった。180センチを超える長身に、鋭い目、気難しそうな口元。誰かを待っているんだろう。周囲を伺っては、時計で時間を確認していた。

    早く飲んで帰ろう。オレはそう思った。その男の近くにいることが出来なかったんだ。こんな怖ェ野郎の近くなんて息が詰まりそうだ。さっきまで美味かった飲み物が、全くの無味無臭になっている。気付けば、周囲からも人が少なくなっていた。

    「レオーネ!」

    そんな雰囲気をぶち壊す声が聞こえて来た。思わず視線を向ければ、男の背後に女が一人。男とは真逆で、迫力だなんてものとは無縁の、身長の低い、人懐こくどこか気が緩みそうな笑顔の女。女の小さい手が男の視界を奪おうと目論むが、それを阻んだ男のデケー手。男は女の手を捕らえると、見てるこっちにも痛いってのが伝わるほどに、それを握った。

    「痛い痛い痛い!レオーネ、手が潰れる!」
    「潰してやろうか?」
    「嫌!潰れたら、手が繋げなくなる!」

    そういう問題か?女のややズレた返しに、オレは飲み物を詰まらせてしまった。女は……男の恋人だろうか。二人の距離とやり取りに、そう感じてしまう。周囲の目なんて気にせず、好きだという気持ちを振り撒く女は、男に抱き付いて後頭部に顔を埋めていた。

    「お仕事、お疲れ様」
    「ああ」
    「そろそろお昼だけど、何が食べたい?」
    「オメーが食いたいものでいい」
    「レオーネが決めてよ」

    男の言葉は少し素っ気ないが、その口元は先程よりも緩んでいた。「お仕事、お疲れ様」なんて言われたことねーな、オレ。ちょっぴり羨ましいぜ……。

    「オメー、行きたがっていた店があったろ」
    「でもあそこ、ここから遠いよ。レオーネ、疲れてるでしょ」
    「そんな貧弱に見えるのかよ、オレが」

    立ち上がった男は、ゆっくりと歩き出した。女は小走りに男の横につくと、その手に指を絡める。男は無言で応えて、女の手をしっかりと握り返していた。

    「デザート、何にしようかな」
    「メインの前にもうデザートかよ。本当にオメーの舌はガキだな」

    馬鹿にする物言いでも男の表情は柔らかで、女よりも長い脚をしているのに、歩幅を調整して女の歩く速度に合わせていた。なんだよ、どっちもベタ惚れかよ。

    アバッキオ