崩落編
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メジオラ高原のパッセージリングの操作はトラブルなく完了した。六神将をはじめとした神託の盾による妨害も、あれ以上はなかった。不気味に感じつつも、ルーク一行は再び街を目指す。
セフィロトの扉から外へ出ると、そこには見慣れた老人の姿があった。
「あれ……アストンさん!?」
「ルークや!元気か!」
シェリダンの技術集団「め組」のひとり、アストンだ。ヴァンの襲撃によって命を落としたものと思われていたが。
「無事だったのか!!」
「老いぼれ軍団の中でわし一人が生き残ってしまったよ……」
「何を仰いますの!あなただけでも生きていてくださって……よかった……」
ルークたちは皆アストンに駆け寄り、その生存を喜んだ。
「でもアストンさんはどうしてここに……」
「何もしないでいるとイエモンたちを思い出してしまう。だもんで、アルビオールの二号機を……や、一台壊しとるから三号機か。とにかく、それを作ったんじゃ」
今はその飛行実験の最中だったらしい。ルークたちの姿を見つけ、後をつけてきたのだそうだ。
人手が足りないとはいえ、魔物の出る区域で一人でいるのは危ない。ルークはアストンの護衛を買って出た。ノエルと再会してもらうためにも、共に行動したほうがいいだろう。
街への道を歩いていると、突如、ジェイドが槍を構える。少女らもそれを受けて剣を抜いた。すると、視線の先にはスピノザがいた。刃を向けられ、腰を抜かしている。
「ひ……っ!」
「また立ち聞き!?超キモイ!」
アニスの声に弾かれるように、スピノザは走り出した。
皆、一斉にその後を追いかけた。シェリダンの惨劇が起きたのは、ベルケンドで彼を見過ごしてしまったからでもある。今度は逃すまいと、少女たちは彼を取り囲むようにして立ちはだかった。
「わしらの話を立ち聞きしてどうするつもりだったんじゃ!!」
「またヴァン師匠たちに密告でもするつもりか!?」
アストンとルークが責め立てる。スピノザは腰を抜かして、ただ首を横に振り続けている。
その怯えようを気の毒に思ったのか、イオンが助け舟を出す。
「あなたは何をしにメジオラ高原へ来たのですか?」
「わ、わしは……みんなの墓参りをしたくてシェリダンへ行ったんじゃ。その時アストンがメジオラ高原に行くと聞いて……。まず、アストンに謝ろうと……」
「なら逃げることはないじゃろが!」
「こ、怖かったんじゃ!いざとなると何を言っていいのか……それで……」
その言葉を聞いて、ルークは黙り込む。
取って代わるように、アニスが前に立った。
「そんなの信じらんないよ!大体、アンタがチクったから総長にバレたんじゃん!」
「……もう取り返しがつかないことは分かっとる。じゃが、みんなが殺されて、わしは初めて気付いたんじゃ。わしの研究は仲間を殺してまでやる価値のあったものなんじゃろうかと」
研究者が己の研究を進めたいと思うのは自然なことだ。ましてや生体フォミクリーの研究といえば、禁忌とされているぶん解明されてないことも多い。そこに大量の資金が下りるとなれば、研究者にとっては垂涎モノだろう。ヴァンはその心理に付け込んだのだ。
「……俺、この人の言ってること信じられると思う」
ぽつりとルークは声を落としていた。
「俺、アクゼリュスを消滅させたことを認めるのが辛かった。認めたら今度は何かしなくちゃ償わなくちゃって……」
何かを言おうとしたアニスが、その口をモゴモゴと動かして、やがて静かになった。かける言葉がない。ルークが後悔し、反省する様をその目で見てきたのだから。
少女も、自身のこれまでを省みる。たくさんの人を犠牲にしてきた。それなのに事実を受け入れず、割り切れているフリをして、刈り取った命を弔うことすらしなかった。
怖くなって逃げるなんて、まだかわいいほうだ。
「謝罪したいとのことですが」
少女がアストンに問う。
謝る相手が生きているというのは、とても幸せなことだ。少女はスピノザにチャンスを与えたくなった。アストンは「むぅ……」と唸りつつも、否定することなくスピノザを見ている。
「アストン、それに皆も……すまなかった。償い切れるとは思っていないが、一生をかけて償わせてくれ」
スピノザの謝罪を受け、皆、静まり返る。許すようなことではない。だが、責め立てたとてどうにかなるものでもない。アストンが返す言葉を探しているうちに、ジェイドが口を開く。
「もしもあなたの決心が本当なら、あなたにやってもらいたいことがあります」
「な、なんじゃ?」
「障気の中和、いえ、隔離の為の研究です。これにはあなたが専門にしている物理学が必要になる」
障気の隔離。それは、少女たちもまだ聞いたことのない計画だった。しかしその言葉だけで、世界の命運を左右する計画だとわかる。
「大佐!こんな奴信じるの!?」
アニスが憤った声をあげた。
「スピノザは物理学の第一人者です。人間性はさておき、彼の頭脳は必要なんですよ」
「やらせてくれ。わしに出来るのは研究しかない」
あのジェイドが情けで人を頼るわけがない。おそらく、本当に彼の力が必要なのだろう。事実、スピノザはディストと共に長年ヴァンのレプリカ計画を支えてきた逸材だ。ヴァンの計画がここまで進んでいるのも、……レプリカルークがこの世に生まれたのも、彼の研究の成果だろう。
縋るようなスピノザの声を聞いて、ティアが一歩前に出る。
「あなたは兄の……ヴァンの研究者でしょう。そんなことをすれば殺されるかもしれないわ」
「それでもやるんじゃ。やらせてくれ!」
スピノザの叫びを聞いて、しばらく黙っていたアストンが皆のほうを振り返る。
「なぁ、みんな。……今一度、この馬鹿を信じてやってくれんか?」
「だけど……裏切り者だよ……」
アニスはまだ不審を口にする。疑うのは当然のことだ。スピノザを信じても良いと皆の心は傾きかけているが、それは直感に由来するもので、根拠はない。もしまたヴァンに情報が流れ、多くの人の命が、仲間の命が奪われてしまったら。
「この人に24時間監視をつけてはどうですか?それで研究に合流させればいい」
「であれば、わたくしが知事に命じましょう」
「ありがとうございます」
ジェイドが対策を発案し、ナタリアがその責を買って出た。
ここまで言われてしまっては、アニスも引き下がるほかない。
ベルケンドの知事もまた、信用のおける研究者である。彼の選んだ監視がつくのなら、当面大きな間違いは起きないだろう。
「この研究、粉骨砕身で協力する。本当にありがとう……」
「まあ、ここまで言って裏切ったら、大した役者だな」
ガイがアニスを慰めるように言う。しかしアニスは、苦虫を噛み潰したような顔をするばかりだった。
少女は思う。自分だって、ヴァンと内通していると疑われても仕方のない存在だ。この旅への同行が許されているのは、あの赤髪の上司が皆を助け、信頼を勝ち取ったからだろう。
この居場所は、仲間たちは、当たり前のものではない。過ちを赦し、共に泣いてくれる人がいるのは、どれだけ幸せなことか。
噛み締めながら、少女は砂で汚れた頬を拭った。
セフィロトの扉から外へ出ると、そこには見慣れた老人の姿があった。
「あれ……アストンさん!?」
「ルークや!元気か!」
シェリダンの技術集団「め組」のひとり、アストンだ。ヴァンの襲撃によって命を落としたものと思われていたが。
「無事だったのか!!」
「老いぼれ軍団の中でわし一人が生き残ってしまったよ……」
「何を仰いますの!あなただけでも生きていてくださって……よかった……」
ルークたちは皆アストンに駆け寄り、その生存を喜んだ。
「でもアストンさんはどうしてここに……」
「何もしないでいるとイエモンたちを思い出してしまう。だもんで、アルビオールの二号機を……や、一台壊しとるから三号機か。とにかく、それを作ったんじゃ」
今はその飛行実験の最中だったらしい。ルークたちの姿を見つけ、後をつけてきたのだそうだ。
人手が足りないとはいえ、魔物の出る区域で一人でいるのは危ない。ルークはアストンの護衛を買って出た。ノエルと再会してもらうためにも、共に行動したほうがいいだろう。
街への道を歩いていると、突如、ジェイドが槍を構える。少女らもそれを受けて剣を抜いた。すると、視線の先にはスピノザがいた。刃を向けられ、腰を抜かしている。
「ひ……っ!」
「また立ち聞き!?超キモイ!」
アニスの声に弾かれるように、スピノザは走り出した。
皆、一斉にその後を追いかけた。シェリダンの惨劇が起きたのは、ベルケンドで彼を見過ごしてしまったからでもある。今度は逃すまいと、少女たちは彼を取り囲むようにして立ちはだかった。
「わしらの話を立ち聞きしてどうするつもりだったんじゃ!!」
「またヴァン師匠たちに密告でもするつもりか!?」
アストンとルークが責め立てる。スピノザは腰を抜かして、ただ首を横に振り続けている。
その怯えようを気の毒に思ったのか、イオンが助け舟を出す。
「あなたは何をしにメジオラ高原へ来たのですか?」
「わ、わしは……みんなの墓参りをしたくてシェリダンへ行ったんじゃ。その時アストンがメジオラ高原に行くと聞いて……。まず、アストンに謝ろうと……」
「なら逃げることはないじゃろが!」
「こ、怖かったんじゃ!いざとなると何を言っていいのか……それで……」
その言葉を聞いて、ルークは黙り込む。
取って代わるように、アニスが前に立った。
「そんなの信じらんないよ!大体、アンタがチクったから総長にバレたんじゃん!」
「……もう取り返しがつかないことは分かっとる。じゃが、みんなが殺されて、わしは初めて気付いたんじゃ。わしの研究は仲間を殺してまでやる価値のあったものなんじゃろうかと」
研究者が己の研究を進めたいと思うのは自然なことだ。ましてや生体フォミクリーの研究といえば、禁忌とされているぶん解明されてないことも多い。そこに大量の資金が下りるとなれば、研究者にとっては垂涎モノだろう。ヴァンはその心理に付け込んだのだ。
「……俺、この人の言ってること信じられると思う」
ぽつりとルークは声を落としていた。
「俺、アクゼリュスを消滅させたことを認めるのが辛かった。認めたら今度は何かしなくちゃ償わなくちゃって……」
何かを言おうとしたアニスが、その口をモゴモゴと動かして、やがて静かになった。かける言葉がない。ルークが後悔し、反省する様をその目で見てきたのだから。
少女も、自身のこれまでを省みる。たくさんの人を犠牲にしてきた。それなのに事実を受け入れず、割り切れているフリをして、刈り取った命を弔うことすらしなかった。
怖くなって逃げるなんて、まだかわいいほうだ。
「謝罪したいとのことですが」
少女がアストンに問う。
謝る相手が生きているというのは、とても幸せなことだ。少女はスピノザにチャンスを与えたくなった。アストンは「むぅ……」と唸りつつも、否定することなくスピノザを見ている。
「アストン、それに皆も……すまなかった。償い切れるとは思っていないが、一生をかけて償わせてくれ」
スピノザの謝罪を受け、皆、静まり返る。許すようなことではない。だが、責め立てたとてどうにかなるものでもない。アストンが返す言葉を探しているうちに、ジェイドが口を開く。
「もしもあなたの決心が本当なら、あなたにやってもらいたいことがあります」
「な、なんじゃ?」
「障気の中和、いえ、隔離の為の研究です。これにはあなたが専門にしている物理学が必要になる」
障気の隔離。それは、少女たちもまだ聞いたことのない計画だった。しかしその言葉だけで、世界の命運を左右する計画だとわかる。
「大佐!こんな奴信じるの!?」
アニスが憤った声をあげた。
「スピノザは物理学の第一人者です。人間性はさておき、彼の頭脳は必要なんですよ」
「やらせてくれ。わしに出来るのは研究しかない」
あのジェイドが情けで人を頼るわけがない。おそらく、本当に彼の力が必要なのだろう。事実、スピノザはディストと共に長年ヴァンのレプリカ計画を支えてきた逸材だ。ヴァンの計画がここまで進んでいるのも、……レプリカルークがこの世に生まれたのも、彼の研究の成果だろう。
縋るようなスピノザの声を聞いて、ティアが一歩前に出る。
「あなたは兄の……ヴァンの研究者でしょう。そんなことをすれば殺されるかもしれないわ」
「それでもやるんじゃ。やらせてくれ!」
スピノザの叫びを聞いて、しばらく黙っていたアストンが皆のほうを振り返る。
「なぁ、みんな。……今一度、この馬鹿を信じてやってくれんか?」
「だけど……裏切り者だよ……」
アニスはまだ不審を口にする。疑うのは当然のことだ。スピノザを信じても良いと皆の心は傾きかけているが、それは直感に由来するもので、根拠はない。もしまたヴァンに情報が流れ、多くの人の命が、仲間の命が奪われてしまったら。
「この人に24時間監視をつけてはどうですか?それで研究に合流させればいい」
「であれば、わたくしが知事に命じましょう」
「ありがとうございます」
ジェイドが対策を発案し、ナタリアがその責を買って出た。
ここまで言われてしまっては、アニスも引き下がるほかない。
ベルケンドの知事もまた、信用のおける研究者である。彼の選んだ監視がつくのなら、当面大きな間違いは起きないだろう。
「この研究、粉骨砕身で協力する。本当にありがとう……」
「まあ、ここまで言って裏切ったら、大した役者だな」
ガイがアニスを慰めるように言う。しかしアニスは、苦虫を噛み潰したような顔をするばかりだった。
少女は思う。自分だって、ヴァンと内通していると疑われても仕方のない存在だ。この旅への同行が許されているのは、あの赤髪の上司が皆を助け、信頼を勝ち取ったからだろう。
この居場所は、仲間たちは、当たり前のものではない。過ちを赦し、共に泣いてくれる人がいるのは、どれだけ幸せなことか。
噛み締めながら、少女は砂で汚れた頬を拭った。