プロローグ編
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少女は空を見上げて、大きく息を吸った。どこまでも続く草原。空気が綺麗で気持ちいい。
少女は、初めての徒歩の旅に出かけていた。
とはいえ、旅行のようなものではなく、任務である。しかも、赤髪の上司と2人きりの。悠長に楽しんでもいられない。
事実、少女の体力はかなり減っていた。何時間歩き続けたことだろう。しかし、少女は文句一つ言わない。これ以上、上司を怒らせたくないからだ。そしてもう一つ、役に立ちたいと思ったから。
少女は、少年に対する自分の言動を後悔していた。
冷たくされた、その恨みのままにぶつかってしまった。彼の気持ちも考えずに。
これ以上、少年と険悪な関係になりたくない。役に立って、必要とされたい。少女はそう思っていた。だからこそ、この任務を必ず成功させなければ。
少女の顔が青い。1度も振り向かずに歩いていた少年は、初めてそれに気がついた。1日中歩き続けているのだから、無理もない。
しかし、少女の足は、少年と変わらない速さで、歩幅で、動き続けていた。
少年は、少女を休ませようとは思わなかった。少女に現実の厳しさを、兵士達の苦労をわからせてやろうと思ったからだ。しかし、ふと男から言われた言葉を思い出す。
「彼女は導きの少女様だ。丁重に扱え」
動きづらい。この少女のせいで、行動が制限されている。
少年は舌打ちをしてから、石に腰掛けた。
「もうすぐ日が暮れる。今日はここで寝る」
「わかりました」
すると、少女は鞄からテントを取り出して、地面に設置し始めた。
こんなに重い荷物を持っていたのか、ただでさえお荷物だというのに。なんて少年が考えているうちに、少女は岩と木の枝で、かまどを作っていた。
「第五音素は使えますか?」
少女の傍らには、鍋が置いてある。少女は小さなナイフを使って、魔物の肉を切っている。少年は何も言わずに譜術で火をつけ、そこに鍋が乗るのを見届けた。
「魔物って、食べられるんですね」
少年の返事はない。
機嫌を損ねてしまっただろうか。少女はそう考えて、慌てて料理を少年に渡した。
「少しは体力が回復すると思います」
少年は一度少女を睨んでから、それを飲んだ。味は普通だ。家庭のスープの味。空腹だった少年は、それを飲み干した。文句を言うでもなく、褒めるでもなく。
「残った汁はおじやにして食べますか?それともヌードルを入れますか?」
「もういい」
少年はそれだけ言って、テントに戻ろうとした。
本当はもう少し食べるつもりだったが、よく喋る少女が目についてやめた。
心配した少女は、少年の元へ駆け寄る。
「お口に合いませんでしたか」
「……飯を入れるほうがいい。朝まで残しておけ」
少年はそのまま、テントに入っていった。
よくわからない人だな、と、少女は思った。
3日後の朝、目的地で一夜を過ごした少女は、宿屋の外に出た。大きな木を見つめて、深呼吸をひとつ。
ついに、初めての任務が始まる。
この世界におけるローレライ教団の役割は、未曾有の反映をもたらすために、預言を遂行することだ。今回少女たち与えられた任務も、そのためのもの。
「行くぞ、あの道の奥だ」
突き当たりの家には、中年の男が住んでいる。道に迷ったふりをして、2人はその家を訪ねた。
「ダアトからはるばる、さぞお疲れでしょう」
男は、2人に茶を振る舞ってくれた。優しい、とても穏やかな雰囲気の人だ。家の中も片付いていて、規則正しい生活をしているのだとわかる。
「わかっているだろうな」
「はい」
少年の問いかけに、少女は小さく頷く。だが少年は、そんな少女の返事を全く信用していなかった。
しばらく雑談を交わしてから、男は、地図を取りに立ち上がった。少女は男がいなくなるのを確認して、窓を閉めた。ドアに鍵をかけた。
「外に音は聞こえないでしょう」
あと少しだ。
少女は、鞄に隠していたナイフを取り出す。
少年は、少女が逃げ出してしまうことや、怯えて動けなくなることを案じていた。少女がいつ暴れだしてもいいように、麻酔薬の入った注射器を机に置いた。
しかし、どれだけ待っても、少女が逃げることはなかった。それどころか、次の瞬間には、少女の腕が男を捕らえていた。
「なんだお前たちは!」
「叫ばないでください」
少女は男の首元にナイフを突き付け、脅すような格好になった。男は振り払おうとするが、動けない。訓練を重ねた少女は、強くなっていた。
「暴れると痛いですよ」
「何が目的だ。金か?金なら払う!」
「未曾有の繁栄です」
少女の放った言葉に、少年は吐き気を感じた。見ることのできない未来の為に殺されるなど、惨めすぎる。
男は、預言で今日亡くなるとされていた。しかし男は健康で善良で、命の危機など周囲に無い人物だった。だから、殺しに来たのだ。
たった1人男が死ぬだけだが、それが世界を未曾有の繁栄に導く、大切な一歩なのだ。
「これは預言で決められたことなのです。ですから」
「余計なお喋りはやめろ」
「申し訳ありません。……貴方がこうなることで、未曾有の繁栄が手に入るのです」
「うるさい!離せ!」
男は暴れ出し、少女から離れた。少年はただそれを見ていた。少年が動かないことを確認すると、少女はナイフを持つ手を両手に変えて、男に向き直る。
「ごめんなさい」
それだけ言って、男の腹を刺した。少女が想像していたよりも、すんなりと刺さった。
最後まで1人でやってしまった。少年はただそれに驚いていた。普通の少女が、一瞬で人殺しになってしまった。
少年は、元婚約者の顔を思い出す。もし彼女がこんなことをさせられたら。想像すると、耐えられない。この少女は、一体どんな心境なのだろう。考えようとしたが、やめた。
「ここで着替えます。血がついてしまいました」
「手際が悪い。暴れる余地を与えるな」
「預言の導きだと知れば、喜んで命を捧げてくれるかと思ったのですが……」
少女の発言に、少年は驚いた。少女がこの男を、預言を、信者を、全てを否定しているように思えたからだ。皆が預言の言いなりであると、馬鹿にしたような物言い。預言に守られた少女が、そんなことを言うなんて。
少女は据わった目で、言葉を続けた。
「私の勘違いだったのでしょうか?」
笑い事じゃない。転がる死体を前に微笑む少女は、とても不気味だった。
「お前は預言で死ぬと詠まれていたら、喜んで死ぬのか?」
「え?」
少年は質問を投げかける。すると少女はたじろいで、首を振った。
「誰でも同じだ。自ら命を断つわけがない」
「そう、ですよね。きっと私も」
よかった。いつも通りの、穏やかな少女だ。光の宿っていなかった瞳は、輝きを取り戻した。
少女は、少年に羨望の目を向ける。
「アッシュ様のように、預言に立ち向かうと思います」
少女はおそらく、ヴァンから聞かされた過去の話をしているのだろう。預言から逃れるために、ヴァンが自分を逃した過去。
少年は考えた。自分は、死の運命から逃れるために何をしただろう。あの男に頼りきりで、結局、流されているだけなのではないだろうか。
キラキラと光る少女の瞳を見て、少年は少し、罪悪感を覚えた。
少女は、初めての徒歩の旅に出かけていた。
とはいえ、旅行のようなものではなく、任務である。しかも、赤髪の上司と2人きりの。悠長に楽しんでもいられない。
事実、少女の体力はかなり減っていた。何時間歩き続けたことだろう。しかし、少女は文句一つ言わない。これ以上、上司を怒らせたくないからだ。そしてもう一つ、役に立ちたいと思ったから。
少女は、少年に対する自分の言動を後悔していた。
冷たくされた、その恨みのままにぶつかってしまった。彼の気持ちも考えずに。
これ以上、少年と険悪な関係になりたくない。役に立って、必要とされたい。少女はそう思っていた。だからこそ、この任務を必ず成功させなければ。
少女の顔が青い。1度も振り向かずに歩いていた少年は、初めてそれに気がついた。1日中歩き続けているのだから、無理もない。
しかし、少女の足は、少年と変わらない速さで、歩幅で、動き続けていた。
少年は、少女を休ませようとは思わなかった。少女に現実の厳しさを、兵士達の苦労をわからせてやろうと思ったからだ。しかし、ふと男から言われた言葉を思い出す。
「彼女は導きの少女様だ。丁重に扱え」
動きづらい。この少女のせいで、行動が制限されている。
少年は舌打ちをしてから、石に腰掛けた。
「もうすぐ日が暮れる。今日はここで寝る」
「わかりました」
すると、少女は鞄からテントを取り出して、地面に設置し始めた。
こんなに重い荷物を持っていたのか、ただでさえお荷物だというのに。なんて少年が考えているうちに、少女は岩と木の枝で、かまどを作っていた。
「第五音素は使えますか?」
少女の傍らには、鍋が置いてある。少女は小さなナイフを使って、魔物の肉を切っている。少年は何も言わずに譜術で火をつけ、そこに鍋が乗るのを見届けた。
「魔物って、食べられるんですね」
少年の返事はない。
機嫌を損ねてしまっただろうか。少女はそう考えて、慌てて料理を少年に渡した。
「少しは体力が回復すると思います」
少年は一度少女を睨んでから、それを飲んだ。味は普通だ。家庭のスープの味。空腹だった少年は、それを飲み干した。文句を言うでもなく、褒めるでもなく。
「残った汁はおじやにして食べますか?それともヌードルを入れますか?」
「もういい」
少年はそれだけ言って、テントに戻ろうとした。
本当はもう少し食べるつもりだったが、よく喋る少女が目についてやめた。
心配した少女は、少年の元へ駆け寄る。
「お口に合いませんでしたか」
「……飯を入れるほうがいい。朝まで残しておけ」
少年はそのまま、テントに入っていった。
よくわからない人だな、と、少女は思った。
3日後の朝、目的地で一夜を過ごした少女は、宿屋の外に出た。大きな木を見つめて、深呼吸をひとつ。
ついに、初めての任務が始まる。
この世界におけるローレライ教団の役割は、未曾有の反映をもたらすために、預言を遂行することだ。今回少女たち与えられた任務も、そのためのもの。
「行くぞ、あの道の奥だ」
突き当たりの家には、中年の男が住んでいる。道に迷ったふりをして、2人はその家を訪ねた。
「ダアトからはるばる、さぞお疲れでしょう」
男は、2人に茶を振る舞ってくれた。優しい、とても穏やかな雰囲気の人だ。家の中も片付いていて、規則正しい生活をしているのだとわかる。
「わかっているだろうな」
「はい」
少年の問いかけに、少女は小さく頷く。だが少年は、そんな少女の返事を全く信用していなかった。
しばらく雑談を交わしてから、男は、地図を取りに立ち上がった。少女は男がいなくなるのを確認して、窓を閉めた。ドアに鍵をかけた。
「外に音は聞こえないでしょう」
あと少しだ。
少女は、鞄に隠していたナイフを取り出す。
少年は、少女が逃げ出してしまうことや、怯えて動けなくなることを案じていた。少女がいつ暴れだしてもいいように、麻酔薬の入った注射器を机に置いた。
しかし、どれだけ待っても、少女が逃げることはなかった。それどころか、次の瞬間には、少女の腕が男を捕らえていた。
「なんだお前たちは!」
「叫ばないでください」
少女は男の首元にナイフを突き付け、脅すような格好になった。男は振り払おうとするが、動けない。訓練を重ねた少女は、強くなっていた。
「暴れると痛いですよ」
「何が目的だ。金か?金なら払う!」
「未曾有の繁栄です」
少女の放った言葉に、少年は吐き気を感じた。見ることのできない未来の為に殺されるなど、惨めすぎる。
男は、預言で今日亡くなるとされていた。しかし男は健康で善良で、命の危機など周囲に無い人物だった。だから、殺しに来たのだ。
たった1人男が死ぬだけだが、それが世界を未曾有の繁栄に導く、大切な一歩なのだ。
「これは預言で決められたことなのです。ですから」
「余計なお喋りはやめろ」
「申し訳ありません。……貴方がこうなることで、未曾有の繁栄が手に入るのです」
「うるさい!離せ!」
男は暴れ出し、少女から離れた。少年はただそれを見ていた。少年が動かないことを確認すると、少女はナイフを持つ手を両手に変えて、男に向き直る。
「ごめんなさい」
それだけ言って、男の腹を刺した。少女が想像していたよりも、すんなりと刺さった。
最後まで1人でやってしまった。少年はただそれに驚いていた。普通の少女が、一瞬で人殺しになってしまった。
少年は、元婚約者の顔を思い出す。もし彼女がこんなことをさせられたら。想像すると、耐えられない。この少女は、一体どんな心境なのだろう。考えようとしたが、やめた。
「ここで着替えます。血がついてしまいました」
「手際が悪い。暴れる余地を与えるな」
「預言の導きだと知れば、喜んで命を捧げてくれるかと思ったのですが……」
少女の発言に、少年は驚いた。少女がこの男を、預言を、信者を、全てを否定しているように思えたからだ。皆が預言の言いなりであると、馬鹿にしたような物言い。預言に守られた少女が、そんなことを言うなんて。
少女は据わった目で、言葉を続けた。
「私の勘違いだったのでしょうか?」
笑い事じゃない。転がる死体を前に微笑む少女は、とても不気味だった。
「お前は預言で死ぬと詠まれていたら、喜んで死ぬのか?」
「え?」
少年は質問を投げかける。すると少女はたじろいで、首を振った。
「誰でも同じだ。自ら命を断つわけがない」
「そう、ですよね。きっと私も」
よかった。いつも通りの、穏やかな少女だ。光の宿っていなかった瞳は、輝きを取り戻した。
少女は、少年に羨望の目を向ける。
「アッシュ様のように、預言に立ち向かうと思います」
少女はおそらく、ヴァンから聞かされた過去の話をしているのだろう。預言から逃れるために、ヴァンが自分を逃した過去。
少年は考えた。自分は、死の運命から逃れるために何をしただろう。あの男に頼りきりで、結局、流されているだけなのではないだろうか。
キラキラと光る少女の瞳を見て、少年は少し、罪悪感を覚えた。