崩落編
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少女達はマルクト兵に連れられ、グランコクマの入口まで来ていた。
不審者として捕まってしまったのだ、牢に入れられるかもしれない。一同はそう覚悟していたが、実際には、マルクト軍のフリングス少将が身柄を引き取ってくれた。
「騒ぎを起こしてしまって申し訳ありません」
「いえ、同胞を助けていただきありがとうございます。ですが、皇帝陛下に謁見するまでは皆さんを捕虜扱いとさせていただきます」
「そんなのはいいよ!それよかガイが!仲間が倒れちまって……」
ルークが身を乗り出して、フリングスに訴える。その肩には、ぐったりとうなだれたガイが抱えられていた。
「彼はカースロットに掛けられています。どこか安静に出来る場所を貸して下されば、僕が解呪します」
フリングスが返事をする前に、イオンが前に出る。
「お前、これを何とか出来るのか?」
「というより、僕にしか解けないでしょう。これは本来、導師にしか伝えられていないダアト式譜術の一つですから」
「わかりました」
イオンの真剣な表情を見て、フリングスは快く承諾した。宿を取ってくれるようだ。2人の兵士がルークからガイを受け取り、イオンを宿へと案内しようとする。歩き出そうかという時に、アニスが慌てて声をあげた。
「私も行きますっ!イオン様の護衛なんですから」
「待てよ!俺も一緒に……!」
そう言いかけたルークに、イオンが険しい表情を向ける。
「……ルーク。いずれ分かることですから、今、お話しておきます。カースロットというのは、けして意のままに相手を操れる術ではないんです」
「……どういうことだ?」
「カースロットは、記憶を揺り起こし理性を麻痺させる術。つまり……元々ガイに、あなたへの強い殺意がなければ攻撃するような真似は出来ない。……そういうことです」
イオンから発せられた衝撃的な言葉に、一同は声も出せなかった。辺りが静まり返る。ルークがぐらりとよろめくが、誰も支える事ができない。
「……そ、そんな……」
「解呪が済むまで、ガイに近寄ってはいけません」
イオンはそう言い残して、アニスや兵士達と共に宿屋へ向かった。
立ち尽くすルークを見て、ナタリアが声をかける。
「ルーク。月並みですけれど、どうか気を落とさないで。ガイがあなたを本気で殺そうだなんて思っているはずがありませんわ」
「――うるさい!」
ルークに怒鳴られ、ナタリアは口をつぐんだ。驚いたような、泣き出しそうな、不安定な瞳でルークを見る。
ルークはハッとして、仲間たちに背を向けた。
「……ちょっと一人にしてくれ」
ルークはそのまま、よろよろと街に消えていった。
残された面々は、しばらく街を散策する事にした。
少女は、ルークに見つからないようにと噴水の影に隠れていた。
ナタリアの呼びかけにすら応えなかったのだ。少女が声をかけたところで、ルークの気は晴れないだろう。
見覚えのある噴水だ。赤髪の少年と、ここで話をしたことがある。あの時も、気晴らしのためにと街を歩いていたんだっけ。
「美しいですわね」
「ナタリアさん」
少女が振り返ると、そこにはナタリアがいた。寂しそうに左手を胸に当て、服をぎゅっと掴んでいる。
「ごめんなさい。一人では心細くて」
「いえ」
次の言葉が出てこない。少女は眉を下げ、首を傾げた。
ガイがルークを恨んでいるわけがない。そう言って元気づけるべきか、それとも、全く関係ない話をするべきか。不器用な少女には、答えが出せなかった。
2人でただ噴水を見つめる。水が落ちては、また戻っていく。たまに、ぴちゃりと音を立て、水しぶきが飛んでくる。ただの噴水だというのに、どこか神秘的だ。
「菜真絵はこの旅に慣れましたか?」
ナタリアが口を開く。どうやら、関係のない話をするつもりのようだ。少女はどう答えようかと頭をひねる。
慣れてなどいない。毎日が必死で、心が休まるときは来ない。しかし少女は、この旅を、この仲間達と共にいることを、苦には感じていなかった。
「私は、預言の無い世界から来ました」
「?」
何の話が始まったのだろう。そう言いたげに、ナタリアは目をパチパチさせている。一方の少女は、ナタリアに向き直って、微笑んだ。
「だから、預言に頼らず生きる皆さんを見ていると、元気が出ます」
回答になっているだろうか。少女は不安になりながらも、ナタリアの反応を待った。
少女が口に出した事は、紛れもない本心だ。預言に支配されたこの世界にも、自分の正義を持つ人たちがいる。そう思えるだけで、この張りつめた日々に光が差し込んだようだった。
しばらくの沈黙のあと、ナタリアは驚いたように口を開く。
「菜真絵にとって、教団は息の詰まる場所だったのですね」
「改めてそう言われると……」
「わかります。私も城に閉じこもっているのは窮屈でしたから」
意外だ。バチカルで見た彼女は、とても輝いていたのに。
少女はそう思ったが、口には出さずナタリアを見た。あのとき見たドレスとは違って、動きやすそうな服を着ている。靴の先は土で汚れ、裾は少しよれてしまっている。それでも胸を張って言うのだから、本当なのだろう。
「どうしてですか?」
「民がどんな暮らしをしているのか、この目で直接見たいではありませんか」
ナタリアはそう言うと、噴水の向こうを見た。ゆらゆらと街の景色が揺れている。その視線があまりにも優しくて、少女は息を飲んだ。
似ている。あの日ここで見た、オールドラントの行く末を思う少年と。
少女は理解した。
7年前、あるいはもっと昔から、ナタリアと少年は同じ理想を分かち合っていたのだ。民の、国の、世界の繁栄を、二人で願っていたのだ。
自分の命を犠牲にしてでもアクぜリュスを守ろうとした少年の真っ直ぐな正義は、この美しい王女と光の王都で養ったものだったのだ。
「…………」
敵わない。どれだけ時間を過ごしても、知ったつもりになっても。なぜなら、少年の全てが彼女の中にあるのだから。
そう痛感して、少女は声も出せなくなった。
(そもそも、勝ち取ろうなんて思ってないはずなのに)
どうしても自分とナタリアを比べてしまう。そんな己の小ささに、少女は辟易した。劣等感が膨らんでは、心を濁らせていく。それが肺に届いて、息ができなくなる。
「菜真絵?」
「…………あ」
少女がハッとして前を見ると、自分を覗き込むナタリアの姿があった。
このまま黙っていては心配をかけてしまう。ただでさえ彼女は落ち込んでいるというのに。なにか、なにか言わなければ。
少女は体に思い切り力を入れて、無理矢理微笑んだ。
「……ナタリアさんのような方が国を率いるのですから、キムラスカは安泰ですね」
「預言の無い世界から来た貴女に言われると、本当にそう思えてきますわね」
「本当ですよ。きっと、この困難も乗り越えられます」
少女は力んだまま、手を差し出した。嘘はついていない。ただ、気持ちを隠しただけ。
なのに、手を握り返すナタリアの笑顔を見ていると、悪いことをしているような気分になる。
「ナタリア、菜真絵!」
握手を交わす二人の間に、明るい声が飛んできた。ルークだ。先程までの落ち込んだ姿が嘘のように、元気に手を振っている。
「早くピオニー陛下のところへ行こうぜ!」
もう大丈夫なのか?
少女はルークにそう問いかけようとしたが、彼の肩の向こうに見える仲間の姿を見て、やめた。
やっぱり、隠れていてよかった。自分じゃ、こうはできなかっただろうから。
「もう、なんですの。一人にして欲しいと言ったのはルークですのに」
ナタリアはやれやれと呆れながら、それでいてどこか嬉しそうに、ルークの後を追いかけた。
少女もまた、その後を追った。
不審者として捕まってしまったのだ、牢に入れられるかもしれない。一同はそう覚悟していたが、実際には、マルクト軍のフリングス少将が身柄を引き取ってくれた。
「騒ぎを起こしてしまって申し訳ありません」
「いえ、同胞を助けていただきありがとうございます。ですが、皇帝陛下に謁見するまでは皆さんを捕虜扱いとさせていただきます」
「そんなのはいいよ!それよかガイが!仲間が倒れちまって……」
ルークが身を乗り出して、フリングスに訴える。その肩には、ぐったりとうなだれたガイが抱えられていた。
「彼はカースロットに掛けられています。どこか安静に出来る場所を貸して下されば、僕が解呪します」
フリングスが返事をする前に、イオンが前に出る。
「お前、これを何とか出来るのか?」
「というより、僕にしか解けないでしょう。これは本来、導師にしか伝えられていないダアト式譜術の一つですから」
「わかりました」
イオンの真剣な表情を見て、フリングスは快く承諾した。宿を取ってくれるようだ。2人の兵士がルークからガイを受け取り、イオンを宿へと案内しようとする。歩き出そうかという時に、アニスが慌てて声をあげた。
「私も行きますっ!イオン様の護衛なんですから」
「待てよ!俺も一緒に……!」
そう言いかけたルークに、イオンが険しい表情を向ける。
「……ルーク。いずれ分かることですから、今、お話しておきます。カースロットというのは、けして意のままに相手を操れる術ではないんです」
「……どういうことだ?」
「カースロットは、記憶を揺り起こし理性を麻痺させる術。つまり……元々ガイに、あなたへの強い殺意がなければ攻撃するような真似は出来ない。……そういうことです」
イオンから発せられた衝撃的な言葉に、一同は声も出せなかった。辺りが静まり返る。ルークがぐらりとよろめくが、誰も支える事ができない。
「……そ、そんな……」
「解呪が済むまで、ガイに近寄ってはいけません」
イオンはそう言い残して、アニスや兵士達と共に宿屋へ向かった。
立ち尽くすルークを見て、ナタリアが声をかける。
「ルーク。月並みですけれど、どうか気を落とさないで。ガイがあなたを本気で殺そうだなんて思っているはずがありませんわ」
「――うるさい!」
ルークに怒鳴られ、ナタリアは口をつぐんだ。驚いたような、泣き出しそうな、不安定な瞳でルークを見る。
ルークはハッとして、仲間たちに背を向けた。
「……ちょっと一人にしてくれ」
ルークはそのまま、よろよろと街に消えていった。
残された面々は、しばらく街を散策する事にした。
少女は、ルークに見つからないようにと噴水の影に隠れていた。
ナタリアの呼びかけにすら応えなかったのだ。少女が声をかけたところで、ルークの気は晴れないだろう。
見覚えのある噴水だ。赤髪の少年と、ここで話をしたことがある。あの時も、気晴らしのためにと街を歩いていたんだっけ。
「美しいですわね」
「ナタリアさん」
少女が振り返ると、そこにはナタリアがいた。寂しそうに左手を胸に当て、服をぎゅっと掴んでいる。
「ごめんなさい。一人では心細くて」
「いえ」
次の言葉が出てこない。少女は眉を下げ、首を傾げた。
ガイがルークを恨んでいるわけがない。そう言って元気づけるべきか、それとも、全く関係ない話をするべきか。不器用な少女には、答えが出せなかった。
2人でただ噴水を見つめる。水が落ちては、また戻っていく。たまに、ぴちゃりと音を立て、水しぶきが飛んでくる。ただの噴水だというのに、どこか神秘的だ。
「菜真絵はこの旅に慣れましたか?」
ナタリアが口を開く。どうやら、関係のない話をするつもりのようだ。少女はどう答えようかと頭をひねる。
慣れてなどいない。毎日が必死で、心が休まるときは来ない。しかし少女は、この旅を、この仲間達と共にいることを、苦には感じていなかった。
「私は、預言の無い世界から来ました」
「?」
何の話が始まったのだろう。そう言いたげに、ナタリアは目をパチパチさせている。一方の少女は、ナタリアに向き直って、微笑んだ。
「だから、預言に頼らず生きる皆さんを見ていると、元気が出ます」
回答になっているだろうか。少女は不安になりながらも、ナタリアの反応を待った。
少女が口に出した事は、紛れもない本心だ。預言に支配されたこの世界にも、自分の正義を持つ人たちがいる。そう思えるだけで、この張りつめた日々に光が差し込んだようだった。
しばらくの沈黙のあと、ナタリアは驚いたように口を開く。
「菜真絵にとって、教団は息の詰まる場所だったのですね」
「改めてそう言われると……」
「わかります。私も城に閉じこもっているのは窮屈でしたから」
意外だ。バチカルで見た彼女は、とても輝いていたのに。
少女はそう思ったが、口には出さずナタリアを見た。あのとき見たドレスとは違って、動きやすそうな服を着ている。靴の先は土で汚れ、裾は少しよれてしまっている。それでも胸を張って言うのだから、本当なのだろう。
「どうしてですか?」
「民がどんな暮らしをしているのか、この目で直接見たいではありませんか」
ナタリアはそう言うと、噴水の向こうを見た。ゆらゆらと街の景色が揺れている。その視線があまりにも優しくて、少女は息を飲んだ。
似ている。あの日ここで見た、オールドラントの行く末を思う少年と。
少女は理解した。
7年前、あるいはもっと昔から、ナタリアと少年は同じ理想を分かち合っていたのだ。民の、国の、世界の繁栄を、二人で願っていたのだ。
自分の命を犠牲にしてでもアクぜリュスを守ろうとした少年の真っ直ぐな正義は、この美しい王女と光の王都で養ったものだったのだ。
「…………」
敵わない。どれだけ時間を過ごしても、知ったつもりになっても。なぜなら、少年の全てが彼女の中にあるのだから。
そう痛感して、少女は声も出せなくなった。
(そもそも、勝ち取ろうなんて思ってないはずなのに)
どうしても自分とナタリアを比べてしまう。そんな己の小ささに、少女は辟易した。劣等感が膨らんでは、心を濁らせていく。それが肺に届いて、息ができなくなる。
「菜真絵?」
「…………あ」
少女がハッとして前を見ると、自分を覗き込むナタリアの姿があった。
このまま黙っていては心配をかけてしまう。ただでさえ彼女は落ち込んでいるというのに。なにか、なにか言わなければ。
少女は体に思い切り力を入れて、無理矢理微笑んだ。
「……ナタリアさんのような方が国を率いるのですから、キムラスカは安泰ですね」
「預言の無い世界から来た貴女に言われると、本当にそう思えてきますわね」
「本当ですよ。きっと、この困難も乗り越えられます」
少女は力んだまま、手を差し出した。嘘はついていない。ただ、気持ちを隠しただけ。
なのに、手を握り返すナタリアの笑顔を見ていると、悪いことをしているような気分になる。
「ナタリア、菜真絵!」
握手を交わす二人の間に、明るい声が飛んできた。ルークだ。先程までの落ち込んだ姿が嘘のように、元気に手を振っている。
「早くピオニー陛下のところへ行こうぜ!」
もう大丈夫なのか?
少女はルークにそう問いかけようとしたが、彼の肩の向こうに見える仲間の姿を見て、やめた。
やっぱり、隠れていてよかった。自分じゃ、こうはできなかっただろうから。
「もう、なんですの。一人にして欲しいと言ったのはルークですのに」
ナタリアはやれやれと呆れながら、それでいてどこか嬉しそうに、ルークの後を追いかけた。
少女もまた、その後を追った。