呪の玉依
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──蠱毒。
其れは古から伝わる呪の一つ。
毒虫を壷に入れて食べさせ合い、生き残った最後の一匹を用いて人間を呪う呪術。
また、家宝として秘蔵する器物を外敵から守る手段として呪具化させる儀式を指し、厳選した生物を潰し濾す事で、得られた呪力の溶液に呪具化させたい器物を十月十日漬け込む事で完成する。
五条さん曰く、私の術式は身の内に取り込んだ呪霊でそれらを行なっているらしい。
謂わばこの身体は蠱毒の器であり、同時に呪いを惹きつける蜜にも等しいのだと。
そう考えれば、これまで周囲から恐れられて居た理由が、蠱毒を持つが故なのだと腑に落ちた気がする。
そして今し方取り込んだ黒い珠。
それが正に、呪霊が姿を変えたもであり、夏油さんは私と似通った術式と言うものを持って居るらしい。
そうして詳らかになっていく世界の話は、これまでに見たどの物語よりも悍ましく、鳥籠の中で過ごして来た私には未知の世界にも等しかった。
「蠱毒使いには女が多いって聞いた事あるけどさ、それもマジな話っぽいよな」
「何故、女性なんだい?」
「いつの時代も、女の呪いは怖いって事だろ」
「ハハ。それは、同感だね」
何かを思い返すかの様に二人が視線を遠くに投げる。
思い当たる節でもあるのか、すかさず硝子さんが隣で溜息を溢し、夜蛾さんと日下部さんは私が視線を向けるとあからさまに顔を背けた。
「なんのお話?」
「クズ同時が共鳴し合ってるだけだから、真那は気にしなくて大丈夫。大きくなっても、こんな男には捕まるんじゃないよ」
「硝子、要らん事を教えるな」
あちらこちらからじっとりとした視線が二人に向けられる。
すかさずどこ吹く風と言った様子でしらを切った様子から、何かやましい事があるのは明白だった。
しかし、それは私には到底聞かせられる話では無いらしく、日下部さんが無言で差し出した二つ目のアメ玉に私の意識が持っていかれる。
包装紙を今度は硝子さんに剥がしてもらい、口に含む頃には逸れた話が本題に戻り、五条さんがこれ幸いだと言わんばかりに私に話題を投げかけた。
「でもさぁ。オマエ、外でた事ないんだっけ?だったら呪霊ってどうやって捕獲してた訳?パッと見、結構な数取り込んできてるだろ」
「わかん、ない……。ずっとご飯といっしょにもって来られて、飲まないとすごくおこられた」
「どう考えても食後のデザートにはならねぇけどな。って事は、自分で呪いを取り込むまでの形にはした事が無いんだな」
「うん。私がお外に出れるのはお祭りの日だけ。あとはずっとお部屋にいなきゃいけなかったから」
腕を組んだ五条さんはそのまま腕を組み、片手を顎に添えて考えに耽った。
身動ぐ度にさらさらと揺れる髪はこの場の誰よりも目を惹き、綺麗だと。
その言葉意外に思い浮かぶものはない。
そんな彼が、また何か一つ。
思いついたように顔を上げる。
一度私に視線を向け、信じ難いものを見るようにその背後に視線を投げ。
そうして、隣に座る夏油さんを見やると、徐にその肩に手を置いた。
「……なぁ、日下部さん。今回の任務、一番初めに報告が来た時の内容覚えてる?」
「ああ。村人の神隠し。その原因調査の筈だったな。だが、蓋を開けりゃ呪詛師絡みでその確証を得るまでにえらく時間を食ったからな」
「じゃあさ、傑。オマエが取り込む呪霊ってさ、自然発生したもの意外でもイケんだよな?」
「まぁね。既に主従関係が成立している場合はその限りではないけれどね。それが、どうかしたのかい?」
何か思う所があるのか。
五条さんは始終思案顔で、私が視線を泳がせる最中。
他の面々の視線は彼に注がれて居た。
良くも悪くも、五条さんは呪術界と言う世界においてそれなりの立ち位置に在るのだろう。
加えて、僅かながらの時しか過ごして居なくとも頭の回転も早い事が見て取れる。
彼より年長者である日下部さんや夜蛾さんを差し置いて、この場の権限はこの人に在ると言っても過言ではない雰囲気すら醸し出し。
それは、最年長である村長が絶対とされていた村で育った私には異様な光景だった。
「なぁ。取り込んだ呪霊の数を考えても、自然発生した物だけにしては多過ぎと思わねぇか?」
「確かにね。いくらこの子が呪いを引き寄せるとしても悟の言葉が本当だとして。数は両手をゆうに超えるものだ」
「これは俺の憶測なんだけどさ。先生、呪術師を殺す時。一番気をつけなけりゃならない事ってなんだっけ」
「……まさか」
「そんな事、有り得るのかよ」
その言葉と同時に、一斉に空気が変わる。
五条さん意外の人々の顔はみるみる内に青褪め、唇が戦慄いた。
彼が言わんとする事。
それは、私には理解の及ばないものであっても、呪術と言うものに精通した彼等には容易く理解出来るものだったのだろう。
一人は困惑と疑惑の視線を私に向け、残りの三人はその視線を五条さんに向ける。
日下部さんも、夜蛾さんも。
示唆された可能性とやらを否定出来ぬまま。
ただ、彼等の口からは何も紡がれる事は無く、項垂れる様にその場で首を垂れた。
「多分な。そうすりゃ、色々と辻褄が合うんだよ。ソイツに明確な意思がある理由も。蠱毒ってのは常に核が存在する。真那だっけ?コイツが今まで取り込んできたものは────」
「五条……っ!!」
その瞬間、私の世界から音が消える。
厳密に言えば隣に、居た日下部さんが私の耳を塞いだ事が原因なのだけれど、余りにも突然の出来事に私は身体が硬直したように動けなくなった。
手にしたアメが滑り落ち、床に転がる。
五条さんの言葉に、硝子さんと夏油さんが立ち上がり、夜蛾さんが咄嗟に腕を翳すと二人は苦虫を噛んだような顔つきでゆっくりとソファに沈んだ。
「……ったく。子供に聞かせて良い話じゃねぇだろ」
「何れ知ることになるんだから同じじゃね?」
「悟。それでも、この子はまだ幼い。少なくとも今じゃない」
「先延ばしして何になるんだよ」
「止めんか、二人とも。一先ずその村についてはこの先も調査が必要になるだろうな」
日下部さんが私から耳を離す頃。
周囲はすっかり静まり返り、吹き荒んだ風が窓を大きく揺らした。
私の様子を伺う様に、硝子さんが肩を抱き寄せる。
それに対して私は、何も知らない振りをして無垢な笑みを湛えた。
しかし、今にも破裂しそうな程に心臓が大きく鳴り響く。
じんわりと背中に汗が伝い、隠すようにして握りしめた拳は一度は熱を帯び、その後どんどん冷え切っていく。
この場の誰も知るはずが無かった。
大人達が自分に対し、密やかに耳打つ姿ばかり見て来た私が唇の動きだけでその言葉を読み解ける様になっている事を。
私がこれまで取り込んで来たものは、かつて人間だった村の人だったなんて事。
私は一体、どうやって受け入れたら良いのだろうか。
其れは古から伝わる呪の一つ。
毒虫を壷に入れて食べさせ合い、生き残った最後の一匹を用いて人間を呪う呪術。
また、家宝として秘蔵する器物を外敵から守る手段として呪具化させる儀式を指し、厳選した生物を潰し濾す事で、得られた呪力の溶液に呪具化させたい器物を十月十日漬け込む事で完成する。
五条さん曰く、私の術式は身の内に取り込んだ呪霊でそれらを行なっているらしい。
謂わばこの身体は蠱毒の器であり、同時に呪いを惹きつける蜜にも等しいのだと。
そう考えれば、これまで周囲から恐れられて居た理由が、蠱毒を持つが故なのだと腑に落ちた気がする。
そして今し方取り込んだ黒い珠。
それが正に、呪霊が姿を変えたもであり、夏油さんは私と似通った術式と言うものを持って居るらしい。
そうして詳らかになっていく世界の話は、これまでに見たどの物語よりも悍ましく、鳥籠の中で過ごして来た私には未知の世界にも等しかった。
「蠱毒使いには女が多いって聞いた事あるけどさ、それもマジな話っぽいよな」
「何故、女性なんだい?」
「いつの時代も、女の呪いは怖いって事だろ」
「ハハ。それは、同感だね」
何かを思い返すかの様に二人が視線を遠くに投げる。
思い当たる節でもあるのか、すかさず硝子さんが隣で溜息を溢し、夜蛾さんと日下部さんは私が視線を向けるとあからさまに顔を背けた。
「なんのお話?」
「クズ同時が共鳴し合ってるだけだから、真那は気にしなくて大丈夫。大きくなっても、こんな男には捕まるんじゃないよ」
「硝子、要らん事を教えるな」
あちらこちらからじっとりとした視線が二人に向けられる。
すかさずどこ吹く風と言った様子でしらを切った様子から、何かやましい事があるのは明白だった。
しかし、それは私には到底聞かせられる話では無いらしく、日下部さんが無言で差し出した二つ目のアメ玉に私の意識が持っていかれる。
包装紙を今度は硝子さんに剥がしてもらい、口に含む頃には逸れた話が本題に戻り、五条さんがこれ幸いだと言わんばかりに私に話題を投げかけた。
「でもさぁ。オマエ、外でた事ないんだっけ?だったら呪霊ってどうやって捕獲してた訳?パッと見、結構な数取り込んできてるだろ」
「わかん、ない……。ずっとご飯といっしょにもって来られて、飲まないとすごくおこられた」
「どう考えても食後のデザートにはならねぇけどな。って事は、自分で呪いを取り込むまでの形にはした事が無いんだな」
「うん。私がお外に出れるのはお祭りの日だけ。あとはずっとお部屋にいなきゃいけなかったから」
腕を組んだ五条さんはそのまま腕を組み、片手を顎に添えて考えに耽った。
身動ぐ度にさらさらと揺れる髪はこの場の誰よりも目を惹き、綺麗だと。
その言葉意外に思い浮かぶものはない。
そんな彼が、また何か一つ。
思いついたように顔を上げる。
一度私に視線を向け、信じ難いものを見るようにその背後に視線を投げ。
そうして、隣に座る夏油さんを見やると、徐にその肩に手を置いた。
「……なぁ、日下部さん。今回の任務、一番初めに報告が来た時の内容覚えてる?」
「ああ。村人の神隠し。その原因調査の筈だったな。だが、蓋を開けりゃ呪詛師絡みでその確証を得るまでにえらく時間を食ったからな」
「じゃあさ、傑。オマエが取り込む呪霊ってさ、自然発生したもの意外でもイケんだよな?」
「まぁね。既に主従関係が成立している場合はその限りではないけれどね。それが、どうかしたのかい?」
何か思う所があるのか。
五条さんは始終思案顔で、私が視線を泳がせる最中。
他の面々の視線は彼に注がれて居た。
良くも悪くも、五条さんは呪術界と言う世界においてそれなりの立ち位置に在るのだろう。
加えて、僅かながらの時しか過ごして居なくとも頭の回転も早い事が見て取れる。
彼より年長者である日下部さんや夜蛾さんを差し置いて、この場の権限はこの人に在ると言っても過言ではない雰囲気すら醸し出し。
それは、最年長である村長が絶対とされていた村で育った私には異様な光景だった。
「なぁ。取り込んだ呪霊の数を考えても、自然発生した物だけにしては多過ぎと思わねぇか?」
「確かにね。いくらこの子が呪いを引き寄せるとしても悟の言葉が本当だとして。数は両手をゆうに超えるものだ」
「これは俺の憶測なんだけどさ。先生、呪術師を殺す時。一番気をつけなけりゃならない事ってなんだっけ」
「……まさか」
「そんな事、有り得るのかよ」
その言葉と同時に、一斉に空気が変わる。
五条さん意外の人々の顔はみるみる内に青褪め、唇が戦慄いた。
彼が言わんとする事。
それは、私には理解の及ばないものであっても、呪術と言うものに精通した彼等には容易く理解出来るものだったのだろう。
一人は困惑と疑惑の視線を私に向け、残りの三人はその視線を五条さんに向ける。
日下部さんも、夜蛾さんも。
示唆された可能性とやらを否定出来ぬまま。
ただ、彼等の口からは何も紡がれる事は無く、項垂れる様にその場で首を垂れた。
「多分な。そうすりゃ、色々と辻褄が合うんだよ。ソイツに明確な意思がある理由も。蠱毒ってのは常に核が存在する。真那だっけ?コイツが今まで取り込んできたものは────」
「五条……っ!!」
その瞬間、私の世界から音が消える。
厳密に言えば隣に、居た日下部さんが私の耳を塞いだ事が原因なのだけれど、余りにも突然の出来事に私は身体が硬直したように動けなくなった。
手にしたアメが滑り落ち、床に転がる。
五条さんの言葉に、硝子さんと夏油さんが立ち上がり、夜蛾さんが咄嗟に腕を翳すと二人は苦虫を噛んだような顔つきでゆっくりとソファに沈んだ。
「……ったく。子供に聞かせて良い話じゃねぇだろ」
「何れ知ることになるんだから同じじゃね?」
「悟。それでも、この子はまだ幼い。少なくとも今じゃない」
「先延ばしして何になるんだよ」
「止めんか、二人とも。一先ずその村についてはこの先も調査が必要になるだろうな」
日下部さんが私から耳を離す頃。
周囲はすっかり静まり返り、吹き荒んだ風が窓を大きく揺らした。
私の様子を伺う様に、硝子さんが肩を抱き寄せる。
それに対して私は、何も知らない振りをして無垢な笑みを湛えた。
しかし、今にも破裂しそうな程に心臓が大きく鳴り響く。
じんわりと背中に汗が伝い、隠すようにして握りしめた拳は一度は熱を帯び、その後どんどん冷え切っていく。
この場の誰も知るはずが無かった。
大人達が自分に対し、密やかに耳打つ姿ばかり見て来た私が唇の動きだけでその言葉を読み解ける様になっている事を。
私がこれまで取り込んで来たものは、かつて人間だった村の人だったなんて事。
私は一体、どうやって受け入れたら良いのだろうか。
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