崩落編
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「みなさん!ご無事でしたか!」
ダアトに着くと、驚いた様子のイオンが出迎えた。ルークたちがディストに攫われたことは、耳に入っていたらしい。
少女は入ることのできなかったイオンの執務室だが、アニスの権限で簡単に侵入することができた。
事情を話すと、イオンは快く提案を受け入れた。
「ではベルケンドへ向かいましょう。僕もここですべきことは終わりましたから」
再会を喜ぶ時間も惜しんで、少女たちは部屋をあとにした。いつどこで誰に見られているかもわからない。
すると突然、ルークが頭を抱え、苦しみだした。ティアが慌ててルークに駆け寄る。
同調フォンスロットだろうか。少女は上司の顔を思い浮かべながら、ルークが立ち上がるのを待った。
「……スピノザが俺たちの計画をヴァン師匠に知らせたらしい。ヘンケンさんたちはシェリダンへ逃げたって」
誰に問われるでもなく、ルークが話し出す。
最悪の事態だ。アッシュの追跡は間に合わなかったということだ。
「私の責任だ……」
ジェイドが珍しく、心底落ち込んだ様子で言う。
彼はこの中で最も経歴の長い軍人だ。盗み聞きされていることに気が付かなったことを悔やんでいるのだろう。
「ジェイドさんだけのせいではありません」
少女も、ティアも、アニスも、機密を取り扱う立場の軍人だ。緊迫した状況の中で、浮足立っていたのかもしれない。押し黙る彼らを、ガイが促す。
「それならベルケンドじゃなくて、シェリダンに向かわないとな」
立ち止まっている場合ではない。少女たちは教会を後にした。
外へ出ると、商店街に見たことのある女性が立っていた。アニスの母親、パメラだ。
「アニスちゃん!イオン様から受けた任務は無事に終わったの?」
アニスを導師守護役から解任したときに、別の任務を与えたとイオンが伝えていたらしい。パメラはアニスに駆け寄って、娘の活躍を労った。
嬉しそうにアニスが微笑む。いつものアニスとは違う、子供のような、柔らかい笑顔。
しかし束の間、聞き慣れた声が一帯に響いた。
「ママの仇!」
幼い声。アリエッタだ。ダアトに戻ってきていたのだ。
振り返れば、ライガを従えて立っている。
戦うつもりだ。この街中で。
面々は武器を構えて、ライガに向けて走り出す。その中でアニスは、イオンの手を引いて遠くへと逃げようとした。
逃さないとばかりに、ライガが火の玉を吐く。アニスとイオンに当たってしまう――
そう思った次の瞬間には、パメラがイオンたちの前に飛び込んで、攻撃を受けていた。そのまま、石畳の上を転がる。
「きゃあ!」
「ママ!!」
どうやら意識がないようだ。ナタリアが駆け寄り、パメラに回復術を施す。
想定外の事態だったのか、アリエッタは次の攻撃をすることなく、呆然としていた。その隙を付いて、ジェイドがアリエッタを拘束する。
「さあ、お友達を退かせなさい」
「う………!だけど…………!」
「アリエッタ!パメラを巻き込むのは筋違いでしょう!」
イオンの言葉を聞いて、アリエッタは顔を歪める。
しばらくの沈黙の後、アリエッタがやめて、と一言発すると、ライガは大人しくアリエッタの側についた。
「アリエッタは私がトリトハイム氏に引き渡します」
そう言って、ジェイドは歩いて行った。
しばらくして、光の中でパメラが目を開ける。回復術が効いたのだ。
「イオン様……怪我は……」
目を覚ますなり、守ろうとしたイオンの姿を探そうとする。
「僕なら大丈夫です。ありがとう、パメラ」
「イオン様を護れたなら、本望です……」
イオンの声を聞くと、彼女は満足げに言って微笑んだ。自分の身よりも導師の身を案じているのだ。
そんな彼女の姿に、少女は胸の詰まるような思いがした。
「ガイ!?」
急にルークが叫んだかと思うと、ガイがその場に膝をついて倒れていた。両手すらも地について、ワナワナと震えている。まるで、女性に触れられた時のように。
しかしガイの隣には、ルークが立っているだけだった。
「大丈夫かよ。どうしたんだ?」
ルークの声に、ガイは反応を返さない。聞こえていないのかもしれない。わななく唇から、絞り出すように声が吐き出された。
「……思い……出したっ!」
アニス、イオン、ティア、ナタリアはパメラの治療をするために、彼女の私室へ向った。
ルークはガイを抱えながら、少女の先導で礼拝堂へと向かった。このまま街にいれば、騒ぎが大きくなってしまう。使われていない礼拝堂で、ガイを落ち着けようと考えたのだ。
しばらくして、ジェイドと残りの面々がやって来た。
「アリエッタはトリトハイム氏に引き渡しました」
「ママももう大丈夫だよ。まったく根暗ッタの奴、こんなことするなんてサイテー」
ガイは会話を聞いているのか聞いていないのか、地面に座り込んでいる。
「ガイは……大丈夫なのか? 何か思い出したみたいだったけど……」
ルークはしゃがみこんで、ガイに話しかける。視線を合わせようとするその姿からは、優しさがにじみ出ていた。
「……ああ。すまないな。あんな時に取り乱して」
「何を思い出したか聞いてもいいかしら」
ティアが訊ねると、彼は目を伏せる。
「俺の家族が……殺された時の記憶だよ」
十六年前。マルクト帝国領ホドでは、領主の一人息子の五歳の生誕祭が行われていた。皆が着飾って、美味しいご飯を食べ、来年の預言を詠む………。
しかし、その祝いの場は、一瞬で戦場と化した。
ホド戦争が始まったのだ。
時期領主を守らんと、姉をはじめ、家の女性たちはガイを家の中に隠した。
「斬られそうになった俺を姉上が庇ってくれた。姉上だけじゃない。メイドたちもみんな俺を庇おうとして……。いつの間にか、俺は姉上たちの遺体の下で、血塗れになって気を失っていた」
そこまで語り、ガイは伏せていた目を上げた。ルークと目が合いそうになってふっと逸らす。
「ペールが助けに来てくれた時には、もう俺の記憶は消えちまってたのさ」
「あなたの女性恐怖症は、その時の精神的外傷ですね」
あまりにも辛い記憶。
少女も彼の女性恐怖症を煩わしく思ったことがあった。その特性を利用して、彼を窘めたこともあった。自分は彼の故郷の思い出を、踏みにじっていたのだ。
隣に立っていたナタリア、ティア、アニスも同じことを考えてたのか、謝罪の言葉を口にしていた。
「キミたちが謝ることじゃないだろ。気にしないでくれ」
「そうですよ。本人は女性が大好きらしいですから」
ジェイドがいつもの調子で言う。「そうそう」とガイは笑った。
「これからも どんどんいじっちゃって構いませんよ」
「いや、どんどんは困る……」
ガイは苦笑する。でも、動じないジェイドの態度がどこか心地良くもある。
「さあ、シェリダンに行くぞ」
「もう大丈夫なのか?」
「もちろん」
項垂れていた顔を上げ、ガイは皆を鼓舞する。たとえそれが強がりだとしても、今は甘えるしかない。少女たちは、シェリダンへの道を歩き出した。