崩落編
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
一晩休んだものの、イオンは歩くことすらままならず、ケテルブルクに残ることとなった。アブソーブゲートとラジエイトゲートのダアト式封咒は、既にイオンの手で解呪されている。
アニスはケテルブルクに残ることも考えたそうだが、ルークに同行することをイオンから命じられ、共にアブソーブゲートへと向かうこととなった。
七人と一匹で、地中の奥深くへと潜っていく。
最深部。記憶粒子の輝きが上から下へと流れていく。どこか懐かしい旋律が響いて、空間を支配する。
最後のドアを開くと、そこにはヴァンがいた。少女たちが立つ床よりもひとつ高い壇上で、パイプオルガン様の装置の前に座っている。
ふ、と音が消えたかと思うと、ヴァンは振り返る。ルークの姿を目に留めたかと思えば、眉を顰めて、吐き捨てるように言った。
「……何故お前がここにいる?ここに来るのは私と共に秩序を生み出すべきアッシュ……ルーク・被験者だ。私の邪魔をするな、レプリカ風情が」
「……っ!」
拒絶の言葉を受けて、ルークはよろめく。決別すると胸に誓ったはずなのに、いざ目の前にすると、優しい言葉を掛けられることを期待してしまう。
ヴァンが世界のすべてだった。彼に認められる日を夢見て生きてきた。
「だったら……だったらなんで俺を作った!俺は誰で、何の為に生まれたっていうんだ!」
片手で胸を押さえて、ルークは壇上のヴァンに訴える。
「お前はユリアの預言を覆す捨てゴマとして生まれた代用品。ただ、それだけだ」
「……師匠。本当に俺はそれだけの存在なんですか? 俺という存在のせいで預言は狂い始めてるんでしょう?」
諦められない。偽りの日々の中で得られたものもたくさんある。それでも、7年追い続けた夢を捨てることができない。この人に、認めてもらいたい。
「お前如き歪みなど、ユリアの預言はものともせぬよ。枝葉が変わろうと樹の本質は変わらぬ」
食い下がるルークをヴァンは一蹴し、鍵盤を叩きつける。耳を覆いたくなるような不協和音が、土の壁に反射して、何重にも響く。それは、ヴァンの預言に対する苛立ちをそのまま表現したかのような雑音だった。
自分には、怒りさえも向けてくれない。ルークはそのまま俯いて、黙り込む。
「ユリアは二千年を掛けて、人類を預言中毒にしてしまった。二千年にも及ぶ歪みを矯正するには、劇薬が必要だ」
ヴァンの言っていることは、正しい部分もある。
少女は知っている。未曾有の繁栄のためならと、貧しい暮らしを受け入れてしまう者がいることを。預言を守るため、誰かの命を平気で奪う者がいることを。
選択とは、苦しいものだ。
少女もそうだった。目の前の人の命を救うことすら、預言がなければできなかった。死ぬのが怖くて、踏み出せなかった。
預言も、きっとはじめは、背中を押すだけの存在だったのだろう。それがいつしか、守るべき規律になっていった。
「そのために、多くの命が失われてもいいと言うのですか」
「……お前はわかってくれると思っていたよ。導きの少女」
少女が問いかけると、幾分か落ち着いた声色でヴァンが返す。その様子に少女は驚いた。会話などしてくれないと思っていたからだ。
初めて出会ったあの日、少女はヴァンに問いかけた。「預言に背いてでも人の命を救えるか」と。ヴァンが少女に興味を持ったのは、それがきっかけだった。彼の思想と重なる部分があったのだろう。
もしも、ただの道具ではなくて、一瞬でも同志として認めてくれていたのなら。少女は淡い期待を抱きかけたが、振り払ように、低い声で言い放つ。
「もう、そんな言葉に騙されません」
ルークを見やれば、悲しげな瞳でこちらを見ていた。師に認められた者への嫉妬のような、絡みつくような視線。彼のためにも、呪いを解かなくてはならない。
「お前を高く見積もりすぎていた。預言を憎み、己の意思で生きられる者だと思っていた」
ヴァンが息を吐く。
軽蔑するように、冷たい瞳で少女を見下ろしている。
「お前に信念などない。アッシュが私を嫌ったから、今そこにいる。そうだろう」
「…………っ」
少女はその言葉に、不覚にも打たれてしまった。
少年のために世界を滅ぼそうとした。それを少年は止めてくれた。自分の愚かさに気づくことができたと思っていた。変わることができたのだと思っていた。しかしそれがただ、少年の後を追っているだけだとしたら?
「菜真絵があなたを裏切ったのは、あなたの行いが間違っているからですわ!」
ナタリアが少女の前に立ち、守るようにして言う。
「そうだ。幼馴染の俺でも理解できないな。レプリカで世界を作り変えるなんて、そっちのほうが歪んでる」
「信念を持った結果がレプリカ世界の生成、ですか」
ガイも、ジェイドも後に続く。
「ティアは妹なんでしょ!?妹と戦うなんて、おかしいよ……」
アニスもまた、怒りをぶつける。
そうだ。ヴァンは間違っている。彼の中でどれだけ筋が通っていても、少女にとっては間違っている。
ヴァンは、大切な仲間たちを殺そうとしているのだから。
「メシュティアリカ。私も残念なのだ。お前がユリアシティで大人しくしていれば……そうすればお前だけは助けてやれたものを」
「兄さんはレプリカの世界を作ろうとしているんでしょう?」
並び立つと、彼女達が兄妹なのだとわかる。
ティアは兄と同じ冷たい瞳で、壇上の兄を貫く。
「なら私を殺して、私のレプリカを作ればいいわ」
初めて、ヴァンの瞳が揺れた。
己のやろうとしていることの意味を再確認させられたからだろうか。しかし、それで引き下がることはない。
「……どうあっても私と戦うか」
「……ええ。元々私は、その為に外郭へ来たんだもの」
断ち切らなければならない。自分の命と、仲間の命を守るために。
これ以上、何かを守るために何かを捨てなくても済むように。
少女たちは武器を構え、間合いを取る。
「師匠……」
ルークが顔を上げた。揺れる瞳が、次の瞬間には、強い光を灯す。
「いや……ヴァン!あなたが俺を認めなくても、俺は………」
ルークは腰の後ろに渡した剣の柄を握った。一気に抜き放つ。
「俺だ!」
光の粒子が見守る中で、最後の戦いが始まった。
アニスはケテルブルクに残ることも考えたそうだが、ルークに同行することをイオンから命じられ、共にアブソーブゲートへと向かうこととなった。
七人と一匹で、地中の奥深くへと潜っていく。
最深部。記憶粒子の輝きが上から下へと流れていく。どこか懐かしい旋律が響いて、空間を支配する。
最後のドアを開くと、そこにはヴァンがいた。少女たちが立つ床よりもひとつ高い壇上で、パイプオルガン様の装置の前に座っている。
ふ、と音が消えたかと思うと、ヴァンは振り返る。ルークの姿を目に留めたかと思えば、眉を顰めて、吐き捨てるように言った。
「……何故お前がここにいる?ここに来るのは私と共に秩序を生み出すべきアッシュ……ルーク・被験者だ。私の邪魔をするな、レプリカ風情が」
「……っ!」
拒絶の言葉を受けて、ルークはよろめく。決別すると胸に誓ったはずなのに、いざ目の前にすると、優しい言葉を掛けられることを期待してしまう。
ヴァンが世界のすべてだった。彼に認められる日を夢見て生きてきた。
「だったら……だったらなんで俺を作った!俺は誰で、何の為に生まれたっていうんだ!」
片手で胸を押さえて、ルークは壇上のヴァンに訴える。
「お前はユリアの預言を覆す捨てゴマとして生まれた代用品。ただ、それだけだ」
「……師匠。本当に俺はそれだけの存在なんですか? 俺という存在のせいで預言は狂い始めてるんでしょう?」
諦められない。偽りの日々の中で得られたものもたくさんある。それでも、7年追い続けた夢を捨てることができない。この人に、認めてもらいたい。
「お前如き歪みなど、ユリアの預言はものともせぬよ。枝葉が変わろうと樹の本質は変わらぬ」
食い下がるルークをヴァンは一蹴し、鍵盤を叩きつける。耳を覆いたくなるような不協和音が、土の壁に反射して、何重にも響く。それは、ヴァンの預言に対する苛立ちをそのまま表現したかのような雑音だった。
自分には、怒りさえも向けてくれない。ルークはそのまま俯いて、黙り込む。
「ユリアは二千年を掛けて、人類を預言中毒にしてしまった。二千年にも及ぶ歪みを矯正するには、劇薬が必要だ」
ヴァンの言っていることは、正しい部分もある。
少女は知っている。未曾有の繁栄のためならと、貧しい暮らしを受け入れてしまう者がいることを。預言を守るため、誰かの命を平気で奪う者がいることを。
選択とは、苦しいものだ。
少女もそうだった。目の前の人の命を救うことすら、預言がなければできなかった。死ぬのが怖くて、踏み出せなかった。
預言も、きっとはじめは、背中を押すだけの存在だったのだろう。それがいつしか、守るべき規律になっていった。
「そのために、多くの命が失われてもいいと言うのですか」
「……お前はわかってくれると思っていたよ。導きの少女」
少女が問いかけると、幾分か落ち着いた声色でヴァンが返す。その様子に少女は驚いた。会話などしてくれないと思っていたからだ。
初めて出会ったあの日、少女はヴァンに問いかけた。「預言に背いてでも人の命を救えるか」と。ヴァンが少女に興味を持ったのは、それがきっかけだった。彼の思想と重なる部分があったのだろう。
もしも、ただの道具ではなくて、一瞬でも同志として認めてくれていたのなら。少女は淡い期待を抱きかけたが、振り払ように、低い声で言い放つ。
「もう、そんな言葉に騙されません」
ルークを見やれば、悲しげな瞳でこちらを見ていた。師に認められた者への嫉妬のような、絡みつくような視線。彼のためにも、呪いを解かなくてはならない。
「お前を高く見積もりすぎていた。預言を憎み、己の意思で生きられる者だと思っていた」
ヴァンが息を吐く。
軽蔑するように、冷たい瞳で少女を見下ろしている。
「お前に信念などない。アッシュが私を嫌ったから、今そこにいる。そうだろう」
「…………っ」
少女はその言葉に、不覚にも打たれてしまった。
少年のために世界を滅ぼそうとした。それを少年は止めてくれた。自分の愚かさに気づくことができたと思っていた。変わることができたのだと思っていた。しかしそれがただ、少年の後を追っているだけだとしたら?
「菜真絵があなたを裏切ったのは、あなたの行いが間違っているからですわ!」
ナタリアが少女の前に立ち、守るようにして言う。
「そうだ。幼馴染の俺でも理解できないな。レプリカで世界を作り変えるなんて、そっちのほうが歪んでる」
「信念を持った結果がレプリカ世界の生成、ですか」
ガイも、ジェイドも後に続く。
「ティアは妹なんでしょ!?妹と戦うなんて、おかしいよ……」
アニスもまた、怒りをぶつける。
そうだ。ヴァンは間違っている。彼の中でどれだけ筋が通っていても、少女にとっては間違っている。
ヴァンは、大切な仲間たちを殺そうとしているのだから。
「メシュティアリカ。私も残念なのだ。お前がユリアシティで大人しくしていれば……そうすればお前だけは助けてやれたものを」
「兄さんはレプリカの世界を作ろうとしているんでしょう?」
並び立つと、彼女達が兄妹なのだとわかる。
ティアは兄と同じ冷たい瞳で、壇上の兄を貫く。
「なら私を殺して、私のレプリカを作ればいいわ」
初めて、ヴァンの瞳が揺れた。
己のやろうとしていることの意味を再確認させられたからだろうか。しかし、それで引き下がることはない。
「……どうあっても私と戦うか」
「……ええ。元々私は、その為に外郭へ来たんだもの」
断ち切らなければならない。自分の命と、仲間の命を守るために。
これ以上、何かを守るために何かを捨てなくても済むように。
少女たちは武器を構え、間合いを取る。
「師匠……」
ルークが顔を上げた。揺れる瞳が、次の瞬間には、強い光を灯す。
「いや……ヴァン!あなたが俺を認めなくても、俺は………」
ルークは腰の後ろに渡した剣の柄を握った。一気に抜き放つ。
「俺だ!」
光の粒子が見守る中で、最後の戦いが始まった。