崩落編
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
決戦を前にして、ケテルブルクにはアッシュが訪れていた。
ノエルと話しているところを、ルークが見つけ、声をかけた。共にアブソーブゲートへ行かないかと誘ったが、ワイヨン鏡窟での負傷を理由に断られてしまった。
そして、彼はすぐに姿を消した。ここに来たことは他の奴に伝えるなという言伝を残して。
ルークがホテルへ戻ろうとする頃には、すっかり朝焼けが街を照らしていた。入り口の階段に、見慣れた姿がある。ナタリアだ。
「なんだ。早いな」
「実は、あまりよく眠れませんでしたの。あなたも随分早起きですわね。どこへ行っていましたの」
ナタリアが問うが、ルークは頭をかくだけで答えない。
「……アッシュが来ていたのですわね」
「……ああ」
ルークがわかりやすいだけなのか、それとも、幼馴染だからなのか。ルークの動揺の理由を言い当てて、ナタリアはふ、と息を吐く。
「アッシュは……、菜真絵に会いましたの?」
「いや、会ってないと思う」
様子を見るに、わざわざノエルからルークたちの行動を聞き出しているようだった。ノエルは口が固い。ルークを含め、戦闘要員の面々には気付かれたくなかったのだろう。
「最後になってしまうかもしれませんのに」
ナタリアはそう言ってから、口元を手で隠す。この戦いは、そんな心づもりで臨んではいけない。だが、ヴァンは強い。犠牲を1人も出さずに帰還することができるかどうか。
「ナタリアも、会いたいだろ」
口をついて出てしまったというように、ルークがこぼす。少し拗ねたようなその言葉に驚きつつも、目を合わせないようにして、答える。
「そう、ですわね」
未来を約束した。彼と結ばれるのだと信じて疑わなかった。だが、彼は目の前の"レプリカルーク"にすり替わっていた。
彼の失踪に気付くことも、探しに行くこともできなかった。そして、あの約束は過去になってしまった。
次に再会したとき、彼の隣には部下の菜真絵がいた。ユリアシティで彼女が怪我をしたとき、その病状を何度も医者に問いただし、見舞いの品を真剣に選ぶアッシュを見て、ただの上司と部下の関係ではないとわかった。
それから、菜真絵を見る度に後悔の念に苛まれた。自ら捨ててしまった。約束を破ったのは自分なのだ、と。
「師匠を必ず倒せって、アッシュ言ってたぜ」
俯くナタリアを慰めるように、ルークが語りかける。
そう、アッシュは、自分のことを見捨てたわけではない。旅の途中、いつも突然現れては助けてくれた。あの日ベルケンドで交わした約束のことも、覚えてくれていた。過去に抱いたような慕情がそこにあるのかは、わからない。ただ少なくとも、今の彼は共に世界を憂う同志である。
菜真絵も同じだ。世界を救うために共に走ってきた。疎ましく思われても仕方ないのに、自分を友と呼んで、涙を流してくれた。
この日々の中で、彼らと新しい関係を築くことができたのだ。
だが、過去を振り切れたわけではない。今でも、アッシュと顔を合わせたら、何を話していいのかわからないだろうと思う。
「不本意とはいえ、師匠との多分最後になる戦いを託してくれたんだ。……負ける訳にはいかないよな」
ナタリアがルークの顔を見ると、真っすぐ前を向いていた。
この数ヶ月で彼は変わった。屋敷を出る前は、わがままで、騒がしくて、それでもどこか憎めない、7歳の少年だったのに。
「……ごめんなさい」
「えっ、いきなりどうしたんだ?」
「わたくし、ずっとあなたに『記憶を思い出せ』と急かしていましたわ」
そこに答えはなかったのに。
愛する人の入れ替わりに気が付かないどころか、入れ替わったその人に向かって、約束を守ることを求めていた。彼らは、まったくの別人であるというのに。
「なあ、アッシュとした約束って、どんなだったんだ?」
まるで雑談のように、何気なく口にする。しかしすぐに、ルークはハッとした。
「ごめん、言いたくないなら、いいんだけど……」
これはナタリアとアッシュの大切な思い出だ。自分が土足で踏み込んでいいものではない。ルークはそう思ったが、ナタリアは、柔らかな笑みをたたえていた。
「……いつか俺たちが大人になったらこの国を変えよう」
静かに、ナタリアが呟く。
「貴族以外の人間も貧しい思いをしないように、戦争が起こらないように」
屋敷にいた頃、何度も、何度も、ナタリアにこの約束を思い出すことを切望された。はじめは、それを叶えたいと思っていた。彼女の喜ぶ顔が見たかったから。それでも、どれだけ願っても、思い出すことはできなくて。いつしか、その願いを疎ましく思うようになっていった。
「死ぬまで一緒にいて、この国を変えよう」
朝日に照らされ、金の髪が輝く。
自分は与えることができなかった。冷たく突き放してしまったこともある。それでも、彼女は、自分に向かって微笑んでくれている。
「ルーク、約束してくださいません?」
「え」
「何を?俺と?」と、ルークが素っ頓狂な声を出すと、ナタリアは可笑しそうに笑う。
「あなたも、わたくしの大切な幼馴染ですわ。……一緒にキムラスカを良い国にしていきたいのです」
彼が何者なのか、ずっと悩んでいた。だけど、今ならわかる。
彼は7年間、共に過ごした"ルーク"なのだ。笑い合って、喧嘩して、共に旅をした、ルークその人なのだ。
ヴァンによって作られたあの日々は、婚約者としては偽物だったのかもしれない。だが、友人としては、幼馴染としては、本物の思い出だ。
「ああ。そのためにも、生きて帰らなくちゃな」
もしかしたら、いや、絶対、今度こそは叶えることができる。
ルークが小指を差し出すと、ナタリアも自身の小指を絡ませた。
朝日が眩しい。
おかげで、泣きそうな顔を見られなくて済んだ。
ノエルと話しているところを、ルークが見つけ、声をかけた。共にアブソーブゲートへ行かないかと誘ったが、ワイヨン鏡窟での負傷を理由に断られてしまった。
そして、彼はすぐに姿を消した。ここに来たことは他の奴に伝えるなという言伝を残して。
ルークがホテルへ戻ろうとする頃には、すっかり朝焼けが街を照らしていた。入り口の階段に、見慣れた姿がある。ナタリアだ。
「なんだ。早いな」
「実は、あまりよく眠れませんでしたの。あなたも随分早起きですわね。どこへ行っていましたの」
ナタリアが問うが、ルークは頭をかくだけで答えない。
「……アッシュが来ていたのですわね」
「……ああ」
ルークがわかりやすいだけなのか、それとも、幼馴染だからなのか。ルークの動揺の理由を言い当てて、ナタリアはふ、と息を吐く。
「アッシュは……、菜真絵に会いましたの?」
「いや、会ってないと思う」
様子を見るに、わざわざノエルからルークたちの行動を聞き出しているようだった。ノエルは口が固い。ルークを含め、戦闘要員の面々には気付かれたくなかったのだろう。
「最後になってしまうかもしれませんのに」
ナタリアはそう言ってから、口元を手で隠す。この戦いは、そんな心づもりで臨んではいけない。だが、ヴァンは強い。犠牲を1人も出さずに帰還することができるかどうか。
「ナタリアも、会いたいだろ」
口をついて出てしまったというように、ルークがこぼす。少し拗ねたようなその言葉に驚きつつも、目を合わせないようにして、答える。
「そう、ですわね」
未来を約束した。彼と結ばれるのだと信じて疑わなかった。だが、彼は目の前の"レプリカルーク"にすり替わっていた。
彼の失踪に気付くことも、探しに行くこともできなかった。そして、あの約束は過去になってしまった。
次に再会したとき、彼の隣には部下の菜真絵がいた。ユリアシティで彼女が怪我をしたとき、その病状を何度も医者に問いただし、見舞いの品を真剣に選ぶアッシュを見て、ただの上司と部下の関係ではないとわかった。
それから、菜真絵を見る度に後悔の念に苛まれた。自ら捨ててしまった。約束を破ったのは自分なのだ、と。
「師匠を必ず倒せって、アッシュ言ってたぜ」
俯くナタリアを慰めるように、ルークが語りかける。
そう、アッシュは、自分のことを見捨てたわけではない。旅の途中、いつも突然現れては助けてくれた。あの日ベルケンドで交わした約束のことも、覚えてくれていた。過去に抱いたような慕情がそこにあるのかは、わからない。ただ少なくとも、今の彼は共に世界を憂う同志である。
菜真絵も同じだ。世界を救うために共に走ってきた。疎ましく思われても仕方ないのに、自分を友と呼んで、涙を流してくれた。
この日々の中で、彼らと新しい関係を築くことができたのだ。
だが、過去を振り切れたわけではない。今でも、アッシュと顔を合わせたら、何を話していいのかわからないだろうと思う。
「不本意とはいえ、師匠との多分最後になる戦いを託してくれたんだ。……負ける訳にはいかないよな」
ナタリアがルークの顔を見ると、真っすぐ前を向いていた。
この数ヶ月で彼は変わった。屋敷を出る前は、わがままで、騒がしくて、それでもどこか憎めない、7歳の少年だったのに。
「……ごめんなさい」
「えっ、いきなりどうしたんだ?」
「わたくし、ずっとあなたに『記憶を思い出せ』と急かしていましたわ」
そこに答えはなかったのに。
愛する人の入れ替わりに気が付かないどころか、入れ替わったその人に向かって、約束を守ることを求めていた。彼らは、まったくの別人であるというのに。
「なあ、アッシュとした約束って、どんなだったんだ?」
まるで雑談のように、何気なく口にする。しかしすぐに、ルークはハッとした。
「ごめん、言いたくないなら、いいんだけど……」
これはナタリアとアッシュの大切な思い出だ。自分が土足で踏み込んでいいものではない。ルークはそう思ったが、ナタリアは、柔らかな笑みをたたえていた。
「……いつか俺たちが大人になったらこの国を変えよう」
静かに、ナタリアが呟く。
「貴族以外の人間も貧しい思いをしないように、戦争が起こらないように」
屋敷にいた頃、何度も、何度も、ナタリアにこの約束を思い出すことを切望された。はじめは、それを叶えたいと思っていた。彼女の喜ぶ顔が見たかったから。それでも、どれだけ願っても、思い出すことはできなくて。いつしか、その願いを疎ましく思うようになっていった。
「死ぬまで一緒にいて、この国を変えよう」
朝日に照らされ、金の髪が輝く。
自分は与えることができなかった。冷たく突き放してしまったこともある。それでも、彼女は、自分に向かって微笑んでくれている。
「ルーク、約束してくださいません?」
「え」
「何を?俺と?」と、ルークが素っ頓狂な声を出すと、ナタリアは可笑しそうに笑う。
「あなたも、わたくしの大切な幼馴染ですわ。……一緒にキムラスカを良い国にしていきたいのです」
彼が何者なのか、ずっと悩んでいた。だけど、今ならわかる。
彼は7年間、共に過ごした"ルーク"なのだ。笑い合って、喧嘩して、共に旅をした、ルークその人なのだ。
ヴァンによって作られたあの日々は、婚約者としては偽物だったのかもしれない。だが、友人としては、幼馴染としては、本物の思い出だ。
「ああ。そのためにも、生きて帰らなくちゃな」
もしかしたら、いや、絶対、今度こそは叶えることができる。
ルークが小指を差し出すと、ナタリアも自身の小指を絡ませた。
朝日が眩しい。
おかげで、泣きそうな顔を見られなくて済んだ。