崩落編
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「よう、あんたたちか。俺のジェイドを連れ回して帰しちゃくれなかったのは」
椅子に深く腰掛けた皇帝は、まるで初対面とは思えない程馴れ馴れしく、ルーク一行に話しかけた。
「こいつ封印術なんて喰らいやがって。使えない奴で困ったろう?」
「いや……そんなことは……」
軽薄なその態度に、ルークは先程までの勢いをすっかり失ってしまった。おどおどと使い慣れない敬語で返事をする。
少女はジェイドとピオニーを交互に見た。一国の王、と、聞けば不自然だが、あのカーティス大佐の上司だと考えると、この性格は妙にしっくりくる。
「陛下。客人を戸惑わせてどうされますか」
見かねたジェイドが口を挟むと、皇帝は前を向き、声のトーンを幾分か低くして話し始めた。
「ジェイドから大方の話は聞いている」
「セントビナーが魔界に崩落する恐れがあります。住民を避難させてください」
ルークとナタリアが真剣な表情で訴えるが、ピオニーは首を縦に振らない。
「そうしてやりたいのは山々だが、議会では渋る声が多くてな」
国民の命を守るためなのに、なぜできないのか。ナタリアがそう問えば、王座の右に立つ、ノルドハイム将軍が答えた。
「キムラスカ・ランバルディアから声明があったのだ」
左に立つ参謀総長のゼーゼマンが言葉を継ぐ。
「『王女ナタリアと第三王位継承者ルークを亡き者にせんと、アクゼリュスごと消滅を謀ったマルクトに対し、遺憾の意を表し、強く抗議する。そしてローレライとユリアの名のもと、直ちに制裁を加えるであろう』、とな」
キムラスカからマルクトへの宣戦布告だ。
ここにいる面々やヴァンは真実を知っているが、キムラスカ政府から見れば、アクゼリュス崩落は他でもない敵国、マルクトの仕業に見えるだろう。もし真実を知ったとしても、第三王位継承者のルークが街を滅ぼしたなどと認めるわけにはいかない。この宣戦布告は必然のものだ。
「父は誤解をしているのですわ!」
ナタリアが咄嗟に叫ぶが、それを黙らせるように、ノルドハイム将軍はナタリアを睨んだ。
「果たして誤解であろうか、ナタリア姫。我らは、キムラスカが戦争の口実にアクゼリュスを消滅させたと考えている」
キムラスカとマルクトの領土争いは近年膠着状態だが、決して無くなったわけではない。常に互いを睨み合い、領土を奪う機会を窺っている。
だからこそ、いつ敵国が攻めてきても良いように、首都グランコクマは要塞の形をとっている。
キムラスカが戦争の口実に何をしたっておかしくない……、と議員たちが考えるのは、ごく自然なことである。
「……救助に向かった軍隊ごと、セントビナーを沈められる事を恐れているのですね」
「そういうことだ」
菜真絵が問えば、ピオニーは深く頷いた。すると、ルークとナタリアは何かを思いついたように顔を見合わせた。
「だったら、セントビナーの救出は、俺たちに行かせてください」
「私からもお願いします。それなら不測の事態にも、マルクト軍は巻き込まれないはずですわ」
必死に訴えかける二人を見て、ピオニーはわざとらしく驚いた仕草を見せ、直後、満足げに微笑んだ。
「と、いうことらしい」
ピオニーが周囲の部下たちに問いかける。
両脇を固めていた将軍と参謀総長は、呆れたように、でもどこか嬉しそうに溜息をついた。
「セントビナーの救出は私の部隊とルークたちで行い、北上してくるキムラスカ軍は、ノルドハイム将軍が牽制なさるのがよろしいかと愚考しますが」
ジェイドが畳み掛けるように提案する。ノルドハイムは、溜息をそのまま笑い声に変えた。
「小生意気を言いおって。まあよかろう。その方向で議会に働きかけておきましょうかな」
「恩に着るぜ、じーさん」
百戦錬磨の軍人たちの軽快な会話についていけず、ルークはキョロキョロと辺りを見回す。どうなったのだろう。話は上手くまとまっただろうか。
そんな不安げなルークの表情を読み取ってか、ピオニーは王座を降り、ルークの前まで歩いた。
「……俺の大事な国民だ。救出に力を貸して欲しい。頼む」
青い瞳で、ルークを見つめる。
傍から見ていた少女にも、彼が本気で民の身を案じているのだとわかる程、その視線は真っ直ぐだった。
「全力を尽くします」
ルークはその瞳を見つめ返し、強く頷いた。
セントビナーを目指す前に、少女たちはグランコクマホテルの門を叩いた。ここでイオンがガイの解呪をしているらしい。
ガイの体は大丈夫なのか、何故ルークを襲ったのか……。言葉を交わさなくても、皆同じ事を考え、足取りが重くなっていた。
「解呪に成功したようです。中へどうぞ」
部屋の前を見張っていた兵士がそう告げる。扉が開くと、ベッドの上に座るガイの姿が見えた。顔色は良さそうだ。ベッドの横にはイオンとアニスが並んで立っている。
「ガイ!ごめん……」
部屋に入るなり、ルークはガイの名を呼び、頭を下げた。
自分はガイに殺したいほど憎まれるような何かをしてしまった。そう思ってのことだろう。
しかし、ガイはきょとんと目を丸くして、ルークに頭を上げるよう促した。
「俺……きっとお前に嫌な思いさせてたんだろ。だから……」
「ははははっ、なんだそれ。……お前のせいじゃないよ」
不安げなルークをよそに、ガイは腕を組んで笑う。そして、しばらく悩むような素振りを見せた後、語り始めた。
「俺は、マルクトの人間なんだ」
「――ガルディオス伯爵家、ガイラルディア・ガラン、ですね」
「……うぉっと。ご存知だったって訳か」
「ちょっと気になったので、調べさせてもらいました」
いつからかは不明だが、ジェイドは彼の素性を知っていたらしい。
ガルディオス伯爵家は、マルクト領ホドに領地を持つ貴族だった。しかし、ホド戦争で攻め落とされ、ガイの家族は皆、命を落としてしまった。
その時にホドを攻めたのが、ルークの父であるファブレ公爵だったそうだ。
ファブレ公爵家に使用人として勤めているのは、復讐のためだったのである。
少女は話を聞きながら、以前の出来事を思い浮かべた。
アラミス湧水洞で初めて会ったとき、ガイは妙に冷ややかな態度を取っていた。アッシュに差し向けられたスパイではないかと疑われた事もあった。
あの時は、出会ったばかりの人間を信用できないのは当たり前だと納得したが、そういうことではなかったのだ。
ガイは、レプリカルークよりも、オリジナルのルークを強く恨んでいる。
少女はその事実に気がつき、胸を痛めた。きっとあの赤髪の少年は、使用人に恨まれているだなんて思いもしなかっただろう。この事を知ったら、彼は傷つくだろうか。
「……わたくし、お父様には何も言いませんわ」
「俺だって!」
「……すまないな」
少女の目の前では、幼馴染たちが励まし合っている。仇の息子のレプリカと、仇の姪。相容れないはずの彼らが、友情を育み、笑い合う姿は美しい。
だが、オリジナルルークはその中にいない。レプリカとの間には友情を育むことができたのに、何故、ガイはオリジナルに憎悪を向けるのだろう。
少女はそこまで考えて、はっと我に帰った。もう二度と会わないかもしれない上司のことを案じて、どうなるというのだ。
「よかった。お二人が喧嘩されるんじゃないかって、ひやひやしてました」
イオンが胸を撫で下ろす。そうだ。ガイの体調は回復し、仲間に亀裂も生まれなかった。これで大団円なのだ。
「さて。いい感じに落ち着いたようですし、そろそろセントビナーへ向かいましょうか」
今はセントビナーを救うことさえ考えていればいい。
少女はそう思い直して、頬をつねりながら、歩きだす一同の後を追った。
椅子に深く腰掛けた皇帝は、まるで初対面とは思えない程馴れ馴れしく、ルーク一行に話しかけた。
「こいつ封印術なんて喰らいやがって。使えない奴で困ったろう?」
「いや……そんなことは……」
軽薄なその態度に、ルークは先程までの勢いをすっかり失ってしまった。おどおどと使い慣れない敬語で返事をする。
少女はジェイドとピオニーを交互に見た。一国の王、と、聞けば不自然だが、あのカーティス大佐の上司だと考えると、この性格は妙にしっくりくる。
「陛下。客人を戸惑わせてどうされますか」
見かねたジェイドが口を挟むと、皇帝は前を向き、声のトーンを幾分か低くして話し始めた。
「ジェイドから大方の話は聞いている」
「セントビナーが魔界に崩落する恐れがあります。住民を避難させてください」
ルークとナタリアが真剣な表情で訴えるが、ピオニーは首を縦に振らない。
「そうしてやりたいのは山々だが、議会では渋る声が多くてな」
国民の命を守るためなのに、なぜできないのか。ナタリアがそう問えば、王座の右に立つ、ノルドハイム将軍が答えた。
「キムラスカ・ランバルディアから声明があったのだ」
左に立つ参謀総長のゼーゼマンが言葉を継ぐ。
「『王女ナタリアと第三王位継承者ルークを亡き者にせんと、アクゼリュスごと消滅を謀ったマルクトに対し、遺憾の意を表し、強く抗議する。そしてローレライとユリアの名のもと、直ちに制裁を加えるであろう』、とな」
キムラスカからマルクトへの宣戦布告だ。
ここにいる面々やヴァンは真実を知っているが、キムラスカ政府から見れば、アクゼリュス崩落は他でもない敵国、マルクトの仕業に見えるだろう。もし真実を知ったとしても、第三王位継承者のルークが街を滅ぼしたなどと認めるわけにはいかない。この宣戦布告は必然のものだ。
「父は誤解をしているのですわ!」
ナタリアが咄嗟に叫ぶが、それを黙らせるように、ノルドハイム将軍はナタリアを睨んだ。
「果たして誤解であろうか、ナタリア姫。我らは、キムラスカが戦争の口実にアクゼリュスを消滅させたと考えている」
キムラスカとマルクトの領土争いは近年膠着状態だが、決して無くなったわけではない。常に互いを睨み合い、領土を奪う機会を窺っている。
だからこそ、いつ敵国が攻めてきても良いように、首都グランコクマは要塞の形をとっている。
キムラスカが戦争の口実に何をしたっておかしくない……、と議員たちが考えるのは、ごく自然なことである。
「……救助に向かった軍隊ごと、セントビナーを沈められる事を恐れているのですね」
「そういうことだ」
菜真絵が問えば、ピオニーは深く頷いた。すると、ルークとナタリアは何かを思いついたように顔を見合わせた。
「だったら、セントビナーの救出は、俺たちに行かせてください」
「私からもお願いします。それなら不測の事態にも、マルクト軍は巻き込まれないはずですわ」
必死に訴えかける二人を見て、ピオニーはわざとらしく驚いた仕草を見せ、直後、満足げに微笑んだ。
「と、いうことらしい」
ピオニーが周囲の部下たちに問いかける。
両脇を固めていた将軍と参謀総長は、呆れたように、でもどこか嬉しそうに溜息をついた。
「セントビナーの救出は私の部隊とルークたちで行い、北上してくるキムラスカ軍は、ノルドハイム将軍が牽制なさるのがよろしいかと愚考しますが」
ジェイドが畳み掛けるように提案する。ノルドハイムは、溜息をそのまま笑い声に変えた。
「小生意気を言いおって。まあよかろう。その方向で議会に働きかけておきましょうかな」
「恩に着るぜ、じーさん」
百戦錬磨の軍人たちの軽快な会話についていけず、ルークはキョロキョロと辺りを見回す。どうなったのだろう。話は上手くまとまっただろうか。
そんな不安げなルークの表情を読み取ってか、ピオニーは王座を降り、ルークの前まで歩いた。
「……俺の大事な国民だ。救出に力を貸して欲しい。頼む」
青い瞳で、ルークを見つめる。
傍から見ていた少女にも、彼が本気で民の身を案じているのだとわかる程、その視線は真っ直ぐだった。
「全力を尽くします」
ルークはその瞳を見つめ返し、強く頷いた。
セントビナーを目指す前に、少女たちはグランコクマホテルの門を叩いた。ここでイオンがガイの解呪をしているらしい。
ガイの体は大丈夫なのか、何故ルークを襲ったのか……。言葉を交わさなくても、皆同じ事を考え、足取りが重くなっていた。
「解呪に成功したようです。中へどうぞ」
部屋の前を見張っていた兵士がそう告げる。扉が開くと、ベッドの上に座るガイの姿が見えた。顔色は良さそうだ。ベッドの横にはイオンとアニスが並んで立っている。
「ガイ!ごめん……」
部屋に入るなり、ルークはガイの名を呼び、頭を下げた。
自分はガイに殺したいほど憎まれるような何かをしてしまった。そう思ってのことだろう。
しかし、ガイはきょとんと目を丸くして、ルークに頭を上げるよう促した。
「俺……きっとお前に嫌な思いさせてたんだろ。だから……」
「ははははっ、なんだそれ。……お前のせいじゃないよ」
不安げなルークをよそに、ガイは腕を組んで笑う。そして、しばらく悩むような素振りを見せた後、語り始めた。
「俺は、マルクトの人間なんだ」
「――ガルディオス伯爵家、ガイラルディア・ガラン、ですね」
「……うぉっと。ご存知だったって訳か」
「ちょっと気になったので、調べさせてもらいました」
いつからかは不明だが、ジェイドは彼の素性を知っていたらしい。
ガルディオス伯爵家は、マルクト領ホドに領地を持つ貴族だった。しかし、ホド戦争で攻め落とされ、ガイの家族は皆、命を落としてしまった。
その時にホドを攻めたのが、ルークの父であるファブレ公爵だったそうだ。
ファブレ公爵家に使用人として勤めているのは、復讐のためだったのである。
少女は話を聞きながら、以前の出来事を思い浮かべた。
アラミス湧水洞で初めて会ったとき、ガイは妙に冷ややかな態度を取っていた。アッシュに差し向けられたスパイではないかと疑われた事もあった。
あの時は、出会ったばかりの人間を信用できないのは当たり前だと納得したが、そういうことではなかったのだ。
ガイは、レプリカルークよりも、オリジナルのルークを強く恨んでいる。
少女はその事実に気がつき、胸を痛めた。きっとあの赤髪の少年は、使用人に恨まれているだなんて思いもしなかっただろう。この事を知ったら、彼は傷つくだろうか。
「……わたくし、お父様には何も言いませんわ」
「俺だって!」
「……すまないな」
少女の目の前では、幼馴染たちが励まし合っている。仇の息子のレプリカと、仇の姪。相容れないはずの彼らが、友情を育み、笑い合う姿は美しい。
だが、オリジナルルークはその中にいない。レプリカとの間には友情を育むことができたのに、何故、ガイはオリジナルに憎悪を向けるのだろう。
少女はそこまで考えて、はっと我に帰った。もう二度と会わないかもしれない上司のことを案じて、どうなるというのだ。
「よかった。お二人が喧嘩されるんじゃないかって、ひやひやしてました」
イオンが胸を撫で下ろす。そうだ。ガイの体調は回復し、仲間に亀裂も生まれなかった。これで大団円なのだ。
「さて。いい感じに落ち着いたようですし、そろそろセントビナーへ向かいましょうか」
今はセントビナーを救うことさえ考えていればいい。
少女はそう思い直して、頬をつねりながら、歩きだす一同の後を追った。