崩落編
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最後のセフィロトであるロニール雪山を目指すため、少女たちはケテルブルクで準備をすることにした。
「大佐がディストを尋問してる部屋から、すっごい悲鳴が聞こえてきたよ〜」
宿の部屋の扉をアニスが開ける。盗み聞きをしてきたらしい。
ずいぶん前のことになるが、飛行譜石を奪ったディストから、宣戦布告の手紙が送られてきたことがある。少女たちはそれを無視して飛行譜石を取り返したが、どうやらディストはケテルブルクで待ち続けていたらしい。凍って動けなくなっているところを、軍に取り押さえられたそうだ。
「ホント、アホだよね」
「……ここまでとは知りませんでした」
アニスは呆れたように笑う。少女は、それをやんわりと否定した。少女の記憶の中のディストは、こんなに滑稽な人ではなかった。
「菜真絵の知るディストは、どんな人だったの?」
ティアが問う。
おそらく、純粋な興味による質問だろう。ティアは常に魔界にいたため、リグレット以外の六神将と面識がない。
「掴みどころがなくて……、私たちとは違う目的に邁進する方でした」
「ネビリム先生の復活ってやつ〜?」
セントビナーでディストがこぼしていた。
ネビリム先生というのは、ジェイドとディストが通っていた私塾の講師のことである。不慮の事故で亡くなったといわれているが、それが余程ショックだったのだろう。ディストは、フォミクリーでネビリムを、死人を蘇らせようとしている。
しかし、レプリカを作ったとてそれは他人だ。その人自身は永遠に戻ってこない。少女は彼の命に対する認識の甘さも含めて、ディストに失望していた。自分は、彼のことを何も理解していなかった。
「六神将とは何度も顔を合わせていますのに、彼らのことを何も知りませんわね」
ナタリアが神妙な面持ちで言う。
彼女からすれば、六神将は最初から敵として対峙していたのだから当たり前だ。それでも知りたいと思うのは、彼女が優しいからだろう。
「ラルゴさんは、ナタリアさんと同じ年頃の娘がいる、と仰っていました」
「まあ。お父様があんな計画に加担するなんて……。ご令嬢もさぞ悲しんでおられるでしょう」
ナタリアの言葉に、少女は曖昧な笑顔で頷く。
ラルゴの娘が、生きているのか死んでいるのかわからない。ただその口ぶりから、二度と会えない
のではないかと、少女は感じていた。
「家族がいても、人類の滅亡を望んでしまうんですね」
ノエルが呟く。その脳裏には、ギンジやイエモン、め組の人々を思い浮かべているのか。
「教官も、弟を戦争で亡くしているわ。大切な人を失う痛みはよく知っているはずなのに……」
ティアも言葉を継ぐ。
彼女の普段の言動から、リグレットという人は、厳しくも優しい人物だったと推察できる。少女に対してもそうだった。任務の前後には体を気遣うような素振りを見せてくれた。
しかし、少女の前で過去を語ることはなかった。弟を戦争で亡くしていたなんて、知らなかった。
「家族がいないからって、あんなことしていいわけじゃないけどね」
アニスが頬を膨らませながら言う。シンクのことを言っているのだろう。彼には身寄りがない。生み出された瞬間にその生を否定され、単なる戦力としてヴァンに拾われた。誰からも愛情を向けられることなく、ただ生きるために、ヴァンに加担していた。
アリエッタも、その昔に故郷を追われている。ライガに拾われ育てられたものの、後に、そのライガもルーク一行に討伐された。慕っていた被験者イオンとも引き離された。
六神将はみな、恨みや憎しみを原動力としている。世界をより良く変えるのではなく、自身に不義理をはたらいた世界に復讐する……。そんな考えが少なからずあるのではなかろうか、と、少女は考える。
少女もそうだった。少年を弾き出した世界など、少年の命のために捧げられ、消えてしまえばいいと思った。そのためにヴァンの手を取ったこともある。
だが、少年だけは違った。恨みがないはずがない。それでも、自分を捨てた世界でさえも救おうとした。そんな少年の真っすぐな心が、少女までをも救ったのだ。
「預言に翻弄されたのは彼らだけではありません。どうして分かり合えないのでしょう」
ナタリアが言う。その表情は悲しいというよりも、憤っているように見えた。
ルークだって、ガイだって、預言に翻弄されてきた。ナタリアも、未曾有の繁栄のためにと父に命を狙われた。それでも、今、世界を救うために、歩みを進めている。
「菜真絵だって、預言のせいで息苦しい思いをしていますのに」
「……え?」
ナタリアの言葉に、少女は目を丸くする。
「見知らぬ世界に連れてこられて、突然預言の通りに生きろと言われるなんて、嫌に決まっています。預言を憎んでヴァンに加担してもおかしくないでしょう」
そのとおりだ。事実、少女は預言に従うばかりの人々に辟易していた。
だが、少女の「導きの少女」という立場を哀れむ人は、あの赤髪の少年しかいなかった。
いや、少年のそれとも少し違う。彼は少女が家族と引き離されたことや、預言に振り回されたことを、自身と重ねていた。だからこそ、分かり合えたような気がした。しかしナタリアは、あくまでも自然に、預言を知らない異世界人の視点に立っている。
その視野の広さが、少女にとっては新鮮だった。
「ナタリアさんはやっぱり、素敵な王女様ですね」
「なんですの、いきなり」
もしかしたらずっと、少女の感じる息苦しさを理解してくれていたのかもしれない。
そう思うと、胸があたたかさで満たされていく。
「そう、よね。それに……菜真絵の家族は、」
「元の世界で元気に過ごしていると思いますよ」
「でもそれって、二度と会えないってことだよねぇ」
ティアがおずおずと少女に問いかける。ずっとこの旅の中では触れないようにしてきた、少女の脆い部分。……そのはずなのに、少女の心は乱れなかった。
元の世界のことを忘れたわけではない。寂しくないわけではない。だが、もう共感は必要ない。彼らとは今、同じ理想のために、共に歩んでいるのだから。
「失っているのは皆同じだわ。それでも私たちは、絶望なんてしない」
ティアは暗くなっていく窓の外を、真っすぐ見つめている。その先には、愛する兄の姿があるのだろう。
あの頃、少女にとってはヴァンと少年が世界のすべてだった。自身の心に寄り添ってくれる人は、彼らだけだと思っていた。でも今は、たくさんの仲間がいる。分かり合える。
それでも、あの少年の姿が脳裏に浮かぶのはどうしてなのだろう。
シンクの言うように、境遇のせいなのだろうか。ヴァンに彼を慕うように仕向けられたからなのだろうか。初めてできた友人だからなのだろうか。理由はわからない。
だが、ナタリアと、ルークと、仲間たちと友情を築いたからこそわかる。
自分は、少年を愛している。
それを表に出すつもりはない。自分を愛してほしいなどとは思わない。
ただ、彼の命を諦めたくはない。ナタリアと共に、キムラスカの国を変えてもらうためにも。
だからこそ、六神将を、ヴァンを倒し、超振動が利用されることを防がなければならない。
彼らに抱いていた信頼も、同情も、すべて捨てて。
少女はそう決意をして、日記を開いた。
「大佐がディストを尋問してる部屋から、すっごい悲鳴が聞こえてきたよ〜」
宿の部屋の扉をアニスが開ける。盗み聞きをしてきたらしい。
ずいぶん前のことになるが、飛行譜石を奪ったディストから、宣戦布告の手紙が送られてきたことがある。少女たちはそれを無視して飛行譜石を取り返したが、どうやらディストはケテルブルクで待ち続けていたらしい。凍って動けなくなっているところを、軍に取り押さえられたそうだ。
「ホント、アホだよね」
「……ここまでとは知りませんでした」
アニスは呆れたように笑う。少女は、それをやんわりと否定した。少女の記憶の中のディストは、こんなに滑稽な人ではなかった。
「菜真絵の知るディストは、どんな人だったの?」
ティアが問う。
おそらく、純粋な興味による質問だろう。ティアは常に魔界にいたため、リグレット以外の六神将と面識がない。
「掴みどころがなくて……、私たちとは違う目的に邁進する方でした」
「ネビリム先生の復活ってやつ〜?」
セントビナーでディストがこぼしていた。
ネビリム先生というのは、ジェイドとディストが通っていた私塾の講師のことである。不慮の事故で亡くなったといわれているが、それが余程ショックだったのだろう。ディストは、フォミクリーでネビリムを、死人を蘇らせようとしている。
しかし、レプリカを作ったとてそれは他人だ。その人自身は永遠に戻ってこない。少女は彼の命に対する認識の甘さも含めて、ディストに失望していた。自分は、彼のことを何も理解していなかった。
「六神将とは何度も顔を合わせていますのに、彼らのことを何も知りませんわね」
ナタリアが神妙な面持ちで言う。
彼女からすれば、六神将は最初から敵として対峙していたのだから当たり前だ。それでも知りたいと思うのは、彼女が優しいからだろう。
「ラルゴさんは、ナタリアさんと同じ年頃の娘がいる、と仰っていました」
「まあ。お父様があんな計画に加担するなんて……。ご令嬢もさぞ悲しんでおられるでしょう」
ナタリアの言葉に、少女は曖昧な笑顔で頷く。
ラルゴの娘が、生きているのか死んでいるのかわからない。ただその口ぶりから、二度と会えない
のではないかと、少女は感じていた。
「家族がいても、人類の滅亡を望んでしまうんですね」
ノエルが呟く。その脳裏には、ギンジやイエモン、め組の人々を思い浮かべているのか。
「教官も、弟を戦争で亡くしているわ。大切な人を失う痛みはよく知っているはずなのに……」
ティアも言葉を継ぐ。
彼女の普段の言動から、リグレットという人は、厳しくも優しい人物だったと推察できる。少女に対してもそうだった。任務の前後には体を気遣うような素振りを見せてくれた。
しかし、少女の前で過去を語ることはなかった。弟を戦争で亡くしていたなんて、知らなかった。
「家族がいないからって、あんなことしていいわけじゃないけどね」
アニスが頬を膨らませながら言う。シンクのことを言っているのだろう。彼には身寄りがない。生み出された瞬間にその生を否定され、単なる戦力としてヴァンに拾われた。誰からも愛情を向けられることなく、ただ生きるために、ヴァンに加担していた。
アリエッタも、その昔に故郷を追われている。ライガに拾われ育てられたものの、後に、そのライガもルーク一行に討伐された。慕っていた被験者イオンとも引き離された。
六神将はみな、恨みや憎しみを原動力としている。世界をより良く変えるのではなく、自身に不義理をはたらいた世界に復讐する……。そんな考えが少なからずあるのではなかろうか、と、少女は考える。
少女もそうだった。少年を弾き出した世界など、少年の命のために捧げられ、消えてしまえばいいと思った。そのためにヴァンの手を取ったこともある。
だが、少年だけは違った。恨みがないはずがない。それでも、自分を捨てた世界でさえも救おうとした。そんな少年の真っすぐな心が、少女までをも救ったのだ。
「預言に翻弄されたのは彼らだけではありません。どうして分かり合えないのでしょう」
ナタリアが言う。その表情は悲しいというよりも、憤っているように見えた。
ルークだって、ガイだって、預言に翻弄されてきた。ナタリアも、未曾有の繁栄のためにと父に命を狙われた。それでも、今、世界を救うために、歩みを進めている。
「菜真絵だって、預言のせいで息苦しい思いをしていますのに」
「……え?」
ナタリアの言葉に、少女は目を丸くする。
「見知らぬ世界に連れてこられて、突然預言の通りに生きろと言われるなんて、嫌に決まっています。預言を憎んでヴァンに加担してもおかしくないでしょう」
そのとおりだ。事実、少女は預言に従うばかりの人々に辟易していた。
だが、少女の「導きの少女」という立場を哀れむ人は、あの赤髪の少年しかいなかった。
いや、少年のそれとも少し違う。彼は少女が家族と引き離されたことや、預言に振り回されたことを、自身と重ねていた。だからこそ、分かり合えたような気がした。しかしナタリアは、あくまでも自然に、預言を知らない異世界人の視点に立っている。
その視野の広さが、少女にとっては新鮮だった。
「ナタリアさんはやっぱり、素敵な王女様ですね」
「なんですの、いきなり」
もしかしたらずっと、少女の感じる息苦しさを理解してくれていたのかもしれない。
そう思うと、胸があたたかさで満たされていく。
「そう、よね。それに……菜真絵の家族は、」
「元の世界で元気に過ごしていると思いますよ」
「でもそれって、二度と会えないってことだよねぇ」
ティアがおずおずと少女に問いかける。ずっとこの旅の中では触れないようにしてきた、少女の脆い部分。……そのはずなのに、少女の心は乱れなかった。
元の世界のことを忘れたわけではない。寂しくないわけではない。だが、もう共感は必要ない。彼らとは今、同じ理想のために、共に歩んでいるのだから。
「失っているのは皆同じだわ。それでも私たちは、絶望なんてしない」
ティアは暗くなっていく窓の外を、真っすぐ見つめている。その先には、愛する兄の姿があるのだろう。
あの頃、少女にとってはヴァンと少年が世界のすべてだった。自身の心に寄り添ってくれる人は、彼らだけだと思っていた。でも今は、たくさんの仲間がいる。分かり合える。
それでも、あの少年の姿が脳裏に浮かぶのはどうしてなのだろう。
シンクの言うように、境遇のせいなのだろうか。ヴァンに彼を慕うように仕向けられたからなのだろうか。初めてできた友人だからなのだろうか。理由はわからない。
だが、ナタリアと、ルークと、仲間たちと友情を築いたからこそわかる。
自分は、少年を愛している。
それを表に出すつもりはない。自分を愛してほしいなどとは思わない。
ただ、彼の命を諦めたくはない。ナタリアと共に、キムラスカの国を変えてもらうためにも。
だからこそ、六神将を、ヴァンを倒し、超振動が利用されることを防がなければならない。
彼らに抱いていた信頼も、同情も、すべて捨てて。
少女はそう決意をして、日記を開いた。