崩落編
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少女は宿屋の一室の前に立ち、三度、ノックを鳴らした。
「菜真絵!どうしたのですか?」
扉を開けたナタリアが、驚いた様子で少女を招き入れる。部屋の中には、ティア、アニス、ノエルがいる。女性陣は全員、同じ部屋に泊まっているようだ。
アニスが慌てて、少女が座るための椅子を出す。
「お構いなく」
少女に冷たくあしらわれ、アニスは後ずさりで席に戻った。
「で、用件はなんですかぁ?」
足をプラプラと揺らしながら、アニスが問いかける。頬が小さく膨れているが、少女は気付いていない。
「明日から、皆さんに同行させていただきたいのです。アッシュ様は別行動をとるそうです」
「構わないけれど……、どうして?」
「アッシュ様からのご命令です。理由は聞いていません」
ティアの質問に、少女は簡潔に答える。
部屋の面々は顔を見合わせて、首をひねった。
同行者が増えるということは、戦力も労働力も増えるということだ。少し前まで共に旅をしていたのだから、懸念はない。
だが、理由がわからないのは、なんとも心地が悪い。
「アッシュ様は一人がお好きですから。一匹狼というやつです」
怪訝そうな皆の態度を見て、少女は冗談めかして言った。厳密に言うと、少年は漆黒の翼と行動を共にしているから、一人ではないのだが。
「菜真絵って、冗談言うんだ」
アニスが眉を潜めながら、ぽつりとつぶやく。
場は和まなかったようだ。少女は肩を狭めて、小さく礼をした。
「すみません。用件は以上です」
……なんだか変な空気にしてしまった。少女はその場を去ろうと、ドアノブに手をかけようとする。
しかし、少女の手をナタリアが掴んだ。
「せっかくですから、もう少しここにいては? 時間もまだ早いですし」
そう言われて、断る理由はない。一人でやりたいこともない。
それに、久しぶりに会ったのだ。皆と話したい気持ちもある。……何を話したらいいのかは、わからないが。
「では、そうします」
少女は迷いながらも、アニスが先程出した椅子に座った。
「明日はどこへ向かうのですか?」
「導師から受け取った教団の禁書に、魔界の液状化を止める装置の構想が書かれていたの。装置の作成に協力してくれる技術者を探しに、研究所へ行くわ」
「ガイさんにツテがあるようです」
少女の質問に、ティアとノエルが答える。
この短い時間のあいだにも、ルークたちは新しい情報を手に入れているようだ。
「液状化を止める方法というのは?」
「ジェイドは地殻の振動を止めると言っていたわ」
少女は前のめりになりながら、神妙な面持ちで話を続ける。
その様子を見て、ナタリアは少女の目の前にコップとお茶菓子を差し出した。
「難しい話はこのあたりにして、今日は菜真絵とノエルと再会できたことを祝いましょう」
芳しい香りのするハーブティーと、木苺のジャムを挟んだクッキーが並ぶ。
教会で軟禁されているあいだは、絢爛豪華な食事が提供されていた。一方、バチカルへ向う船上では、薄い茶と硬いパンしか食べられなかった。
久しぶりの庶民的なお菓子だ。少女はほんのり微笑んで、クッキーを頬張る。
「甘いものが好きなのですね」
観察するようなナタリアの視線に、少女はなんだか恥ずかしくなって、下を向いた。
俯いたまま啜ったハーブティーも、とても美味しい。
「………なんでそんな急に仲良くなったの?」
もぐもぐと口を動かしながら、アニスが言う。質問をしているわりには、呆れの混ざった、興味なさげな声色だ。
「アッシュと菜真絵が助けに来てくれたから、私たちはこうして生きているのです。感謝をするのは当然ですわ」
「恋のライバルなのに〜?」
何気なく呟かれたアニスの言葉に、ナタリアと少女は動きを止める。
「アニスさん……」
ノエルがアニスを嗜める。まるで、言ってはいけないことを言ってしまったかのように。この態度を見るに、ノエルからも2人が恋のライバルに見えているのだとわかる。まだ出会ってからそれほど経っていないのに。
少女はひとつ咳払いをして、アニスを睨んだ。
「私はアッシュ様の部下に過ぎません、」
「ねね、どこが好きなの?」
少女の発言を意に介さず、アニスが畳み掛ける。
少女も、アニスの気持ちが理解できないわけではない。自分の言動が恋心を連想させるものであったことは自覚があるし、人の恋路は気になるものだ。
でも、認めるわけにはいかない。
「優しくて、真っ直ぐな人なのよね」
これまで黙っていたティアが、口を開いた。
死角から刺された。少女はそう思った。
それはユリアシティから地上に上る前、ルーク、ティア、ミュウに漏らしてしまった本音だった。
「あのですね!」
集まる皆の視線に耐えられず、少女は声を張って叫ぶ。
「アッシュ様とナタリアさんは、将来を誓い合った婚約者なんです。その間に割って入ろうだなんて、考えるわけないじゃないですか!」
やっと、再開できたのだ。やっと、遠い日の"約束"を覚えていると確かめ合うことができたのだ。
それを邪魔するなんて、そんな無粋なことができようか。
「確かに私はアッシュ様を尊敬しています。ですが、ナタリアさんのことも大切なんです。やっと、やっと再会できたのに、2人を邪魔するようなこと………」
気がつくと、全員が目を丸くして少女を見ていた。
自分は今、何を口走っていたのだろう。何を熱くなっていたのだろう。
少女は恥ずかしくなって、口に手をあてて俯いた。
「菜真絵…………」
ナタリアとも目を合わせられない。怒っているかもしれない。少女は覚悟していたが、少女の手にナタリアの手がそっと重ねられた。
「…………?」
「ずっと、私のことを気にかけてくれていたのですね。きっと、出会う前から」
少女が驚いて顔を上げれば、優しい瞳を携えたナタリアがいた。
「ありがとう、菜真絵」
「いえ、そんな、」
「私も、菜真絵のことが大切ですわ」
周りの面々はというと、丸くなっていた目を、さらにぱちぱちとさせている。
「もちろん、アッシュのことも、ルークのことも。それでいいではありませんか。ねえ、アニス?」
「えっ。う、うん………」
アニスは口をもにょもにょとさせながら、結局黙った。せっかく女性陣だけが集まっているから、からかってみようと思っただけなのに。よくわからないまま強制終了させられてしまった。
「本当に仲良くなったのね。ガイと3人でいたときに、何かあったの?」
「秘密ですわ」
ナタリアは少女に目配せする。
しかし、少女には心当たりがなかった。彼女に好かれるようなことをした覚えがない。
その一方で、少女もいつの間にか、ナタリアに特別な感情を抱くようになっていた。美しくて眩しくて、それが怖かったはずなのに。今は、そんな彼女を守りたい。
きっかけなんて、なくてもいいのかもしれない。
少女はぎこちなくウインクをして、いつもより数段明るい声で言った。
「はい、秘密です」
「菜真絵!どうしたのですか?」
扉を開けたナタリアが、驚いた様子で少女を招き入れる。部屋の中には、ティア、アニス、ノエルがいる。女性陣は全員、同じ部屋に泊まっているようだ。
アニスが慌てて、少女が座るための椅子を出す。
「お構いなく」
少女に冷たくあしらわれ、アニスは後ずさりで席に戻った。
「で、用件はなんですかぁ?」
足をプラプラと揺らしながら、アニスが問いかける。頬が小さく膨れているが、少女は気付いていない。
「明日から、皆さんに同行させていただきたいのです。アッシュ様は別行動をとるそうです」
「構わないけれど……、どうして?」
「アッシュ様からのご命令です。理由は聞いていません」
ティアの質問に、少女は簡潔に答える。
部屋の面々は顔を見合わせて、首をひねった。
同行者が増えるということは、戦力も労働力も増えるということだ。少し前まで共に旅をしていたのだから、懸念はない。
だが、理由がわからないのは、なんとも心地が悪い。
「アッシュ様は一人がお好きですから。一匹狼というやつです」
怪訝そうな皆の態度を見て、少女は冗談めかして言った。厳密に言うと、少年は漆黒の翼と行動を共にしているから、一人ではないのだが。
「菜真絵って、冗談言うんだ」
アニスが眉を潜めながら、ぽつりとつぶやく。
場は和まなかったようだ。少女は肩を狭めて、小さく礼をした。
「すみません。用件は以上です」
……なんだか変な空気にしてしまった。少女はその場を去ろうと、ドアノブに手をかけようとする。
しかし、少女の手をナタリアが掴んだ。
「せっかくですから、もう少しここにいては? 時間もまだ早いですし」
そう言われて、断る理由はない。一人でやりたいこともない。
それに、久しぶりに会ったのだ。皆と話したい気持ちもある。……何を話したらいいのかは、わからないが。
「では、そうします」
少女は迷いながらも、アニスが先程出した椅子に座った。
「明日はどこへ向かうのですか?」
「導師から受け取った教団の禁書に、魔界の液状化を止める装置の構想が書かれていたの。装置の作成に協力してくれる技術者を探しに、研究所へ行くわ」
「ガイさんにツテがあるようです」
少女の質問に、ティアとノエルが答える。
この短い時間のあいだにも、ルークたちは新しい情報を手に入れているようだ。
「液状化を止める方法というのは?」
「ジェイドは地殻の振動を止めると言っていたわ」
少女は前のめりになりながら、神妙な面持ちで話を続ける。
その様子を見て、ナタリアは少女の目の前にコップとお茶菓子を差し出した。
「難しい話はこのあたりにして、今日は菜真絵とノエルと再会できたことを祝いましょう」
芳しい香りのするハーブティーと、木苺のジャムを挟んだクッキーが並ぶ。
教会で軟禁されているあいだは、絢爛豪華な食事が提供されていた。一方、バチカルへ向う船上では、薄い茶と硬いパンしか食べられなかった。
久しぶりの庶民的なお菓子だ。少女はほんのり微笑んで、クッキーを頬張る。
「甘いものが好きなのですね」
観察するようなナタリアの視線に、少女はなんだか恥ずかしくなって、下を向いた。
俯いたまま啜ったハーブティーも、とても美味しい。
「………なんでそんな急に仲良くなったの?」
もぐもぐと口を動かしながら、アニスが言う。質問をしているわりには、呆れの混ざった、興味なさげな声色だ。
「アッシュと菜真絵が助けに来てくれたから、私たちはこうして生きているのです。感謝をするのは当然ですわ」
「恋のライバルなのに〜?」
何気なく呟かれたアニスの言葉に、ナタリアと少女は動きを止める。
「アニスさん……」
ノエルがアニスを嗜める。まるで、言ってはいけないことを言ってしまったかのように。この態度を見るに、ノエルからも2人が恋のライバルに見えているのだとわかる。まだ出会ってからそれほど経っていないのに。
少女はひとつ咳払いをして、アニスを睨んだ。
「私はアッシュ様の部下に過ぎません、」
「ねね、どこが好きなの?」
少女の発言を意に介さず、アニスが畳み掛ける。
少女も、アニスの気持ちが理解できないわけではない。自分の言動が恋心を連想させるものであったことは自覚があるし、人の恋路は気になるものだ。
でも、認めるわけにはいかない。
「優しくて、真っ直ぐな人なのよね」
これまで黙っていたティアが、口を開いた。
死角から刺された。少女はそう思った。
それはユリアシティから地上に上る前、ルーク、ティア、ミュウに漏らしてしまった本音だった。
「あのですね!」
集まる皆の視線に耐えられず、少女は声を張って叫ぶ。
「アッシュ様とナタリアさんは、将来を誓い合った婚約者なんです。その間に割って入ろうだなんて、考えるわけないじゃないですか!」
やっと、再開できたのだ。やっと、遠い日の"約束"を覚えていると確かめ合うことができたのだ。
それを邪魔するなんて、そんな無粋なことができようか。
「確かに私はアッシュ様を尊敬しています。ですが、ナタリアさんのことも大切なんです。やっと、やっと再会できたのに、2人を邪魔するようなこと………」
気がつくと、全員が目を丸くして少女を見ていた。
自分は今、何を口走っていたのだろう。何を熱くなっていたのだろう。
少女は恥ずかしくなって、口に手をあてて俯いた。
「菜真絵…………」
ナタリアとも目を合わせられない。怒っているかもしれない。少女は覚悟していたが、少女の手にナタリアの手がそっと重ねられた。
「…………?」
「ずっと、私のことを気にかけてくれていたのですね。きっと、出会う前から」
少女が驚いて顔を上げれば、優しい瞳を携えたナタリアがいた。
「ありがとう、菜真絵」
「いえ、そんな、」
「私も、菜真絵のことが大切ですわ」
周りの面々はというと、丸くなっていた目を、さらにぱちぱちとさせている。
「もちろん、アッシュのことも、ルークのことも。それでいいではありませんか。ねえ、アニス?」
「えっ。う、うん………」
アニスは口をもにょもにょとさせながら、結局黙った。せっかく女性陣だけが集まっているから、からかってみようと思っただけなのに。よくわからないまま強制終了させられてしまった。
「本当に仲良くなったのね。ガイと3人でいたときに、何かあったの?」
「秘密ですわ」
ナタリアは少女に目配せする。
しかし、少女には心当たりがなかった。彼女に好かれるようなことをした覚えがない。
その一方で、少女もいつの間にか、ナタリアに特別な感情を抱くようになっていた。美しくて眩しくて、それが怖かったはずなのに。今は、そんな彼女を守りたい。
きっかけなんて、なくてもいいのかもしれない。
少女はぎこちなくウインクをして、いつもより数段明るい声で言った。
「はい、秘密です」