崩落編
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開戦の危機とセントビナーの崩落。抱えきれない2つの懸念を解決するために、ルーク一行はシュレーの丘を越え、アッシュの残したタルタロスで、グランコクマを目指していた。
セントビナーはマルクト帝国の領土である。
皇帝に、開戦の阻止とセントビナーの救出、その両方を頼んでしまおうという策略だ。
「なんか、元の面子が集まっちゃったね。菜真絵様だけプラスアルファって感じ?」
アニスが言う。
確かに、少女を除く6人と1匹は、アクぜリュス救援隊として旅をしていた面子だ。
自分にとっては見慣れない面々だが、彼らにとっては気の知れた相手。少女は肩身が狭そうに、その場に立ち尽くす。
「お座りくださいよぉ、菜真絵様」
「様だなんて、あまり気を遣わないでください。今はいち個人として同行しているのですから」
「そうですかぁ?菜真絵がそう言うなら……」
アニスが、ソファにぼふんと腰を沈める。これまで、少女に気を遣って立っていたのだろう。
気がつけば、着席していないのは自分だけである。少女は一同を見回して、礼をして見せた。
「きちんと挨拶をしていませんでしたね。私は、神託の盾騎士団 特務師団 師団長補佐官、菜真絵・明寺奏長です」
ここに来るまで駆け足で、ゆっくりと自己紹介する暇もなかった。少女の挨拶を受けて、それぞれが自分の肩書きや趣味、特技など、簡単なプロフィールを話し出す。流れの中で、ナタリアが席を立ち、少女に手を差し出した。
「ナタリア・ルツ・キムラスカ・ランバルティア。ナタリアと申します」
「よろしくお願いします。ナタリア殿下」
「ナタリア、でよろしくてよ」
少女はナタリアの言葉を受けて、顔を歪めた。つい先程、呼称についてアニスに苦言を呈したのは、他でもない自分だ。人にとやかく言っておいて、自分は目上に萎縮しているだなんて。恰好がつかない。 少女はもう一度礼をして、ナタリアの手をとった。
「ごめんなさい、……ナタリアさん」
「構いませんわ。こちらこそよろしく、菜真絵」
握手が交わされた。互いに互いの目を見る。
ナタリア王女の瞳は、とても美しかった。何度か彼女の姿を見かけたことはあるが、近くで見ると、もっと――
見とれる少女の目を覚ますように、ナタリアが手を放す。
「どうかなさいまして?」
「いえ、なんでもありません……」
この美しい女性が、少年の婚約者なのだ。
少女は、なにやら打ちひしがれたような気持ちになった。そして同時に、この程度で落ち込む自分が情けなくなった。少年と自分はそういう仲ではない。それに、少年とは決別したじゃないか。
思い出してはいけない。少女は気持ちを落ち着けようと、ふらふらと空いた席を探す。そんな少女をナタリアが呼び止めた。
「……菜真絵は、アッシュの部下なのですよね」
「はい」
「その、アッシュは……」
ナタリアの声は、言葉を言い切る前に消えた。
アッシュはどんな人だったか、何をして過ごしていたのか、今は何を考えているのか。聞きたいことが積もり積もって、喉の奥でつかえた。そんな感じだった。
ナタリアは、アッシュのことが今でも好きなのだ。少女にはそれが手に取るようにわかった。
しかし、少女は決め込んでいた。少年への執着を断ち切るには、まずは形からだ。知らないふりをするしかない。
「私は一介の部下です。関わる機会もそう多くありませんでした。ですので、個人的な事は……」
「そうですか……」
嘘だ。その場にいる全員がそう思った。
そう遠くない、ユリアシティでの出来事。怪我を負った少女とそれを心配するアッシュの間には、ただならぬ空気が流れていた。少なくとも、一介の部下よりは親密な関係であると予測できた。
不自然な沈黙が続く中、ルーク、ティア、ミュウは顔を見合わせる。以前、少女はアッシュのことを、優しくてまっすぐな人だと形容していた。どうして隠すのだろう?
考えてもわからない。2人と1匹は、ただ静かに眉を下げた。
「もうやめようぜ。敵か味方かわからない奴の為に気を揉むなんて馬鹿馬鹿しい」
沈黙を切り裂いたのはガイだった。心なしか苛立ったような様子だ。
少女は話を切り上げることができたと思い、ナタリアに背を向ける。しかし、ナタリアはガイに噛みついた。
「なんですの、その言い方は。ここには部下の菜真絵もいますのよ?」
「彼女だってスパイかもしれないんだ。そんな相手に質問したって……」
「ガイ!」
ナタリアがガイに向かって勢いよく歩み寄る。そのままビンタでもしそうな勢いだったが、ガイは情けない悲鳴をあげて、床に倒れた。女性恐怖症の症状だ。
「……ひっ!」
「…………見損ないましたわ」
ガイはアッシュを疑っている。ナタリアはそれを責めているが、モース、ヴァン双方の部下であるアッシュを信用できないのは当たり前のことだ。
少女は倒れたガイにうっかり手を差し伸べかけて、引っ込めた。
「……すまない」
「いえ。疑うのは当たり前のことです」
「君を傷つけたい訳じゃないんだけどな」
腰を上げながら、全く笑いを含まない、悲しそうな表情でガイは言う。少女はそれに会釈を返して、椅子に腰掛けた。
「僕は、菜真絵を信じていますよ」
一部始終を静観していたイオンが、ふいに口を開く。少女に向けたその目線は、とても穏やかだ。
「初めて会った時のことを覚えていますか?」
忘れるはずがない。少女は、初めて導師イオンと面会した時のことを思い出す。確かあの時は、敬礼を逆の手でしていたんだっけ。導師に伝わらなくて慌てたものだ。
「あの時、あなたは必ず僕の味方になってくれると思いました。フーブラス川やザオ遺跡で僕を助けてくれて、本当に嬉しかった」
イオンの瞳はあの時と変わらない。―ー預言は選択肢の1つに過ぎない。そう教えてくれたあの時と。
それに比べて、自分は変わってしまった。たくさんの人を殺して、預言を振りかざして、少年に執着して、アクぜリュスを滅ぼした。
少女は悔しくなって、拳を握りしめる。どうしてこんなことになってしまったのだろう。導師の言葉を信じ続けていれば、ヴァンに傾くこともなかったのに。少年を救えたかもしれないのに。
「イオン様は、預言は選択肢の1つにすぎないと教えてくださいましたね」
「ええ。覚えていてくれたから、僕を助けてくれたのですよね」
覚えていた。覚えてはいたが、導師の言葉が届かない大詠師派の教団員達を見て、救われない少年の姿を見て、信じられなくなっていたのだ。
少女は否定しようとしたが、イオンの瞳があまりにもまっすぐで、できなかった。
「預言に逆らってでも、戦争を阻止できるように頑張ります」
暗い気持ちを振り払うように、少女は敬礼する。すると、イオンはガッツポーズで返した。
胸が熱い。自分はなんて視野が狭かったのだろう。
預言は選択肢の1つに過ぎない。ここにいる全員が、そう考えて生きているのだ。ローレライ教団の導師さえも、キムラスカの王女までもが。
自分と同じ気持ちを持つ人が、教会の外に、こんなにたくさんいたなんて。
気づけなかった情けなさ、味方がいるという心強さ。相反する気持ちに揺れながら、少女はイオンに向けて、ガッツポーズをしてみせた。
セントビナーはマルクト帝国の領土である。
皇帝に、開戦の阻止とセントビナーの救出、その両方を頼んでしまおうという策略だ。
「なんか、元の面子が集まっちゃったね。菜真絵様だけプラスアルファって感じ?」
アニスが言う。
確かに、少女を除く6人と1匹は、アクぜリュス救援隊として旅をしていた面子だ。
自分にとっては見慣れない面々だが、彼らにとっては気の知れた相手。少女は肩身が狭そうに、その場に立ち尽くす。
「お座りくださいよぉ、菜真絵様」
「様だなんて、あまり気を遣わないでください。今はいち個人として同行しているのですから」
「そうですかぁ?菜真絵がそう言うなら……」
アニスが、ソファにぼふんと腰を沈める。これまで、少女に気を遣って立っていたのだろう。
気がつけば、着席していないのは自分だけである。少女は一同を見回して、礼をして見せた。
「きちんと挨拶をしていませんでしたね。私は、神託の盾騎士団 特務師団 師団長補佐官、菜真絵・明寺奏長です」
ここに来るまで駆け足で、ゆっくりと自己紹介する暇もなかった。少女の挨拶を受けて、それぞれが自分の肩書きや趣味、特技など、簡単なプロフィールを話し出す。流れの中で、ナタリアが席を立ち、少女に手を差し出した。
「ナタリア・ルツ・キムラスカ・ランバルティア。ナタリアと申します」
「よろしくお願いします。ナタリア殿下」
「ナタリア、でよろしくてよ」
少女はナタリアの言葉を受けて、顔を歪めた。つい先程、呼称についてアニスに苦言を呈したのは、他でもない自分だ。人にとやかく言っておいて、自分は目上に萎縮しているだなんて。恰好がつかない。 少女はもう一度礼をして、ナタリアの手をとった。
「ごめんなさい、……ナタリアさん」
「構いませんわ。こちらこそよろしく、菜真絵」
握手が交わされた。互いに互いの目を見る。
ナタリア王女の瞳は、とても美しかった。何度か彼女の姿を見かけたことはあるが、近くで見ると、もっと――
見とれる少女の目を覚ますように、ナタリアが手を放す。
「どうかなさいまして?」
「いえ、なんでもありません……」
この美しい女性が、少年の婚約者なのだ。
少女は、なにやら打ちひしがれたような気持ちになった。そして同時に、この程度で落ち込む自分が情けなくなった。少年と自分はそういう仲ではない。それに、少年とは決別したじゃないか。
思い出してはいけない。少女は気持ちを落ち着けようと、ふらふらと空いた席を探す。そんな少女をナタリアが呼び止めた。
「……菜真絵は、アッシュの部下なのですよね」
「はい」
「その、アッシュは……」
ナタリアの声は、言葉を言い切る前に消えた。
アッシュはどんな人だったか、何をして過ごしていたのか、今は何を考えているのか。聞きたいことが積もり積もって、喉の奥でつかえた。そんな感じだった。
ナタリアは、アッシュのことが今でも好きなのだ。少女にはそれが手に取るようにわかった。
しかし、少女は決め込んでいた。少年への執着を断ち切るには、まずは形からだ。知らないふりをするしかない。
「私は一介の部下です。関わる機会もそう多くありませんでした。ですので、個人的な事は……」
「そうですか……」
嘘だ。その場にいる全員がそう思った。
そう遠くない、ユリアシティでの出来事。怪我を負った少女とそれを心配するアッシュの間には、ただならぬ空気が流れていた。少なくとも、一介の部下よりは親密な関係であると予測できた。
不自然な沈黙が続く中、ルーク、ティア、ミュウは顔を見合わせる。以前、少女はアッシュのことを、優しくてまっすぐな人だと形容していた。どうして隠すのだろう?
考えてもわからない。2人と1匹は、ただ静かに眉を下げた。
「もうやめようぜ。敵か味方かわからない奴の為に気を揉むなんて馬鹿馬鹿しい」
沈黙を切り裂いたのはガイだった。心なしか苛立ったような様子だ。
少女は話を切り上げることができたと思い、ナタリアに背を向ける。しかし、ナタリアはガイに噛みついた。
「なんですの、その言い方は。ここには部下の菜真絵もいますのよ?」
「彼女だってスパイかもしれないんだ。そんな相手に質問したって……」
「ガイ!」
ナタリアがガイに向かって勢いよく歩み寄る。そのままビンタでもしそうな勢いだったが、ガイは情けない悲鳴をあげて、床に倒れた。女性恐怖症の症状だ。
「……ひっ!」
「…………見損ないましたわ」
ガイはアッシュを疑っている。ナタリアはそれを責めているが、モース、ヴァン双方の部下であるアッシュを信用できないのは当たり前のことだ。
少女は倒れたガイにうっかり手を差し伸べかけて、引っ込めた。
「……すまない」
「いえ。疑うのは当たり前のことです」
「君を傷つけたい訳じゃないんだけどな」
腰を上げながら、全く笑いを含まない、悲しそうな表情でガイは言う。少女はそれに会釈を返して、椅子に腰掛けた。
「僕は、菜真絵を信じていますよ」
一部始終を静観していたイオンが、ふいに口を開く。少女に向けたその目線は、とても穏やかだ。
「初めて会った時のことを覚えていますか?」
忘れるはずがない。少女は、初めて導師イオンと面会した時のことを思い出す。確かあの時は、敬礼を逆の手でしていたんだっけ。導師に伝わらなくて慌てたものだ。
「あの時、あなたは必ず僕の味方になってくれると思いました。フーブラス川やザオ遺跡で僕を助けてくれて、本当に嬉しかった」
イオンの瞳はあの時と変わらない。―ー預言は選択肢の1つに過ぎない。そう教えてくれたあの時と。
それに比べて、自分は変わってしまった。たくさんの人を殺して、預言を振りかざして、少年に執着して、アクぜリュスを滅ぼした。
少女は悔しくなって、拳を握りしめる。どうしてこんなことになってしまったのだろう。導師の言葉を信じ続けていれば、ヴァンに傾くこともなかったのに。少年を救えたかもしれないのに。
「イオン様は、預言は選択肢の1つにすぎないと教えてくださいましたね」
「ええ。覚えていてくれたから、僕を助けてくれたのですよね」
覚えていた。覚えてはいたが、導師の言葉が届かない大詠師派の教団員達を見て、救われない少年の姿を見て、信じられなくなっていたのだ。
少女は否定しようとしたが、イオンの瞳があまりにもまっすぐで、できなかった。
「預言に逆らってでも、戦争を阻止できるように頑張ります」
暗い気持ちを振り払うように、少女は敬礼する。すると、イオンはガッツポーズで返した。
胸が熱い。自分はなんて視野が狭かったのだろう。
預言は選択肢の1つに過ぎない。ここにいる全員が、そう考えて生きているのだ。ローレライ教団の導師さえも、キムラスカの王女までもが。
自分と同じ気持ちを持つ人が、教会の外に、こんなにたくさんいたなんて。
気づけなかった情けなさ、味方がいるという心強さ。相反する気持ちに揺れながら、少女はイオンに向けて、ガッツポーズをしてみせた。