マネージャー勧誘大作戦
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「ファミリーの仲間も揃ってきた事だが、まだ足りないものがある。何だと思う」
放課後、リボーンがオレたちを呼び出したかと思えば、急にそんな事を言い出した。
足りない物も何も、オレからすればマフィアとかファミリーとか全然受け止めきれてないし、そもそも何をする団体なのかもよく分かっていない。
「戦力は十分ッスよね。右腕の俺がいますから!」
獄寺くんがそう答えると、リボーンはオレに銃口を向ける。
「"何が足りないか"答えろっつってんだ」
「なんでオレ!?」
「仲間のミスの責任を負うのは、ボスの役目だぞ」
そんなこと言われたってわからないものはわからない。オレがだんまりを決め込んでいると、リボーンはため息をついた。
「ハァ。山本、野球部には、選手以外にも部員がいるよな?」
「あ……っなるほど、マネージャーか!」
「そうだ。さすがだな」
マネージャーというと、スポーツをやっている人を支える仕事のイメージが強い。洗濯をしたり、飲み物を用意したり、レモンの蜂蜜漬けなんて作っちゃったり。
でも、マフィアにそんなもの必要なのだろうか?
「オレたち、スポーツをしてる訳でもないし、マネージャーなんて……」
「何か勘違いしてないか?マフィアは仕事だ。金と情報を扱うんだぞ。裏方のほうが多いくらいだ」
「収支を計算する会計、サーバを守るコンピュータエンジニア、武器を管理・修理する技師、怪我人を治療する救護班、本部にはそういった方々がいます」
「そうなんだ……」
獄寺くんが解説してくれた。オレが想像していたよりも、ボンゴレファミリーは大きくてしっかりした組織なんだ。
「ツナも理解したところで本題だ。今日はボンゴレの裏方をスカウトするぞ」
「でも本部には裏方がたくさんいるんだろ?探す必要ないんじゃ……」
オレが疑問を口にすると、すぐにリボーンはまたオレに銃口を向けた。思った通りに行かないといつもこうだ。死ぬ気弾を撃たれても死なないとわかってはいるけど、怖いものは怖い。パンツ一丁になりたくないし。
「本部のヤツらに、並盛にいるお前達の面倒を見る暇があると思うか?」
「まあ、そうだけど……」
「マネージャーを勧誘するって事はわかったぜ。チラシ配るのか?」
どうやら山本は乗り気らしい。仲間が増えて賑やかになる、と捉えているようだ。
獄寺くんは舌打ち混じりに「右腕の俺がいれば裏方なんて……でもリボーンさんが言うなら……」と呟いている。納得がいってないみたいだけど、獄寺くんはリボーンの言う事をよく聞く。反対するつもりはないのだろう。
オレとしては、あんまり被害者を増やしたくないんだけど……。
「むやみに勧誘しても仕方ねぇ。『ツナのクラスで1番頭の良い奴』をスカウトするぞ」
「オレのクラスメートを巻き込む気かよ!」
「当たり前だろ。ボスの事をよく知っているヤツが適任だ」
よりによって、またクラスメートから仲間を増やす気らしい。一般人をマフィアの世界に引きずり込もうなんて、どうかしている。オレは止めようとしたけど、リボーンは聞く耳を持たない。
「前に、明寺がテストで学年1位取ってたの見たぜ」
「よし、そいつを探すぞ。どこにいるかわかるか?」
「明寺帰宅部なんだよな〜。いるとしたら商店街だな」
明寺って、そんなに頭が良かったんだ。喋ったことなかったし、知らなかった。
……じゃなくて。リボーンは知らないのかもしれないけど、明寺は女子だ。女の子をマフィアの活動に巻き込む訳には行かない。ハルだってマフィアの事を知ってるけど、ファミリーの一員になった訳じゃないし。
踏みとどまってもらうために、オレは商店街に向かおうとするリボーンを止めた。
「ちょっと待って!明寺は女子なんだぞ!」
「マネージャーって言ったら女子のイメージだろ?」
山本が無邪気に答える。山本は未だにこれがマフィア"ごっこ"だと思い込んでいる。ただ、ごっこ遊びだとしても、女子は誘いづらいと思うんだけど……。さすが山本って感じだ。
「明寺ってヤツは女子なんすね」
「獄寺くん、クラスメートだよ……」
一方の獄寺くんは、明寺の存在すら知らなかったようだ。
転校してきたばかりとはいえ、さすがにそろそろ顔と名前くらいは一致しそうなものだけど。
「マフィアに男女は関係ねーぞ。ビアンキやイーピンを否定するのか?」
「ゔ……」
リボーンの言うことに反論ができずにいると、そのまま3人は商店街に走り去ってしまった。
リボーンが何かを言い出したら、どう頑張ったって止められない。もう、諦めるしかないのかもしれない。
オレはため息をついて、3人を追いかけた。
商店街に行くと、山本の言った通り、明寺がいた。ここが通学路なのだろうか、丁度路地裏に入って行くところだ。
「あれが明寺か。初めて見たな」
「クラスメートだよ、獄寺くん……」
顔と名前の一致どころか、見た記憶すらないらしい。確かに、明寺は地味というか、目立たないタイプではあるけれど。
「よし、じゃあスカウトしてこい」
「丸投げかよ!」
いきなり「マフィアになりませんか」なんて言われたら、誰でもドン引きすると思う。何て声をかければいいんだ。
オレがその場に立ち尽くしていると、明寺は路地裏に消えてしまった。それを山本が追いかける。オレはリボーンに蹴飛ばされて、山本の後を追った。
「明寺!」
山本が明寺を呼び止めると、明寺はゆっくりと振り返る。山本が手を振っているが、明寺は振り返さない。
「山本君、沢田君、獄寺君……あと、沢田君の知り合いの子供、だよね。何の用?」
前に教室にリボーンが来た時の事を覚えているらしい。明寺は訝しげにリボーンを見下ろしている。
すると突然、リボーンが明寺の肩に飛び乗った。そして、頬に銃口を向ける。
「子供じゃねぇ。リボーンだ」
子供と呼ばれた事に腹が立ったみたいだ。
突然の出来事に、明寺は顔を強張らせて、震えている。
勧誘しようって言ったのはリボーンなのに、怖がらせるような事してどうすんだよ。
「リボーン!何してんだよ!」
オレがリボーンを明寺から引き剥がすと、明寺は後ずさりして、ふっと向きを変えて走り出した。逃げたくなるのも当たり前だ、銃口を向けられたんだから。
しかし、山本が明寺の腕を掴んで引き止める。路地裏でよかった。こんなの傍から見たら、男3人で女の子を襲っているようにしか見えないよ。
「な、何……」
「ごめんな。今ツナの親戚の子とマフィアごっこやっててさ。これ、オモチャの銃なんだ」
「オモチャの銃……?」
山本の説明を聞いても、明寺は納得していないようだった。
そりゃそうだ。いくら偽物だとしても、銃口を向けられて不快にならないわけがない。
嫌われてしまっただろうな。明日から悪口を流されたらどうしよう。
「ごめん、明寺。急にこんなことして」
「赤ん坊のやったことだからさ、許してくれよ」
「オモチャの、銃……」
オレと山本が呼びかけても、明寺は全く反応を示さない。じっとリボーンを見つめている。
すると、ここまで一切喋っていなかった獄寺くんが口を開いた。
「お前、この銃が本物だと思ってるのか?」
「…………違うの?」
どうやら明寺は、本物の銃を向けられた事に怯えていたようだ。確かに、装填されているのは特殊弾だが、銃は本物だ。リボーンが前にチェコから取り寄せたと言っていた。
でも、どうしてわかったんだろう。
「何故本物だと思った?お前素人だろ?」
「ひ………っ」
「やめろって!」
リボーンがオレに抱えられながら、再び銃を構える。
明寺は悲鳴をあげ後ずさりしたが、答えるまでリボーンが銃を降ろさないと悟ったのか、しばらくして、覚悟を決めたように話しだした。
「冷たかったので、金属製だとわかりました。それと、企業のロゴが入っていますよね。オモチャならそこまで凝った造りにはしないかと」
「へー、よくできてるんだな」
やっぱり明寺って頭いいんだ。オレだったら多分、そんな事気付きもしない。明寺の話を聞いても、山本はオモチャの銃だと信じているみたいだけど。
リボーンのほうを見ると、怒りが収まったのか銃を懐にしまっていた。
「鋭い観察眼……。気に入った。合格だ」
「な、何がですか?」
「俺達、明寺をマフィアごっこに誘いに来たんだ。マネージャーになって欲しくてさ」
山本の一言に、明寺の顔がどんどん青ざめていく。
「絶っっっ対に嫌!!」
明寺ってこんな大声出せるんだ。
そう思ってるうちに、明寺は走り去ってしまった。先程とは比べ物にならないくらい速いスピードで。
住宅街にけたたましく足音が響いている。
「…………フラれちまったな」
山本が寂しそうに笑っている。
いや、まあ、当たり前だ。明寺はごっこじゃないって気付いてるんだし。怖いに決まってる。
「諦めちまっていいのか?」
リボーンが他人事みたいにオレ達に語りかける。そもそも、裏方をスカウトしようと言い出したのはリボーンだ。別にオレ達は裏方を欲しいと思ってないし、本人が嫌がってるんだから、食い下がるわけにもいかない。
「別の奴を探せばいいんじゃないですか?」
獄寺くんが提案しても、リボーンは返事をしない。
どうしたんだろう。オレがリボーンに声をかけようとした瞬間、住宅街に銃声が響き渡った。
リボーンが、山本の後頭部を撃ち抜いたのだ。
「な、何してんだよ!リボーン!」
リボーンは以前、死ぬ気弾で京子ちゃんとハルを撃ったことがある。
いつかやるんじゃないかと思ってたけど、どうして今、山本を撃つんだ。もし山本に後悔が無くて、死んでしまったらどうするんだ。
倒れた山本は、脱皮のように皮を脱いで、パンツ一丁の姿で立ち上がった。
よかった。後悔してる事があるんだ。いや、良くはない。決して良くはないんだけど。
「死ぬ気で明寺を仲間にする!」
「…………へ?」
山本は大きな声で叫んで、走り出した。
明寺の向かった方向ではなく、商店街に向かって。裸のまま出ていっちゃマズい。オレが慌てていると、リボーンはどこからかトレンチコートを取り出して山本に着せた。
なんでそんな物持ってるんだよ。
と、いうのはこの際どうでもよくて。とにかく山本を追いかけないと。でも、山本は足が速くて、商店街の人混みの中に消えてしまった。
「明寺を追いかけましょう。山本が明寺を捕まえようとしてるなら、現れるはずです」
獄寺くんが提案してくれた通りに、オレ達は明寺と同じ方向に向かった。
しばらく走ると、そこには山本と明寺がいた。山本、足早っ!
山本の手には、ビニール袋が握られている。
「や、なに、やめて、服、なに、着替えてる……」
明寺は相当怯えているようで、途切れ途切れに喋りながら地面に倒れ込んでいた。山本はそんな明寺に向かってビニール袋を差し出した。
「今日だけでいいから、付き合ってくれないか?ほら、肉まんやるからさ。頼むよ」
山本は本当に死ぬ気モードになっているのだろうか?
そう疑ってしまうくらい爽やかな笑顔で、明寺を誘った。
肉まんって、なんで?
オレも獄寺くんも意味がわからなくて、ぽかんとそ光景を眺めていた。
すると、明寺がふらりと立ち上がって、山本から肉まんを受け取った。
「これ、そこのお店の?」
「ああ、明寺、これ好きだろ?」
明寺はオレ達を見回した。眉を潜めて、リボーンに問いかける。
「その銃を使わないと、約束しますか?」
「ああ、いいぞ」
「……………ん…………じゃあ、今日、だけなら」
明寺って、食べ物に釣られるタイプの人だったんだ。意外すぎる。
明寺からOKを貰った山本は、子供のようにはしゃいで、そのあと、すぐに力尽きた。
オレたちは山本を抱えて、オレの家に向かった。道路に放ったらかしにしておくわけにはいかないし、仕方ない。
オレの部屋の机を囲んで、リボーン、獄寺くん、オレが座る。明寺はよほど警戒しているのか、部屋の隅で体育座りをしている。
「聞きたい事が沢山あります」
めちゃくちゃ機嫌が悪そうだ。しかしそんな声色とは裏腹に、明寺は肉まんを両手に持って交互に頬張っている。
「なんでも答えてやる」
リボーンは机の上に乗って、ふんぞりかえった。頼んでる立場だってのに、なんでそんなに偉そうなんだ。
「貴方達は、何者なんですか?」
リボーンの態度に怒る事もなく、明寺が問いかける。当たり前だけど、オレたち全員怪しまれてるんだよな。
「ツナはボンゴレファミリーの次期当主、俺はそれを教育する家庭教師、獄寺と山本はファミリーの仲間だ」
「なるほど。端的にどうも」
なるほど。……って、こんな短い説明で納得できたのだろうか。マフィアとか当主とか、突拍子もないことを言われているのに、明寺は冷静だ。
「リボーンの言う事を信じるの?」
「拳銃を持ってる一般市民がいたら、そのほうが怖いよ。こんなにハッキリと喋る幼児もね」
「なるほど……」
たしかに、リボーンの周辺に起こる出来事を説明しようとしたら「裏社会の人間だから」くらいしか理由が見当たらない。そこらじゅうにこんな赤ん坊がいたら、たまったものじゃないし。
「山本君は、"ごっこ"だと思ってるんですか?」
「そうみてーだな。何度も説明してるんだが」
明寺は床に寝ころがった山本を見ている。小さな声で「悪気がないなら、仕方ないか……」とつぶやいた。オレたちは悪意を持っていると思われてるんだろうか。オレも許されたい。
「……あとは、山本君に何が起きたのか教えてください。服を脱いでいるのも、急に倒れたのも、おかしすぎます」
明寺、山本が裸だって気付いてたんだ……。
「長ズボンを履いてたはずなのに無くなってたから」
それもそうか。でも、最初から気付いていたんだとしたら、裸の男から貰った肉まんに釣られる明寺って……。
明寺は新たな肉まんを袋から取り出して、頬張り始めた。山本、何個買ったんだろう。
「山本は"死ぬ気弾"で撃ち抜かれたんだ」
「撃ったのは貴方ですよね?」
明寺がそう言うと、リボーンが懐に手をしまった。
撃たれると思ったのだろうか、明寺は途端に口をつぐむ。なんだか、躾けられているみたいだ。
「……死ぬ気弾、とは?」
「5分間"死ぬ気"になれるが、代わりに体力を消耗する効果を持つ弾丸だ」
「死ぬ気というのは、火事場の馬鹿力のようなものですか?」
「物分りがいいな」
明寺は嬉しくなさそうに「どうも」と言って、山本に近づいた。
山本の事は怖くないのだろうか、心配そうに顔を覗き込んでいる。オレも肉まんをプレゼントすれば許してもらえるだろうか。
「そういえば結局、山本は死ぬ気で『明寺を仲間にしたかった』んだよな」
「は?」
「あ、いや、撃たれた後、『明寺を仲間にする!』って言って走って行ったから……」
「なぜ……」
それはこっちが聞きたい。
山本と明寺は実は仲が良いとか、そういうことなのかと思ったけど、違うみたいだ。
全く心当たりが無いらしく、明寺はきょとんとしている。
「肉まん好きって教えた覚えもないし……」
「そうなんだ……」
明寺は怖くなったのか、山本からまた距離を置いて、壁に貼りつくように座った。
すると、山本がもぞもぞと動き出した。目が覚めたのだろうか。
「ん……。なんだ?ツナの家?」
「山本、お、おはよう……?」
「寝ちまってたのか。あ、明寺!来てくれたんだな」
山本は嬉しそうに明寺に笑いかける。服とか場所とか、色々おかしいはずなんだけど、そこまで疑問に思っていないみたいだ。
対する明寺は、表情を動かさずに山本を見つめている。
「山本君……。…………。……肉まん、ありがとう」
なんかめちゃくちゃ迷った挙げ句、明寺は山本に礼を告げた。
「ごめんな、無理矢理誘っちまって」
「大丈夫………………」
「ずっと明寺と話してみたいと思ってたんだ。ありがとな。すげー嬉しい」
ずっと話してみたいと思ってた。それだけで死ぬ気になったのか?
めちゃくちゃシンプルな理由だ。と、いうか、山本と明寺って、話したこともなかったんだ。
明寺は全然納得がいっていない様子で、首を傾げている。
「…………話したいのなら、教室で話しかけてくれればいいのに」
「いいのか? 明寺いつも本読んでるから、邪魔しちゃ悪いと思ってさ。これからは話しかけるよ」
あまりにも屈託のない山本の笑顔に、明寺は圧倒された様子だった。
山本って、なんというか、本当にすごい。あれだけ酷い目に遭わせた相手(しかも女子)の警戒心を、簡単に解いてしまうんだから。
「それで、私はマフィアごっこで何をすればいいの?」
明寺は相手をリボーンから山本に変えて、質問を続ける。
「マネージャーをやって欲しいんだ。お金とか武器とか管理するって言ってたぜ」
山本の発言に、リボーンが補足する。
「裏方としてお前をスカウトした。色々あるが……当面は、コイツらの勉強を見ることだな」
「まあ、勉強を教えるくらいなら……」
明寺はしぶしぶ、といった感じでつぶやいた。
たぶん、勉強を教えるだけでは終わらないと思う。だけど、それを伝えるとリボーンにまたシバかれるから、オレは黙った。
「本当か?ありがとな、明寺!」
「どういたしまして…………」
山本が明寺の片方の手を握ってぶんぶんと振る。明寺は不安そうに、もう片方の手で肉まんを頬張っている。
明寺は最後の1個だと思われる肉まんを口の中に放り込むと、リボーンのほうに向き直る。
「あの……、今日はもう帰ってもよろしいでしょうか……」
「ああ、いいぞ。もう遅いからな」
「明寺、また明日な!」
明寺は眉をむ、と潜めて、小さくお辞儀をする。
そしてオレの部屋を出ていこうとして、足を止めた。
「いや、リボーンさんは家庭教師なんですよね?それなら、勉強を教えるのはあなたの役目では……」
「チッ」
明寺が疑問を投げかけた瞬間、リボーンがふたたび銃を取り出す。
「すみませんでした!勉強教えます!また明日!失礼します!」
銃口が自分に向けられていることを確認すると、明寺は大きくお辞儀をして走り去っていった。
完全にリボーンに飼い慣らされている。オレと同じだ。助けてあげられなくてゴメン。
「やっぱり明寺って面白いヤツだな〜」
「…………」
のんきに明寺に手を振る山本の姿を見て、しばらく黙っていた獄寺くんが口を開く。
「お前……、女の趣味悪いな」
え。そういうこと?
だから死ぬ気で明寺をマフィアごっこに誘いたかったし、放課後どこにいるかも知ってたし、肉まんが好きなことも知ってたし……ってことなのか?
たしかに、考えてみればそれで説明がつく。
「???」
当の本人は、何を言われているかわからない、といった様子でにっこりと笑みを浮かべていた。
なんというか、こう、悪気がないのが余計タチが悪い。山本は一人のクラスメートの人生を、遊びのつもりで振り回すことになったのだ。彼女はマフィアなんて無縁の生活をしていたはずなのに。
そう、オレのせいじゃない。だから明寺、恨むならリボーンと山本を恨んでくれ。頼む。
オレはうっすらと見え始めた星に向かって、おそらく叶わないであろう願いを込めた。
放課後、リボーンがオレたちを呼び出したかと思えば、急にそんな事を言い出した。
足りない物も何も、オレからすればマフィアとかファミリーとか全然受け止めきれてないし、そもそも何をする団体なのかもよく分かっていない。
「戦力は十分ッスよね。右腕の俺がいますから!」
獄寺くんがそう答えると、リボーンはオレに銃口を向ける。
「"何が足りないか"答えろっつってんだ」
「なんでオレ!?」
「仲間のミスの責任を負うのは、ボスの役目だぞ」
そんなこと言われたってわからないものはわからない。オレがだんまりを決め込んでいると、リボーンはため息をついた。
「ハァ。山本、野球部には、選手以外にも部員がいるよな?」
「あ……っなるほど、マネージャーか!」
「そうだ。さすがだな」
マネージャーというと、スポーツをやっている人を支える仕事のイメージが強い。洗濯をしたり、飲み物を用意したり、レモンの蜂蜜漬けなんて作っちゃったり。
でも、マフィアにそんなもの必要なのだろうか?
「オレたち、スポーツをしてる訳でもないし、マネージャーなんて……」
「何か勘違いしてないか?マフィアは仕事だ。金と情報を扱うんだぞ。裏方のほうが多いくらいだ」
「収支を計算する会計、サーバを守るコンピュータエンジニア、武器を管理・修理する技師、怪我人を治療する救護班、本部にはそういった方々がいます」
「そうなんだ……」
獄寺くんが解説してくれた。オレが想像していたよりも、ボンゴレファミリーは大きくてしっかりした組織なんだ。
「ツナも理解したところで本題だ。今日はボンゴレの裏方をスカウトするぞ」
「でも本部には裏方がたくさんいるんだろ?探す必要ないんじゃ……」
オレが疑問を口にすると、すぐにリボーンはまたオレに銃口を向けた。思った通りに行かないといつもこうだ。死ぬ気弾を撃たれても死なないとわかってはいるけど、怖いものは怖い。パンツ一丁になりたくないし。
「本部のヤツらに、並盛にいるお前達の面倒を見る暇があると思うか?」
「まあ、そうだけど……」
「マネージャーを勧誘するって事はわかったぜ。チラシ配るのか?」
どうやら山本は乗り気らしい。仲間が増えて賑やかになる、と捉えているようだ。
獄寺くんは舌打ち混じりに「右腕の俺がいれば裏方なんて……でもリボーンさんが言うなら……」と呟いている。納得がいってないみたいだけど、獄寺くんはリボーンの言う事をよく聞く。反対するつもりはないのだろう。
オレとしては、あんまり被害者を増やしたくないんだけど……。
「むやみに勧誘しても仕方ねぇ。『ツナのクラスで1番頭の良い奴』をスカウトするぞ」
「オレのクラスメートを巻き込む気かよ!」
「当たり前だろ。ボスの事をよく知っているヤツが適任だ」
よりによって、またクラスメートから仲間を増やす気らしい。一般人をマフィアの世界に引きずり込もうなんて、どうかしている。オレは止めようとしたけど、リボーンは聞く耳を持たない。
「前に、明寺がテストで学年1位取ってたの見たぜ」
「よし、そいつを探すぞ。どこにいるかわかるか?」
「明寺帰宅部なんだよな〜。いるとしたら商店街だな」
明寺って、そんなに頭が良かったんだ。喋ったことなかったし、知らなかった。
……じゃなくて。リボーンは知らないのかもしれないけど、明寺は女子だ。女の子をマフィアの活動に巻き込む訳には行かない。ハルだってマフィアの事を知ってるけど、ファミリーの一員になった訳じゃないし。
踏みとどまってもらうために、オレは商店街に向かおうとするリボーンを止めた。
「ちょっと待って!明寺は女子なんだぞ!」
「マネージャーって言ったら女子のイメージだろ?」
山本が無邪気に答える。山本は未だにこれがマフィア"ごっこ"だと思い込んでいる。ただ、ごっこ遊びだとしても、女子は誘いづらいと思うんだけど……。さすが山本って感じだ。
「明寺ってヤツは女子なんすね」
「獄寺くん、クラスメートだよ……」
一方の獄寺くんは、明寺の存在すら知らなかったようだ。
転校してきたばかりとはいえ、さすがにそろそろ顔と名前くらいは一致しそうなものだけど。
「マフィアに男女は関係ねーぞ。ビアンキやイーピンを否定するのか?」
「ゔ……」
リボーンの言うことに反論ができずにいると、そのまま3人は商店街に走り去ってしまった。
リボーンが何かを言い出したら、どう頑張ったって止められない。もう、諦めるしかないのかもしれない。
オレはため息をついて、3人を追いかけた。
商店街に行くと、山本の言った通り、明寺がいた。ここが通学路なのだろうか、丁度路地裏に入って行くところだ。
「あれが明寺か。初めて見たな」
「クラスメートだよ、獄寺くん……」
顔と名前の一致どころか、見た記憶すらないらしい。確かに、明寺は地味というか、目立たないタイプではあるけれど。
「よし、じゃあスカウトしてこい」
「丸投げかよ!」
いきなり「マフィアになりませんか」なんて言われたら、誰でもドン引きすると思う。何て声をかければいいんだ。
オレがその場に立ち尽くしていると、明寺は路地裏に消えてしまった。それを山本が追いかける。オレはリボーンに蹴飛ばされて、山本の後を追った。
「明寺!」
山本が明寺を呼び止めると、明寺はゆっくりと振り返る。山本が手を振っているが、明寺は振り返さない。
「山本君、沢田君、獄寺君……あと、沢田君の知り合いの子供、だよね。何の用?」
前に教室にリボーンが来た時の事を覚えているらしい。明寺は訝しげにリボーンを見下ろしている。
すると突然、リボーンが明寺の肩に飛び乗った。そして、頬に銃口を向ける。
「子供じゃねぇ。リボーンだ」
子供と呼ばれた事に腹が立ったみたいだ。
突然の出来事に、明寺は顔を強張らせて、震えている。
勧誘しようって言ったのはリボーンなのに、怖がらせるような事してどうすんだよ。
「リボーン!何してんだよ!」
オレがリボーンを明寺から引き剥がすと、明寺は後ずさりして、ふっと向きを変えて走り出した。逃げたくなるのも当たり前だ、銃口を向けられたんだから。
しかし、山本が明寺の腕を掴んで引き止める。路地裏でよかった。こんなの傍から見たら、男3人で女の子を襲っているようにしか見えないよ。
「な、何……」
「ごめんな。今ツナの親戚の子とマフィアごっこやっててさ。これ、オモチャの銃なんだ」
「オモチャの銃……?」
山本の説明を聞いても、明寺は納得していないようだった。
そりゃそうだ。いくら偽物だとしても、銃口を向けられて不快にならないわけがない。
嫌われてしまっただろうな。明日から悪口を流されたらどうしよう。
「ごめん、明寺。急にこんなことして」
「赤ん坊のやったことだからさ、許してくれよ」
「オモチャの、銃……」
オレと山本が呼びかけても、明寺は全く反応を示さない。じっとリボーンを見つめている。
すると、ここまで一切喋っていなかった獄寺くんが口を開いた。
「お前、この銃が本物だと思ってるのか?」
「…………違うの?」
どうやら明寺は、本物の銃を向けられた事に怯えていたようだ。確かに、装填されているのは特殊弾だが、銃は本物だ。リボーンが前にチェコから取り寄せたと言っていた。
でも、どうしてわかったんだろう。
「何故本物だと思った?お前素人だろ?」
「ひ………っ」
「やめろって!」
リボーンがオレに抱えられながら、再び銃を構える。
明寺は悲鳴をあげ後ずさりしたが、答えるまでリボーンが銃を降ろさないと悟ったのか、しばらくして、覚悟を決めたように話しだした。
「冷たかったので、金属製だとわかりました。それと、企業のロゴが入っていますよね。オモチャならそこまで凝った造りにはしないかと」
「へー、よくできてるんだな」
やっぱり明寺って頭いいんだ。オレだったら多分、そんな事気付きもしない。明寺の話を聞いても、山本はオモチャの銃だと信じているみたいだけど。
リボーンのほうを見ると、怒りが収まったのか銃を懐にしまっていた。
「鋭い観察眼……。気に入った。合格だ」
「な、何がですか?」
「俺達、明寺をマフィアごっこに誘いに来たんだ。マネージャーになって欲しくてさ」
山本の一言に、明寺の顔がどんどん青ざめていく。
「絶っっっ対に嫌!!」
明寺ってこんな大声出せるんだ。
そう思ってるうちに、明寺は走り去ってしまった。先程とは比べ物にならないくらい速いスピードで。
住宅街にけたたましく足音が響いている。
「…………フラれちまったな」
山本が寂しそうに笑っている。
いや、まあ、当たり前だ。明寺はごっこじゃないって気付いてるんだし。怖いに決まってる。
「諦めちまっていいのか?」
リボーンが他人事みたいにオレ達に語りかける。そもそも、裏方をスカウトしようと言い出したのはリボーンだ。別にオレ達は裏方を欲しいと思ってないし、本人が嫌がってるんだから、食い下がるわけにもいかない。
「別の奴を探せばいいんじゃないですか?」
獄寺くんが提案しても、リボーンは返事をしない。
どうしたんだろう。オレがリボーンに声をかけようとした瞬間、住宅街に銃声が響き渡った。
リボーンが、山本の後頭部を撃ち抜いたのだ。
「な、何してんだよ!リボーン!」
リボーンは以前、死ぬ気弾で京子ちゃんとハルを撃ったことがある。
いつかやるんじゃないかと思ってたけど、どうして今、山本を撃つんだ。もし山本に後悔が無くて、死んでしまったらどうするんだ。
倒れた山本は、脱皮のように皮を脱いで、パンツ一丁の姿で立ち上がった。
よかった。後悔してる事があるんだ。いや、良くはない。決して良くはないんだけど。
「死ぬ気で明寺を仲間にする!」
「…………へ?」
山本は大きな声で叫んで、走り出した。
明寺の向かった方向ではなく、商店街に向かって。裸のまま出ていっちゃマズい。オレが慌てていると、リボーンはどこからかトレンチコートを取り出して山本に着せた。
なんでそんな物持ってるんだよ。
と、いうのはこの際どうでもよくて。とにかく山本を追いかけないと。でも、山本は足が速くて、商店街の人混みの中に消えてしまった。
「明寺を追いかけましょう。山本が明寺を捕まえようとしてるなら、現れるはずです」
獄寺くんが提案してくれた通りに、オレ達は明寺と同じ方向に向かった。
しばらく走ると、そこには山本と明寺がいた。山本、足早っ!
山本の手には、ビニール袋が握られている。
「や、なに、やめて、服、なに、着替えてる……」
明寺は相当怯えているようで、途切れ途切れに喋りながら地面に倒れ込んでいた。山本はそんな明寺に向かってビニール袋を差し出した。
「今日だけでいいから、付き合ってくれないか?ほら、肉まんやるからさ。頼むよ」
山本は本当に死ぬ気モードになっているのだろうか?
そう疑ってしまうくらい爽やかな笑顔で、明寺を誘った。
肉まんって、なんで?
オレも獄寺くんも意味がわからなくて、ぽかんとそ光景を眺めていた。
すると、明寺がふらりと立ち上がって、山本から肉まんを受け取った。
「これ、そこのお店の?」
「ああ、明寺、これ好きだろ?」
明寺はオレ達を見回した。眉を潜めて、リボーンに問いかける。
「その銃を使わないと、約束しますか?」
「ああ、いいぞ」
「……………ん…………じゃあ、今日、だけなら」
明寺って、食べ物に釣られるタイプの人だったんだ。意外すぎる。
明寺からOKを貰った山本は、子供のようにはしゃいで、そのあと、すぐに力尽きた。
オレたちは山本を抱えて、オレの家に向かった。道路に放ったらかしにしておくわけにはいかないし、仕方ない。
オレの部屋の机を囲んで、リボーン、獄寺くん、オレが座る。明寺はよほど警戒しているのか、部屋の隅で体育座りをしている。
「聞きたい事が沢山あります」
めちゃくちゃ機嫌が悪そうだ。しかしそんな声色とは裏腹に、明寺は肉まんを両手に持って交互に頬張っている。
「なんでも答えてやる」
リボーンは机の上に乗って、ふんぞりかえった。頼んでる立場だってのに、なんでそんなに偉そうなんだ。
「貴方達は、何者なんですか?」
リボーンの態度に怒る事もなく、明寺が問いかける。当たり前だけど、オレたち全員怪しまれてるんだよな。
「ツナはボンゴレファミリーの次期当主、俺はそれを教育する家庭教師、獄寺と山本はファミリーの仲間だ」
「なるほど。端的にどうも」
なるほど。……って、こんな短い説明で納得できたのだろうか。マフィアとか当主とか、突拍子もないことを言われているのに、明寺は冷静だ。
「リボーンの言う事を信じるの?」
「拳銃を持ってる一般市民がいたら、そのほうが怖いよ。こんなにハッキリと喋る幼児もね」
「なるほど……」
たしかに、リボーンの周辺に起こる出来事を説明しようとしたら「裏社会の人間だから」くらいしか理由が見当たらない。そこらじゅうにこんな赤ん坊がいたら、たまったものじゃないし。
「山本君は、"ごっこ"だと思ってるんですか?」
「そうみてーだな。何度も説明してるんだが」
明寺は床に寝ころがった山本を見ている。小さな声で「悪気がないなら、仕方ないか……」とつぶやいた。オレたちは悪意を持っていると思われてるんだろうか。オレも許されたい。
「……あとは、山本君に何が起きたのか教えてください。服を脱いでいるのも、急に倒れたのも、おかしすぎます」
明寺、山本が裸だって気付いてたんだ……。
「長ズボンを履いてたはずなのに無くなってたから」
それもそうか。でも、最初から気付いていたんだとしたら、裸の男から貰った肉まんに釣られる明寺って……。
明寺は新たな肉まんを袋から取り出して、頬張り始めた。山本、何個買ったんだろう。
「山本は"死ぬ気弾"で撃ち抜かれたんだ」
「撃ったのは貴方ですよね?」
明寺がそう言うと、リボーンが懐に手をしまった。
撃たれると思ったのだろうか、明寺は途端に口をつぐむ。なんだか、躾けられているみたいだ。
「……死ぬ気弾、とは?」
「5分間"死ぬ気"になれるが、代わりに体力を消耗する効果を持つ弾丸だ」
「死ぬ気というのは、火事場の馬鹿力のようなものですか?」
「物分りがいいな」
明寺は嬉しくなさそうに「どうも」と言って、山本に近づいた。
山本の事は怖くないのだろうか、心配そうに顔を覗き込んでいる。オレも肉まんをプレゼントすれば許してもらえるだろうか。
「そういえば結局、山本は死ぬ気で『明寺を仲間にしたかった』んだよな」
「は?」
「あ、いや、撃たれた後、『明寺を仲間にする!』って言って走って行ったから……」
「なぜ……」
それはこっちが聞きたい。
山本と明寺は実は仲が良いとか、そういうことなのかと思ったけど、違うみたいだ。
全く心当たりが無いらしく、明寺はきょとんとしている。
「肉まん好きって教えた覚えもないし……」
「そうなんだ……」
明寺は怖くなったのか、山本からまた距離を置いて、壁に貼りつくように座った。
すると、山本がもぞもぞと動き出した。目が覚めたのだろうか。
「ん……。なんだ?ツナの家?」
「山本、お、おはよう……?」
「寝ちまってたのか。あ、明寺!来てくれたんだな」
山本は嬉しそうに明寺に笑いかける。服とか場所とか、色々おかしいはずなんだけど、そこまで疑問に思っていないみたいだ。
対する明寺は、表情を動かさずに山本を見つめている。
「山本君……。…………。……肉まん、ありがとう」
なんかめちゃくちゃ迷った挙げ句、明寺は山本に礼を告げた。
「ごめんな、無理矢理誘っちまって」
「大丈夫………………」
「ずっと明寺と話してみたいと思ってたんだ。ありがとな。すげー嬉しい」
ずっと話してみたいと思ってた。それだけで死ぬ気になったのか?
めちゃくちゃシンプルな理由だ。と、いうか、山本と明寺って、話したこともなかったんだ。
明寺は全然納得がいっていない様子で、首を傾げている。
「…………話したいのなら、教室で話しかけてくれればいいのに」
「いいのか? 明寺いつも本読んでるから、邪魔しちゃ悪いと思ってさ。これからは話しかけるよ」
あまりにも屈託のない山本の笑顔に、明寺は圧倒された様子だった。
山本って、なんというか、本当にすごい。あれだけ酷い目に遭わせた相手(しかも女子)の警戒心を、簡単に解いてしまうんだから。
「それで、私はマフィアごっこで何をすればいいの?」
明寺は相手をリボーンから山本に変えて、質問を続ける。
「マネージャーをやって欲しいんだ。お金とか武器とか管理するって言ってたぜ」
山本の発言に、リボーンが補足する。
「裏方としてお前をスカウトした。色々あるが……当面は、コイツらの勉強を見ることだな」
「まあ、勉強を教えるくらいなら……」
明寺はしぶしぶ、といった感じでつぶやいた。
たぶん、勉強を教えるだけでは終わらないと思う。だけど、それを伝えるとリボーンにまたシバかれるから、オレは黙った。
「本当か?ありがとな、明寺!」
「どういたしまして…………」
山本が明寺の片方の手を握ってぶんぶんと振る。明寺は不安そうに、もう片方の手で肉まんを頬張っている。
明寺は最後の1個だと思われる肉まんを口の中に放り込むと、リボーンのほうに向き直る。
「あの……、今日はもう帰ってもよろしいでしょうか……」
「ああ、いいぞ。もう遅いからな」
「明寺、また明日な!」
明寺は眉をむ、と潜めて、小さくお辞儀をする。
そしてオレの部屋を出ていこうとして、足を止めた。
「いや、リボーンさんは家庭教師なんですよね?それなら、勉強を教えるのはあなたの役目では……」
「チッ」
明寺が疑問を投げかけた瞬間、リボーンがふたたび銃を取り出す。
「すみませんでした!勉強教えます!また明日!失礼します!」
銃口が自分に向けられていることを確認すると、明寺は大きくお辞儀をして走り去っていった。
完全にリボーンに飼い慣らされている。オレと同じだ。助けてあげられなくてゴメン。
「やっぱり明寺って面白いヤツだな〜」
「…………」
のんきに明寺に手を振る山本の姿を見て、しばらく黙っていた獄寺くんが口を開く。
「お前……、女の趣味悪いな」
え。そういうこと?
だから死ぬ気で明寺をマフィアごっこに誘いたかったし、放課後どこにいるかも知ってたし、肉まんが好きなことも知ってたし……ってことなのか?
たしかに、考えてみればそれで説明がつく。
「???」
当の本人は、何を言われているかわからない、といった様子でにっこりと笑みを浮かべていた。
なんというか、こう、悪気がないのが余計タチが悪い。山本は一人のクラスメートの人生を、遊びのつもりで振り回すことになったのだ。彼女はマフィアなんて無縁の生活をしていたはずなのに。
そう、オレのせいじゃない。だから明寺、恨むならリボーンと山本を恨んでくれ。頼む。
オレはうっすらと見え始めた星に向かって、おそらく叶わないであろう願いを込めた。
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