崩落編
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翌日、アッシュを除く面々は、第一音機関研究所へ来ていた。
研究所内に配備されている兵士が、ルークと少女に向けて敬礼をする。おそらく、特務師団長とその補佐の二人組だと思われているのだろう。
「またここに戻って来ちまったな」
ルークが呟く。
昨日ヴァンと対峙した、あの部屋を通り過ぎたときだった。昨日のやり取りを思い出すと、気が重くなる。
「ヴァンは昨日のうちにここを出ていったらしいぜ」
ルークを落ち着かせるように、ガイは言う。その言葉に、少女は首を傾げた。この男はなぜそんなことを知っているのだろう、と。
「君には話していなかったな。……ヴァンは俺のお守り役だったんだ」
「ガルディオス家に仕えていた、ということですか?」
「ああ。……ファブレ公爵への復讐を誓った仲だった。でも昨日、決別してきたよ」
昨日、個人間でのやり取りがあったということだろう。
彼がヴァンのことを何かと気にしていたのは、そういうことだったのか。と、少女はひとりで納得した。
少女は周りを見渡す。面々は怒るでもなく、悲しむでもなく、ただただガイの話を聞いている。アニスだけは苦虫を噛み潰したような顔をしているが。
「そうだったんですね」
「君は疑わないのかい?ヴァンと俺がグルだって……」
「もうその話は終わったんでしょう?」
核心を突かない少女の返答に、ガイは苦笑いを返す。時に彼女は、ジェイドよりも遠回しな表現をすることがある。
だが、これも、彼女なりの気遣いなのだろう。
「ありがとう」
ガイがそう言うと、少女は少しだけ目を細めた。
研究所の一室、そこにはヘンケンとキャシーという2人の老人がいた。ガイによると、彼らはこの街を拠点とする有名な技術集団「い組」のメンバーだそうだ。
「知事たちに内密で仕事を受けろと言うのか?お断りだ」
「知事はともかく、ここの責任者は神託の盾騎士団のディストよ。ばれたら何をされるか……」
ルークたちは事情を話したが、ヘンケンは手をひらひらと振って、取り合う気がないという態度を見せた。
2000年前の資料を元に装置を作るなどという壮大なことを、個人的に頼むほうが間違っている。諦めムードの面々だったが、ガイはにやりと笑って、いじわるそうな声色で言った。
「へぇ、それじゃあこの禁書の復元は、シェリダンのイエモンたちに任せるか」
「な、何ィ~!?イエモンだとぉ!?」
「冗談じゃないわ!またタマラたちが創世暦時代の音機関を横取りするの!?」
わざとらし過ぎるほどの挑発だ。が、見事なまでに老人たちはそれに乗ってきた。
「……よ、よし。こうなったらその仕事とやら引き受けてやろうじゃないか」
あまりに簡単すぎる。アニスが呆れて目を瞬いた。
「なになに?なんでおじーさんたちイエモンさんたちを目の敵にしてんの?」
「イエモンと私たちは、王立大学院時代から音機関研究で争ってる競争相手なの」
「俺たち『ベルケンドい組』は、イエモンたち『シェリダンめ組』に99勝99敗。これ以上負けてたまるか!」
老人たちは即座に返してくる。その勝負以外はどうでもいいとすら思っていそうな雰囲気だ。
どうやら、彼らの対立は音機関好きのあいだでは有名な話らしい。
「しかし、俺たちだけではディストに情報が漏れるかもしれない。知事も抱き込んだ方がいいだろう。行くぞ、キャシー!」
「ええ!」
ベルケンドはキムラスカの配下であるから、知事もルークとナタリアを追う立場のはず。
会っても了承を得られるとは思えない。捕らえられる可能性すらある。しかし、い組の面々は、一目散に走り出て行ってしまった。
ルークたちはしばらく呆気にとられていたが、諦めて、知事邸へ向かうことにした。
剣をいつでも抜けるように構えながら、少女たちは知事邸に足を踏み入れる。
すると、先に着いていたキャシーが出迎えた。
「安心しなさい。知事は協力してくれるそうよ」
穏やかに笑い、扉を開けた先には、ベルケンドの知事ビリジアンがいた。
「私はファブレ公爵のご命令通りルーク様とナタリア殿下を捜しているが見つからない。それだけです。――宜しいですな」
そんなあっさりと。
少女たちは怪訝に思ったが、よくよく話を聞いてみると、知事は禁書の内容に強い興味を持っているとのことだった。
彼は元々キムラスカ王立学問所の出身で、ファブレ公爵に引き抜かれて知事に就任したらしい。つまり、い組の面々と同じ穴の狢というわけだ。
「こちらから何を提供すればよいか、相談させてほしい」
厳格に言葉を紡ぎつつもどこか浮足立った知事の態度を見て、ジェイドとガイはニヤリと笑う。そして、これまでの経緯と禁書の内容の説明を始めた。
少女が聞き取れないような難しい単語が次々に流れていく。
「まずは地核の震動周波数を計測する必要があるな」
「パッセージリングからセフィロトツリーへ計測装置を入れれば分かると思います。まだ降下していない外殻大地のセフィロトへ行く必要がありますね」
それほど時間が経っていないのに、技術者たちの頭の中にはもう解決へのロードマップが描かれているらしい。説明の場だったはずが、いつの間にか討議の場になっている。
「周波数計は今からわしらが復元する。セフィロトの場所はわかるのか?」
「アブソーブゲートやラジエイトゲートは、プラネットストームの発生地点と収束地点だから、計測には適さないわね」
ヘンケンとキャシーの問いに、ジェイドとガイが黙る。辺りが一瞬の沈黙に包まれた後、少女は口を開いた。
「今後向かう予定だった地点は、タタル渓谷、メジオラ高原、ロニール雪山です。セフィロトはあと1つあるはずですが、その場所は存じておりません」
「飛行譜石がない今、海路で向かうのであれば、タタル渓谷が良いでしょうね」
初めて自分がヴァンの部下であることが役に立った。少女はそれが少しだけ嬉しかった。部下であるにもかかわらず、何も知らされていなかったから、肩身が狭い思いをしていたのだ。と言っても、セフィロトの位置はアッシュが調べてきた情報なのだが。
「ですが、それらのセフィロトは未だダアト式封咒が施されています」
「じゃあ、ダアトに行ってイオン様をお迎えしないとだね!」
アニスが高い声で促す。
一同はダアトに向かうべく、知事邸を後にした。
外へ出ると、赤髪の少年――アッシュが立っていた。
「スピノザが屋敷を覗き込もうとしていたぞ。何かあったのか?」
スピノザ。その名前だけは、少女も聞いたことがあった。彼はヴァンお抱えの研究者だ。今思えば、ディストと共にフォミクリーの研究をしていたのだろう。
「私たちの動向をヴァンに伝えるつもりでしょうかね」
ジェイドが言う。
「げ。もしかしたら研究所での会話も聞かれてるかも!告げ口されちゃう!?」
「スピノザはそんな男じゃないわ!」
慌てる面々に、キャシーが否定の言葉をかける。その態度からして、スピノザが「い組」と親交が深いことが伺える。
「……ヴァンに聞かれちゃまずい話をしていたのか?」
「ええ、ファブレ公爵や六神将には内密で、地殻の振動を止める装置を作るんですのよ。そのために今から導師イオンを迎えに行くのです」
アッシュの質問に、ナタリアが答える。しかし、話を端折りすぎて、いまいち伝わっていない。アッシュが訝しげに眉を潜めている。
そんなナタリアの後ろから、少女が落ち着いた声で話す。
「教団の禁書に書かれた装置の復元を、い組に依頼しました。導師のみが触れられる書物ですから、ヴァン様もその存在を知らないはず。隠しておきたいのです」
「そうか。それなら、スピノザを捕まえたほうがいいな」
少女の説明に頷いたあと、少年は身を翻して、スピノザが逃げたという方向に走り出した。
その様子を見ていたガイが少女を見やる。少女はそれに気が付いて、ぱちりと目が合った。が、ガイは何も言わず、口をもにょ、とさせただけだった。
そんなガイに、ジェイドが小さな声で話しかける。
「ガイはどちらがお好みですか?」
「えっ!?いや、別に俺は、2人が全く違うタイプだなと思っただけで……」
「ストライクゾーン広いですよねぇ」
隣でアニスがうんうんと頷く。
少女はそれが聞こえていたが、聞こえないふりをした。自分は彼の部下だから、こういった業務上のコミュニケーションが上手くできるだけだ。
「アッシュも協力してくれるのですね!」
噂話が聞こえていなかったのか、ナタリアは嬉しそうに少女に寄り添う。
真面目で正義感が強いところは少年にそっくりだが、明るくて素直なところは、正反対だ。もちろん、自分とも。
そんな彼女が隣にいることは、どれほど心強いことだろう。
少女はそう思って、笑顔を返した。
研究所内に配備されている兵士が、ルークと少女に向けて敬礼をする。おそらく、特務師団長とその補佐の二人組だと思われているのだろう。
「またここに戻って来ちまったな」
ルークが呟く。
昨日ヴァンと対峙した、あの部屋を通り過ぎたときだった。昨日のやり取りを思い出すと、気が重くなる。
「ヴァンは昨日のうちにここを出ていったらしいぜ」
ルークを落ち着かせるように、ガイは言う。その言葉に、少女は首を傾げた。この男はなぜそんなことを知っているのだろう、と。
「君には話していなかったな。……ヴァンは俺のお守り役だったんだ」
「ガルディオス家に仕えていた、ということですか?」
「ああ。……ファブレ公爵への復讐を誓った仲だった。でも昨日、決別してきたよ」
昨日、個人間でのやり取りがあったということだろう。
彼がヴァンのことを何かと気にしていたのは、そういうことだったのか。と、少女はひとりで納得した。
少女は周りを見渡す。面々は怒るでもなく、悲しむでもなく、ただただガイの話を聞いている。アニスだけは苦虫を噛み潰したような顔をしているが。
「そうだったんですね」
「君は疑わないのかい?ヴァンと俺がグルだって……」
「もうその話は終わったんでしょう?」
核心を突かない少女の返答に、ガイは苦笑いを返す。時に彼女は、ジェイドよりも遠回しな表現をすることがある。
だが、これも、彼女なりの気遣いなのだろう。
「ありがとう」
ガイがそう言うと、少女は少しだけ目を細めた。
研究所の一室、そこにはヘンケンとキャシーという2人の老人がいた。ガイによると、彼らはこの街を拠点とする有名な技術集団「い組」のメンバーだそうだ。
「知事たちに内密で仕事を受けろと言うのか?お断りだ」
「知事はともかく、ここの責任者は神託の盾騎士団のディストよ。ばれたら何をされるか……」
ルークたちは事情を話したが、ヘンケンは手をひらひらと振って、取り合う気がないという態度を見せた。
2000年前の資料を元に装置を作るなどという壮大なことを、個人的に頼むほうが間違っている。諦めムードの面々だったが、ガイはにやりと笑って、いじわるそうな声色で言った。
「へぇ、それじゃあこの禁書の復元は、シェリダンのイエモンたちに任せるか」
「な、何ィ~!?イエモンだとぉ!?」
「冗談じゃないわ!またタマラたちが創世暦時代の音機関を横取りするの!?」
わざとらし過ぎるほどの挑発だ。が、見事なまでに老人たちはそれに乗ってきた。
「……よ、よし。こうなったらその仕事とやら引き受けてやろうじゃないか」
あまりに簡単すぎる。アニスが呆れて目を瞬いた。
「なになに?なんでおじーさんたちイエモンさんたちを目の敵にしてんの?」
「イエモンと私たちは、王立大学院時代から音機関研究で争ってる競争相手なの」
「俺たち『ベルケンドい組』は、イエモンたち『シェリダンめ組』に99勝99敗。これ以上負けてたまるか!」
老人たちは即座に返してくる。その勝負以外はどうでもいいとすら思っていそうな雰囲気だ。
どうやら、彼らの対立は音機関好きのあいだでは有名な話らしい。
「しかし、俺たちだけではディストに情報が漏れるかもしれない。知事も抱き込んだ方がいいだろう。行くぞ、キャシー!」
「ええ!」
ベルケンドはキムラスカの配下であるから、知事もルークとナタリアを追う立場のはず。
会っても了承を得られるとは思えない。捕らえられる可能性すらある。しかし、い組の面々は、一目散に走り出て行ってしまった。
ルークたちはしばらく呆気にとられていたが、諦めて、知事邸へ向かうことにした。
剣をいつでも抜けるように構えながら、少女たちは知事邸に足を踏み入れる。
すると、先に着いていたキャシーが出迎えた。
「安心しなさい。知事は協力してくれるそうよ」
穏やかに笑い、扉を開けた先には、ベルケンドの知事ビリジアンがいた。
「私はファブレ公爵のご命令通りルーク様とナタリア殿下を捜しているが見つからない。それだけです。――宜しいですな」
そんなあっさりと。
少女たちは怪訝に思ったが、よくよく話を聞いてみると、知事は禁書の内容に強い興味を持っているとのことだった。
彼は元々キムラスカ王立学問所の出身で、ファブレ公爵に引き抜かれて知事に就任したらしい。つまり、い組の面々と同じ穴の狢というわけだ。
「こちらから何を提供すればよいか、相談させてほしい」
厳格に言葉を紡ぎつつもどこか浮足立った知事の態度を見て、ジェイドとガイはニヤリと笑う。そして、これまでの経緯と禁書の内容の説明を始めた。
少女が聞き取れないような難しい単語が次々に流れていく。
「まずは地核の震動周波数を計測する必要があるな」
「パッセージリングからセフィロトツリーへ計測装置を入れれば分かると思います。まだ降下していない外殻大地のセフィロトへ行く必要がありますね」
それほど時間が経っていないのに、技術者たちの頭の中にはもう解決へのロードマップが描かれているらしい。説明の場だったはずが、いつの間にか討議の場になっている。
「周波数計は今からわしらが復元する。セフィロトの場所はわかるのか?」
「アブソーブゲートやラジエイトゲートは、プラネットストームの発生地点と収束地点だから、計測には適さないわね」
ヘンケンとキャシーの問いに、ジェイドとガイが黙る。辺りが一瞬の沈黙に包まれた後、少女は口を開いた。
「今後向かう予定だった地点は、タタル渓谷、メジオラ高原、ロニール雪山です。セフィロトはあと1つあるはずですが、その場所は存じておりません」
「飛行譜石がない今、海路で向かうのであれば、タタル渓谷が良いでしょうね」
初めて自分がヴァンの部下であることが役に立った。少女はそれが少しだけ嬉しかった。部下であるにもかかわらず、何も知らされていなかったから、肩身が狭い思いをしていたのだ。と言っても、セフィロトの位置はアッシュが調べてきた情報なのだが。
「ですが、それらのセフィロトは未だダアト式封咒が施されています」
「じゃあ、ダアトに行ってイオン様をお迎えしないとだね!」
アニスが高い声で促す。
一同はダアトに向かうべく、知事邸を後にした。
外へ出ると、赤髪の少年――アッシュが立っていた。
「スピノザが屋敷を覗き込もうとしていたぞ。何かあったのか?」
スピノザ。その名前だけは、少女も聞いたことがあった。彼はヴァンお抱えの研究者だ。今思えば、ディストと共にフォミクリーの研究をしていたのだろう。
「私たちの動向をヴァンに伝えるつもりでしょうかね」
ジェイドが言う。
「げ。もしかしたら研究所での会話も聞かれてるかも!告げ口されちゃう!?」
「スピノザはそんな男じゃないわ!」
慌てる面々に、キャシーが否定の言葉をかける。その態度からして、スピノザが「い組」と親交が深いことが伺える。
「……ヴァンに聞かれちゃまずい話をしていたのか?」
「ええ、ファブレ公爵や六神将には内密で、地殻の振動を止める装置を作るんですのよ。そのために今から導師イオンを迎えに行くのです」
アッシュの質問に、ナタリアが答える。しかし、話を端折りすぎて、いまいち伝わっていない。アッシュが訝しげに眉を潜めている。
そんなナタリアの後ろから、少女が落ち着いた声で話す。
「教団の禁書に書かれた装置の復元を、い組に依頼しました。導師のみが触れられる書物ですから、ヴァン様もその存在を知らないはず。隠しておきたいのです」
「そうか。それなら、スピノザを捕まえたほうがいいな」
少女の説明に頷いたあと、少年は身を翻して、スピノザが逃げたという方向に走り出した。
その様子を見ていたガイが少女を見やる。少女はそれに気が付いて、ぱちりと目が合った。が、ガイは何も言わず、口をもにょ、とさせただけだった。
そんなガイに、ジェイドが小さな声で話しかける。
「ガイはどちらがお好みですか?」
「えっ!?いや、別に俺は、2人が全く違うタイプだなと思っただけで……」
「ストライクゾーン広いですよねぇ」
隣でアニスがうんうんと頷く。
少女はそれが聞こえていたが、聞こえないふりをした。自分は彼の部下だから、こういった業務上のコミュニケーションが上手くできるだけだ。
「アッシュも協力してくれるのですね!」
噂話が聞こえていなかったのか、ナタリアは嬉しそうに少女に寄り添う。
真面目で正義感が強いところは少年にそっくりだが、明るくて素直なところは、正反対だ。もちろん、自分とも。
そんな彼女が隣にいることは、どれほど心強いことだろう。
少女はそう思って、笑顔を返した。