プロローグ編
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ND2017
異世界からの使者、砂の地に降りし
其は黒髪の少女なり
彼女は誰よりも速く成長し
やがて、世界を導くこととなるだろう
「私が世界を導くなんてできるわけないのに。ユリアって人は、見る目がないな」
少女は読んでいた本を閉じて、教育係に渡した。そろそろ準備をしなければ。
今日は、少女が初めて外出する日なのだから。
砂漠で拾われて以来、少女はローレライ教団の持つ教会の一室で暮らしている。
ローレライ教団とは、この世界の全員が信仰する宗教「ローレライ教」の総本山である。モースもジナミーもその一員だ。また、今は少女もその団員として数えられている。
ローレライ教団の信仰の中心である「ユリアの預言」で「世界を導く」と予言された少女は、世界中の人々の希望だった。教団に保護されたのも、そのせいだ。
ユリアの預言のこと、この世界の仕組み……。少女はこの軟禁生活で、すべてを学んだ。否、学ぶしかなかった。
世界を回りつつ「導きの少女」のお披露目会をしようというのが、この旅の目的だ。
最近やっと使えるようになった剣を腰に携え、少女は船の中を歩いていた。
「菜真絵様!」
少女は一人の船員に呼び止められた。少女が礼をすると、彼は頬を緩ませる。
「お会いできて光栄です。預言で私の妻が、貴女に命を救われると詠まれているのです」
「は、はあ……」
少女は船員の話を、いまいち理解できなかった。だからなんだという話である。未来の命の恩人に、今から礼を言ってどうするのだ。
「ずっとお目にかかりたかった」
しかし、船員はきらきらと目を輝かせていた。
少女は彼の好意を無碍にできず、笑顔で会釈した。
「ケセドニアに私の妻がいるのです。よろしければ紹介させてください」
「え?あ、はい。お付きの者に聞いてみますね」
「本当ですか!よろしくお願いします!」
船員は駆け足で去っていった。少女はその姿を見て、呆気にとられる。
本で読んで知ってはいたが、実際に目の当たりにすると、驚いてしまう。人々が、こんなに預言を信じているなんて。実際に命を救ったわけでもないのに、預言だけでこの態度だ。
ケセドニアに着いてもそれは同じだった。船を降りた後も、人々は少女にへりくだり、祈るようにして言葉を掛けた。
そんな観衆の前で、大詠師モースから教えられたスピーチを読み上げる。拍手につつまれて、この旅の目的は終わり。
「……これだけ、か」
せっかくの外なのに、あとはバザーを見せてもらうだけ。例の船員に会っていたら、それも叶うかどうか。
少女は護衛二人をつけて、重い足取りで船員の元へ向かった。
すると、進行方向から沢山の人が走ってきた。何かあったようだ。
「きゃーっ!」
人の流れの向こうで悲鳴があがった。そこには女性が一人、座り込んでいた。複数の魔物に囲まれている。街に魔物が侵入したのだ。
護衛達は、少女の出方を伺っていた。部下だから、命令を待つのは当たり前のことだ。しかし、少女には決断できなかった。護衛達が、この魔物を倒せる実力があるかどうかなど、わからない。
少女が立ち止まっていると、一人の男が駆けてきた。先程の船員だ。
「助けてください!私の妻が魔物に!」
「あれが貴方の……?」
「お願いします、導きの少女様!」
導きの少女様。その声が響いた瞬間に、市民達が一斉に少女を見た。少女は船員が言っていた言葉を思い出す。彼の妻を救うというのは、今なのだろうか。
戦闘訓練を受けているとはいえ、少女に実戦の経験はない。そんな自分が魔物を倒せるとは到底思えない。しかし、民衆の彼女を信じて疑わない目は、少女の胸に突き刺さった。
「私が、やるんだね……」
「菜真絵様?」
「行きますよ!」
次の瞬間、少女は走り出し、剣を抜いていた。
これが、皆の望んでいることなのだ。
「お姉さん、早く逃げて!」
「は、はいっ!」
少女が魔物を食い止めている間に、女性は逃げ出した。
しかし、勇気を持って振りかざした剣は、魔物に全て弾かれてしまった。護衛の二人も苦戦しているようだ。もう、倒す力も、逃げる隙もない。
少女の頭にふと不安がよぎる。死ぬんじゃないか、と。
そんなはずはない、預言にはそんなこと詠まれていない、これから世界を導くはずなのだ。でも、このままだと普通は。
そう考えているうちに、少女の動きは止まり、地面に倒れこんだ。なるようになれ。そう思って目を瞑った瞬間だった。
一人の男が、少女の前で剣を振るった。するとたちまち魔物は消えて、辺りは歓声に包まれる。
「無事か?導きの少女よ」
少女は状況を理解できないまま、ぼんやりと男の手をとった。少女と同じ、ローレライ教団の服を着ている。
「ヴァン謡将!」
少女の護衛達は、慌てて頭を下げた。
ヴァン謡将。この名前は少女でも聞いたことがあった。言わずと知れた大詠師派のナンバーツー。その実績と貫禄から、多くの部下の信頼を勝ち取っている。
「あ、わ、私は、菜真絵・明寺奏長であります!こ、この度は、えと、」
上司にあたる人物だとわかり、少女は慌てふためいた。情けない姿を見られてしまった。もしかしたら、モース様からお叱りを受けることになるかもしれない。
しかし、目の前の男はさわやかな笑みを浮かべた。
「どうぞ、気にしないでください」
「……申し訳ありません」
「教団員として、預言を守っただけですから」
「ご立派なんですね」
教団員として。預言。そんな言葉の羅列を聞いて、少女はむっとした。やはりこの世界の人は、預言で動いているのだ。優しさや、正義感ではなく。
しかし、彼を睨もうとして少女は気づいた。自分が戦おうと決心したのは、預言に触発されてのことだ。戦い続けたのも、預言で死ぬとされていなかったから。
自分の行動は、預言に制限されていたのだ。少女は愕然として、うつむいた。
「それ以前に、目の前の命を助けるのは当然ですがね」
男はそう言って微笑んだ。歯が白く光る。その姿と言葉に、少女は見とれてしまった。とても素敵な人だ。それに比べて、自分は、
少女は悔しくなって、つい意地悪を言ってしまう。
「預言で死ぬとされている人でも?」
「……は?」
「未曾有の繁栄を妨げることになっても?」
少女は男をじっと見つめた。返答は、ない。
時間が経つにつれ、少女は恥ずかしくなってきた。
「ごめん、なさい……」
男は何も言わない。少女は、こんな質問をしたことを後悔した。教団員にとって、預言を破れるかだなんて、ノーに決まっている。
男はまだ何も言わない。しかし、その代わりと言わんばかりに、優しく、とても優しく少女の頭をぽん、と叩いた。
怒られた。
少女はそう思ったが、男の表情はとても穏やかだ。
「貴女とは気が合うかもしれませんな」
ははは、と愉快そうに笑う男。
何故この男は怒らないのか。気が合う、とは、どういうことなのか。少女には何もわからず、ただ見ていることしかできなかった。
「貴女を部下としてつけたいくらいだ」
男はもう一度少女の頭を叩いて、去っていった。少女は、ただその場に立ち尽くしていた。
すると、話が終わるのを待っていたのか、先程の船員が礼を言いに来た。
「ありがとうございました」
「いえ、目の前にある命を救うのは当然のこと」
本当は、預言の通りに動いただけだけれど。
少女は男の受け売りの言葉を吐くと、自分の頬をつねった。自分のことが嫌いになりそうだ。預言に辟易しながらも、預言に頼ってしまっている。情けない。
それでも、預言のおかげで、少女の周りに人が集まる。皆が優しくしてくれる。この矛盾がなくなる時は、きっと来ない。
ふと、少女は手元の茶を飲もうとして、動きを止めた。いつから座っているんだ?椅子を引いた記憶がない。
船員の男を見てみれば、少女の上着をいつのまにか持っていた。
知らないうちに椅子を引かせ、上着を持たせていたのだ。
「慣れちゃったなあ……」
少女は呆れたように笑った。
異世界からの使者、砂の地に降りし
其は黒髪の少女なり
彼女は誰よりも速く成長し
やがて、世界を導くこととなるだろう
「私が世界を導くなんてできるわけないのに。ユリアって人は、見る目がないな」
少女は読んでいた本を閉じて、教育係に渡した。そろそろ準備をしなければ。
今日は、少女が初めて外出する日なのだから。
砂漠で拾われて以来、少女はローレライ教団の持つ教会の一室で暮らしている。
ローレライ教団とは、この世界の全員が信仰する宗教「ローレライ教」の総本山である。モースもジナミーもその一員だ。また、今は少女もその団員として数えられている。
ローレライ教団の信仰の中心である「ユリアの預言」で「世界を導く」と予言された少女は、世界中の人々の希望だった。教団に保護されたのも、そのせいだ。
ユリアの預言のこと、この世界の仕組み……。少女はこの軟禁生活で、すべてを学んだ。否、学ぶしかなかった。
世界を回りつつ「導きの少女」のお披露目会をしようというのが、この旅の目的だ。
最近やっと使えるようになった剣を腰に携え、少女は船の中を歩いていた。
「菜真絵様!」
少女は一人の船員に呼び止められた。少女が礼をすると、彼は頬を緩ませる。
「お会いできて光栄です。預言で私の妻が、貴女に命を救われると詠まれているのです」
「は、はあ……」
少女は船員の話を、いまいち理解できなかった。だからなんだという話である。未来の命の恩人に、今から礼を言ってどうするのだ。
「ずっとお目にかかりたかった」
しかし、船員はきらきらと目を輝かせていた。
少女は彼の好意を無碍にできず、笑顔で会釈した。
「ケセドニアに私の妻がいるのです。よろしければ紹介させてください」
「え?あ、はい。お付きの者に聞いてみますね」
「本当ですか!よろしくお願いします!」
船員は駆け足で去っていった。少女はその姿を見て、呆気にとられる。
本で読んで知ってはいたが、実際に目の当たりにすると、驚いてしまう。人々が、こんなに預言を信じているなんて。実際に命を救ったわけでもないのに、預言だけでこの態度だ。
ケセドニアに着いてもそれは同じだった。船を降りた後も、人々は少女にへりくだり、祈るようにして言葉を掛けた。
そんな観衆の前で、大詠師モースから教えられたスピーチを読み上げる。拍手につつまれて、この旅の目的は終わり。
「……これだけ、か」
せっかくの外なのに、あとはバザーを見せてもらうだけ。例の船員に会っていたら、それも叶うかどうか。
少女は護衛二人をつけて、重い足取りで船員の元へ向かった。
すると、進行方向から沢山の人が走ってきた。何かあったようだ。
「きゃーっ!」
人の流れの向こうで悲鳴があがった。そこには女性が一人、座り込んでいた。複数の魔物に囲まれている。街に魔物が侵入したのだ。
護衛達は、少女の出方を伺っていた。部下だから、命令を待つのは当たり前のことだ。しかし、少女には決断できなかった。護衛達が、この魔物を倒せる実力があるかどうかなど、わからない。
少女が立ち止まっていると、一人の男が駆けてきた。先程の船員だ。
「助けてください!私の妻が魔物に!」
「あれが貴方の……?」
「お願いします、導きの少女様!」
導きの少女様。その声が響いた瞬間に、市民達が一斉に少女を見た。少女は船員が言っていた言葉を思い出す。彼の妻を救うというのは、今なのだろうか。
戦闘訓練を受けているとはいえ、少女に実戦の経験はない。そんな自分が魔物を倒せるとは到底思えない。しかし、民衆の彼女を信じて疑わない目は、少女の胸に突き刺さった。
「私が、やるんだね……」
「菜真絵様?」
「行きますよ!」
次の瞬間、少女は走り出し、剣を抜いていた。
これが、皆の望んでいることなのだ。
「お姉さん、早く逃げて!」
「は、はいっ!」
少女が魔物を食い止めている間に、女性は逃げ出した。
しかし、勇気を持って振りかざした剣は、魔物に全て弾かれてしまった。護衛の二人も苦戦しているようだ。もう、倒す力も、逃げる隙もない。
少女の頭にふと不安がよぎる。死ぬんじゃないか、と。
そんなはずはない、預言にはそんなこと詠まれていない、これから世界を導くはずなのだ。でも、このままだと普通は。
そう考えているうちに、少女の動きは止まり、地面に倒れこんだ。なるようになれ。そう思って目を瞑った瞬間だった。
一人の男が、少女の前で剣を振るった。するとたちまち魔物は消えて、辺りは歓声に包まれる。
「無事か?導きの少女よ」
少女は状況を理解できないまま、ぼんやりと男の手をとった。少女と同じ、ローレライ教団の服を着ている。
「ヴァン謡将!」
少女の護衛達は、慌てて頭を下げた。
ヴァン謡将。この名前は少女でも聞いたことがあった。言わずと知れた大詠師派のナンバーツー。その実績と貫禄から、多くの部下の信頼を勝ち取っている。
「あ、わ、私は、菜真絵・明寺奏長であります!こ、この度は、えと、」
上司にあたる人物だとわかり、少女は慌てふためいた。情けない姿を見られてしまった。もしかしたら、モース様からお叱りを受けることになるかもしれない。
しかし、目の前の男はさわやかな笑みを浮かべた。
「どうぞ、気にしないでください」
「……申し訳ありません」
「教団員として、預言を守っただけですから」
「ご立派なんですね」
教団員として。預言。そんな言葉の羅列を聞いて、少女はむっとした。やはりこの世界の人は、預言で動いているのだ。優しさや、正義感ではなく。
しかし、彼を睨もうとして少女は気づいた。自分が戦おうと決心したのは、預言に触発されてのことだ。戦い続けたのも、預言で死ぬとされていなかったから。
自分の行動は、預言に制限されていたのだ。少女は愕然として、うつむいた。
「それ以前に、目の前の命を助けるのは当然ですがね」
男はそう言って微笑んだ。歯が白く光る。その姿と言葉に、少女は見とれてしまった。とても素敵な人だ。それに比べて、自分は、
少女は悔しくなって、つい意地悪を言ってしまう。
「預言で死ぬとされている人でも?」
「……は?」
「未曾有の繁栄を妨げることになっても?」
少女は男をじっと見つめた。返答は、ない。
時間が経つにつれ、少女は恥ずかしくなってきた。
「ごめん、なさい……」
男は何も言わない。少女は、こんな質問をしたことを後悔した。教団員にとって、預言を破れるかだなんて、ノーに決まっている。
男はまだ何も言わない。しかし、その代わりと言わんばかりに、優しく、とても優しく少女の頭をぽん、と叩いた。
怒られた。
少女はそう思ったが、男の表情はとても穏やかだ。
「貴女とは気が合うかもしれませんな」
ははは、と愉快そうに笑う男。
何故この男は怒らないのか。気が合う、とは、どういうことなのか。少女には何もわからず、ただ見ていることしかできなかった。
「貴女を部下としてつけたいくらいだ」
男はもう一度少女の頭を叩いて、去っていった。少女は、ただその場に立ち尽くしていた。
すると、話が終わるのを待っていたのか、先程の船員が礼を言いに来た。
「ありがとうございました」
「いえ、目の前にある命を救うのは当然のこと」
本当は、預言の通りに動いただけだけれど。
少女は男の受け売りの言葉を吐くと、自分の頬をつねった。自分のことが嫌いになりそうだ。預言に辟易しながらも、預言に頼ってしまっている。情けない。
それでも、預言のおかげで、少女の周りに人が集まる。皆が優しくしてくれる。この矛盾がなくなる時は、きっと来ない。
ふと、少女は手元の茶を飲もうとして、動きを止めた。いつから座っているんだ?椅子を引いた記憶がない。
船員の男を見てみれば、少女の上着をいつのまにか持っていた。
知らないうちに椅子を引かせ、上着を持たせていたのだ。
「慣れちゃったなあ……」
少女は呆れたように笑った。