崩落編
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地殻振動停止作戦を終え、一同は地上に戻るべく、アルビオールへと乗り込もうとした。
その時、先頭を歩くルークが、突如としてしゃがみ込んだ。右手で頭を押さえている。同調フォンスロットによるものだろうか。ティアはすぐに駆け寄り、回復術を唱え始める。
……しかし、なぜか途中で詠唱をやめ、ゆっくりと、少女たちのほうに向き直った。
頭痛が引いたのか、ルークもその様を呆然と見つめている。
「ティア?いや……違う……」
様子がおかしい。
ティアは淡い光に包まれ、その長い髪が重力に逆らうようにふわりと浮いていた。譜歌を歌うときのような凛とした表情で、ルークを見つめている。
『私は、お前たちによってローレライと呼ばれている』
「第七音素の意識集合体……!理論的には存在が証明されていましたが……」
ジェイドが愕然とした声で言った。流石の彼にとっても、これは動揺するに足る事態であるらしい。
『そう。私は第七音素そのもの。そしてルーク、お前は音素振動数が第七音素と同じ。もう一人のお前と共に、私の完全同位体だ。』
被験者とレプリカ。それぞれのルークが完全同位体であることは皆知っていた。
しかし、第七音素そのものとも同位体であったとは。コーラル城でディストが大発見だと息巻いていたのはこのことだったのかもしれない。単独で超振動を起こせる理由にも説明がつく。
『だからお前に頼みたい。今、私の力を何かとてつもないものが吸い上げている。それが地核を揺らし、セフィロトを暴走させている。お前たちによって地核は静止し、セフィロトの暴走も止まったが、私が閉じ込められている限り……』
皆、固唾をのんでローレライの声を聞いていた。彼が、少女たちの知らない惑星の仕組みを知っているようだったから。しかし、その言葉が最後まで紡がれることはなかった。
ふ、と糸が切れたように、ティアが地面に倒れ伏す。真っ先にルークが駆け寄り、上体を抱えて呼びかける。
「ティア!大丈夫か!」
「……大丈夫。ただ、めまいが……。私どうしちゃったの……?」
ティアがふわふわとした声で言う。いつも冷静な彼女がこれだけ堪えているのだ。ローレライに体を貸すことは、強い負担があるのだろう。
一行は地殻脱出後、ベルケンドへ向かうことにした。作戦が落ち着いた今、ティアを一度医者にかからせるためだ。今回のことだけでなく、降下作業中、彼女は幾度か体調を気にするような素振りを見せていた。
オールドラントでは、音素の研究と医療は表裏一体である。誰しも体の中に音素を含んでいるから、音素の状態は健康に直結する。ベルケンドであれば、ティアを診れる医者がいると踏んだのだ。
ヴァンと鉢合わせになることを危惧していたが、ベルケンドに神託の盾の関係者はいなかった。シェリダンでの出来事を受け、知事が撤退を命じたらしい。
「……ティアはどうですか?」
精密検査を終え、仲間たちは、診療室に呼び集められた。切り出したルークに、医師は暗い顔で語り始める。
「ティアさんの血中音素は非常に不安定な値を示しています」
「血中音素……?」
「譜術をたしなむ人は体内に音素を取り込む訳ですが、彼女の場合、取り込まれた音素が汚染されていて、上手く体外に放出できていないんですね」
誰もが体に有しているとはいえ、音素の量に限界はある。譜術士が大量の音素を取り込み、暴走して亡くなったという話も稀だが聞く。
命が危ないかもしれない。少女は声を強張らせて問う。
「音素が汚染されている、とは?」
「今、全世界で噴出している毒素……障気ですか? それと結合しています。蓄積しているのは主に第七音素です」
状況は少女が考えていたよりもずっと悪いらしい。
障気は、濃度が高ければ一瞬で人の命を奪うことのできる猛毒だ。瘴気の泥に沈んだ少女の足も、未だに肌が赤いまま。それが血中を漂っているとなれば、どれだけ内臓に負担がかかるか、想像に難くない。
「お話を聞くと、外殻降下作戦でパッセージリングという音機関が彼女に反応しているとか。そこから汚染された第七音素が流れ込んでいると見るのが自然でしょう」
医師の言葉を受けて、一同はどよめく。世界を救うための外殻降下作戦が、ティアの命を蝕んでいるのだ。
「このまま降下作業を続ければ、命の保障はしかねます」
「そんな……!」
「こちらとしては発作を抑える薬を処方することしか出来ません」
降下作戦を中止する。一瞬、少女の脳裏にひとつの選択肢がよぎった。しかし、それはすぐに棄却した。
一人のために世界を滅ぼす。それがどれだけ愚かなことか、アクゼリュスの崩落をもって少女は知ったのだ。もう、同じ轍は踏めない。
「ベルケンドは世界で最先端の医療技術を誇っていますわ。それなのにどうにも出来ませんの?」
ナタリアが食い下がる。
そうだ。だからといって、ティアを失っていいわけではない。
「残念ながら今の技術では、体内に蓄積された障気を取り除くことは出来ません。ただ、ティアさんの場合は障気が第七音素と結合していますから、あるいは……」
「何か方法があるのですか?」
「いえ……。すみません、非現実的な仮説です」
医師はハッとして口を噤む。彼にとっては勧めたくない方法なのだろう。しかし、今は藁にもすがる思いだ。
「もう少し詳しいお話を聞けませんか」
イオンが医師に近づく。問い詰めるような圧力に、医師は小さく頷いた。
「私も訊ねたいことがあります。ここで解散しましょう」
ジェイドは振り返って少女たちを見やる。専門的な話は個別で、ということらしい。確かに、ここから先の話は聞いていても理解できないだろう。
医師は資料を取りに行くためにと、席を立って部屋から出ていった。
静かになった診察室に、高い声が響く。
「ティア、死んじゃうのかなぁ」
あまりにも直接的な言葉に、少女はアニスを見た。しかし、その能天気な声色とは裏腹に、彼女は涙を流していた。長い袖の先で、顔をごしごしと拭っている。
「アニス。お前……」
ルークが声を掛けると、アニスは身を翻して背を向けた。そして、パタパタと足音を立てて部屋から出て行こうとする。
「……な、泣いてるんじゃないからっ!こっち見ないで!」
「アニス!」
そんなアニスをナタリアが追いかける。一人にしておくには心配だからだろう。
少女は出遅れて、その場に取り残された。ここにいてもできることはない。だが、一人になるのも心細い。
ぼんやりと立ち尽くしていると、ジェイドがルークに声を掛ける。
「ルーク。あなたはティアの所に行ってあげなさい」
「え?」
「ティアも流石にショックだと思うから、元気づけてやれってことだよ」
ガイも同じように、ルークに促した。
ティアは医師からの説明を少女たちよりも先に聞いている。そうだ。ティアはここにいる誰よりも心細いはずだ。誰かが側にいなければ。
「……だけど、俺なんかが行っても……。みんなで行った方がいいんじゃないか?」
ルークの目が泳ぐ。ティアを元気づける自信がないのだろう。そしてふらふらと宙を彷徨った視線は、やがて少女にたどり着く。
「え」
ここは自分の出る幕ではない。ジェイドとガイが言っているのは、"そういうこと"なのだろうから。
少女は困って辺りを見回してみるが、やはり、ルークの瞳はこちらを捉えている。
「私は行きませんよ」
「ぶっきらぼうだなぁ」
ガイが堪らずツッコミを入れる。少女の言い方では、まるでティアの見舞いをしたくないように聞こえてしまう。
少女は否定のために手をブンブンと振って、考え込む。誤解のないように物事を伝えるのは難しい。
しばらくして、少女はルークに歩み寄って、首をかしげてみせた。
「ティアさんの気持ちはわかりませんが。ルークさんは、二人きりで話したいことがあるのではないですか」
ルークが頭痛に苦しんでいるとき、真っ先に駆けつけて治療をするのはティアだった。グランコクマでガイを待っているとき、慰めたのもティアだった。アクゼリュスの崩落から再起するきっかけを作ったのもティアだった。
二人には、二人にしかわからない何かがある。きっと、今のルークの迷いすらも、ティアが前を向く糧になる。
ルークは少女の言い分に納得したうえで、その目を伏せる。
「でも俺、怒ったり泣いたりしちまうかもしれない」
「私は、泣いてくれて嬉しかったですよ」
少女は、シェリダン出発直後、地殻突入前の話をしているのだろう。シェリダンの惨劇を受け、過去の過ちを懺悔し涙する少女を、ルークも泣きながら受け入れた。
ルークが顔を上げると、少女は柔らかな笑みを浮かべている。眉を下げて話すいつもの少女よりも、幾分か大人びて見える。
「そうか。ありがとう。俺、行ってくる……!」
ルークはティアの元へと走って行った。
自分の話をするのは少し違ったかもしれない。少女はそう思いながらも、自身の言葉が彼の背中を押したことに満足した。
後ろを振り返ると、ガイ、ジェイド、イオンが、目を丸くしてこちらを見ていた。
「なんの話だ?」
少女はそんな彼らに向けて、唇の前に人さし指を立てて見せる。
この旅の中で、たくさん秘密ができていく。
その時、先頭を歩くルークが、突如としてしゃがみ込んだ。右手で頭を押さえている。同調フォンスロットによるものだろうか。ティアはすぐに駆け寄り、回復術を唱え始める。
……しかし、なぜか途中で詠唱をやめ、ゆっくりと、少女たちのほうに向き直った。
頭痛が引いたのか、ルークもその様を呆然と見つめている。
「ティア?いや……違う……」
様子がおかしい。
ティアは淡い光に包まれ、その長い髪が重力に逆らうようにふわりと浮いていた。譜歌を歌うときのような凛とした表情で、ルークを見つめている。
『私は、お前たちによってローレライと呼ばれている』
「第七音素の意識集合体……!理論的には存在が証明されていましたが……」
ジェイドが愕然とした声で言った。流石の彼にとっても、これは動揺するに足る事態であるらしい。
『そう。私は第七音素そのもの。そしてルーク、お前は音素振動数が第七音素と同じ。もう一人のお前と共に、私の完全同位体だ。』
被験者とレプリカ。それぞれのルークが完全同位体であることは皆知っていた。
しかし、第七音素そのものとも同位体であったとは。コーラル城でディストが大発見だと息巻いていたのはこのことだったのかもしれない。単独で超振動を起こせる理由にも説明がつく。
『だからお前に頼みたい。今、私の力を何かとてつもないものが吸い上げている。それが地核を揺らし、セフィロトを暴走させている。お前たちによって地核は静止し、セフィロトの暴走も止まったが、私が閉じ込められている限り……』
皆、固唾をのんでローレライの声を聞いていた。彼が、少女たちの知らない惑星の仕組みを知っているようだったから。しかし、その言葉が最後まで紡がれることはなかった。
ふ、と糸が切れたように、ティアが地面に倒れ伏す。真っ先にルークが駆け寄り、上体を抱えて呼びかける。
「ティア!大丈夫か!」
「……大丈夫。ただ、めまいが……。私どうしちゃったの……?」
ティアがふわふわとした声で言う。いつも冷静な彼女がこれだけ堪えているのだ。ローレライに体を貸すことは、強い負担があるのだろう。
一行は地殻脱出後、ベルケンドへ向かうことにした。作戦が落ち着いた今、ティアを一度医者にかからせるためだ。今回のことだけでなく、降下作業中、彼女は幾度か体調を気にするような素振りを見せていた。
オールドラントでは、音素の研究と医療は表裏一体である。誰しも体の中に音素を含んでいるから、音素の状態は健康に直結する。ベルケンドであれば、ティアを診れる医者がいると踏んだのだ。
ヴァンと鉢合わせになることを危惧していたが、ベルケンドに神託の盾の関係者はいなかった。シェリダンでの出来事を受け、知事が撤退を命じたらしい。
「……ティアはどうですか?」
精密検査を終え、仲間たちは、診療室に呼び集められた。切り出したルークに、医師は暗い顔で語り始める。
「ティアさんの血中音素は非常に不安定な値を示しています」
「血中音素……?」
「譜術をたしなむ人は体内に音素を取り込む訳ですが、彼女の場合、取り込まれた音素が汚染されていて、上手く体外に放出できていないんですね」
誰もが体に有しているとはいえ、音素の量に限界はある。譜術士が大量の音素を取り込み、暴走して亡くなったという話も稀だが聞く。
命が危ないかもしれない。少女は声を強張らせて問う。
「音素が汚染されている、とは?」
「今、全世界で噴出している毒素……障気ですか? それと結合しています。蓄積しているのは主に第七音素です」
状況は少女が考えていたよりもずっと悪いらしい。
障気は、濃度が高ければ一瞬で人の命を奪うことのできる猛毒だ。瘴気の泥に沈んだ少女の足も、未だに肌が赤いまま。それが血中を漂っているとなれば、どれだけ内臓に負担がかかるか、想像に難くない。
「お話を聞くと、外殻降下作戦でパッセージリングという音機関が彼女に反応しているとか。そこから汚染された第七音素が流れ込んでいると見るのが自然でしょう」
医師の言葉を受けて、一同はどよめく。世界を救うための外殻降下作戦が、ティアの命を蝕んでいるのだ。
「このまま降下作業を続ければ、命の保障はしかねます」
「そんな……!」
「こちらとしては発作を抑える薬を処方することしか出来ません」
降下作戦を中止する。一瞬、少女の脳裏にひとつの選択肢がよぎった。しかし、それはすぐに棄却した。
一人のために世界を滅ぼす。それがどれだけ愚かなことか、アクゼリュスの崩落をもって少女は知ったのだ。もう、同じ轍は踏めない。
「ベルケンドは世界で最先端の医療技術を誇っていますわ。それなのにどうにも出来ませんの?」
ナタリアが食い下がる。
そうだ。だからといって、ティアを失っていいわけではない。
「残念ながら今の技術では、体内に蓄積された障気を取り除くことは出来ません。ただ、ティアさんの場合は障気が第七音素と結合していますから、あるいは……」
「何か方法があるのですか?」
「いえ……。すみません、非現実的な仮説です」
医師はハッとして口を噤む。彼にとっては勧めたくない方法なのだろう。しかし、今は藁にもすがる思いだ。
「もう少し詳しいお話を聞けませんか」
イオンが医師に近づく。問い詰めるような圧力に、医師は小さく頷いた。
「私も訊ねたいことがあります。ここで解散しましょう」
ジェイドは振り返って少女たちを見やる。専門的な話は個別で、ということらしい。確かに、ここから先の話は聞いていても理解できないだろう。
医師は資料を取りに行くためにと、席を立って部屋から出ていった。
静かになった診察室に、高い声が響く。
「ティア、死んじゃうのかなぁ」
あまりにも直接的な言葉に、少女はアニスを見た。しかし、その能天気な声色とは裏腹に、彼女は涙を流していた。長い袖の先で、顔をごしごしと拭っている。
「アニス。お前……」
ルークが声を掛けると、アニスは身を翻して背を向けた。そして、パタパタと足音を立てて部屋から出て行こうとする。
「……な、泣いてるんじゃないからっ!こっち見ないで!」
「アニス!」
そんなアニスをナタリアが追いかける。一人にしておくには心配だからだろう。
少女は出遅れて、その場に取り残された。ここにいてもできることはない。だが、一人になるのも心細い。
ぼんやりと立ち尽くしていると、ジェイドがルークに声を掛ける。
「ルーク。あなたはティアの所に行ってあげなさい」
「え?」
「ティアも流石にショックだと思うから、元気づけてやれってことだよ」
ガイも同じように、ルークに促した。
ティアは医師からの説明を少女たちよりも先に聞いている。そうだ。ティアはここにいる誰よりも心細いはずだ。誰かが側にいなければ。
「……だけど、俺なんかが行っても……。みんなで行った方がいいんじゃないか?」
ルークの目が泳ぐ。ティアを元気づける自信がないのだろう。そしてふらふらと宙を彷徨った視線は、やがて少女にたどり着く。
「え」
ここは自分の出る幕ではない。ジェイドとガイが言っているのは、"そういうこと"なのだろうから。
少女は困って辺りを見回してみるが、やはり、ルークの瞳はこちらを捉えている。
「私は行きませんよ」
「ぶっきらぼうだなぁ」
ガイが堪らずツッコミを入れる。少女の言い方では、まるでティアの見舞いをしたくないように聞こえてしまう。
少女は否定のために手をブンブンと振って、考え込む。誤解のないように物事を伝えるのは難しい。
しばらくして、少女はルークに歩み寄って、首をかしげてみせた。
「ティアさんの気持ちはわかりませんが。ルークさんは、二人きりで話したいことがあるのではないですか」
ルークが頭痛に苦しんでいるとき、真っ先に駆けつけて治療をするのはティアだった。グランコクマでガイを待っているとき、慰めたのもティアだった。アクゼリュスの崩落から再起するきっかけを作ったのもティアだった。
二人には、二人にしかわからない何かがある。きっと、今のルークの迷いすらも、ティアが前を向く糧になる。
ルークは少女の言い分に納得したうえで、その目を伏せる。
「でも俺、怒ったり泣いたりしちまうかもしれない」
「私は、泣いてくれて嬉しかったですよ」
少女は、シェリダン出発直後、地殻突入前の話をしているのだろう。シェリダンの惨劇を受け、過去の過ちを懺悔し涙する少女を、ルークも泣きながら受け入れた。
ルークが顔を上げると、少女は柔らかな笑みを浮かべている。眉を下げて話すいつもの少女よりも、幾分か大人びて見える。
「そうか。ありがとう。俺、行ってくる……!」
ルークはティアの元へと走って行った。
自分の話をするのは少し違ったかもしれない。少女はそう思いながらも、自身の言葉が彼の背中を押したことに満足した。
後ろを振り返ると、ガイ、ジェイド、イオンが、目を丸くしてこちらを見ていた。
「なんの話だ?」
少女はそんな彼らに向けて、唇の前に人さし指を立てて見せる。
この旅の中で、たくさん秘密ができていく。