崩落編
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少女たちはケセドニアに到着した。
モースとアルマンダインの居所を探し、街を歩く。
「今だ!行け!」
ふいに背後から声がしたかと思えば、瞬く間に、少女はその両腕を神託の盾兵に拘束された。
10人はいるだろうか。大勢の兵士が少女を囲み、連れ去ろうとする。
ガイとナタリアは咄嗟に兵士たちの前に回り込み、立ちはだかった。
「何をするのです!菜真絵を返しなさい!」
「うるさい!菜真絵様を攫ったならず者が!」
神託の盾兵の話によると、少女は、イオンとナタリアをダアトから連れ出したあの時に、イオンと共に誘拐されたことになっているらしい。
セントビナー救出の際、ローレライ教団の詠師であるテオドーロと顔を合わせているが、それはモースに伝わっていないようだった。孫娘であるティアの意志を汲んで、黙っていてくれたのだろう。
「菜真絵様をお見かけしたらすぐに保護せよと、大詠師より命を受けておりました」
「ご無事で何よりです。菜真絵様」
兵士たちが甲斐甲斐しく少女をいたわる。少女は後悔した。大詠師モースに接触するのだから、警戒しておけばよかったと。
しかし、こうなってしまってはもう手遅れだ。騒ぎを承知で戦ったとしても、数では到底敵わない。
「ありがとうございます、みなさん」
少女は兵士たちを見回して、微笑む。
「この方々は、道案内をしてくださっただけなんです」
少女がそう言うと、神託の盾兵たちは剣を鞘に戻した。しかし、少女の腕の拘束が解けることはなかった。完全に信用されているわけではないらしい。
「お二人とも、私はもう大丈夫です。ありがとうございました」
「菜真絵様、ダアトに向かう船へ参りましょう、こちらへ」
少女はガイとナタリアに引きつった笑みを見せ、兵に促されるまま背を向けた。不要な戦闘は避けろというメッセージのつもりだ。
「………また、どこかで」
ガイが呟く。
その声を聞いて、少女は驚いた。あの冷たいガイが、そんなことを言うとは思わなかったからだ。
ケセドニアからダアトへ向かう船の内装は、見慣れたものだった。この世界に来て間もなく、少女が砂漠で拾われ、ダアトに送り届けられた際に乗ったものと同じ型式の船だ。
あのときと同じように、食卓に豪勢な食事が並ぶ。戦時下であることを忘れそうな光景だ。
道中では、まともなものは食べられなかった。
背徳感を感じながらも、少女は出された食事に手を付ける。
――美味しい。
「元気そうで何よりだ。導きの少女よ」
「モース様……!!」
少女が背後を振り向くと、柔らかい笑みを浮かべるモースと、イオンが立っていた。
「イオン様!」
何故イオンがここにいるのか。アニスはどうしたのか。少女は疑問に思ったが、モースの前でどこまで話してよいのかわからない。
少女は追求することなく、ただ苦笑いを浮かべた。
「食事の時間には間に合いましたな。導師が寄り道をするから大変でしたよ」
「すみません、エンゲーブの住民の避難の話だけは、どうしてもアスターに伝えておきたかったんです」
イオンがすこし説明口調で言う。遠回しに、少女へ状況を説明しているようだ。
エンゲーブの住民の避難は、順調に進んでいるらしい。
「菜真絵、ダアトでは、ヴァンの手先から守ってくれてありがとうございました」
なるほど、そういう設定にするのか。少女はイオンに目配せして、小さく頷いた。イオンが方便を使うのは、少し意外だった。
「教会の内部にも奴の協力者がいるようだ。怪しい奴は処分したが、お前も気をつけるのだぞ」
「はい。ご心配ありがとうございます」
「人質にでもされたらたまったものではないからな」
モースは預言を信じている。だからこそ、ヴァンの監視の下で少女が自由に行動することには寛容だった。しかしそのヴァンが教団を裏切り、預言の通りに事が進んでいないとなれば、話は違う。
少女の身柄は、政敵に利用されかねない。教団に閉じ込めておきたいと思うのが自然だろう。
もう、ルークたちに会うことはできないのだろうか。
そして、あの少年にも。
少女はこの先のことを想像して、目の前が真っ暗になった。ダアトに戻れば、もう二度と教会から出してもらえないだろう。世界の危機を、苦しむ人々の現状を知って、何もできないなんて。
「ごちそうさまでした」
少女が手を合わせると、船員がすぐにやってきて、皿を片付け始めた。
「僕も、ごちそうさま。美味しかったです」
すぐにイオンが席を立ち上がり、何か言いたげに少女を見る。2人は言葉を交わさずに、少女の部屋に向かった。
「エンゲーブの住民の避難は上手くいったのですね」
「ええ、ですが、アルビオールで全員を運ぶのは難しくて………陸路で避難した住民には、犠牲が出てしまいました」
椅子に腰を掛けたイオンが、肩を落として言う。
ケセドニアにたどり着いたということは、一般市民を連れて戦場を横断したということだ。どれだけ注意を払っても、犠牲者を出さないことは難しいだろう。
「ガイとナタリアとは会うことができました。そちらの状況は聞いています」
「その………停戦交渉は、上手く行かなかったのですか?」
少女が問う。
あのモースの態度を見るに、交渉が通じたようには思えない。預言から外れた行動を取ったとあれば、普段と違う様子を見せるはずだ。
「はい。ナタリアがアルマンダインと交渉しましたが……」
「本人がいるのに、仇討ちが止められないだなんて」
「モースの説得で覆ってしまいました。……偽の王女のために停戦する必要はないと」
イオンの話によれば、ナタリアは誕生の際に取り替えられた子であり、王家の血筋を継いでいないとのことだった。モースがその証拠を持っており、キムラスカの重臣たちに提示したらしい。
「本当かどうかはわかりませんが」
「本当にしろ嘘にしろ、ナタリアさんが王女であることには変わりないのに……」
イオンに向けて言うでもなく、ぼんやりと少女は呟く。さも当たり前のように言う少女の様子に、イオンが少し困り顔で返す。
「王族というのは、血筋ありきのものですから」
少女の生まれた国では、政治の長は選ばれた人が"なる"ものだった。しかし、ここでは違う。なだめるようなイオンの声を聞いて、少女もまた困った顔をした。
「このままでは、戦地ごと崩落してしまいます」
「国王陛下に直接交渉するために、皆はバチカルに向かうとのことです」
まだ諦めたわけではない。それがわかり、少女は安堵した。しかし、すぐに不安が湧き上がる。偽の王女の烙印を押されたナタリアがバチカルに行けば、無事では済まないのではないだろうか。
「そうですね。ですから、アニスを護衛につかせています。信じるしかありません」
「イオン様は、ご自身の意志でここに来られたのですか?」
意図的にアニスを手放したとわかる言い回しに、少女は驚いた。てっきり、自分と同じように拐われたと思っていたからだ。
「ダアトに戻って、譜石を確認したいんです」
「それは、聖なる焔の光が、預言の通りに消滅しなかったからですか?」
「はい。それに、まだ僕の知らない秘預言がないか、確認したいんです」
預言に記されていた未来。
その時を迎えても、2人のルークは生きている。
預言が刻まれている譜石に、変化が生じているかもしれないと考えるのは自然なことだ。しかし、イオンの知らない秘預言とは何のことなのか。導師は教団の持つすべての情報を得ることができるはずなのに。
少女は首を傾げてイオンを見るが、彼はすぐに目を逸らした。何か隠している。少女はそれを感じ取ったが、だからこそ、それ以上何かを問うことはできなかった。
「………私は、これからどうすればよいのでしょう。きっと、ダアトでは身の自由がきかない」
少女が俯きながら呟く。
「菜真絵はどうしたいのですか?」
「…………」
責めるようなイオンの言葉に、少女はハッとする。弱音を吐いてしまった。皆辛くても前を向こうとしているのに、自分だけが、まだ変われていない。
自分は本当はどうしたいのだろう、どうなりたいのだろう。少女はイオンを見つめたまま、一度、深呼吸をした。
「世界を幸せに導きたいです。誰一人取り残さずに」
あの日、水の都で少年と誓った言葉。
少女はあれから、約束を破った。愛する少年を守るために、街を犠牲にした。戦争を止めるためにと、兵士たちを斬り捨てた。
だが、実際に失って、少女は痛感した。ただ一人だって、失うのは辛いのだ。見知らぬ人であっても、苦しむ姿を見るのは辛いのだ。
自分が望む未来は、あの日と変わらない。人々が、平等に、平和に、幸福に過ごし、笑い合う世界。
少女の目に光が戻ったのを見て、イオンは微笑んだ。
「ええ。きっと、菜真絵にしかできないことがあるはずです。諦めてはいけません」
「はい、イオン様」
少女は両手で拳を作り、胸の前に構えた。
モースとアルマンダインの居所を探し、街を歩く。
「今だ!行け!」
ふいに背後から声がしたかと思えば、瞬く間に、少女はその両腕を神託の盾兵に拘束された。
10人はいるだろうか。大勢の兵士が少女を囲み、連れ去ろうとする。
ガイとナタリアは咄嗟に兵士たちの前に回り込み、立ちはだかった。
「何をするのです!菜真絵を返しなさい!」
「うるさい!菜真絵様を攫ったならず者が!」
神託の盾兵の話によると、少女は、イオンとナタリアをダアトから連れ出したあの時に、イオンと共に誘拐されたことになっているらしい。
セントビナー救出の際、ローレライ教団の詠師であるテオドーロと顔を合わせているが、それはモースに伝わっていないようだった。孫娘であるティアの意志を汲んで、黙っていてくれたのだろう。
「菜真絵様をお見かけしたらすぐに保護せよと、大詠師より命を受けておりました」
「ご無事で何よりです。菜真絵様」
兵士たちが甲斐甲斐しく少女をいたわる。少女は後悔した。大詠師モースに接触するのだから、警戒しておけばよかったと。
しかし、こうなってしまってはもう手遅れだ。騒ぎを承知で戦ったとしても、数では到底敵わない。
「ありがとうございます、みなさん」
少女は兵士たちを見回して、微笑む。
「この方々は、道案内をしてくださっただけなんです」
少女がそう言うと、神託の盾兵たちは剣を鞘に戻した。しかし、少女の腕の拘束が解けることはなかった。完全に信用されているわけではないらしい。
「お二人とも、私はもう大丈夫です。ありがとうございました」
「菜真絵様、ダアトに向かう船へ参りましょう、こちらへ」
少女はガイとナタリアに引きつった笑みを見せ、兵に促されるまま背を向けた。不要な戦闘は避けろというメッセージのつもりだ。
「………また、どこかで」
ガイが呟く。
その声を聞いて、少女は驚いた。あの冷たいガイが、そんなことを言うとは思わなかったからだ。
ケセドニアからダアトへ向かう船の内装は、見慣れたものだった。この世界に来て間もなく、少女が砂漠で拾われ、ダアトに送り届けられた際に乗ったものと同じ型式の船だ。
あのときと同じように、食卓に豪勢な食事が並ぶ。戦時下であることを忘れそうな光景だ。
道中では、まともなものは食べられなかった。
背徳感を感じながらも、少女は出された食事に手を付ける。
――美味しい。
「元気そうで何よりだ。導きの少女よ」
「モース様……!!」
少女が背後を振り向くと、柔らかい笑みを浮かべるモースと、イオンが立っていた。
「イオン様!」
何故イオンがここにいるのか。アニスはどうしたのか。少女は疑問に思ったが、モースの前でどこまで話してよいのかわからない。
少女は追求することなく、ただ苦笑いを浮かべた。
「食事の時間には間に合いましたな。導師が寄り道をするから大変でしたよ」
「すみません、エンゲーブの住民の避難の話だけは、どうしてもアスターに伝えておきたかったんです」
イオンがすこし説明口調で言う。遠回しに、少女へ状況を説明しているようだ。
エンゲーブの住民の避難は、順調に進んでいるらしい。
「菜真絵、ダアトでは、ヴァンの手先から守ってくれてありがとうございました」
なるほど、そういう設定にするのか。少女はイオンに目配せして、小さく頷いた。イオンが方便を使うのは、少し意外だった。
「教会の内部にも奴の協力者がいるようだ。怪しい奴は処分したが、お前も気をつけるのだぞ」
「はい。ご心配ありがとうございます」
「人質にでもされたらたまったものではないからな」
モースは預言を信じている。だからこそ、ヴァンの監視の下で少女が自由に行動することには寛容だった。しかしそのヴァンが教団を裏切り、預言の通りに事が進んでいないとなれば、話は違う。
少女の身柄は、政敵に利用されかねない。教団に閉じ込めておきたいと思うのが自然だろう。
もう、ルークたちに会うことはできないのだろうか。
そして、あの少年にも。
少女はこの先のことを想像して、目の前が真っ暗になった。ダアトに戻れば、もう二度と教会から出してもらえないだろう。世界の危機を、苦しむ人々の現状を知って、何もできないなんて。
「ごちそうさまでした」
少女が手を合わせると、船員がすぐにやってきて、皿を片付け始めた。
「僕も、ごちそうさま。美味しかったです」
すぐにイオンが席を立ち上がり、何か言いたげに少女を見る。2人は言葉を交わさずに、少女の部屋に向かった。
「エンゲーブの住民の避難は上手くいったのですね」
「ええ、ですが、アルビオールで全員を運ぶのは難しくて………陸路で避難した住民には、犠牲が出てしまいました」
椅子に腰を掛けたイオンが、肩を落として言う。
ケセドニアにたどり着いたということは、一般市民を連れて戦場を横断したということだ。どれだけ注意を払っても、犠牲者を出さないことは難しいだろう。
「ガイとナタリアとは会うことができました。そちらの状況は聞いています」
「その………停戦交渉は、上手く行かなかったのですか?」
少女が問う。
あのモースの態度を見るに、交渉が通じたようには思えない。預言から外れた行動を取ったとあれば、普段と違う様子を見せるはずだ。
「はい。ナタリアがアルマンダインと交渉しましたが……」
「本人がいるのに、仇討ちが止められないだなんて」
「モースの説得で覆ってしまいました。……偽の王女のために停戦する必要はないと」
イオンの話によれば、ナタリアは誕生の際に取り替えられた子であり、王家の血筋を継いでいないとのことだった。モースがその証拠を持っており、キムラスカの重臣たちに提示したらしい。
「本当かどうかはわかりませんが」
「本当にしろ嘘にしろ、ナタリアさんが王女であることには変わりないのに……」
イオンに向けて言うでもなく、ぼんやりと少女は呟く。さも当たり前のように言う少女の様子に、イオンが少し困り顔で返す。
「王族というのは、血筋ありきのものですから」
少女の生まれた国では、政治の長は選ばれた人が"なる"ものだった。しかし、ここでは違う。なだめるようなイオンの声を聞いて、少女もまた困った顔をした。
「このままでは、戦地ごと崩落してしまいます」
「国王陛下に直接交渉するために、皆はバチカルに向かうとのことです」
まだ諦めたわけではない。それがわかり、少女は安堵した。しかし、すぐに不安が湧き上がる。偽の王女の烙印を押されたナタリアがバチカルに行けば、無事では済まないのではないだろうか。
「そうですね。ですから、アニスを護衛につかせています。信じるしかありません」
「イオン様は、ご自身の意志でここに来られたのですか?」
意図的にアニスを手放したとわかる言い回しに、少女は驚いた。てっきり、自分と同じように拐われたと思っていたからだ。
「ダアトに戻って、譜石を確認したいんです」
「それは、聖なる焔の光が、預言の通りに消滅しなかったからですか?」
「はい。それに、まだ僕の知らない秘預言がないか、確認したいんです」
預言に記されていた未来。
その時を迎えても、2人のルークは生きている。
預言が刻まれている譜石に、変化が生じているかもしれないと考えるのは自然なことだ。しかし、イオンの知らない秘預言とは何のことなのか。導師は教団の持つすべての情報を得ることができるはずなのに。
少女は首を傾げてイオンを見るが、彼はすぐに目を逸らした。何か隠している。少女はそれを感じ取ったが、だからこそ、それ以上何かを問うことはできなかった。
「………私は、これからどうすればよいのでしょう。きっと、ダアトでは身の自由がきかない」
少女が俯きながら呟く。
「菜真絵はどうしたいのですか?」
「…………」
責めるようなイオンの言葉に、少女はハッとする。弱音を吐いてしまった。皆辛くても前を向こうとしているのに、自分だけが、まだ変われていない。
自分は本当はどうしたいのだろう、どうなりたいのだろう。少女はイオンを見つめたまま、一度、深呼吸をした。
「世界を幸せに導きたいです。誰一人取り残さずに」
あの日、水の都で少年と誓った言葉。
少女はあれから、約束を破った。愛する少年を守るために、街を犠牲にした。戦争を止めるためにと、兵士たちを斬り捨てた。
だが、実際に失って、少女は痛感した。ただ一人だって、失うのは辛いのだ。見知らぬ人であっても、苦しむ姿を見るのは辛いのだ。
自分が望む未来は、あの日と変わらない。人々が、平等に、平和に、幸福に過ごし、笑い合う世界。
少女の目に光が戻ったのを見て、イオンは微笑んだ。
「ええ。きっと、菜真絵にしかできないことがあるはずです。諦めてはいけません」
「はい、イオン様」
少女は両手で拳を作り、胸の前に構えた。