崩落編
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予想していた通り、ヴァンは強かった。
七人で一斉にかかっても、その服に傷をつけるのが精一杯だ。ルーク、ガイ、菜真絵の攻撃を躱し、時には自らの剣で受け流しながら、詠唱時間の短い譜術で後衛を攻撃する。これまでに対峙した敵とは比べものにならない、洗練された立ち回り。
少女が初めてヴァンと出会った日、ケセドニアで魔物に襲われているところを助けてくれた。あのときは、あんなに心強かったのに。敵となった今は、怖くてたまらない。
少しずつ消耗し、少女たちの剣筋に焦りが滲んでくる。体力では敵わない。勝つには隙を作り、致命傷を与えるしかない。
「お前のやっていることは無茶苦茶だ、ヴァン!」
ガイが叫んでいる。
今さら話をしたって、何かが変わるわけではない。それでも言葉を発してしまうのは、長引く戦闘の苛立ちからか。それとも、まだ希望を捨てきれないからか。
「愚か者め。この星はユリアの預言の支配下にある。預言から解放された新しい世界を創らねば、人類は死滅するのだ」
ヴァンはガイの刃を自身の剣の棟で弾き返す。その隙を狙うように、ルークがヴァンの背中を斬りつける。しかし、振り返りざまに防がれてしまった。
「それなら、俺のことはどう説明するんですか!俺はユリアに詠まれていない!」
「そうです。預言は、無数の選択肢の一つに過ぎませんわ!」
ナタリアの矢が、ヴァンの肩を掠める。そのとき、ジェイドが譜術で放った炎が、ヴァンを包んだ。
「ルークという存在がある以上、預言にも歪みが生じているのです!」
「ぐっ!」
追撃するように、ティアの頭上から、光の槍がヴァンに向かって放たれる。
「預言は、絶対の未来ではないわ!」
「違うな。お前達は預言の本質を知らない。預言は詠まれずとも存在し、我々を定められた滅亡へと導く」
仰け反ったヴァンの両脇から、少女とアニスが迫る。
「だからって、人を殺していい理由にはならない!」
「総長ったらガンコ者ぉ!だったらもう、ぶっ潰すしかないじゃんねー!」
「ぐっ……。潰れるのはお前達だ。滅せよ!星皇……蒼破陣!」
ヴァンが剣を地面に突き刺すと、円形に光の輪が広がっていく。彼の周囲に集まっていたルークたちは衝撃に打ちのめされ、固い床に叩き付けられた。
「預言に支配された人類は……滅ぶしかないのだ。新たな星の歴史を生み出すためには!」
「兄さん……本当にそうなの?他に……もっと別のやり方はなかったの!?」
「そうだ!人はそこまで愚かじゃない。人には滅亡を回避する意志の力があるんだ!」
痛い。苦しい。だが、退くわけにはいかない。
オールドラントを守るために。大切な仲間を守るために。
確かに、この世界は預言に縛られている。しかしルークたちは旅の中で、人が変われることを知った。いがみ合っていた人々が、手を取り合う姿をその目で見てきたのだ。
皆、誰かのために、何かをしたい。その思いが集まれば、破滅の預言だって、
「レプリカが……小賢しい」
「……っ、ヴァン!!」
だが、どれだけ叫んでも、ヴァンの瞳は冷たいままだ。怒りをぶつけるように、ルークはヴァン目掛けて駆け込んだ。振り下ろした刃をヴァンのそれが受ける。その時、ルークの全身が淡い金色に輝いた。
「第七音素……?超振動か!」
ヴァンとルークの第七音素が共鳴したのか、それとも、ルーク単身の力なのか。ルークはその手を空に差し出したまま、動かなくなった。
「いけない、ルーク!あなたは、実戦で使えるほどの超振動の制御は、まだ……!」
「くうっ……。うわぁああああああっ!!」
「ルークっ!」
ルークの体から、白光が迸る。少女の目を光が覆って、耳を轟音が塞ぐ。足元が揺れる。何が起きているのか、わからない。
これが、超振動の力。皆の脳裏に、崩落したアクゼリュスの映像が浮かぶ。しかし次に目を開いたときには、先程までヴァンが立っていた壇と、鍵盤型の制御盤が消失していただけだった。
「この程度……所詮は出来損ない、か」
「……く」
ヴァンは吐き捨てるように言う。だが、肩で息をしている様子だ。制御が不完全とはいえ、ある程度の衝撃を受けているようだった。
しかし、ルークは立ち上がることができないでいる。それをめがけて、ヴァンが剣を振り上げた。
「消えるがいい、レプリカ!」
危ない。少女がそう叫ぶ前に、カン、と金属音が鳴った。ティアが投げた短刀が、ヴァンの剣に当たったのだ。ヴァンが咄嗟にティアのほうを見やると、その隙に、ルークが立ち上がる。
「うぉおおおおおっ!」
振り下ろした剣は、ヴァンの肩から腹までを裂いていた。
「うぁっ、ぐ……」
ぼた、ぼた、という音と共に、血溜まりが地面に広がっていく。
ヴァンは剣を地面に突き刺して体を支える。しかしその足は、ふらふらと血溜まりを踏みつけている。
この怪我では、もう。
誰もがわかった。それは、ヴァンも同じ。
「失敗作に……倒されるとはな……」
ヴァンの口元が緩む。笑っているような、怒っているような。それは、今日初めてルークに向けられた、侮蔑以外の表情だった。
「ふふふふ……ふはははは……!ふふふ……面白いではないか……!」
ヴァンが一歩ずつ、後退っていく。背後には、奈落。
次の瞬間には、背からその身を放り投げていた。
ヴァンは、死んだ。
誰がその死を見届けたわけでもないが、あの傷では、地中深くに落下しては、生き残ることはできないだろう。死体すら残さない最期は、彼らしいといえる。
あれだけ騒がしかった空間が、音ひとつしない静寂に包まれる。
ティアは、兄の消えた辺りをじっと見つめていた。血溜まりの上に剣が突き刺さり、墓標のようになっている。
ガイが声をかけようとするが、ナタリアがそれを止める。今の彼女を慰める言葉など、この世のどこにもない。
ジェイドが、アニスが、ナタリアが、墓標に背を向け歩き出す。少女もまた、歩みを始めた。まだ、すべてが終わったわけではないのだ。
誰も声を発することのないまま、パッセージリングの前に並び立った。しばらくして、ルークとティアが歩いてくる。ティアの肩を、ルークが抱いて。
「始めましょう」
ジェイドの言葉で、ルークは上空の図に手をかざした。
「……っ」
地図上のセフィロトを示す円を、光でなぞっていく。しかし、描いたそばから光は消え、それらを繋げることができない。
「くそっ……力が足りない……!」
少女たちに不安が走る。
しかし、次の瞬間には、ルークの描く軌跡の反対側……ラジエイトゲートから、光が伸びていた。
「この超振動は……まさか!」
惑星の北と南から伸びた力は、網の目のような地脈を走って手を結び、やがて一つに混じり合った。地面がゆっくりと振動を始める。降下が始まっているのだ。
「想定通り、障気がディバイディングラインに吸着していますね」
ジェイドがルークの横に歩み出て言った。照射する力を弱めないまま、ルークは横目でジェイドを見て笑う。
そして、しだいに揺れは収まり、降下作業の終了を知らせた。
皆がルークに駆け寄ろうとすると、突然、地面に膝をついて苦しみだした。
「う……ぐぅっ」
「ルーク? どうしました?」
「ローレライが……」
言いかけて、ルークは口をつぐむ。
「……いや、今はいい。それより、成功したことをみんなに知らせないと」
過去にも何度か同じようなことがあった。心配ではあるが、ルークの顔色は悪くない。皆言葉通りに受け取って、頷く。
「ええ。イオンもノエルもお父様たちも……きっと心配していますわ」
ルークは皆に歩み寄ろうとするが、すぐに呆然と立ち尽くすティアを見つけて、表情を曇らせる。
「ティア……」
「……ごめんなさい。ルーク」
世界は救われた。だが、唯一の肉親を犠牲にしたティアの傷が、癒えるわけなどない。ルークが何かを言おうとすると、ティアが遮った。
「これで……よかったのよ」
本心だとしても、強がりだとしても、前に進もうとする彼女を止めることなどできない。
「分かった」
ルークは短く返して、皆を見渡す。
「……みんな、帰ろう!俺たちの大地へ!」
七人で一斉にかかっても、その服に傷をつけるのが精一杯だ。ルーク、ガイ、菜真絵の攻撃を躱し、時には自らの剣で受け流しながら、詠唱時間の短い譜術で後衛を攻撃する。これまでに対峙した敵とは比べものにならない、洗練された立ち回り。
少女が初めてヴァンと出会った日、ケセドニアで魔物に襲われているところを助けてくれた。あのときは、あんなに心強かったのに。敵となった今は、怖くてたまらない。
少しずつ消耗し、少女たちの剣筋に焦りが滲んでくる。体力では敵わない。勝つには隙を作り、致命傷を与えるしかない。
「お前のやっていることは無茶苦茶だ、ヴァン!」
ガイが叫んでいる。
今さら話をしたって、何かが変わるわけではない。それでも言葉を発してしまうのは、長引く戦闘の苛立ちからか。それとも、まだ希望を捨てきれないからか。
「愚か者め。この星はユリアの預言の支配下にある。預言から解放された新しい世界を創らねば、人類は死滅するのだ」
ヴァンはガイの刃を自身の剣の棟で弾き返す。その隙を狙うように、ルークがヴァンの背中を斬りつける。しかし、振り返りざまに防がれてしまった。
「それなら、俺のことはどう説明するんですか!俺はユリアに詠まれていない!」
「そうです。預言は、無数の選択肢の一つに過ぎませんわ!」
ナタリアの矢が、ヴァンの肩を掠める。そのとき、ジェイドが譜術で放った炎が、ヴァンを包んだ。
「ルークという存在がある以上、預言にも歪みが生じているのです!」
「ぐっ!」
追撃するように、ティアの頭上から、光の槍がヴァンに向かって放たれる。
「預言は、絶対の未来ではないわ!」
「違うな。お前達は預言の本質を知らない。預言は詠まれずとも存在し、我々を定められた滅亡へと導く」
仰け反ったヴァンの両脇から、少女とアニスが迫る。
「だからって、人を殺していい理由にはならない!」
「総長ったらガンコ者ぉ!だったらもう、ぶっ潰すしかないじゃんねー!」
「ぐっ……。潰れるのはお前達だ。滅せよ!星皇……蒼破陣!」
ヴァンが剣を地面に突き刺すと、円形に光の輪が広がっていく。彼の周囲に集まっていたルークたちは衝撃に打ちのめされ、固い床に叩き付けられた。
「預言に支配された人類は……滅ぶしかないのだ。新たな星の歴史を生み出すためには!」
「兄さん……本当にそうなの?他に……もっと別のやり方はなかったの!?」
「そうだ!人はそこまで愚かじゃない。人には滅亡を回避する意志の力があるんだ!」
痛い。苦しい。だが、退くわけにはいかない。
オールドラントを守るために。大切な仲間を守るために。
確かに、この世界は預言に縛られている。しかしルークたちは旅の中で、人が変われることを知った。いがみ合っていた人々が、手を取り合う姿をその目で見てきたのだ。
皆、誰かのために、何かをしたい。その思いが集まれば、破滅の預言だって、
「レプリカが……小賢しい」
「……っ、ヴァン!!」
だが、どれだけ叫んでも、ヴァンの瞳は冷たいままだ。怒りをぶつけるように、ルークはヴァン目掛けて駆け込んだ。振り下ろした刃をヴァンのそれが受ける。その時、ルークの全身が淡い金色に輝いた。
「第七音素……?超振動か!」
ヴァンとルークの第七音素が共鳴したのか、それとも、ルーク単身の力なのか。ルークはその手を空に差し出したまま、動かなくなった。
「いけない、ルーク!あなたは、実戦で使えるほどの超振動の制御は、まだ……!」
「くうっ……。うわぁああああああっ!!」
「ルークっ!」
ルークの体から、白光が迸る。少女の目を光が覆って、耳を轟音が塞ぐ。足元が揺れる。何が起きているのか、わからない。
これが、超振動の力。皆の脳裏に、崩落したアクゼリュスの映像が浮かぶ。しかし次に目を開いたときには、先程までヴァンが立っていた壇と、鍵盤型の制御盤が消失していただけだった。
「この程度……所詮は出来損ない、か」
「……く」
ヴァンは吐き捨てるように言う。だが、肩で息をしている様子だ。制御が不完全とはいえ、ある程度の衝撃を受けているようだった。
しかし、ルークは立ち上がることができないでいる。それをめがけて、ヴァンが剣を振り上げた。
「消えるがいい、レプリカ!」
危ない。少女がそう叫ぶ前に、カン、と金属音が鳴った。ティアが投げた短刀が、ヴァンの剣に当たったのだ。ヴァンが咄嗟にティアのほうを見やると、その隙に、ルークが立ち上がる。
「うぉおおおおおっ!」
振り下ろした剣は、ヴァンの肩から腹までを裂いていた。
「うぁっ、ぐ……」
ぼた、ぼた、という音と共に、血溜まりが地面に広がっていく。
ヴァンは剣を地面に突き刺して体を支える。しかしその足は、ふらふらと血溜まりを踏みつけている。
この怪我では、もう。
誰もがわかった。それは、ヴァンも同じ。
「失敗作に……倒されるとはな……」
ヴァンの口元が緩む。笑っているような、怒っているような。それは、今日初めてルークに向けられた、侮蔑以外の表情だった。
「ふふふふ……ふはははは……!ふふふ……面白いではないか……!」
ヴァンが一歩ずつ、後退っていく。背後には、奈落。
次の瞬間には、背からその身を放り投げていた。
ヴァンは、死んだ。
誰がその死を見届けたわけでもないが、あの傷では、地中深くに落下しては、生き残ることはできないだろう。死体すら残さない最期は、彼らしいといえる。
あれだけ騒がしかった空間が、音ひとつしない静寂に包まれる。
ティアは、兄の消えた辺りをじっと見つめていた。血溜まりの上に剣が突き刺さり、墓標のようになっている。
ガイが声をかけようとするが、ナタリアがそれを止める。今の彼女を慰める言葉など、この世のどこにもない。
ジェイドが、アニスが、ナタリアが、墓標に背を向け歩き出す。少女もまた、歩みを始めた。まだ、すべてが終わったわけではないのだ。
誰も声を発することのないまま、パッセージリングの前に並び立った。しばらくして、ルークとティアが歩いてくる。ティアの肩を、ルークが抱いて。
「始めましょう」
ジェイドの言葉で、ルークは上空の図に手をかざした。
「……っ」
地図上のセフィロトを示す円を、光でなぞっていく。しかし、描いたそばから光は消え、それらを繋げることができない。
「くそっ……力が足りない……!」
少女たちに不安が走る。
しかし、次の瞬間には、ルークの描く軌跡の反対側……ラジエイトゲートから、光が伸びていた。
「この超振動は……まさか!」
惑星の北と南から伸びた力は、網の目のような地脈を走って手を結び、やがて一つに混じり合った。地面がゆっくりと振動を始める。降下が始まっているのだ。
「想定通り、障気がディバイディングラインに吸着していますね」
ジェイドがルークの横に歩み出て言った。照射する力を弱めないまま、ルークは横目でジェイドを見て笑う。
そして、しだいに揺れは収まり、降下作業の終了を知らせた。
皆がルークに駆け寄ろうとすると、突然、地面に膝をついて苦しみだした。
「う……ぐぅっ」
「ルーク? どうしました?」
「ローレライが……」
言いかけて、ルークは口をつぐむ。
「……いや、今はいい。それより、成功したことをみんなに知らせないと」
過去にも何度か同じようなことがあった。心配ではあるが、ルークの顔色は悪くない。皆言葉通りに受け取って、頷く。
「ええ。イオンもノエルもお父様たちも……きっと心配していますわ」
ルークは皆に歩み寄ろうとするが、すぐに呆然と立ち尽くすティアを見つけて、表情を曇らせる。
「ティア……」
「……ごめんなさい。ルーク」
世界は救われた。だが、唯一の肉親を犠牲にしたティアの傷が、癒えるわけなどない。ルークが何かを言おうとすると、ティアが遮った。
「これで……よかったのよ」
本心だとしても、強がりだとしても、前に進もうとする彼女を止めることなどできない。
「分かった」
ルークは短く返して、皆を見渡す。
「……みんな、帰ろう!俺たちの大地へ!」
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