崩落編
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処刑から逃れた者たちが、その足で戻って来るとは。
バチカルの高層階に昇るなり、少女たちは兵士に囲まれた。しかし、兵士たちは動揺を隠せない様子である。
「お戻りになるとは……覚悟は宜しいのでしょうな!」
「待ちなさい」
毅然としてイオンが歩み出た。側にアニスが従っている。
「私はローレライ教団導師イオン。インゴベルト六世陛下に謁見を申し入れる」
「……は、はっ!」
「連れの者は等しく私の友人であり、ダアトがその身柄を保証する方々。無礼な振る舞いをすれば、ダアトはキムラスカに対し、今後一切の預言を詠まないだろう」
今後一切の預言を詠まない。
そんな脅し方があるのか。少女は驚いてイオンを見る。いつも穏やかなその瞳が、今日は凛々しい。
やはり彼は世界の最高権力者、導師イオンなのだ。
「導師イオンのご命令です。道を開けなさい」
低い声でアニスが言うと、兵士たちは一斉に道を開けた。
キムラスカ王インゴベルト六世は、私室で執務にあたっていた。
「お父様!」
「ナタリア!!」
部屋に入ってきたナタリアたちの姿を認めて、王は愕然としている。
「へ、兵たちは何を……」
「伯父上!ここに兵は必要ないはずです。ナタリアはあなたの娘だ!」
ルークは叫んだ。
「……わ、私の娘はとうに亡くなった……」
「違う!ここにいるナタリアがあなたの娘だ!十八年の記憶がそう言ってるはずです!」
ルークの言葉に、インゴベルトは怯んだ様子を見せる。言葉が届いている。少女はそう思った。
例え身分を偽っていても、人と人が触れ合った記憶は、心に深く刻まれる。
ただのレプリカだと思っていた。道具だと思っていた。でも今は、ルークという人間が愛しくてたまらない。
幼いときからナタリアを見ていたインゴベルトの中には、彼女との美しい記憶があるのだ。少女と同じように。いや、どんな人でも、同じ。
「お父様……いえ、陛下。わたくしを罪人と仰るなら、それもいいでしょう。ですが、どうかこれ以上マルクトと争うのはおやめ下さい」
覚悟を決めたナタリアの言葉を助けるように、イオンも話し出す。
「あなた方がどのような思惑でアクゼリュスへ使者を送ったのか、私は聞きません。知りたくもない。ですが私は、ピオニー九世陛下から和平の使者を任されました。私に対する信を、あなた方のために損なうつもりはありません」
聞いたこともないくらい、声色が厳しい。
次々に畳み掛けられ、インゴベルトは黙り込む。そんな王に近づき、ジェイドは恭しく跪いて、用意した書状を渡した。書状には、この世界の置かれている状況がまとめられている。
「恐れながら陛下。年若い者に畳み掛けられては、ご自身の矜持が許さないでしょう。後日改めて、陛下の意志を伺いたく思います」
「ジェイド!兵を伏せられたらどうするんだ!」
ガイが叫ぶ。
しかし、ジェイドは不敵な笑みを浮かべていた。
「この死霊使いが、周囲に一切の工作無く、このような場所へ飛び込んでくるとお思いですか」
何を用意しているのだろう。以前の少女のように、市民を煽動する準備でもしたのだろうか。
少女は自分を恥じた。必ず説得するつもりだったとはいえ、退路を用意することをしていなかったのだ。
「……これを読んだ上で、明日、謁見の間にて改めて話をする。それでよいな?」
ジェイドの脅しが効いたのか、インゴベルトはそう答えた。
その晩、ルーク一行はバチカルの宿屋で眠ることにした。イオンがいるからだろうか、道中で兵士に攻撃されるようなことはなかった。
水を飲みに少女はラウンジへと向かった。同じように椅子に座って水を飲んでいたジェイドに、少女が声をかける。
「ジェイドさん、この短い間に、どうやって退路を手配したのですか?」
「ああ。ただのハッタリですよ」
ジェイドはそう言って笑う。
敵わない。少女はそう思った。こういうことを平気でやってのける力が、軍人には必要なのだ。
「であれば、今日のうちに説得したほうがよかったのでは?明日になれば、モース様の介入もあるでしょう」
「陛下の中でもう答えは出ているでしょう。認めるためには後押しが必要なのですよ」
そういうものだろうか。
確かに、インゴベルト王の心が揺れているように見えた。それでも、預言に背いてくれるという確証までは持てない。
少女が首を傾げていると、ジェイドが眼鏡に手を置いて言う。
「絶対に受け入れてくれる、と言ったのはあなたでしょう?」
「………」
「いえ、ハッタリでしたか。菜真絵もなかなかのやり手ですね」
言われてみれば、そうなのかもしれない。
あのときは、ナタリアを元気づけたいと、前を向いてほしいと夢中だった。会ったこともないインゴベルト王の胸中など、少女に想像できるわけがないのに、断言した。
自分も、人のことは言えない。
だが、ナタリアはバチカルへ来ているし、父親の説得も進んでいる。つまり、これでよかったのだ。
「ジェイドさんほどではないですよ」
少女は笑う。もっと、ジェイドに追いつくほどに、狡猾になりたいと思った。
翌日。バチカル城、謁見の間。
玉座に座したインゴベルト王の左右にアルバイン内務大臣と大詠師モースが立っている。
「そちらの書状、確かに目を通した」
最初に口を開いたのはインゴベルトだった。預言を正しい歴史として生きてきた彼にとって、書状の内容は衝撃的なものだっただろう。
「お父様、もはや預言にすがっても繁栄は得られません。今こそ国を治める者の手腕が問われる時です」
「……私に何をしろと言うのだ」
「マルクトと平和条約を結び、外殻を魔界へ降ろすことを許可していただきたいのです」
だが、彼は娘の声に耳を傾けている。やはり、娘の頼み事を断ることはできないのだろう。
もちろん、左右に立つ重鎮たちは、いい顔をしないが。
「なんということを!マルクト帝国は長年の敵国。そのようなことを申すとは、やはり売国奴どもよ」
「騙されてはなりませんぞ、陛下。所詮は王家の血を引かぬ偽者の戯言……」
しかし、アルバインとモースの言葉は、誰にも届かない。ナタリアは、父だけを見つめて話す。
「わたくしはこの国とお父様を愛するが故に、マルクトとの和平と大地の降下を望んでいるのです」
少しの時間、沈黙が辺りを包んだ。
一瞬のはずなのに、永遠のように感じられる。
「……よかろう」
皆がバッと顔を上げ、ルークたちは喜びの声を、アルバインとモースは怒号をあげる。
「なりません、陛下!」
「こ奴らの戯れ言など……!」
「黙れ!我が娘の言葉を戯れ言などと愚弄するな!」
ジェイドの言う通りだった。彼の心は、最初から娘の元にあったのだ。少女の口から出たハッタリは、真実になったのだ。
キムラスカ・ランバルディア王国は、一度間違えた道から、戻ってくることができたのだ。
「お父様………!」
ナタリアがインゴベルトの元に駆け寄る。
「お父様、わたくしは……。王女でなかったことより、お父様の娘でないことの方が……辛かった」
「お前は私の血を引いてはいないかもしれぬ。だが、お前と過ごした時間は……お前が私を父と呼んでくれた瞬間のことは……忘れられぬ」
父と娘は、泣きながら抱き合った。
バチカルの高層階に昇るなり、少女たちは兵士に囲まれた。しかし、兵士たちは動揺を隠せない様子である。
「お戻りになるとは……覚悟は宜しいのでしょうな!」
「待ちなさい」
毅然としてイオンが歩み出た。側にアニスが従っている。
「私はローレライ教団導師イオン。インゴベルト六世陛下に謁見を申し入れる」
「……は、はっ!」
「連れの者は等しく私の友人であり、ダアトがその身柄を保証する方々。無礼な振る舞いをすれば、ダアトはキムラスカに対し、今後一切の預言を詠まないだろう」
今後一切の預言を詠まない。
そんな脅し方があるのか。少女は驚いてイオンを見る。いつも穏やかなその瞳が、今日は凛々しい。
やはり彼は世界の最高権力者、導師イオンなのだ。
「導師イオンのご命令です。道を開けなさい」
低い声でアニスが言うと、兵士たちは一斉に道を開けた。
キムラスカ王インゴベルト六世は、私室で執務にあたっていた。
「お父様!」
「ナタリア!!」
部屋に入ってきたナタリアたちの姿を認めて、王は愕然としている。
「へ、兵たちは何を……」
「伯父上!ここに兵は必要ないはずです。ナタリアはあなたの娘だ!」
ルークは叫んだ。
「……わ、私の娘はとうに亡くなった……」
「違う!ここにいるナタリアがあなたの娘だ!十八年の記憶がそう言ってるはずです!」
ルークの言葉に、インゴベルトは怯んだ様子を見せる。言葉が届いている。少女はそう思った。
例え身分を偽っていても、人と人が触れ合った記憶は、心に深く刻まれる。
ただのレプリカだと思っていた。道具だと思っていた。でも今は、ルークという人間が愛しくてたまらない。
幼いときからナタリアを見ていたインゴベルトの中には、彼女との美しい記憶があるのだ。少女と同じように。いや、どんな人でも、同じ。
「お父様……いえ、陛下。わたくしを罪人と仰るなら、それもいいでしょう。ですが、どうかこれ以上マルクトと争うのはおやめ下さい」
覚悟を決めたナタリアの言葉を助けるように、イオンも話し出す。
「あなた方がどのような思惑でアクゼリュスへ使者を送ったのか、私は聞きません。知りたくもない。ですが私は、ピオニー九世陛下から和平の使者を任されました。私に対する信を、あなた方のために損なうつもりはありません」
聞いたこともないくらい、声色が厳しい。
次々に畳み掛けられ、インゴベルトは黙り込む。そんな王に近づき、ジェイドは恭しく跪いて、用意した書状を渡した。書状には、この世界の置かれている状況がまとめられている。
「恐れながら陛下。年若い者に畳み掛けられては、ご自身の矜持が許さないでしょう。後日改めて、陛下の意志を伺いたく思います」
「ジェイド!兵を伏せられたらどうするんだ!」
ガイが叫ぶ。
しかし、ジェイドは不敵な笑みを浮かべていた。
「この死霊使いが、周囲に一切の工作無く、このような場所へ飛び込んでくるとお思いですか」
何を用意しているのだろう。以前の少女のように、市民を煽動する準備でもしたのだろうか。
少女は自分を恥じた。必ず説得するつもりだったとはいえ、退路を用意することをしていなかったのだ。
「……これを読んだ上で、明日、謁見の間にて改めて話をする。それでよいな?」
ジェイドの脅しが効いたのか、インゴベルトはそう答えた。
その晩、ルーク一行はバチカルの宿屋で眠ることにした。イオンがいるからだろうか、道中で兵士に攻撃されるようなことはなかった。
水を飲みに少女はラウンジへと向かった。同じように椅子に座って水を飲んでいたジェイドに、少女が声をかける。
「ジェイドさん、この短い間に、どうやって退路を手配したのですか?」
「ああ。ただのハッタリですよ」
ジェイドはそう言って笑う。
敵わない。少女はそう思った。こういうことを平気でやってのける力が、軍人には必要なのだ。
「であれば、今日のうちに説得したほうがよかったのでは?明日になれば、モース様の介入もあるでしょう」
「陛下の中でもう答えは出ているでしょう。認めるためには後押しが必要なのですよ」
そういうものだろうか。
確かに、インゴベルト王の心が揺れているように見えた。それでも、預言に背いてくれるという確証までは持てない。
少女が首を傾げていると、ジェイドが眼鏡に手を置いて言う。
「絶対に受け入れてくれる、と言ったのはあなたでしょう?」
「………」
「いえ、ハッタリでしたか。菜真絵もなかなかのやり手ですね」
言われてみれば、そうなのかもしれない。
あのときは、ナタリアを元気づけたいと、前を向いてほしいと夢中だった。会ったこともないインゴベルト王の胸中など、少女に想像できるわけがないのに、断言した。
自分も、人のことは言えない。
だが、ナタリアはバチカルへ来ているし、父親の説得も進んでいる。つまり、これでよかったのだ。
「ジェイドさんほどではないですよ」
少女は笑う。もっと、ジェイドに追いつくほどに、狡猾になりたいと思った。
翌日。バチカル城、謁見の間。
玉座に座したインゴベルト王の左右にアルバイン内務大臣と大詠師モースが立っている。
「そちらの書状、確かに目を通した」
最初に口を開いたのはインゴベルトだった。預言を正しい歴史として生きてきた彼にとって、書状の内容は衝撃的なものだっただろう。
「お父様、もはや預言にすがっても繁栄は得られません。今こそ国を治める者の手腕が問われる時です」
「……私に何をしろと言うのだ」
「マルクトと平和条約を結び、外殻を魔界へ降ろすことを許可していただきたいのです」
だが、彼は娘の声に耳を傾けている。やはり、娘の頼み事を断ることはできないのだろう。
もちろん、左右に立つ重鎮たちは、いい顔をしないが。
「なんということを!マルクト帝国は長年の敵国。そのようなことを申すとは、やはり売国奴どもよ」
「騙されてはなりませんぞ、陛下。所詮は王家の血を引かぬ偽者の戯言……」
しかし、アルバインとモースの言葉は、誰にも届かない。ナタリアは、父だけを見つめて話す。
「わたくしはこの国とお父様を愛するが故に、マルクトとの和平と大地の降下を望んでいるのです」
少しの時間、沈黙が辺りを包んだ。
一瞬のはずなのに、永遠のように感じられる。
「……よかろう」
皆がバッと顔を上げ、ルークたちは喜びの声を、アルバインとモースは怒号をあげる。
「なりません、陛下!」
「こ奴らの戯れ言など……!」
「黙れ!我が娘の言葉を戯れ言などと愚弄するな!」
ジェイドの言う通りだった。彼の心は、最初から娘の元にあったのだ。少女の口から出たハッタリは、真実になったのだ。
キムラスカ・ランバルディア王国は、一度間違えた道から、戻ってくることができたのだ。
「お父様………!」
ナタリアがインゴベルトの元に駆け寄る。
「お父様、わたくしは……。王女でなかったことより、お父様の娘でないことの方が……辛かった」
「お前は私の血を引いてはいないかもしれぬ。だが、お前と過ごした時間は……お前が私を父と呼んでくれた瞬間のことは……忘れられぬ」
父と娘は、泣きながら抱き合った。