崩落編
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ベルケンドに戻るなり、ジェイドとスピノザ、ベルケンドの研究者たちを含めた、障気対策チームが発足された。
振動が止まった地郭の中に、障気を閉じ込めてしまおうという壮大な計画だ。時は既に夜中だが、彼らが宿に戻ってくる気配はない。
よほど実現性が見込めるようで、スピノザは興奮気味にジェイドを褒めていた。
期せずして、少女たちは長めの休息を取ることとなった。
少女はひとり外に出る。
目が覚めてしまい、外の空気を吸いに来たのだ。
ここのところ、息をつく暇もなかった。
多くの犠牲を払いながらシェリダンを出立し、地郭の振動を止め、かつての仲間であったシンクと交戦し、彼は命を落とした。地上に戻ってからも、一刻も早く大陸を降下させるため、ティアの体に鞭を打ちながら旅を続けた。
まだ、それぞれの出来事をうまく飲み込めていない。
もしスピノザを捕まえることができていたら。シェリダンでの惨劇は起きなかったかもしれない。
シンクを怖がってずっと遠ざけていた。もっと無理やりにでも話をしていれば、少しは彼のことを理解できたかもしれない。
ティアに何もしてあげられなくてもどかしい。しかし、一人のために世界を犠牲にすることはできない。
過ぎてしまったことを嘆いても仕方ない。どうにもならないことで悩んでも仕方ない。しかし、諦められるほど、少女は大人ではなかった。割り切れているフリをするのは、もうやめた。
淡く揺れる街の光を見ていると、ふと、人影が横切った。
「アッシュ様!」
反射的に叫んでしまった。夜の街に少女の高い声が響く。影の主は一瞬動きを止めて、こちらへ向かってきた。
少女は、大声を出したことを叱られるかと思い身構えた。しかし、少年の口から飛び出したのは意外な人物の名前だった。
「スピノザはどこだ」
「研究所です。障気を地郭へ閉じ込める方法をジェイドさんが発案しました。その作戦会議中です」
「……そうか」
なぜスピノザを探しているのか?
少女は気になる気持ちを抑えつけて、口を閉じる。それよりも優先すべきは情報の共有である。少年はしばらく単独行動をしていたため、どこまで現状を把握しているのか未知数だ。少しでも知っていることを伝えなければ。
「ホド崩落はマルクトによる人為的なものであり、その際、幼かったヴァン様を利用し、超振動を起こしたのだとわかりました」
「ホドの崩落が……!?」
「はい。ヴァン様があのような愚行に走るのは、過去の出来事に由来しているのかと」
少女は矢継ぎ早にこれまでの出来事を説明していく。ナタリアと王の和解、ガイの女性恐怖症が少し改善されたこと、ディストから飛行譜石を取り戻したこと、停戦協定とヴァンの過去、シェリダンでの惨劇、地殻振動停止作戦の成功、シンクとの戦闘、ローレライとの邂逅、第七譜石のありか、ティアの体のこと、スピノザの今と障気への対策……。
話してみるとそれは長くて、離れていた時間を再確認させられる。その間、少年は何をしていたのだろう。少女は最大の懸念を切り出した。
「リグレット様が言っていたことが気になっています。……ユリアの預言は、多少の歪みがあれど、必ず果たされると」
「……俺が消えるということか」
「ヴァン様やモース様に拐われ、超振動を利用される危険もあります。ですから、」
「断る」
共に行動しないか。
少女はそう言おうとしたが、先回りで断られてしまった。
なぜ、一人でいようとするのだろう。何を隠しているのだろう。これまではただ意地を張っているだけだと見過ごしていたが、消滅が示唆された今、彼を一人にはしたくない。しかし、目の前の少年は少女の思いを拒絶している。核心に触れたい。だが、嫌われてしまうのが怖い。
少女が黙っていると、その様子を見てか、少年が口を開く。
「ヴァンと共に、神託の盾兵の半数が姿を消した。その行方を追う必要がある。お前たちは外郭大地の降下を進めていればいい」
「確かに、外郭大地の降下はティアさんやルークさん、ジェイドさんがいないとできません。ですが、それ以外の面々なら、」
「誰もついてこないだろう」
少女は驚いた。少年が拗ねている様子だったからだ。しかし、思い返してみると、過去にもこんなことがあった。バチカル廃工場の出口、イオンを追うルークたちと顔を合わせたとき、「ちゃらちゃら女を引き連れやがって」なんて言っていたっけ。
「私が行きます。ナタリアさんも来てくれます」
自信満々に言い切る少女を見て、少年は目を丸くする。
少女はナタリアが何を考えているのか、わかるというのだ。バチカルからナタリアを逃がしたときもそうだった。少女はナタリアの身を、ナタリアは少女の身を案じ、涙を流していた。たった数ヶ月の間に、彼女たちに何が起きたというのだろう。
レプリカルークも同じだ。生まれてわずか7年で、ナタリアやガイと友情を築き、旅の中でイオン、ティア、ジェイド、アニスといった面々と、それに、少女とも親交を深めている。
対して自分はどうだろう。この7年間、すべてを捨てて、自分を拐った男を信じて生きてきた。しかしそれは偽りだった。そこに愛などなく、利用されていただけだった、
残ったものは何も無い。いや、目の前の少女だけは、まだ。
「人数の多い方につけ。拐われたらどうする」
「狙われる可能性が高いのはアッシュ様です」
「俺はいい。向こうから居所を明かしてくれるなら上等だ。だが人質をとられでもしたら、下手に動けなくなる」
最後の砦すら失くしてしまってはかなわない。
今の弱った姿を見られてしまっては、頼るべき上司として勝ち取った信頼を失ってしまう。だからこそ、少女を遠ざけたかった。
少女は少年の言葉を聞いて、一瞬、自分の身を案じてくれたのかと思いかけた。だが、すぐにナタリアのことだと思い直す。確かに、彼女が人質にとられてしまったら、ヴァンに手を出すことができなくなる。ヴァンは少年の過去もすべて知っているから、ナタリアを人質として利用する可能性は十分にあるだろう。
「……わかりました。私はいち戦力として、ナタリアさんをお守りします」
少女から出た返事は難解なもので、少年は首を傾げる。いつの間にナタリアを守る守らないの話になったのだろう。もちろん、ナタリアと少女、どちらが拐われても困る。互いに守りあってくれるのであれば、それ以上のことはないのだが。
「ですが、危険が迫ったときは……、いえ、少しでも気になることがあれば、ルークさんを通じてお伝えくださいね」
やわらかな声で少女は言う。その目は不安と共に、慈しみをたたえている。
少女は旅の中で、多くのものを手に入れた。"導きの少女"としてではなく、一人の人間として。それでもなお、少年を瞳に映している。何度突き放しても食い下がり、打ちひしがれても立ち上がり、離れていても忘れずに、少年を救おうとする。
この優しい少女を、守らなければならない。そのためにも、世界に平穏を取り戻す必要がある。
そう遠くない未来。きっと、キムラスカはナタリアが、教団はイオンと少女が、その優しさで導いてゆくのだろう。
その姿を少しでも見るために、一刻も早く、ヴァンを倒さなければならない。
己が、消えてしまう前に。
少年は決意して、その身を翻そうとした。
しかし、視界に数人の人影が映る。
「……フォミニンの採取隊か」
「あれは……ティアさん!?」
フォミニンの採取隊に紛れて、見慣れた姿があった。ティアだ。戦闘服に身を包み、武器も装備している。
何をしに行くというのだろう。いや、彼女が仲間に隠れて行動するということは、理由はひとつ。
「ワイヨン鏡窟にヴァンがいるのか!?」
「アッシュ様!」
少女の静止もきかず、少年は走り去った。追いかけたかったが、少女はその場に留まった。寝ている仲間たちを呼ぶためだ。
もし目的地にヴァンがいるのならば、戦闘は避けられないだろう。リグレット、ラルゴ、アリエッタもいるとすれば、ティアと少年の二人では到底太刀打ちできない。
ただでさえ、彼らは冷静さを欠いている。特に、少年は焦っている。その理由はわからないが、このままみすみす失うわけにはいかない。
少女は急いで、宿屋に駆けていった。
振動が止まった地郭の中に、障気を閉じ込めてしまおうという壮大な計画だ。時は既に夜中だが、彼らが宿に戻ってくる気配はない。
よほど実現性が見込めるようで、スピノザは興奮気味にジェイドを褒めていた。
期せずして、少女たちは長めの休息を取ることとなった。
少女はひとり外に出る。
目が覚めてしまい、外の空気を吸いに来たのだ。
ここのところ、息をつく暇もなかった。
多くの犠牲を払いながらシェリダンを出立し、地郭の振動を止め、かつての仲間であったシンクと交戦し、彼は命を落とした。地上に戻ってからも、一刻も早く大陸を降下させるため、ティアの体に鞭を打ちながら旅を続けた。
まだ、それぞれの出来事をうまく飲み込めていない。
もしスピノザを捕まえることができていたら。シェリダンでの惨劇は起きなかったかもしれない。
シンクを怖がってずっと遠ざけていた。もっと無理やりにでも話をしていれば、少しは彼のことを理解できたかもしれない。
ティアに何もしてあげられなくてもどかしい。しかし、一人のために世界を犠牲にすることはできない。
過ぎてしまったことを嘆いても仕方ない。どうにもならないことで悩んでも仕方ない。しかし、諦められるほど、少女は大人ではなかった。割り切れているフリをするのは、もうやめた。
淡く揺れる街の光を見ていると、ふと、人影が横切った。
「アッシュ様!」
反射的に叫んでしまった。夜の街に少女の高い声が響く。影の主は一瞬動きを止めて、こちらへ向かってきた。
少女は、大声を出したことを叱られるかと思い身構えた。しかし、少年の口から飛び出したのは意外な人物の名前だった。
「スピノザはどこだ」
「研究所です。障気を地郭へ閉じ込める方法をジェイドさんが発案しました。その作戦会議中です」
「……そうか」
なぜスピノザを探しているのか?
少女は気になる気持ちを抑えつけて、口を閉じる。それよりも優先すべきは情報の共有である。少年はしばらく単独行動をしていたため、どこまで現状を把握しているのか未知数だ。少しでも知っていることを伝えなければ。
「ホド崩落はマルクトによる人為的なものであり、その際、幼かったヴァン様を利用し、超振動を起こしたのだとわかりました」
「ホドの崩落が……!?」
「はい。ヴァン様があのような愚行に走るのは、過去の出来事に由来しているのかと」
少女は矢継ぎ早にこれまでの出来事を説明していく。ナタリアと王の和解、ガイの女性恐怖症が少し改善されたこと、ディストから飛行譜石を取り戻したこと、停戦協定とヴァンの過去、シェリダンでの惨劇、地殻振動停止作戦の成功、シンクとの戦闘、ローレライとの邂逅、第七譜石のありか、ティアの体のこと、スピノザの今と障気への対策……。
話してみるとそれは長くて、離れていた時間を再確認させられる。その間、少年は何をしていたのだろう。少女は最大の懸念を切り出した。
「リグレット様が言っていたことが気になっています。……ユリアの預言は、多少の歪みがあれど、必ず果たされると」
「……俺が消えるということか」
「ヴァン様やモース様に拐われ、超振動を利用される危険もあります。ですから、」
「断る」
共に行動しないか。
少女はそう言おうとしたが、先回りで断られてしまった。
なぜ、一人でいようとするのだろう。何を隠しているのだろう。これまではただ意地を張っているだけだと見過ごしていたが、消滅が示唆された今、彼を一人にはしたくない。しかし、目の前の少年は少女の思いを拒絶している。核心に触れたい。だが、嫌われてしまうのが怖い。
少女が黙っていると、その様子を見てか、少年が口を開く。
「ヴァンと共に、神託の盾兵の半数が姿を消した。その行方を追う必要がある。お前たちは外郭大地の降下を進めていればいい」
「確かに、外郭大地の降下はティアさんやルークさん、ジェイドさんがいないとできません。ですが、それ以外の面々なら、」
「誰もついてこないだろう」
少女は驚いた。少年が拗ねている様子だったからだ。しかし、思い返してみると、過去にもこんなことがあった。バチカル廃工場の出口、イオンを追うルークたちと顔を合わせたとき、「ちゃらちゃら女を引き連れやがって」なんて言っていたっけ。
「私が行きます。ナタリアさんも来てくれます」
自信満々に言い切る少女を見て、少年は目を丸くする。
少女はナタリアが何を考えているのか、わかるというのだ。バチカルからナタリアを逃がしたときもそうだった。少女はナタリアの身を、ナタリアは少女の身を案じ、涙を流していた。たった数ヶ月の間に、彼女たちに何が起きたというのだろう。
レプリカルークも同じだ。生まれてわずか7年で、ナタリアやガイと友情を築き、旅の中でイオン、ティア、ジェイド、アニスといった面々と、それに、少女とも親交を深めている。
対して自分はどうだろう。この7年間、すべてを捨てて、自分を拐った男を信じて生きてきた。しかしそれは偽りだった。そこに愛などなく、利用されていただけだった、
残ったものは何も無い。いや、目の前の少女だけは、まだ。
「人数の多い方につけ。拐われたらどうする」
「狙われる可能性が高いのはアッシュ様です」
「俺はいい。向こうから居所を明かしてくれるなら上等だ。だが人質をとられでもしたら、下手に動けなくなる」
最後の砦すら失くしてしまってはかなわない。
今の弱った姿を見られてしまっては、頼るべき上司として勝ち取った信頼を失ってしまう。だからこそ、少女を遠ざけたかった。
少女は少年の言葉を聞いて、一瞬、自分の身を案じてくれたのかと思いかけた。だが、すぐにナタリアのことだと思い直す。確かに、彼女が人質にとられてしまったら、ヴァンに手を出すことができなくなる。ヴァンは少年の過去もすべて知っているから、ナタリアを人質として利用する可能性は十分にあるだろう。
「……わかりました。私はいち戦力として、ナタリアさんをお守りします」
少女から出た返事は難解なもので、少年は首を傾げる。いつの間にナタリアを守る守らないの話になったのだろう。もちろん、ナタリアと少女、どちらが拐われても困る。互いに守りあってくれるのであれば、それ以上のことはないのだが。
「ですが、危険が迫ったときは……、いえ、少しでも気になることがあれば、ルークさんを通じてお伝えくださいね」
やわらかな声で少女は言う。その目は不安と共に、慈しみをたたえている。
少女は旅の中で、多くのものを手に入れた。"導きの少女"としてではなく、一人の人間として。それでもなお、少年を瞳に映している。何度突き放しても食い下がり、打ちひしがれても立ち上がり、離れていても忘れずに、少年を救おうとする。
この優しい少女を、守らなければならない。そのためにも、世界に平穏を取り戻す必要がある。
そう遠くない未来。きっと、キムラスカはナタリアが、教団はイオンと少女が、その優しさで導いてゆくのだろう。
その姿を少しでも見るために、一刻も早く、ヴァンを倒さなければならない。
己が、消えてしまう前に。
少年は決意して、その身を翻そうとした。
しかし、視界に数人の人影が映る。
「……フォミニンの採取隊か」
「あれは……ティアさん!?」
フォミニンの採取隊に紛れて、見慣れた姿があった。ティアだ。戦闘服に身を包み、武器も装備している。
何をしに行くというのだろう。いや、彼女が仲間に隠れて行動するということは、理由はひとつ。
「ワイヨン鏡窟にヴァンがいるのか!?」
「アッシュ様!」
少女の静止もきかず、少年は走り去った。追いかけたかったが、少女はその場に留まった。寝ている仲間たちを呼ぶためだ。
もし目的地にヴァンがいるのならば、戦闘は避けられないだろう。リグレット、ラルゴ、アリエッタもいるとすれば、ティアと少年の二人では到底太刀打ちできない。
ただでさえ、彼らは冷静さを欠いている。特に、少年は焦っている。その理由はわからないが、このままみすみす失うわけにはいかない。
少女は急いで、宿屋に駆けていった。