崩落編
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「さみーさみー腹がさみー!」
銀世界の広がるケテルブルクに、ルーク達は降り立った。
タルタロスでローテルロー橋を目指していた一行だったが、途中、船の機材トラブルに見舞われた。修理を行うため、最も近い都市であるケテルブルクに船を着けたのだ。
ケテルブルクの生まれだというジェイドが、知事に修理を依頼するらしい。面々はジェイドの案内に従い、歩いていた。
ケテルブルクは観光地として有名な土地だ。女性陣は、一面の銀世界に目を輝かせながら、わいわいと雑談を繰り広げている。この土地に住んでいた皇帝の初恋、賭博場の仕組み……きらびやかな話を、少女は目をパチパチとさせながら聞いていた。
「菜真絵はここに来たことあるの?」
「教会の支所にお披露目会に……それと、任務で何度か。知事にお会いしたことはありませんが」
「そういえば、特務師団はどのような任務を請け負っているのですか?」
ナタリアが聞いた。言葉だけ取れば何気ない会話のようだが、彼女は胸元に手を添えて、服をぎゅっと掴んでいる。
「教団の機密事項です」
預言通りに世界を動かすために、罪のない人間の命を奪う、人々の希望を踏みにじる任務。
少女はこれまでに自分がしてきた事を口に出したくなかった。もちろん、機密事項であるのも事実だが。
「今はいち個人として旅してるんでしょ?教えてくれたっていいじゃん」
「…………」
「むぅ、ケチだなぁ」
アニスが粘るが、少女は口を開かない。問答を繰り返していくうちに、場は静かになっていった。
「教えられないのなら、それで構いません」
ナタリアの言葉を皮切りに、沈黙が訪れる。
ただでさえ寒いのに、吹いてくる風の音が目立って、より寒く感じる。
場の空気を冷やしてしまった。少女は気まずくなって、後ろに目をそらす。視線も定まらずにきょろきょろとしていると、1人の女性と目が合った。
「あなた、道に迷っているの?」
「い、いえ!ごめんなさい。その……景色が綺麗だなって」
迷子と勘違いされてしまった。少女は足を止めて、女性にペコペコと頭を下げた。
「ケテルブルクには雪景色以外も色々あるのよ。見ていってね」
「はい」
「賭博場もあるし……そうそう、2人の天才を排出した都市でもあるの。バルフォア博士とネイス博士って知ってる?」
バルフォア博士。それはジェイド・カーティスの昔の名前だ。レプリカ技術を開発した頃には、まだその名を名乗っていたらしい。教会に保管されていた資料にも、彼の名前が散見された。
知っているも何も、バルフォア博士は、今ここにいる。少女が後ろを振り返ってみると、ジェイドを含む全員が立っていた。着いてこない菜真絵を不審に思い、引き返してきたのだ。
「バルフォア博士というのは、大佐のことですよね?では、ネイス博士というのは……」
「ディストのことですよ。サフィール・ワイヨン・ネイス。それが彼の本名です」
「はぅあ!?ディストが天才!?」
アニスが素っ頓狂な声をあげる。アニスとディストには、交友関係があるようだ。
少女はあの眼鏡の男の顔を思い浮かべる。確かに掴みどころのない性格をしていたが、ああいうところがむしろ、研究者らしくて好きだった。
「そう驚くことでもないでしょう、トクナガを巨大化するように改造してくれたのは、ディストじゃないですか」
「……え!?その、トクナガ……彼が……?」
何故かティアが驚きの声をあげている。「……あんなにかわいいのに」と呟いたのが聞こえた気がした。センスは人それぞれだ。
「ディストはあれで寂しがり屋なんです。食堂の片隅でひとりぼっちで食事しているのを、アニスが不憫に思って声をかけてあげたんでしたね」
「……う、うん。そしたらトクナガを作ってくれた。悪い奴じゃないんだけど、いい奴でもないんだよねぇー」
イオンの言葉を受けて、アニスは口をもにゃもにゃさせている。
あの死神ディストも、情を感じたりするんだ。少女はアニスの持った人形が、少し羨ましく感じた。紙飛行機を一緒に作ったり、難しい文章の読解を助けてくれたり。彼から色々なことを教わったが、物を貰うことはなかった。
「二言目には大佐の話しかしないし。もしかして、菜真絵の前でもそうだった?」
「あ……会話の中に、"金の貴公子"というお友達の名前が出てきましたけど、それって」
「虫酸が走りますね」
ジェイドは、実に穏やかな笑みを浮かべて言う。冗談めかした態度が逆に怖い。
ディストは一方的にジェイドのことを友達だと思っていて、ジェイドはそれを拒絶している。その構図がはっきりとわかった。
「でもね、昔ここにネビリム博士という方がいらしたそうなんだけど、その方がバルフォア博士とネイス博士に殺されたって噂があるの」
先程の女性が言った。突飛な内容に、一同は一斉にジェイドに視線を向けた。その表情はぴくりとも動かなかったが。
「まあでも、本当のところは火事で亡くなったっていう話だけどね」
そう言うと、女性は向こうへ行ってしまった。
知事邸は、やけにがらんとしていた。知事はいつも私室にこもって仕事をするらしい。
私室の机には、眼鏡をかけた理知的な女性が座っていた。彼女は一同の顔を確認すると、音を立てて椅子から立ち上がる。
「……お兄さん!?」
「やあ、ネフリー。久しぶりですね。あなたの結婚式以来ですか?」
知事とジェイドが兄妹だった。その事実に、それぞれが驚きの表情を見せた。ルークなんかは、大げさにポーズをとっている。
「お兄さん!どうなっているの!?アクゼリュスで亡くなったって……」
「実はですねぇ……」
ジェイドは一人落ち着いた表情で、これまでに起きた出来事を話した。ルークの正体から、ヴァンの企み、隠された預言のことまで、すべて。
話の内容から、ジェイドがネフリーのことを信頼しているという事が見て取れた。ネフリーは動揺しながらも、疑う事なくその話を聞いていた。
「……なんだか途方もない話だけれど、無事で何よりだわ」
椅子に腰掛けて言うネフリーの声色は、とても穏やかだ。
「念のためタルタロスを点検させるから、補給が済み次第ピオニー様にお会いしてね。……とても心配しておられたわ」
「おや、私は死んだと思われているのでは」
「お兄さんが生きてると信じていたのは、ピオニー様だけよ」
呆れているのか、喜んでいるのか、判断のつかないような口ぶりでネフリーは言う。少女はその表情を覗おうとしたが、ジェイドの肩に阻まれて見えなかった。
「皆さんも、出発の準備が出来るまでしばらくお待ち下さい。宿をお取りしておきます」
一行は、案内された通りにホテルへと向かった。
「なんか、大佐いつもとちょっと違ったよね」
ふと、アニスが呟いた。少女は、横目に見ていたジェイドの表情を思い浮かべる。確かに、いつもは冷たいその目つきが、幾分か穏やかだったように感じた。
「ご家族の前だからでしょうか」
あの死霊使いにも、家族がいる。
考えてみれば当たり前のことだが、少女は、なんだか不思議な気持ちになった。
銀世界の広がるケテルブルクに、ルーク達は降り立った。
タルタロスでローテルロー橋を目指していた一行だったが、途中、船の機材トラブルに見舞われた。修理を行うため、最も近い都市であるケテルブルクに船を着けたのだ。
ケテルブルクの生まれだというジェイドが、知事に修理を依頼するらしい。面々はジェイドの案内に従い、歩いていた。
ケテルブルクは観光地として有名な土地だ。女性陣は、一面の銀世界に目を輝かせながら、わいわいと雑談を繰り広げている。この土地に住んでいた皇帝の初恋、賭博場の仕組み……きらびやかな話を、少女は目をパチパチとさせながら聞いていた。
「菜真絵はここに来たことあるの?」
「教会の支所にお披露目会に……それと、任務で何度か。知事にお会いしたことはありませんが」
「そういえば、特務師団はどのような任務を請け負っているのですか?」
ナタリアが聞いた。言葉だけ取れば何気ない会話のようだが、彼女は胸元に手を添えて、服をぎゅっと掴んでいる。
「教団の機密事項です」
預言通りに世界を動かすために、罪のない人間の命を奪う、人々の希望を踏みにじる任務。
少女はこれまでに自分がしてきた事を口に出したくなかった。もちろん、機密事項であるのも事実だが。
「今はいち個人として旅してるんでしょ?教えてくれたっていいじゃん」
「…………」
「むぅ、ケチだなぁ」
アニスが粘るが、少女は口を開かない。問答を繰り返していくうちに、場は静かになっていった。
「教えられないのなら、それで構いません」
ナタリアの言葉を皮切りに、沈黙が訪れる。
ただでさえ寒いのに、吹いてくる風の音が目立って、より寒く感じる。
場の空気を冷やしてしまった。少女は気まずくなって、後ろに目をそらす。視線も定まらずにきょろきょろとしていると、1人の女性と目が合った。
「あなた、道に迷っているの?」
「い、いえ!ごめんなさい。その……景色が綺麗だなって」
迷子と勘違いされてしまった。少女は足を止めて、女性にペコペコと頭を下げた。
「ケテルブルクには雪景色以外も色々あるのよ。見ていってね」
「はい」
「賭博場もあるし……そうそう、2人の天才を排出した都市でもあるの。バルフォア博士とネイス博士って知ってる?」
バルフォア博士。それはジェイド・カーティスの昔の名前だ。レプリカ技術を開発した頃には、まだその名を名乗っていたらしい。教会に保管されていた資料にも、彼の名前が散見された。
知っているも何も、バルフォア博士は、今ここにいる。少女が後ろを振り返ってみると、ジェイドを含む全員が立っていた。着いてこない菜真絵を不審に思い、引き返してきたのだ。
「バルフォア博士というのは、大佐のことですよね?では、ネイス博士というのは……」
「ディストのことですよ。サフィール・ワイヨン・ネイス。それが彼の本名です」
「はぅあ!?ディストが天才!?」
アニスが素っ頓狂な声をあげる。アニスとディストには、交友関係があるようだ。
少女はあの眼鏡の男の顔を思い浮かべる。確かに掴みどころのない性格をしていたが、ああいうところがむしろ、研究者らしくて好きだった。
「そう驚くことでもないでしょう、トクナガを巨大化するように改造してくれたのは、ディストじゃないですか」
「……え!?その、トクナガ……彼が……?」
何故かティアが驚きの声をあげている。「……あんなにかわいいのに」と呟いたのが聞こえた気がした。センスは人それぞれだ。
「ディストはあれで寂しがり屋なんです。食堂の片隅でひとりぼっちで食事しているのを、アニスが不憫に思って声をかけてあげたんでしたね」
「……う、うん。そしたらトクナガを作ってくれた。悪い奴じゃないんだけど、いい奴でもないんだよねぇー」
イオンの言葉を受けて、アニスは口をもにゃもにゃさせている。
あの死神ディストも、情を感じたりするんだ。少女はアニスの持った人形が、少し羨ましく感じた。紙飛行機を一緒に作ったり、難しい文章の読解を助けてくれたり。彼から色々なことを教わったが、物を貰うことはなかった。
「二言目には大佐の話しかしないし。もしかして、菜真絵の前でもそうだった?」
「あ……会話の中に、"金の貴公子"というお友達の名前が出てきましたけど、それって」
「虫酸が走りますね」
ジェイドは、実に穏やかな笑みを浮かべて言う。冗談めかした態度が逆に怖い。
ディストは一方的にジェイドのことを友達だと思っていて、ジェイドはそれを拒絶している。その構図がはっきりとわかった。
「でもね、昔ここにネビリム博士という方がいらしたそうなんだけど、その方がバルフォア博士とネイス博士に殺されたって噂があるの」
先程の女性が言った。突飛な内容に、一同は一斉にジェイドに視線を向けた。その表情はぴくりとも動かなかったが。
「まあでも、本当のところは火事で亡くなったっていう話だけどね」
そう言うと、女性は向こうへ行ってしまった。
知事邸は、やけにがらんとしていた。知事はいつも私室にこもって仕事をするらしい。
私室の机には、眼鏡をかけた理知的な女性が座っていた。彼女は一同の顔を確認すると、音を立てて椅子から立ち上がる。
「……お兄さん!?」
「やあ、ネフリー。久しぶりですね。あなたの結婚式以来ですか?」
知事とジェイドが兄妹だった。その事実に、それぞれが驚きの表情を見せた。ルークなんかは、大げさにポーズをとっている。
「お兄さん!どうなっているの!?アクゼリュスで亡くなったって……」
「実はですねぇ……」
ジェイドは一人落ち着いた表情で、これまでに起きた出来事を話した。ルークの正体から、ヴァンの企み、隠された預言のことまで、すべて。
話の内容から、ジェイドがネフリーのことを信頼しているという事が見て取れた。ネフリーは動揺しながらも、疑う事なくその話を聞いていた。
「……なんだか途方もない話だけれど、無事で何よりだわ」
椅子に腰掛けて言うネフリーの声色は、とても穏やかだ。
「念のためタルタロスを点検させるから、補給が済み次第ピオニー様にお会いしてね。……とても心配しておられたわ」
「おや、私は死んだと思われているのでは」
「お兄さんが生きてると信じていたのは、ピオニー様だけよ」
呆れているのか、喜んでいるのか、判断のつかないような口ぶりでネフリーは言う。少女はその表情を覗おうとしたが、ジェイドの肩に阻まれて見えなかった。
「皆さんも、出発の準備が出来るまでしばらくお待ち下さい。宿をお取りしておきます」
一行は、案内された通りにホテルへと向かった。
「なんか、大佐いつもとちょっと違ったよね」
ふと、アニスが呟いた。少女は、横目に見ていたジェイドの表情を思い浮かべる。確かに、いつもは冷たいその目つきが、幾分か穏やかだったように感じた。
「ご家族の前だからでしょうか」
あの死霊使いにも、家族がいる。
考えてみれば当たり前のことだが、少女は、なんだか不思議な気持ちになった。