崩落編
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停戦を命じるために、ナタリア、ガイ、菜真絵はカイツールの国境地帯に足を踏み入れていた。この一帯は既にキムラスカの制圧下にある。
「セシル将軍!」
一隊を率いて出てきた金髪の女将軍に、ナタリアは大声で呼びかける。
少女にとっては見慣れない女性だったが、ナタリアと面識があるようで、ナタリアを一目見るなり、こちらに駆け寄ってきた。
「ナタリア殿下!?生きておいででしたか!!」
「そうです。わたくしも、そしてルークも生きています。もはや戦う理由はありません。今すぐ兵を退かせなさい」
だが、セシルは表情を固め、こう言った。
「お言葉ですが、私の一存ではできかねます。今作戦での総大将はアルマンダイン大将閣下ですので」
「ならば、アルマンダイン伯爵に取り次ぎなさい!」
「それが……アルマンダイン大将は大詠師モースと会談なさるためケセドニアに向かわれました」
どうやら、大詠師モースに仇討ちの許可を得るための行動らしい。
ナタリアの姿を見れば仇討ちの必要が無いことなどすぐにわかるというのに、総大将の帰還を待たなければならないなんて。そんなもどかしさからか、ナタリアは声を荒げる。
「では、アルマンダイン伯爵に会いに行きます!カイツールの港から船を出して……」
「戦時下の海路は危険です。殿下を船にお乗せするわけには参りません。殿下のことはカイツール港に伝令致しますので、迎えをお待ちください」
部下を待たせていたというセシルは、すぐに身を翻し、ナタリアたちの前から姿を消した。
話が通じているようで、通じていない。だが、軍人とはこういうものだ。上官の命令以外の情報は、無いものと同じように扱う。戦時下であれば尚更だ。
「カイツールに連れて行かれたら何もできなくなりますわ。陸路でケセドニアへ参りましょう!」
ナタリアが焦りを隠さずに言う。
「冗談じゃない。戦場を突き抜けるってのか?」
「それでもアルマンダイン伯爵には会えますわ」
ガイがそれを慌てて静止する。しかし、ナタリアの瞳は揺るがない。
菜真絵は、その案を肯定するか否定するか決めかねたまま、二人を見ていた。
このままカイツールにいても、アルマンダイン伯爵がいつ戻ってくるかわからない。しかし、戦争地帯を歩くには、死の危険が伴う。
ガイとナタリアはしばし睨み合った後、ガイが先にふっと肩をすくめた。
「……菜真絵、一緒にナタリアを守ってくれるかい?」
どうやら折れたらしい。3人中2人が賛成したとあれば、もう少女の意見は意味を持たない。
「もちろん」
少女はガイの問いかけに、間を置かず肯定を返した。停戦を呼びかけるためには、開戦の理由そのものであるナタリアを失うわけにはいかないからだ。しかし少女は、ガイが問いたかったのはそれだけではないように感じた。友の命を案じる、縋るような目をしていたからだ。
「…………ありがとう。よろしくお願いしますわ」
ナタリアが2人に呼びかける。
ケセドニアまでの、長い旅が始まった。
戦地は、想像を絶する悲惨な状況だった。
マルクト軍、キムラスカ軍、それぞれの兵士が入り乱れ、敵味方の区別もつかないまま砲撃を放っている。
地面には傷病者が十分な手当も受けないまま放り出され、ただ呻きながら死を待っていた。
ナタリア一行も、もちろん彼らの標的になる。
砲撃を避け、時には、襲いかかってきた兵士を倒す。それを繰り返しながら、歩みを進めていた。
「ナタリア!後ろ!」
戦闘中、ガイが叫ぶ。
少女がナタリアのほうを見やれば、倒れていたはずの兵士が立ち上がり、ナタリアに剣を振りかざしていた。血濡れた鎧を纏い、今にも倒れそうな足取りで。ナタリアは咄嗟に振り返り、矢を引く。しかし、ピタリと動かなくなった。
まずい。
少女はすぐに兵士の後ろに駆け寄り、その足を蹴飛ばした。兵士は、あっけなく地面に転がる。少女はその鎧の間から、首筋を狙って剣を刺した。鎧の中で、曇った水音が響く。
「ナタリア!」
別の兵士との交戦を終えたガイが、ナタリアと少女の元に駆け寄る。幸い、ナタリアは無傷だった。
「……ごめんなさい。わたくし……とどめを刺せませんでしたわ」
ナタリアは矢を地面に向け、項垂れている。
「……仕方ないさ。誰も好きで人を殺したりはしない」
ガイは言葉を慎重に選びながらナタリアを慰める。
少女はその姿をただ見ていた。仲間が苦しむ姿を見るのは辛い。だが、自分は慰める言葉を持っていない。何を言えば喜ぶのか、何を言えば悲しむのか、わからない。
「……そろそろ日が落ちます。今日はこの辺りで野営にしましょう」
精神が不安定な状態で、これ以上進むのは危険だ。
野営の提案が、少女にできる最大限の労りだった。
少女は道中で手に入れた野草や魔物の肉を使って、手早く料理を作った。
ナタリアは無言のままそれを食べる。ガイは、旨いな、とか、ありがとう、とか、話しながら食べている。
「ガイさん、今日は私とガイさんで、交代で見張りをしませんか?」
会話の中で、少女が提案する。
今のナタリアの様子を見てのことだったが、ナタリアは不服そうに少女を睨んだ。
「……2人だけに無理はさせられませんわ」
ナタリアは正義感が強く、平等を好む性分だ。誰かに負担が偏るのを良しとしないのも頷ける。しかし、いつもだったら、もっと強く否定していただろう。
やはりしっかりと休んだほうがいい。少女はそう思い、あえて厳しくナタリアを諭す。
「今のあなたに見張りを任せるほうが不安です」
「…………………」
返す言葉もない。ナタリアは言葉を詰まらせた。俯いて、拳を握る。しばらくして、少女のほうにゆっくりと向き直った。
「……………菜真絵は、平気なのですね」
嫌味だろうか。
確かに、少女はここまで一言も弱音を吐かなかったし、兵士たちの死を悼むような言葉も口にしなかった。しかし、あのナタリアが、こんなことを言うなんて。それほどまでに追い詰められているのだろう。
「ナタリア、」
見かねたガイがナタリアを諌めようとする。しかし、ここで2人が対立してしまっては困る。ガイの言葉を遮るように、少女は言った。
「こういうことには、慣れていますから」
少女は、だから自分を頼ってほしい、と伝えたかった。しかし、言葉足らずなその返答に、ナタリアは不安げに瞳を揺らす。
「慣れて………?」
「君に戦場の経験はないよな?」
ガイも追従するように問いかける。
少女は、しまった、と思った。少女が日常的に人を殺める任務を行っていたことは、モースとヴァンと六神将の面々しか知り得ないことだ。それなのに、慣れているなどという表現を使ってしまった。
当然、多くの人を殺めた経験があるのではないか、という疑問が生じる。自身を刺す2つの視線に、少女は耐えられなくなった。
「口が滑りました」
それすなわち、肯定である。
ガイは大げさに顔を歪めて言う。
「ローレライ教団に敵はいないはずだろ?何と戦うって言うんだ」
「預言で火事が起きると詠まれていたら、火を放つ。それが、神託の盾騎士団の役目です」
少女は観念した。口を滑らせたのは自分だ。
「未曾有の反映のためには、人殺しも辞さないってわけか。しかも、神託の盾兵に手を下させている、と。噂には聞いていたが………。最低だな。反吐が出る」
ガイは軽蔑の感情を隠すこともなく、少女を冷たい目で見詰める。
「……すみません」
「すまない。君を責めているわけじゃないんだ。モースの命令には逆らえないんだろう?」
「はい……」
少女が任務を遂行したのは、己の意志ではない。だが、罪のない人間に手をかけてきたのは、紛れもない事実だ。
少女はガイの気遣いを受け止めることができずに、目を逸らす。すると、視線の先のナタリアが呟いた。
「………今のわたくし達も、同じかもしれませんわね」
「ナタリア?」
「未曾有の反映のため、停戦のため、どちらも、民の幸せを願ってのことですわ。そしてどちらも、罪の無い民に犠牲を押し付けている……」
ナタリアの声は震えている。泣きそうだ。少女は反論しようとしたが、言葉を並べることができなかった。構造は同じなのかもしれない。ローレライ教団だって、富や名誉のために預言を守っているわけではない。「未曾有の繁栄」が世界にとっての幸福だと信じているのだ。
「違う!ここで停戦しなけりゃ、キムラスカ兵もマルクト兵も全滅するんだ。それに、俺達は決して犠牲が出てもいいなんて思っちゃいない」
「………そう、ですわね」
ガイがナタリアに大声で詰め寄る。
ガイの言っていることは正しい。だが、少女はそれに心から賛同することはできなかった。未来は予測不能であるから、停戦することが世界にとって本当の幸福であるかどうかは、まだわからない。それに、犠牲が出てもいいとは思っていないが、「犠牲が出ても仕方ない」とは思ってしまっている。
それなら、今、自分は何のために戦っているのだろう?
閉じていた思考回路が呼び起こされ、少女は、目眩のするような感覚に襲われる。
そんな少女に、ナタリアが話しかける。
「ごめんなさい、菜真絵。先程は守ってくれましたのに、酷いことを言って」
「………いえ、私こそ、キツい物言いをしてしまいました」
「今は、一人でも多くの命を救う事だけを考えます。リーダーとして頼りないですが、着いてきてくださいますか?」
ナタリアの瞳には、少しだけ光が戻っていた。
そうだ。目の前で死にゆく人々の中から、少しでもたくさんの人を救いたい。それだけなのだ。それが幸せかどうかわからなくても、死んでしまっては、何も無くなってしまうのだから。
そして、真っ直ぐな善意を持つこの姫を守ることが、自分の役目だ。
少女はキッと瞳を上げて、ナタリアを見た。
「もちろん、着いて行きます。そして必ず、あなたを守ります」
「ありがとう、菜真絵。それにガイも」
「少し落ち着いたみたいで良かったよ。今日はよく眠ってくれるかい?」
「ええ………。甘えさせていただきますわ」
苦しみながら、嘆きながら、ケセドニアまでの地獄の道を、3人は歩いた。
「セシル将軍!」
一隊を率いて出てきた金髪の女将軍に、ナタリアは大声で呼びかける。
少女にとっては見慣れない女性だったが、ナタリアと面識があるようで、ナタリアを一目見るなり、こちらに駆け寄ってきた。
「ナタリア殿下!?生きておいででしたか!!」
「そうです。わたくしも、そしてルークも生きています。もはや戦う理由はありません。今すぐ兵を退かせなさい」
だが、セシルは表情を固め、こう言った。
「お言葉ですが、私の一存ではできかねます。今作戦での総大将はアルマンダイン大将閣下ですので」
「ならば、アルマンダイン伯爵に取り次ぎなさい!」
「それが……アルマンダイン大将は大詠師モースと会談なさるためケセドニアに向かわれました」
どうやら、大詠師モースに仇討ちの許可を得るための行動らしい。
ナタリアの姿を見れば仇討ちの必要が無いことなどすぐにわかるというのに、総大将の帰還を待たなければならないなんて。そんなもどかしさからか、ナタリアは声を荒げる。
「では、アルマンダイン伯爵に会いに行きます!カイツールの港から船を出して……」
「戦時下の海路は危険です。殿下を船にお乗せするわけには参りません。殿下のことはカイツール港に伝令致しますので、迎えをお待ちください」
部下を待たせていたというセシルは、すぐに身を翻し、ナタリアたちの前から姿を消した。
話が通じているようで、通じていない。だが、軍人とはこういうものだ。上官の命令以外の情報は、無いものと同じように扱う。戦時下であれば尚更だ。
「カイツールに連れて行かれたら何もできなくなりますわ。陸路でケセドニアへ参りましょう!」
ナタリアが焦りを隠さずに言う。
「冗談じゃない。戦場を突き抜けるってのか?」
「それでもアルマンダイン伯爵には会えますわ」
ガイがそれを慌てて静止する。しかし、ナタリアの瞳は揺るがない。
菜真絵は、その案を肯定するか否定するか決めかねたまま、二人を見ていた。
このままカイツールにいても、アルマンダイン伯爵がいつ戻ってくるかわからない。しかし、戦争地帯を歩くには、死の危険が伴う。
ガイとナタリアはしばし睨み合った後、ガイが先にふっと肩をすくめた。
「……菜真絵、一緒にナタリアを守ってくれるかい?」
どうやら折れたらしい。3人中2人が賛成したとあれば、もう少女の意見は意味を持たない。
「もちろん」
少女はガイの問いかけに、間を置かず肯定を返した。停戦を呼びかけるためには、開戦の理由そのものであるナタリアを失うわけにはいかないからだ。しかし少女は、ガイが問いたかったのはそれだけではないように感じた。友の命を案じる、縋るような目をしていたからだ。
「…………ありがとう。よろしくお願いしますわ」
ナタリアが2人に呼びかける。
ケセドニアまでの、長い旅が始まった。
戦地は、想像を絶する悲惨な状況だった。
マルクト軍、キムラスカ軍、それぞれの兵士が入り乱れ、敵味方の区別もつかないまま砲撃を放っている。
地面には傷病者が十分な手当も受けないまま放り出され、ただ呻きながら死を待っていた。
ナタリア一行も、もちろん彼らの標的になる。
砲撃を避け、時には、襲いかかってきた兵士を倒す。それを繰り返しながら、歩みを進めていた。
「ナタリア!後ろ!」
戦闘中、ガイが叫ぶ。
少女がナタリアのほうを見やれば、倒れていたはずの兵士が立ち上がり、ナタリアに剣を振りかざしていた。血濡れた鎧を纏い、今にも倒れそうな足取りで。ナタリアは咄嗟に振り返り、矢を引く。しかし、ピタリと動かなくなった。
まずい。
少女はすぐに兵士の後ろに駆け寄り、その足を蹴飛ばした。兵士は、あっけなく地面に転がる。少女はその鎧の間から、首筋を狙って剣を刺した。鎧の中で、曇った水音が響く。
「ナタリア!」
別の兵士との交戦を終えたガイが、ナタリアと少女の元に駆け寄る。幸い、ナタリアは無傷だった。
「……ごめんなさい。わたくし……とどめを刺せませんでしたわ」
ナタリアは矢を地面に向け、項垂れている。
「……仕方ないさ。誰も好きで人を殺したりはしない」
ガイは言葉を慎重に選びながらナタリアを慰める。
少女はその姿をただ見ていた。仲間が苦しむ姿を見るのは辛い。だが、自分は慰める言葉を持っていない。何を言えば喜ぶのか、何を言えば悲しむのか、わからない。
「……そろそろ日が落ちます。今日はこの辺りで野営にしましょう」
精神が不安定な状態で、これ以上進むのは危険だ。
野営の提案が、少女にできる最大限の労りだった。
少女は道中で手に入れた野草や魔物の肉を使って、手早く料理を作った。
ナタリアは無言のままそれを食べる。ガイは、旨いな、とか、ありがとう、とか、話しながら食べている。
「ガイさん、今日は私とガイさんで、交代で見張りをしませんか?」
会話の中で、少女が提案する。
今のナタリアの様子を見てのことだったが、ナタリアは不服そうに少女を睨んだ。
「……2人だけに無理はさせられませんわ」
ナタリアは正義感が強く、平等を好む性分だ。誰かに負担が偏るのを良しとしないのも頷ける。しかし、いつもだったら、もっと強く否定していただろう。
やはりしっかりと休んだほうがいい。少女はそう思い、あえて厳しくナタリアを諭す。
「今のあなたに見張りを任せるほうが不安です」
「…………………」
返す言葉もない。ナタリアは言葉を詰まらせた。俯いて、拳を握る。しばらくして、少女のほうにゆっくりと向き直った。
「……………菜真絵は、平気なのですね」
嫌味だろうか。
確かに、少女はここまで一言も弱音を吐かなかったし、兵士たちの死を悼むような言葉も口にしなかった。しかし、あのナタリアが、こんなことを言うなんて。それほどまでに追い詰められているのだろう。
「ナタリア、」
見かねたガイがナタリアを諌めようとする。しかし、ここで2人が対立してしまっては困る。ガイの言葉を遮るように、少女は言った。
「こういうことには、慣れていますから」
少女は、だから自分を頼ってほしい、と伝えたかった。しかし、言葉足らずなその返答に、ナタリアは不安げに瞳を揺らす。
「慣れて………?」
「君に戦場の経験はないよな?」
ガイも追従するように問いかける。
少女は、しまった、と思った。少女が日常的に人を殺める任務を行っていたことは、モースとヴァンと六神将の面々しか知り得ないことだ。それなのに、慣れているなどという表現を使ってしまった。
当然、多くの人を殺めた経験があるのではないか、という疑問が生じる。自身を刺す2つの視線に、少女は耐えられなくなった。
「口が滑りました」
それすなわち、肯定である。
ガイは大げさに顔を歪めて言う。
「ローレライ教団に敵はいないはずだろ?何と戦うって言うんだ」
「預言で火事が起きると詠まれていたら、火を放つ。それが、神託の盾騎士団の役目です」
少女は観念した。口を滑らせたのは自分だ。
「未曾有の反映のためには、人殺しも辞さないってわけか。しかも、神託の盾兵に手を下させている、と。噂には聞いていたが………。最低だな。反吐が出る」
ガイは軽蔑の感情を隠すこともなく、少女を冷たい目で見詰める。
「……すみません」
「すまない。君を責めているわけじゃないんだ。モースの命令には逆らえないんだろう?」
「はい……」
少女が任務を遂行したのは、己の意志ではない。だが、罪のない人間に手をかけてきたのは、紛れもない事実だ。
少女はガイの気遣いを受け止めることができずに、目を逸らす。すると、視線の先のナタリアが呟いた。
「………今のわたくし達も、同じかもしれませんわね」
「ナタリア?」
「未曾有の反映のため、停戦のため、どちらも、民の幸せを願ってのことですわ。そしてどちらも、罪の無い民に犠牲を押し付けている……」
ナタリアの声は震えている。泣きそうだ。少女は反論しようとしたが、言葉を並べることができなかった。構造は同じなのかもしれない。ローレライ教団だって、富や名誉のために預言を守っているわけではない。「未曾有の繁栄」が世界にとっての幸福だと信じているのだ。
「違う!ここで停戦しなけりゃ、キムラスカ兵もマルクト兵も全滅するんだ。それに、俺達は決して犠牲が出てもいいなんて思っちゃいない」
「………そう、ですわね」
ガイがナタリアに大声で詰め寄る。
ガイの言っていることは正しい。だが、少女はそれに心から賛同することはできなかった。未来は予測不能であるから、停戦することが世界にとって本当の幸福であるかどうかは、まだわからない。それに、犠牲が出てもいいとは思っていないが、「犠牲が出ても仕方ない」とは思ってしまっている。
それなら、今、自分は何のために戦っているのだろう?
閉じていた思考回路が呼び起こされ、少女は、目眩のするような感覚に襲われる。
そんな少女に、ナタリアが話しかける。
「ごめんなさい、菜真絵。先程は守ってくれましたのに、酷いことを言って」
「………いえ、私こそ、キツい物言いをしてしまいました」
「今は、一人でも多くの命を救う事だけを考えます。リーダーとして頼りないですが、着いてきてくださいますか?」
ナタリアの瞳には、少しだけ光が戻っていた。
そうだ。目の前で死にゆく人々の中から、少しでもたくさんの人を救いたい。それだけなのだ。それが幸せかどうかわからなくても、死んでしまっては、何も無くなってしまうのだから。
そして、真っ直ぐな善意を持つこの姫を守ることが、自分の役目だ。
少女はキッと瞳を上げて、ナタリアを見た。
「もちろん、着いて行きます。そして必ず、あなたを守ります」
「ありがとう、菜真絵。それにガイも」
「少し落ち着いたみたいで良かったよ。今日はよく眠ってくれるかい?」
「ええ………。甘えさせていただきますわ」
苦しみながら、嘆きながら、ケセドニアまでの地獄の道を、3人は歩いた。