崩落編
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たった一晩で、タルタロスは完璧に整備されていた。
公園のベンチや道端を見渡せば、疲れ果てた整備士たちが転がっている。どうやら、知事の権限で無理矢理に整備させたらしい。
「有り難いことですねぇ」
本当に有り難いと思っているのだろうか?そう疑わせるような軽い声で、ジェイドは言った。
兎にも角にも、これでローテルロー橋を目指すことができる。一行は再び陸艦に乗り込んだ。
タルタロスは自動操縦ができるため、人員を操縦に割く必要はない。船の中ではそれぞれが自由に時間を過ごすことができる。
しかし、逆の言い方をすれば、やることがないということだ。暇を持て余した一同は、艦橋に集まっていた。
「ジェイド、音素学の本を読んで超振動の制御を勉強しようと思うんだけど、教えてくれないかな」
ルークがジェイドにおずおずと声をかける。その手には、分厚い本を携えていた。
「はぅあ!ルークが勉強ぉ!?」
「明日は雨だな」
そんなルークの姿を見て、アニスとガイは大げさに驚いてみせた。昔のレプリカルークは、よほどの勉強嫌いだったらしい。
いや、勉強に限った話ではない。「ありがとう」と言ったり、ホテルの手続きを率先して行ったりしても、同じような反応が返ってくる。おそらくレプリカルークは、礼を言わず、雑務をしない、我儘な少年だったのだろう。
今の姿からは想像もつかない。少女はルークを見つめながら、首をかしげた。
「お断りします。私は第七音素を使えませんから」
ジェイドがあっさりと断ると、ルークはナタリアに向き直る。
「じゃ……じゃあ、ナタリア、頼む」
「ティアの方が向いているのではなくて?わたくしが扱えるのは治癒譜術が主ですもの」
「う……じゃあティアに頼むしかないのか……」
ルークは頭をぼりぼりと掻きながら、渋る様子を見せている。その態度は、人に物を頼む恥ずかしさから来ているのか、それとも。
「た、頼むよ……」
頬を真っ赤に染めるルークの姿は、なんとも微笑ましい。少女は益々、ルークという人のことがわからなくなった。どう見ても、純朴な少年にしか見えない。
「その前にルーク、脈を診せてもらってもいいですか?」
さあ訓練を始めよう、というところで、ジェイドがその流れを遮った。ルークは素直に左手を差し出して、ジェイドがそれを指で押さえる。
「ふむ……。問題ないようですね」
「大佐。ルークに何か?」
「完全同位体のレプリカ……というのは、私も初めてなんです。いつどのようなことが起きるか、ちょっと予測が出来ないものですから」
ジェイドの発言で、冷ややかな空気が流れ出す。ルークの身に危険が降りかかるかもしれない。その可能性を感じて、それぞれが不安を覚えた。
一方、少女は上司の身を案じていた。ジェイドの話は、被験者にも適用されるのではないだろうか、と。
しかし、今ここにいるのは模造品のルークだ。心配すべきは、アッシュでなくルーク。少女は質問もできないまま、黙って話を聞いていた。
「私も定期的に、あなたの健康を気にするようにはしますが、あなたも自分で何か異変に気付いたら、すぐ知らせて下さい。……分かりましたね」
「うん。ありがとう、ジェイド」
ルークがお礼を言うと、全員がザッと後退りをする。
まただ。少女は恒例になってしまったやり取りに嫌気が差して、艦橋を後にした。
少女が廊下を歩いていると、向かい側にルークの姿が見えた。どうやら、今日の特訓は終わったらしい。
「ティアさんの授業はどうでしたか?」
「少しだけど、何か掴めた気がするよ」
キラキラと輝く瞳がまぶしい。少女はルークを見る度に、勇気が湧いてくるような気がしていた。立ち止まる自分と違って、彼は前に進もうとしているから。
「菜真絵は何をしようとしてたんだ?」
「軽食をつまみたくなって」
「なら、俺も一緒に行っていいかな。座ってただけなのに腹減っちまってさ」
菜真絵が頷くと、ルークは満面の笑みを浮かべ、厨房へと向きを変えた。
食卓の上に、カップが2つ並ぶ。その中には、チキンスープに米が入った、おじやのような食べ物が入っている。
少女が作ったその料理を、ルークは一瞬で食べ切った。
「菜真絵って料理上手いよな」
「そうですか?初めて言われました」
「え。じゃあ、俺が好きなだけなのかな……」
ルークは納得いかないと言いたげに頬を膨らませながら、おかわりを茶碗によそっている。
少女が料理の腕を褒められたのは、本当に初めてだった。あの上司はといえば、箸の進み具合でしか好みを示さなかったし。
「ルークさんは気の利くお方ですね」
「え?」
「料理や戦闘をする度に、優しい言葉をかけてくださいます」
少女は思ったことを率直に言ったつもりだった。しかし何がおかしかったか、ルークは顔を真っ赤に染めていた。
「そんなこと、初めて言われた……」
「うそ、」
「嘘じゃないよ。俺、わがままで、気を利かせるなんてこれっぽっちもできなくて……」
ルークは手をぶんぶんと振りながら、自分がこれまで、いかに勝手な振る舞いをしていたかを説明している。
少女は彼の話を遮るように、語気を強めて言う。
「少なくとも私には、皆さんが言うような『わがままなお坊っちゃん』には見えません」
「う、ありがとう……」
少女は、皆がルークをからかう事に対して嫌悪感を抱いていた。自分の知らない過去の話をされて面白くないのもあったが、なによりも、その1言1言でルークが傷ついているように見えたからだ。
嫌味っぽくなってしまっただろうか。少女がルークの表情を窺えば、しょんぼりと睫毛を垂らしていた。
「でも菜真絵、見てただろ。俺、アクぜリュスを滅ぼしたのに、責任逃れをしようとして……」
嫌味は伝わっていなかったが、思い出したくない記憶を引きずり出してしまったようだ。
慰めようと、少女は慌てて声をかける。
「あんなことがあって、混乱しないはずがありません」
「……菜真絵は優しいんだな」
ルークは伏せた目を上に向けて、少女に視線を合わせた。濁った瞳が、輝きを取り戻していく。
「だけど、ダメなところはダメって言って欲しい。俺、まだ何もわかってないんだ」
「記憶を持たずに生まれてきたなら、当たり前です」
「図体だけは大人だからさ。甘えていられないよ」
「…………」
ルークの言葉を聞いて、少女は自分が恥ずかしくなった。仲間達の軽口を嫌い、同情していたが、それは彼にとって余計なお世話だったのだ。
自分を顧みて、受け入れて、前に進む。汚点を責められて傷つけられても、ルークはそれを、成長の糧にしている。慰めの言葉など、彼には必要ない。
「……でもやっぱり、ルークさんは素敵な方だと思います」
まるで、同い歳とは思えないくらい。
少女は小さな声で言うと、静かに食器を片付け始めた。
公園のベンチや道端を見渡せば、疲れ果てた整備士たちが転がっている。どうやら、知事の権限で無理矢理に整備させたらしい。
「有り難いことですねぇ」
本当に有り難いと思っているのだろうか?そう疑わせるような軽い声で、ジェイドは言った。
兎にも角にも、これでローテルロー橋を目指すことができる。一行は再び陸艦に乗り込んだ。
タルタロスは自動操縦ができるため、人員を操縦に割く必要はない。船の中ではそれぞれが自由に時間を過ごすことができる。
しかし、逆の言い方をすれば、やることがないということだ。暇を持て余した一同は、艦橋に集まっていた。
「ジェイド、音素学の本を読んで超振動の制御を勉強しようと思うんだけど、教えてくれないかな」
ルークがジェイドにおずおずと声をかける。その手には、分厚い本を携えていた。
「はぅあ!ルークが勉強ぉ!?」
「明日は雨だな」
そんなルークの姿を見て、アニスとガイは大げさに驚いてみせた。昔のレプリカルークは、よほどの勉強嫌いだったらしい。
いや、勉強に限った話ではない。「ありがとう」と言ったり、ホテルの手続きを率先して行ったりしても、同じような反応が返ってくる。おそらくレプリカルークは、礼を言わず、雑務をしない、我儘な少年だったのだろう。
今の姿からは想像もつかない。少女はルークを見つめながら、首をかしげた。
「お断りします。私は第七音素を使えませんから」
ジェイドがあっさりと断ると、ルークはナタリアに向き直る。
「じゃ……じゃあ、ナタリア、頼む」
「ティアの方が向いているのではなくて?わたくしが扱えるのは治癒譜術が主ですもの」
「う……じゃあティアに頼むしかないのか……」
ルークは頭をぼりぼりと掻きながら、渋る様子を見せている。その態度は、人に物を頼む恥ずかしさから来ているのか、それとも。
「た、頼むよ……」
頬を真っ赤に染めるルークの姿は、なんとも微笑ましい。少女は益々、ルークという人のことがわからなくなった。どう見ても、純朴な少年にしか見えない。
「その前にルーク、脈を診せてもらってもいいですか?」
さあ訓練を始めよう、というところで、ジェイドがその流れを遮った。ルークは素直に左手を差し出して、ジェイドがそれを指で押さえる。
「ふむ……。問題ないようですね」
「大佐。ルークに何か?」
「完全同位体のレプリカ……というのは、私も初めてなんです。いつどのようなことが起きるか、ちょっと予測が出来ないものですから」
ジェイドの発言で、冷ややかな空気が流れ出す。ルークの身に危険が降りかかるかもしれない。その可能性を感じて、それぞれが不安を覚えた。
一方、少女は上司の身を案じていた。ジェイドの話は、被験者にも適用されるのではないだろうか、と。
しかし、今ここにいるのは模造品のルークだ。心配すべきは、アッシュでなくルーク。少女は質問もできないまま、黙って話を聞いていた。
「私も定期的に、あなたの健康を気にするようにはしますが、あなたも自分で何か異変に気付いたら、すぐ知らせて下さい。……分かりましたね」
「うん。ありがとう、ジェイド」
ルークがお礼を言うと、全員がザッと後退りをする。
まただ。少女は恒例になってしまったやり取りに嫌気が差して、艦橋を後にした。
少女が廊下を歩いていると、向かい側にルークの姿が見えた。どうやら、今日の特訓は終わったらしい。
「ティアさんの授業はどうでしたか?」
「少しだけど、何か掴めた気がするよ」
キラキラと輝く瞳がまぶしい。少女はルークを見る度に、勇気が湧いてくるような気がしていた。立ち止まる自分と違って、彼は前に進もうとしているから。
「菜真絵は何をしようとしてたんだ?」
「軽食をつまみたくなって」
「なら、俺も一緒に行っていいかな。座ってただけなのに腹減っちまってさ」
菜真絵が頷くと、ルークは満面の笑みを浮かべ、厨房へと向きを変えた。
食卓の上に、カップが2つ並ぶ。その中には、チキンスープに米が入った、おじやのような食べ物が入っている。
少女が作ったその料理を、ルークは一瞬で食べ切った。
「菜真絵って料理上手いよな」
「そうですか?初めて言われました」
「え。じゃあ、俺が好きなだけなのかな……」
ルークは納得いかないと言いたげに頬を膨らませながら、おかわりを茶碗によそっている。
少女が料理の腕を褒められたのは、本当に初めてだった。あの上司はといえば、箸の進み具合でしか好みを示さなかったし。
「ルークさんは気の利くお方ですね」
「え?」
「料理や戦闘をする度に、優しい言葉をかけてくださいます」
少女は思ったことを率直に言ったつもりだった。しかし何がおかしかったか、ルークは顔を真っ赤に染めていた。
「そんなこと、初めて言われた……」
「うそ、」
「嘘じゃないよ。俺、わがままで、気を利かせるなんてこれっぽっちもできなくて……」
ルークは手をぶんぶんと振りながら、自分がこれまで、いかに勝手な振る舞いをしていたかを説明している。
少女は彼の話を遮るように、語気を強めて言う。
「少なくとも私には、皆さんが言うような『わがままなお坊っちゃん』には見えません」
「う、ありがとう……」
少女は、皆がルークをからかう事に対して嫌悪感を抱いていた。自分の知らない過去の話をされて面白くないのもあったが、なによりも、その1言1言でルークが傷ついているように見えたからだ。
嫌味っぽくなってしまっただろうか。少女がルークの表情を窺えば、しょんぼりと睫毛を垂らしていた。
「でも菜真絵、見てただろ。俺、アクぜリュスを滅ぼしたのに、責任逃れをしようとして……」
嫌味は伝わっていなかったが、思い出したくない記憶を引きずり出してしまったようだ。
慰めようと、少女は慌てて声をかける。
「あんなことがあって、混乱しないはずがありません」
「……菜真絵は優しいんだな」
ルークは伏せた目を上に向けて、少女に視線を合わせた。濁った瞳が、輝きを取り戻していく。
「だけど、ダメなところはダメって言って欲しい。俺、まだ何もわかってないんだ」
「記憶を持たずに生まれてきたなら、当たり前です」
「図体だけは大人だからさ。甘えていられないよ」
「…………」
ルークの言葉を聞いて、少女は自分が恥ずかしくなった。仲間達の軽口を嫌い、同情していたが、それは彼にとって余計なお世話だったのだ。
自分を顧みて、受け入れて、前に進む。汚点を責められて傷つけられても、ルークはそれを、成長の糧にしている。慰めの言葉など、彼には必要ない。
「……でもやっぱり、ルークさんは素敵な方だと思います」
まるで、同い歳とは思えないくらい。
少女は小さな声で言うと、静かに食器を片付け始めた。