Letters
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私は、好きな人と話ができない。
声が聞きたい。
会話がしたい。
私の気持ちを聞いてほしい。
彼の気持ちを聞いてみたい。
いつもいつも、そんなことばかり考えている。
恋する乙女に悩みは尽きない。
どうしたら少しでも可愛く見てもらえるか。
どうしたら少しでも話ができるか。
どうしたら…少しでも、相手に意識してもらえるか。
けれど恋愛経験なんてゼロに等しい私は、今日も今日とて唯一の同性のクラスメイトを捕まえてはジャンクフードを奢るからと恋愛相談に乗ってもらっている有様。
「真希、どうしたら棘の言ってる事がわかるようになるかな?」
「はぁ?んなもん…あれだ、あれ。うん」
「あれ…?」
「勘」
期待に胸を膨らませながら回答を待ち侘びた私はクラスメイトの雑な回答にガクっと頭を垂れた。
ここは東京都立呪術専門高等学校。
私はそこの二年生。
クラスメイトは今話している唯一の同性の真希。
現在は出張任務中の憂太。
パンダ。
…そして、私の想い人の棘。
言葉に呪いの籠る彼は語彙がおにぎりの具しか無いので会話が相当難しい。
そんな中、クラスメイトのみんなは何となく…などと曖昧なことを言いながら棘と会話をする。
私だけが、いつまでもニュアンスを掴めずに棘の言いたいことを理解できない。
憂太なんか私より後に入学してきているのに…。
いつの間にか私より棘と仲良くなっていて、私より棘の言うことを理解している。
はっきり言って仕舞えばムカつく。
その一言に尽きる。
私の方が、棘のこと…ずっとずっと好きなのに。
相手の心が読める道具でもあれば、たとえいくら積んだとしても買うだろう。
「高菜、明太子?」
「え、ふぁ!!?棘…?あれ、真希は?」
「すじこ、いくら」
やっぱり棘の言いたい事は全く分からない。
これをなんとなくで理解しろという方が無理がある。
教室の中を見渡しても先ほどまで確かに話していたはずの真希の姿はどこにも無く、私はは焦りの色を滲ませた。
何で黙っていなくなるの!?
たった一言、まともな会話がしてみたいのに棘と二人きりでは私は間を持たせることができない…。
なんて事のない話が、好きな人としたいだけなのに。
二人きりの教室だという事実に鼓動だけが早鐘を打つ。
このままではドクドクと脈打つ胸の音が棘の耳に届いてしまうのではないかと思える程に。
「しゃけ?すじこ?」
「…ふぇ!?あ、ごめん…」
顔を覗き込むようにやってきた棘からふわりといい匂いがすると、バチっと合ってしまった視線に一気に顔に熱が篭って…咄嗟に顔を背けてしまった。
「おかか…」
「え、あ…違…っ!!」
私の言葉が言い終わる前にポンと、頭に棘の手が乗るとそのまま彼は少し寂しそうに教室をでていってしまった。
…違うんだよ。
今のは恥ずかしかっただけで、本当はもっと棘と話がしたいだけなの。
そう言えたらどれだけ楽だったか。
けれど臆病な私には、まだ告白なんてハードルの高いことが出来るはずもなく、誰もいなくなった教室の中で小さくごめんねと呟いた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
恋は下心
愛は真心
昔の人は上手いことを言ったもんだと感心してしまう。
昨日教室で棘に接近してからというとの、あの時の匂いとか…綺麗な瞳とか、サラサラの髪とか。
つまり棘を意識しまくってしまって何一つ集中できない。
廊下を歩けば虎杖にぶつかり。
自販機に行けば買ったものを忘れ。
訓練では伏黒との組み合いで避けれるはずの攻撃を受けてコブを作った。
当然真希には怒られるし、パンダは呆れるし…踏んだり蹴ったりでもう泣きたくなって来る。
そんな中で一人とぼとぼと廊下を歩いていると不意に鳴り出したスマホの画面の相手を見て、私は急いで通話をオンにする。
「憂太ぁ…」
『久しぶり、昨日のLINEみて心配になって連絡しちゃった。狗巻君となにかあった?』
「…そういうわけじゃないんだけどね、相変わらず会話出来なくて不毛な恋続けてます…。誰か翻訳して欲しい」
『アハハ、狗巻君はわかりやすいと思うけどね。真那ちゃんもあんまり恥ずかしがってると伝わらないよ?』
「そんなことわかってるよぉ!!!助けて憂太ぁ。一応一つ先輩でしょ?」
『うん、でも僕みんなのクラスメイトだから』
廊下の壁にもたれながら憂太と話しているとついつい話し込んでしまうのは、自分には二つ程上の兄がいるからなのかもしれない。
クラスメイトでも実年齢は一つ上で比較的物腰の柔らかい憂太は私にとって良き相談相手でお兄ちゃんのような存在に近かった。
互いの近況報告やクラスで起きた笑い話、後輩の事などを話しているといつも思う。
こういう話を、棘としたい。
ラブラブになりたない!
なんて事は望んでるけど…まだその段階じゃない。
そもそも、棘の気持ちも知らなければ私の気持ちも伝えていない。
これでフラれたら、今後クラスに居づらくなる。
そう思うからこそ、なかなか一歩に踏み出せない。
『手紙とか、やってみたらどうかな?』
「文通ってこと?」
『そこまで長いものじゃなくても良いんだけど、今日こんな事があったよとかそう言った事を狗巻君に一言でいいから書いてもらえれば、なんとなく会話になったりしないかな?』
「憂太…天才!?やばい、すごい、天才!好き!!ありがとう!!!」
『…え、真那ち…』
思い立ったら善は急げ。
まだ話を続けようとしていた憂太との会話を半ば一方的に終了させると、きっとみんなはまだ教室にいる筈だと考えて遥か遠方の任務地に居るクラスメイトに感謝の念を抱きつつ、私は全速力で教室に向かった。
「棘!!」
「お、きたなポンコツ」
「だな」
「しゃけ」
「ぐ…っ、否定できないけど今日の私はちょっとした深刻なエラーが出ていただけでして…。それもさっき憂太と話して解決した…はず!」
一斉にこちらを見ながら思い思いに私のことをディスるクラスメイトに言い訳にもならない言い訳をしながら私は自分の支えに真っ直ぐ向かうと、授業で使っているノートの最後のページを切り取ってシャーペンを添えて棘に差し出した。
「明太子?」
「あのね、棘とちょっとしたお手紙のやりとりとかしたらそのうち私にも棘のいう事…わかるようになるんじゃないかなって憂太にアドバイスもらってね。それで今から何か書いて!」
「おかか…」
息巻く私の姿に棘は明らかに困惑していた。
隣に座っている二人もポカンと私の様子を眺めた後、コイツ頭大丈夫か?的な視線を送ってくる。
けれど、今の私にはそんなこと構ってられない。
これで棘と会話するきっかけを作れる。
何より、書いてもらえれば直筆の手紙が私の手元にやってくる。
我ながら気持ち悪い思考だとおもう。
けれどそれが恋というものじゃないだろうか。
私はこの時、そうやって自分を正当化していた。
「棘、早くなんか書いて」
「おかか…」
これ以上ないくらい困った顔をする棘の表情など気にする余裕もないくらい今の私は自分のことしか考えていなかった。
いつ棘の手が動くかと期待に胸を膨らませながら手元を見つめ続けていると小さくため息をついた棘はすらすらとペンを走らせ出す。
すじこ
きんぴら
「…ん?」
手渡されたメモにはやはりおにぎりの具しか書かれていなかった。
その事実に私は猛烈に打ちひしがれる。
…なんで?
…なんでだよぉ。
手紙なら、文字なら呪言関係ないんじゃなかったの?
そもそもきんぴらはご飯のお供には最適だけどおにぎりの具としては定番かと言われたら違う気がする…。
項垂れる私の姿を見るとパンダと真希はゲラゲラと笑いながら私の背中を叩いて、そのうちガラガラと扉の開く音が聞こえると二人の姿は消えていた。
…せっかく名案だと思ってやってもらったのに…結局手紙でも棘はおにぎりの具しか書いてくれなかった。
心の傷でしばらく病気療養してやろうか。
診断書硝子さんに出してもらおうか。
五条先生ならこの若人の傷の深さを少しは理解してくれるんじゃないか。
そう考えて蹲りながらメソメソしていると、ちょいちょいと肩を突かれる。
同じ目線に棘がやってくると先程のメモを私から奪い取りその文字を縦になぞった。
すき
じん
こぴ
ら
二つの言葉の一番初めの文字。
それを繋げて読むと「すき」という言葉になる…らしい。
けれどそれが自分の感情と同じものになるかなんて判断がつかない。
すじこのおにぎり食べたいの?と聞いた私に棘はガクっと頭を垂れて、私の手を握ると手のひらに指で文字を書き始めた。
ーーー真那がすき
「おかか?」
「…ほんと?」
「いくら、ツナマヨ」
隠した口元では分かりにくくても、悪戯っ子のような笑顔を私に向けた棘。
伝わりにくいおにぎりの具でも、今棘は私の返事を聞きたがっているのだろうと…それはなんとなく察する事ができた。
「私も好きだよ。だから棘の言ってる事、わかるようになりたかった。みんなとおんなじように話がしたかった」
ここまで来れば玉砕はしないだろうと、安全牌を取り続けた結果の雰囲気も何もないずるい告白。
棘の口元を覆っている布がずり下げられると呪言を使う彼特有の紋がある口元が露わになった。
言葉に呪いが篭るから声には出せない。
けれど動いた棘の唇はしっかりと「好き」の二文字を私に伝えてくれる。
「…私も」
「しゃけ」
目を細めた棘の笑顔に引き寄せられるように、私たちはお互いの唇をそっと重ねる。
僅かに開いた教室のドアから微風が吹き込むと、互いの髪が頬をくすぐった。
声が聞きたい。
会話がしたい。
私の気持ちを聞いてほしい。
彼の気持ちを聞いてみたい。
いつもいつも、そんなことばかり考えている。
恋する乙女に悩みは尽きない。
どうしたら少しでも可愛く見てもらえるか。
どうしたら少しでも話ができるか。
どうしたら…少しでも、相手に意識してもらえるか。
けれど恋愛経験なんてゼロに等しい私は、今日も今日とて唯一の同性のクラスメイトを捕まえてはジャンクフードを奢るからと恋愛相談に乗ってもらっている有様。
「真希、どうしたら棘の言ってる事がわかるようになるかな?」
「はぁ?んなもん…あれだ、あれ。うん」
「あれ…?」
「勘」
期待に胸を膨らませながら回答を待ち侘びた私はクラスメイトの雑な回答にガクっと頭を垂れた。
ここは東京都立呪術専門高等学校。
私はそこの二年生。
クラスメイトは今話している唯一の同性の真希。
現在は出張任務中の憂太。
パンダ。
…そして、私の想い人の棘。
言葉に呪いの籠る彼は語彙がおにぎりの具しか無いので会話が相当難しい。
そんな中、クラスメイトのみんなは何となく…などと曖昧なことを言いながら棘と会話をする。
私だけが、いつまでもニュアンスを掴めずに棘の言いたいことを理解できない。
憂太なんか私より後に入学してきているのに…。
いつの間にか私より棘と仲良くなっていて、私より棘の言うことを理解している。
はっきり言って仕舞えばムカつく。
その一言に尽きる。
私の方が、棘のこと…ずっとずっと好きなのに。
相手の心が読める道具でもあれば、たとえいくら積んだとしても買うだろう。
「高菜、明太子?」
「え、ふぁ!!?棘…?あれ、真希は?」
「すじこ、いくら」
やっぱり棘の言いたい事は全く分からない。
これをなんとなくで理解しろという方が無理がある。
教室の中を見渡しても先ほどまで確かに話していたはずの真希の姿はどこにも無く、私はは焦りの色を滲ませた。
何で黙っていなくなるの!?
たった一言、まともな会話がしてみたいのに棘と二人きりでは私は間を持たせることができない…。
なんて事のない話が、好きな人としたいだけなのに。
二人きりの教室だという事実に鼓動だけが早鐘を打つ。
このままではドクドクと脈打つ胸の音が棘の耳に届いてしまうのではないかと思える程に。
「しゃけ?すじこ?」
「…ふぇ!?あ、ごめん…」
顔を覗き込むようにやってきた棘からふわりといい匂いがすると、バチっと合ってしまった視線に一気に顔に熱が篭って…咄嗟に顔を背けてしまった。
「おかか…」
「え、あ…違…っ!!」
私の言葉が言い終わる前にポンと、頭に棘の手が乗るとそのまま彼は少し寂しそうに教室をでていってしまった。
…違うんだよ。
今のは恥ずかしかっただけで、本当はもっと棘と話がしたいだけなの。
そう言えたらどれだけ楽だったか。
けれど臆病な私には、まだ告白なんてハードルの高いことが出来るはずもなく、誰もいなくなった教室の中で小さくごめんねと呟いた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
恋は下心
愛は真心
昔の人は上手いことを言ったもんだと感心してしまう。
昨日教室で棘に接近してからというとの、あの時の匂いとか…綺麗な瞳とか、サラサラの髪とか。
つまり棘を意識しまくってしまって何一つ集中できない。
廊下を歩けば虎杖にぶつかり。
自販機に行けば買ったものを忘れ。
訓練では伏黒との組み合いで避けれるはずの攻撃を受けてコブを作った。
当然真希には怒られるし、パンダは呆れるし…踏んだり蹴ったりでもう泣きたくなって来る。
そんな中で一人とぼとぼと廊下を歩いていると不意に鳴り出したスマホの画面の相手を見て、私は急いで通話をオンにする。
「憂太ぁ…」
『久しぶり、昨日のLINEみて心配になって連絡しちゃった。狗巻君となにかあった?』
「…そういうわけじゃないんだけどね、相変わらず会話出来なくて不毛な恋続けてます…。誰か翻訳して欲しい」
『アハハ、狗巻君はわかりやすいと思うけどね。真那ちゃんもあんまり恥ずかしがってると伝わらないよ?』
「そんなことわかってるよぉ!!!助けて憂太ぁ。一応一つ先輩でしょ?」
『うん、でも僕みんなのクラスメイトだから』
廊下の壁にもたれながら憂太と話しているとついつい話し込んでしまうのは、自分には二つ程上の兄がいるからなのかもしれない。
クラスメイトでも実年齢は一つ上で比較的物腰の柔らかい憂太は私にとって良き相談相手でお兄ちゃんのような存在に近かった。
互いの近況報告やクラスで起きた笑い話、後輩の事などを話しているといつも思う。
こういう話を、棘としたい。
ラブラブになりたない!
なんて事は望んでるけど…まだその段階じゃない。
そもそも、棘の気持ちも知らなければ私の気持ちも伝えていない。
これでフラれたら、今後クラスに居づらくなる。
そう思うからこそ、なかなか一歩に踏み出せない。
『手紙とか、やってみたらどうかな?』
「文通ってこと?」
『そこまで長いものじゃなくても良いんだけど、今日こんな事があったよとかそう言った事を狗巻君に一言でいいから書いてもらえれば、なんとなく会話になったりしないかな?』
「憂太…天才!?やばい、すごい、天才!好き!!ありがとう!!!」
『…え、真那ち…』
思い立ったら善は急げ。
まだ話を続けようとしていた憂太との会話を半ば一方的に終了させると、きっとみんなはまだ教室にいる筈だと考えて遥か遠方の任務地に居るクラスメイトに感謝の念を抱きつつ、私は全速力で教室に向かった。
「棘!!」
「お、きたなポンコツ」
「だな」
「しゃけ」
「ぐ…っ、否定できないけど今日の私はちょっとした深刻なエラーが出ていただけでして…。それもさっき憂太と話して解決した…はず!」
一斉にこちらを見ながら思い思いに私のことをディスるクラスメイトに言い訳にもならない言い訳をしながら私は自分の支えに真っ直ぐ向かうと、授業で使っているノートの最後のページを切り取ってシャーペンを添えて棘に差し出した。
「明太子?」
「あのね、棘とちょっとしたお手紙のやりとりとかしたらそのうち私にも棘のいう事…わかるようになるんじゃないかなって憂太にアドバイスもらってね。それで今から何か書いて!」
「おかか…」
息巻く私の姿に棘は明らかに困惑していた。
隣に座っている二人もポカンと私の様子を眺めた後、コイツ頭大丈夫か?的な視線を送ってくる。
けれど、今の私にはそんなこと構ってられない。
これで棘と会話するきっかけを作れる。
何より、書いてもらえれば直筆の手紙が私の手元にやってくる。
我ながら気持ち悪い思考だとおもう。
けれどそれが恋というものじゃないだろうか。
私はこの時、そうやって自分を正当化していた。
「棘、早くなんか書いて」
「おかか…」
これ以上ないくらい困った顔をする棘の表情など気にする余裕もないくらい今の私は自分のことしか考えていなかった。
いつ棘の手が動くかと期待に胸を膨らませながら手元を見つめ続けていると小さくため息をついた棘はすらすらとペンを走らせ出す。
すじこ
きんぴら
「…ん?」
手渡されたメモにはやはりおにぎりの具しか書かれていなかった。
その事実に私は猛烈に打ちひしがれる。
…なんで?
…なんでだよぉ。
手紙なら、文字なら呪言関係ないんじゃなかったの?
そもそもきんぴらはご飯のお供には最適だけどおにぎりの具としては定番かと言われたら違う気がする…。
項垂れる私の姿を見るとパンダと真希はゲラゲラと笑いながら私の背中を叩いて、そのうちガラガラと扉の開く音が聞こえると二人の姿は消えていた。
…せっかく名案だと思ってやってもらったのに…結局手紙でも棘はおにぎりの具しか書いてくれなかった。
心の傷でしばらく病気療養してやろうか。
診断書硝子さんに出してもらおうか。
五条先生ならこの若人の傷の深さを少しは理解してくれるんじゃないか。
そう考えて蹲りながらメソメソしていると、ちょいちょいと肩を突かれる。
同じ目線に棘がやってくると先程のメモを私から奪い取りその文字を縦になぞった。
すき
じん
こぴ
ら
二つの言葉の一番初めの文字。
それを繋げて読むと「すき」という言葉になる…らしい。
けれどそれが自分の感情と同じものになるかなんて判断がつかない。
すじこのおにぎり食べたいの?と聞いた私に棘はガクっと頭を垂れて、私の手を握ると手のひらに指で文字を書き始めた。
ーーー真那がすき
「おかか?」
「…ほんと?」
「いくら、ツナマヨ」
隠した口元では分かりにくくても、悪戯っ子のような笑顔を私に向けた棘。
伝わりにくいおにぎりの具でも、今棘は私の返事を聞きたがっているのだろうと…それはなんとなく察する事ができた。
「私も好きだよ。だから棘の言ってる事、わかるようになりたかった。みんなとおんなじように話がしたかった」
ここまで来れば玉砕はしないだろうと、安全牌を取り続けた結果の雰囲気も何もないずるい告白。
棘の口元を覆っている布がずり下げられると呪言を使う彼特有の紋がある口元が露わになった。
言葉に呪いが篭るから声には出せない。
けれど動いた棘の唇はしっかりと「好き」の二文字を私に伝えてくれる。
「…私も」
「しゃけ」
目を細めた棘の笑顔に引き寄せられるように、私たちはお互いの唇をそっと重ねる。
僅かに開いた教室のドアから微風が吹き込むと、互いの髪が頬をくすぐった。
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